彼方へと続く未来 最終章 (前編)

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 空は、白と青のコントラストに彩られていた。雲という名のブラインドに
覆われていた太陽が、その切れ間から徐々に顔を出し始めていく。
 そして、そんな空の真下で、私とこなたは視線を浮かせていた。

「ねー、かがみぃ」
「ん~? どうかしたの、こなた」
「私たちってさぁ、いつからこうしてるんだっけ?」
「……はぁ。今更な質問ねぇ」

 浮いていた視線を戻しながら、こなたの方を向く。
 合わせてこなたの方も、微かに眉をしかめながら首を動かす。

「まぁいいや。今だけは時間なんて関係ないよ。かがみもそう思うでしょ?」
「う~ん。そりゃあ、まあそうだけど」
「それに、こんなにがっちり手を握られてちゃあね」

 そう言うとこなたは、空いている左手で矢印を作りながら、
交差している自分の右手と、私の左手を指さして笑っていた。
 その仕草が、可笑しくて、ちょっとだけむかついて……可愛くて。

「バカッ。それは、アンタの方から――」
 私たちのやりとりは、しばらくの間続いた。
 歓声が遠くから響き渡る、建物の一角で。そう、ここは家でも、
アニメショップでも、ましてや映画館でもない。

「もう少し、気楽に行こうよ? 私は、数学の教科書なんかじゃないんだしさ」
「……うん、そうよね。空だって、こんなに青いんだし」

 ――学校の屋上。そこに、私はこなたと一緒に居た。
 私たちの中の、本当の想いを伝えあった場所に。 
 だって、今日は卒業式。こなたに、告白された日――


       『彼方へと続く未来』 最終章 (前編)


 体育館は、静寂に包まれていた。いつもは部活動や体育の授業で賑わっていた
この空間も、今は陵桜学園の卒業式の舞台として、飾り付けが施されていた。
 演奏と共に道が開かれて、私たち卒業生の入場を合図に式は始まった。
 校長先生の祝辞に始まりクラス代表の人への卒業証書の授与。
 続けて在校生の送辞と卒業生の答辞。そして、校歌斉唱。

 小学校や中学校の時とは全然違う、感慨深い何かが私の心の中で
モヤモヤとしながら漂っていた。それは、整然と配置されたパイプ椅子の上
で背筋を伸ばして座っている今でも、ずっと続いていた。

 ふと、目だけを動かして周りを見渡してみる。
 ……左隣にいる峰岸が泣いていた。
 その横にいる日下部も、目に涙をためながら、
それを流さまいと必死に耐えていた。

 みんな、泣いていた。つかさも、みゆきも、私も。
 そして、最後にこなたに視線を移した。

 ……こなたは、泣いていなかった。
 ただただ、両方の拳を握りながら、前を見続けていた。

 そのこなたの姿を見て、いよいよ本当の別れが迫っていると、私は痛感していた。



 その後、卒業式は無事に終わり、私たちはそれぞれの教室に戻った。
 一年間苦楽を共にしたこの教室や、C組のみんなともお別れ。
 教壇の前では桜庭先生が担任として最後の挨拶を始めていた。 

「……では、卒業証書を渡すぞ。最初は――」

 桜庭先生。普段はあまり感情を表に出さない先生だったけど、
今日だけはいつもと違う雰囲気だった。
 そんな中、一人、二人と証書が渡され、いよいよ私の番。

「お疲れ様。東京の大学に行っても頑張れよ」

 淡々とした声。だけど、そんな先生の上着の袖口に、真新しい
シミの様なものが見えたのは、きっと気のせいなんかじゃなかったと思う。
 握った卒業証書にも、ポタリと暖かいものが落ちていたような気がした。

 昇降口の前は、吹奏楽部の演奏と、祝福の声に包まれていた。
 飛び交う歓声と、鳴り響くカメラのシャッター音。その中に、私たちはいた。

「かがみ先輩! ご卒業、おめでとうございます!」
「ご卒業、おめでとうございます」
「ありがとう。ゆたかちゃんにみなみちゃん」

 出迎えに来てくれていたゆたかちゃん達と、挨拶を交わす。

「なんか、あっという間だったよなー」
「そうね。でも、楽しかったじゃない」

 そして、少し離れた場所では、日下部と峰岸が話していた。
 どうやら、周りの状況を見る限りB組の生徒達はまだここには来ていないらしい。
 その間も、カメラのシャッター音は鳴り続け、何故か卒業生じゃないゆたかちゃん達
までレンズに次々と収められていく。と、次の瞬間に警備の人が出てきて――

「いやっ、ですから違うんですって! 今日は娘の卒業式で、それをこのカメラに
 収めようとしただけで……って、のわーー!」

 聞き慣れた悲鳴があがり、大きなカメラを抱えた中年の男性が両脇を警備員に
がっちりと固められながら拘束されていった。体育祭や文化祭でも目撃した、
もはやお馴染みになっていた光景に、私は思わず笑ってしまった。

(……こなたのおじさんも、相変わらずね)

 違う意味で涙を流しながら、ふと空を見上げてみる。
 輝く太陽と、白く塗られた月。それは、互いに離れた所から
私たちを見下ろしていた。加えて、戻した目線の先には、桜の木。
 枝の先には、大きな蕾。この蕾が開く頃には、私たちと入れ替わりに
入って来た一年生が、この桜を見るんだよね……。

 春が来るたびに降り注いでいた桜の花びら。それはまるで、私たちの変化を
見逃すまいと、常に同じ時期に咲こうと示し合わせている様に思えたくらい。
 それ程、私は“桜にも”ずっと見守られてきた。

 ――最初は、小学生位の頃に見た桜。
 理由は忘れちゃったけど、ひらひらと花びらが舞う境内の中で、
 お母さんに長い時間泣きついていた記憶がある。

 次は、中学二年生の時に教室の中から見た桜。
 今よりも、ずっと強がっていた私に、友達になろうよと話しかけてくれた
日下部達と出会った時も、桜は私の傍にいてくれた。

 そして最後は、高校三年生のクラス替え発表の時に見た桜。
 つかさ、みゆき、そしてこなたと一緒のクラスになれなかった三回目の春。
 みんなの前ではクールなつもりでいたけど、結局外の桜を見ながら
落ち込んでたっけ……そんなことを考えながら、改めて周囲に視線を移してみる。

 笑いながら写真を撮っている人、抱き合いながら泣いている人。
 みんな、それぞれの立場で卒業の二文字を受け入れている。
 それは、私たちも同じだったみたいで――

「ヤフー、か~がみん」
 遠くから聞こえてきた、アイツの声。それに対する私の反応は……。

「オッス、こなた」
 いつもと同じようで、全く違っていた。声の変化と、逸れる瞳。
 それは、こなたと一緒に歩いてきたつかさとみゆきにも伝わっていたらしく、
二人とも、何も言わないでただ頬を緩ませているだけだった。

 準備は、ちゃんと終わらせてきたつもりだった。
 こなたに悟られないように、本人の前では極力冷静さを装った。
 いつもと変わらない接し方をしながら、この日が来るのを待っていた。

「あれあれ~、どったのかがみん。なんかいつもとふいんきが違うよ~?」
「それを言うなら雰囲気じゃないのか? アンタのパソコンじゃあるまいし」
「な~んだ、やっぱりバレちゃったか。でもさ、そんな前の時のこと覚えてるなんて、
 さっすがかがみん。抜かりないね」
「そりゃどうも。あんまり嬉しくないけどね」

 ……もう、結局最後までこのノリなのね。でも、私はあの頃とは違う。
 隠して、隠して、隠し通してここまで来てしまったのだから。
 だから、今だってこなたを直視出来なかった。それこそが、私の誤算。

 想いを、告げるなら今しかないのに……私は切り出せなかった。
 頭のどこかに残っている何かが邪魔しているかの様に。
 周りは、祝福に包まれている。なのに、私は、私だけは……。

 心が、どんどん暗くなっていく。深くて、ドロドロとした感情が溢れてくる。
 誰か……誰か助けて! 私は、怖くなってなりふり構わず声を
上げようとしたのだけれど。

「――お~い。みんなで記念撮影するから、とっととこっちきぃや~」
 それは、グラウンドの方から聞こえてきた声によってかき消された。
 声のした方を見ると、黒井先生と桜庭先生がカメラを持ちながら、
私たちに向かって呼びかけていた。

「わ~、記念撮影だって。ね、早くみんなで行こうよ~」
「そうみたいですね。それじゃあ、参りましょうか」

 楽しげに話しながら、つかさとみゆきが歩き出した。
 こなたも、それに合わせて歩き出そうとしている。

「ん……そうね。みんな待ってるみたいだし」

 違うっ! 私が言いたかったのは、そんなことじゃない。
 鈍重な波が渦巻く私の横を、つかさが、みゆきが、
日下部達が通り過ぎていく。

「んじゃあ、私たちも行こっか」

 最後は、こなたが通り過ぎる番……だったのだけれど、
そこで私は予想外の事態に陥った。意気揚々と何かのアニメの音楽を口ずさみ
ながら、みんなと同じように横をすり抜けようとしていたこなたが、
『……後、……で……』と、私の耳元に囁き、足早に去っていったからだ。
 瞬間、私の身体に携帯電話の小刻みな振動音が響いていた。



 鈍い光を放つ鉄製の扉。その前に私はいた。動悸、息切れ、襟足に走る震え。
 幾つもの症状が全身を駆け巡り、鞄を持つ手に力がこもる。
 でも、今さらもう後悔なんてしてないし、後戻りする気もない。

「十分後、屋上で待ってて……か」

 携帯に送られてきたメールには、そう書き綴られていた。
 これから、屋上でこなたにどんな話をされるのか、それは私には分からない。
 だけど、だからこそ、私は自分の中にあるこの想いを伝えたい。
 決意。ただそれだけを胸の内に止めて、私は静かに扉を開いた。

「ふぅ……いい風」

 久しぶりに入った屋上は、爽やかな空気に包まれていた。
 錆付いた鉄柵や、塗装が剥げた給水塔。その一つ一つが、私の記憶の奥底にある
屋上のイメージを、静かに汲み上げていた。目の前にいる、蒼い髪の女の子を除けば。

「時間通りだね、かがみん」
 こなたは、先に待っていた。右手の親指をたて、
左手で卒業証書の入った筒を脇に抱えながら。

「ここで良かったのよね? 待ち合わせ場所」
 返事の分かり切っている質問をしてみる。
「うん、そうだよ」
 予想通りの答え。
「……」
「……」
 そして、沈黙。

「今日で、卒業なんだよね」
 先に口を開いたのはこなた。
「そうね。何だか、あっという間だったわね」
 続けて応える私。

「――それで、私に話したいことって?」
 今度は、私が先手を打つ。
「うん、実はね……あ、その前に渡したい物があるんだけど」
「渡したい……物!?」

 ドクン。心臓が、一際大きく脈をたてた。もしかして、こなたも……?
 想像は、もうすぐ現実になる。左手に下げた鞄の中身。卒業証書の入った筒と
一緒に挟み込んでいた大事な物が、カチャリと音をたてた様な気がした。

 一方のこなたの方はというと、こんな私の状況を察しているかの様に、
静かに、そしてゆっくりと筒に手を伸ばしていた。『ポンッ』という小気味いい音
と共に蓋が開けられ、その中から、卒業証書とは違う、もう一枚の丸まった紙が
勢いよく取り出されていた。

「はい、これが渡したい物だよ」
 顔をほんの少しだけ赤らめたこなたから受け取った一枚の紙。
 見た目はただの画用紙にしか見えないそれを、私は冷静さを装いながら広げた。

「えっ、これって……」
 目の前に広がっていたのは、クレヨンで描かれた風景画だった。
 地平線の向こうに浮かぶ満月と、遥かに広がる大地。
 その中心には、互いに身を寄せあう二羽のウサギがいた。

「こなた、もしかしてこの真ん中にいるのって……私?」
「うん、そうだよ。名付けて、寂しんぼのかがみウサギ」
「じゃあ、このもう一匹のウサギって……」

 一羽は薄紫色をしていたので、なんとなく理解はできた。
 気になったのは、緑色の瞳に蒼色の毛を纏ったもう一羽のウサギ。
 頭の上には緑色に彩られた葉っぱの様な物と、ピョコンと飛び出たアホ毛。
 まるで絵本にでも出てくるかのような、小さな生き物の絵。

 お世辞にも上手だなんて言えなかったけれど、幾重にも塗り重ねられた
クレヨンの粉が、こなたの努力の跡なのだと私に教えてくれた。

「そう、私だよ。私も、ウサギになってみたんだ」
 頬を赤く染めながら、こなたは言った。
「どうして、なってみようって思ったの?」
 戸惑いを隠しながら、真相を尋ねてみる。

「だって、こうすればずっと一緒にいられるじゃん。私が地球で、かがみが月。
 この絵みたいに、離れないでずっとこのまま。今までも、これからもネ」

 ザァッ……屋上に、強い風が吹き付けた。
 そっか、こなたも耐えてたんだ。内側にある感情を
表に出さないようにして、最後までいつも通りにいられるようにって。
 全く、コイツときたら。とことん私に似てるんだから。

「あははっ。私ってワガママだよね。明日向こうに行っちゃうのにサ」
「ホンッと。アンタも、私と同じくらい素直じゃないわよね。
 もう少し、自分の気持ちに正直になりなさいよ」
「――じゃあさ、素直になってもいい、かな?」

 ……えっ、私の聞き間違いかしら。今、こなたは何て言ったの?
 『素直じゃないわよね』確かに、その話しを振ったのは私だけど、
応えたこなたの声は、明らかに私の予想とは違う意味を含んでいるようで。

 分からない。何で、ナンデ? あんなにつらく当たったのに。
 怒らせるようなこともいっぱい言ったのに。

「聞いて」

 こなたが、真っ直ぐに私を捉えた。
 制服の襟が、横風を受けてバタバタと揺れる。

「私……嬉しかったんだよ? かがみと出会ってからの三年間の全部が。 
 もちろん、つかさやみゆきさんと居た時も楽しかったよ。でも、かがみと
 居た時は、もっと特別だったんだ。何だか、胸がモヤモヤしてきて」

 細い手足。震える肩。こなたは、必死に喉の奥から声を絞り出していた。

「段々、かがみのことばかり考えるようになってた。
 かがみに何でも話したくなって、わざとふざけてもみた。
 でも、押さえきれないんだよ! だからっ、だからっ……」

 こなたの唇が、ゆっくりと動いた。


「――私、かがみのことが……好き」


 告白は、一瞬だった。好きという響きが、頭の中で駆けめぐっていく。

 “好き”この言葉が持つ意味は、私自身が良く分かっていた。
 お母さんが教えてくれた好きと、こなたが伝えてくれた好きは同じ。
 だから、私とこなたは惹かれ合った。こなたも、私と同じだった。

 こなたは、じっとしたまま私の返事を待っている。
 小刻みに震えながら、独りきりで。
 早くしないと、こなたにまた悲しい思いをさせてしまう。

 全身の緊張は、ピークに達していた。
 多分、私の顔、真っ赤なんだろうな。
 ごめんね。最後まで素直じゃなくて。

 ……今、全ての思いを込めよう。
 限りなく広がる蒼い海に、永遠に誓うわ。だから――

「私も、こなたのことが、好きよ」

 やっと言えた。伝えられそうで、伝えられなかった言葉。
 ずっと燻り続けていた心の灯火に、ようやく決着をつける時が来た。
 だけど、私は許してしまった。“アイツ”が、灯火に侵入してくるのを。

「女の子同士だからとか、そんなの関係ない。でも……」

 灯火に集まってきたのは、赤い火種ではなく、黒い炎だった。
 メラメラと燃えるそれは、“もう一人の私”が持つ強力無比な力で、
否応なしに身体中を支配していく。

「私は……傷つけた……」
 必死にもがいて、口から言葉が出ようとするのを抑えつける。
「この左手で、私はこなたをっ!」
 だけど、私の抵抗は泡の様に次々と溶けていった。  
 代わりに、脳裏に浮かんできたのはあの日の記憶。
 舞い散る雪、振りかざした手。そして、こなたの腫れた頬。
 私は、卑怯者だ。いつも負けん気で強いふりをして、
人にあれこれ言ってばかりいるのに、また逃げようとしてる。
 これじゃあ、“もう一人の私”が言ってた事の繰り返じゃない。

「ごめんね、ごめんねっ。こなたぁ!」
 暴走した感情。行き先を失ったそれは、涙に形を変えて流れ続けた。
 曇り始めた空。太陽は、いつの間にか姿を消し、屋上に吹く風が、
涙で濡れた頬をただひたすら撫でていく。

「……う、あぅっ……」
 一体、どのくらい泣き続けていたのだろう。涙の海に覆われた景色は
ぼやけたままで、いるはずのこなたを、視界に捉えることすら出来ない。
 そう、捉えることが出来なかったはずなのに。

「かがみ」

 だけど、こなたは違った。真っ直ぐな瞳で、じっと私を見ている。
 全てを包み込んでくれた……お母さんの様な優しい目で。
 涙で視界はぼやけていたけれど、それだけははっきりとわかった。

「お願いだから、もう泣かないで」

 左手に、こなたの右手がそっと触れるのを感じた。
 あっ。こなたの手、すごく……暖かい。

「ほら、今のかがみの左手、すごく優しい感じがする」
「こ……なた」
「あの時はものすごくツンツンしてたけど、大違いだね」
「しっ、しつれ……いね。別に、ツンツンなんてっ」

 もう、声になっているかすら分からない。
 なのに、こなたには全部筒抜けで。

「そんな言い訳は通用しないよぉ。それに……」

 ふわりと、こなたの髪が揺れた。
 私とこなたとの間にあるほんの僅かな距離。
 それをゼロにする為に迫ってくる蒼いカーテン。
 刹那、私の右頬にとても柔らかいものが触れていた。

「ふふっ、これでおあいこだよ。かがみっ」

 濡れた唇をゆっくりと離して、こなたは笑顔でそう言った。
 目を瞑る間もなく起きた、一瞬の出来事。生まれて初めてのキス。
 曖昧だった世界が再び彩られ、マシュマロの様に柔らかったこなたの
唇の感触の余韻が、私を包む。こぼれる涙は止まる気配を見せ始めていたけど、
目の前にいるこなたを見て、また流れ始める。その繰り返しだった。

 『ありがとう、こなた』精一杯の声でそう告げた後――私は、こなたの
小さな右手をぎゅっと握り締めた。柔らかくて、ちょっとだけ汗ばんだ感触。
 私たちは、ずっと繋がり続けた。何十秒も、何分も。


 空は、青と白のコントラストに彩られていた。
 雲という名のブラインドに覆われていた太陽はいつのまにか支配から
解かれ、高々と広がる空の上で、燦々と輝きを放ち続けている。

「ねぇ、こなた」
 繋いでいた手を離しながら、私はこなたの方に振り向いた。
「んっ……どったの?」
 名残惜しそうに、こなたの右手が空を切った。

「私も、こなたにあげたい物があるんだ」
「かがみも?」
「うん。私も」

 短い言葉を残して、私はさっきのどさくさに紛れて床の上に倒れっぱなしに
なっていた鞄に手を伸ばした。無造作に転がっていたせいで埃だらけになっていた鞄。
 それを手の平で払い除けて中にある小さな四角い箱を取り出した。
 箱の周りはリボンで綺麗にラッピングされ、いかにもかわいらしく
装飾されていた……まあ、大半はつかさに手伝ってもらったんだけど。

「かがみ、それって……?」

 カクンと首を横に傾けたこなたに、私はゆっくりと箱を手渡した。
 『開けてみて』その一言が合図。ガサゴソと音をたてながら、箱が開かれていく。
 そして、『わぁっ――』驚きとも、感嘆ともとれるような声が聞こえてきた。

 こなたの右手には、私が贈ったプレゼント……蒼い石の装飾が施された
ブレスレットが乗せられていた。 あの時、店員さんに教えてもらった説明書で作った、
世界に一つだけのモノ。

「も、もしかしてこれ、かがみが作ったの?」
「ん、まあね。だいぶ手伝ってもらったりしたけど」
「なるほど、つかさに手伝ってもらったんだね。通りで出来が良すぎると……」
「……あんた、ひょっとして喧嘩売ってんのか!?」

 こなたの頭に、回避不能な位の速さでデコピンをお見舞いしてやった。

「いたたたた、冗談だよぉ。全く、告白オーケーの後で
 すぐこれじゃあ、先が思いやられるよ」
「悪かったわね、狂暴で……でもね、こなたのことが好きなのは本当よ。
 それに、今あげたブレスレットには特別な意味があるの」
「特別な……意味?」

 こなたが、今度は両手の先にブレスレットを乗せながら、
それを太陽の光の元に晒していた。

「この青い石の名前はね、菫青石っていうのよ」
「きんせいせき?」
「そうよ。そして、この石の宝石言葉は“自立”。甘えたい心をコントロールして、
 持ち主の自立を促進してくれるんですって。今のこなたにぴったりでしょ?」

 甘えたい。むしろそれは私の中に募っていた重みだった。
 けれど、心を許した相手であればあるほど、それをコントロール
しなくちゃならない。だから、この環は“私”が自立する為のきっかけ
でもあった。教えてくれたのは、目の前にいる小さな恋人。

 『うん、ありがとう。大切にするヨ』未来へと引き継がれた蒼色の環。
 丸いそれを手首にはめて、こなたは嬉しそうに腕を上下させていた。
 そのたびに、綺麗に整えられた長い髪がサラサラと揺れて、
空気に吸い込まれていくような錯覚を覚えた。空と同じ、蒼い色の髪。

 ……そうだ。いいこと思いついちゃった。

 年甲斐もなくはしゃぐこなたを見て、私はもう一つの贈り物を考え付いた。
 まずは、腕元に集中しているこなたに悟られない様に、自分の髪に指先を触れた。
 シュルリ、という音をたてて、私のトレードマークがほどかれていく。

 その先では、私の行動に気が付いたこなたが、どったの?
といった様子で、こちらを伺っていた。『待ってて、すぐにわかるから』
小声でそう呟くと、私はこなたの髪の両端に手をかけた。

「わっ、くすぐったいよ」
「つべこべ言わないの。すぐ終わるから」

 抵抗するこなたをよそに、私はこの日の為に新調した
髪飾り――桜色のリボンを、二つ分けにしたこなたの髪に、
一つずつ結っていった。所為、ツインテールの完成ね。

「はい、出来たわよ」
「むう~、まさか私をツインテールにするとは」
「いいじゃないのよ。私だって、人の髪型いじるの好きなんだから」

 そういうのって、自分でやっても面白くない。前にこなたはそう言っていた。
 正直、もったいないって思ってた。髪型変えれば、もっと可愛くなれるのに。
 だから、今日は本音を出してみた。だって、もう隠すことなんかないじゃない。
 それは、こなたも同じでしょ? ――と言いたかったのだけれど。 

「あはっ、それなんて魔法少女? 早速明日から金髪にしてこの
 ブレスレットで戦わなくちゃネ。もちろん、ベルカ式で」

 こなたがツインテールの先を弄びながら笑った。
 きっと、また何かのアニメのネタなのだろう。

「もうっ、やっぱりアンタは」
 あれ? 私、笑えてる。さっきみたいな悲しい感覚は、もうそこにはなくて。

「いーじゃん。それがいつもの私たちだもん」
「……そうね。じゃあそろそろ行こっか。これから、みゆきの家で卒業パーティするんだし」
「うん。でも、その前にもう一度だけ」

 こなたが、静かに瞳を閉じた…… いいわよ。今度は、私の方から。
 震えの収まった手でこなたの両肩を掴んで、一気に距離を詰める。
 頭半個分低いところにあるこなたの顔。頬は再び赤く染められ、今にも
崩れ落ちそうな瞼が、ふるふると揺れていた。

 なんだ、やっぱりアンタも人のこと言えないじゃない。でも、そんなこなたのことが
世界で一番大好きだよ。だから、これからもよろしくね。小さな魔法少女様――

 どこまでも続く空。その下で、私たちの唇は一つになった。


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コメント:
  • なける・・・すげー感動ッス -- 名無しさん (2010-08-13 23:26:24)
  • 何というか感動をありがとうございます。すんごく良かったです、後編も楽しみに待ってます。 -- kk (2008-07-27 22:04:14)

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