こなかが1/2 :1-B話 前編

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『こなかが1/2:第1-B話「3月18~28日 泉こなたの11日間 前編」』



「本当に何なんだろう、この気持ち……」

ハルヒのライブの帰り道、私はこの感情を持て余していた。
祭りの後の脱力感ってかがみは言ってたけど、私はどうしてもそうは思えない。
だって、この気持ちはライブが終わる前から感じてたから。

そうだ…かがみに席を替わってもらってからだ。

前の人の所為でステージが全然見えなくて飛び跳ねていたとき、そっと自分の席と変わってくれたかがみ。
その時のかがみの優しい眼が、私の頭から離れない。

それに……

それに、嬉しかった。

みゆきさんもつかさも気が付いてくれなかった。
でもそれは仕方がないよ。あんだけうるくて、それにライブ楽しかったんだもん。気付かなくて当然。

…だけど、かがみだけは気が付いてくれた。かがみだけはちゃんと気が付いて、席を替わってくれた。
かがみだけは、私のことをちゃんと見ていてくれるんだ。

そう思うと嬉しくて堪らなかった。

だけど、今の気持ちは『嬉しい』ってだけじゃないような気がする。
この気持ちは、それだけじゃ説明できない。説明したくない。
じゃあ、それは一体なに?って話になるんだけど、それが分かればこんなに悩んだりしないよ。

私は思いつく言葉を順々に当てはめてみた。

感謝の気持ち?
確かにかがみには感謝してるけど、それとは何か違う気がする。

友情とか?
あのタイミングで友情なんて感じるかな?

ステージが見えた感動?
そりゃあ、ステージが見えて感動したけど。そんなの今まで引きずるはずがないよ。

そんなことを考えながら、私は歩いていく。
そして最後の最後。その考えに、その気持ちに辿り着いた時、私はもう家のドアの前だった。

「……そんなはずないよ。」

首を左右に振って、軽く呟いた。だって、辿り着いたその気持ちは絶対にありえないことだったから。

「……とりあえず、家に入ろうかね。」

ポケットから鍵を取り出して、ドアの鍵穴に差し込む。
そしてそのまま回すと、『カチャッ』という音と共に鍵が開いた。

「ただいま~。」

ドアを開けて靴を脱ぐ。そしてその足でリビングへと向かった。

「おかえりなさい、お姉ちゃん。」
「おー、こなた。おかえり。どうだった?ライブは?」

部屋に入ると二人が振り返った。どうやら二人でテレビを見ていたらしい。
ゆーちゃんもお父さんと二人でテレビを見るぐらいには慣れてきたのかな。
最初の方は結構緊張してたみたいだから、すっごい進歩だ。この調子で、自分の家みたく思ってくれればいいんだけど。

「うん、すっごい面白かったよ。」

そう言って私は空いているイスに座った。
座った途端、思わずため息がこぼれる。やっぱ疲れてたのかな?座ったら、疲れがドッと出てきたよ。

「そっか~。平野綾ちゃん、可愛かったんだろうな~。あ~あ、俺も行きたかったよ……」

お父さんがハルヒのライブとな?
思わずSOS団のハッピを着て、かつペンライト片手に大声を上げる40代おっさんの姿を想像してしまう。
ああ、簡単に想像できちゃうところが恐ろしい。しかもそれがお父さんだと、滅茶苦茶しっくりするし。

「その姿が妙にしっくりくるけど、次があったとしても絶対参加しないでね。本当に恥ずかしいから。」

ライブってつくと、お父さんぐらいの歳だと行っちゃ駄目って思ってしまうのはなんでだろうね。
コミケとかだとなんにも感じないんだけど。う~ん。まあ、どうでもいっか。

「そうだよな。俺も歳を考えないといけないよな~。」

涙を滝のように流すお父さん。もしかして、本当にいきたかったの?
半ば冗談だと思っていたので、ちょっとびっくりした。

「しかし、ほんっっとうにこなたはいいよな。俺と中身入れ替わっても、全然違和感ないのにな~。」
「そんなことないよ。お姉ちゃんとおじさんが入れ替わったら、すぐ分かっちゃうよ。」
「うんうん、流石はゆーちゃん。お父さんとは違うね。」

ゆーちゃんの言葉に私は大きくうなずいた。
ああ、ゆーちゃんは本当にいい子だよ。かがみだったら、絶対に『それもそうね』とか言って相打ちするね!

「あっ……」

かがみのことを考えたら、一瞬胸が高鳴った。
家の前でたどり着いたその気持ちの事を思い出す。私はそれを心の中で必死に否定した。
だって……ありえないもん。おかしいもん。

「どうした、こなた?」
「ううん、なんでもない。」

胸の高鳴りは本当に一瞬。
ほら、やっぱ気のせいだよ。気のせい気のせい。

「それじゃあさ、こなた。せめて行けなかった俺にみやげ話でもしてくれよ。」
「私も聞きたいな。私ライブって行ったことないし。」

確かに、ゆーちゃんがライブに行くのは難しいだろう。
ああいった所だと体調崩しやすいし、それにもし崩したら大変だ。

「ゆーちゃんがライブに行っても大変だよ。ほら、ゆーちゃん小さいからさ。ステージ見えないよ。」

冗談に聞こえるように、おどけた声で私は言った。
自分が病弱な事をゆーちゃんは気にしている。いくら私でも、さっき考えた事をそのまま言えるわけがない。

「むぅ~!ひどいよ、お姉ちゃん!」

顔を膨らまして、ゆーちゃんが聞いてきた。いけない、怒らせちゃったかな。

「いやいや、これは私の実体験なのだよ。現に今日だって目の前の人がいたせいで全然ステージ見えなかったんだよ。」
「確かに、仮に席が段々になってても、背が低いと意味ないだろうしな。」
「本当だよ。ライブだから、全員立ってるしさ。私も結局かがみに……」

―――――しまった

そう思ったときには遅かった。すでに私の頭の中には、かがみの優しい顔が浮かんでいたのだから。
そして、あの時の気持ちも一緒に。

「どうした、こなた?かがみちゃんがなんだって?」

お父さんが聞いてきている。早く答えなきゃ。
そう思って言い返そうとするけれど、言葉が出ない。胸の高鳴りだけが段々と強くなる。

「あ……そ、そう!!かがみに席を替わってもらったんだよ!」

やっとの思いで、ようやく声が出た。でも、なんだか声が震えてしまう。もう、本当にどうしちゃったんだろう?

「そうか。かがみちゃん、いい子だな。」
「そ、そうだね。」

もう駄目だ。なんだかいっぱいいっぱいで、これ以上話せそうにない。

「あ、あのさ。話の前にお風呂に入ろうかなって思うんだけど。ライブで汗かいちゃったし。ゆーちゃん、お風呂沸いてる?」

突然の申し出に、お父さんもゆーちゃんもキョトンとしている。
だけど、今の私にそれをフォローする余裕なんてない。一刻も早く今の話を終わらせて、この気持ちから逃げ出したかった。

「う、うん。沸いてるよ。お姉ちゃんで最後だよ。」
「わかった。それじゃあ、さっさと入ってくるよ。」

私は急いで立ち上がると、そのまま逃げ出すように自分の部屋に向かった。


――――――――――――――


湯船に浸かると、心地よい刺激が体全体を駆け巡った。
冷たかったつま先が、お湯の熱で段々と暖まってくる。
『極楽、極楽』ってお風呂に入ったときに漫画なんか言うけど、いやまったくその通りだと思うよ。
冷えたときのお風呂は最高に気持ちがいい。

「ん~~!やっぱこの時期のお風呂は気持ちいいね。」

肩まで浸かって、お湯の温かさを存分に感じる。
これで足まで伸ばせたら、何の文句もないんだけどな。私なんか小さいから、もう少しで伸ばせそうなんだけど。
無理やり足を伸ばそうとする。だけど、駄目なものは駄目。ないものねだりというやつだね。

まあ、それはともかく……

「はぁ……」

かがみのことを考えると、かならず出てくるあの気持ち。
そのことを考えると思わず、ため息が出た。
はっきり言うと、結論は出ていた。だって、もうこれしかないもん。
けど、認めたくない。認められない。

「……だってありえないよ、おかしいよ。」

今日何回かの言葉をもう一度呟いた。
その気持ちを表す二文字を言うつもりは絶対になかった。
それを言ってしまったら、認めてしまうも同然だから。


私だって、一応女の子だ。いつかはこんな気持ちをもつんじゃないかな、なんて思ったこともある。


だけど……


だけど、その気持ちを感じるのが、女の子じゃなくていいじゃん!
よりにもよって、それがかがみじゃなくたっていいじゃん!

私は握り拳で湯船を思いっきりたたいた。バシャンという音と共に、水しぶきが当たりに飛び散る。
その一部を顔に浴びながら、私はさらに考える。

そうだよ。なんで?どうしてかがみなの?!
散々料理のことで馬鹿にした。
可愛い系は似合わないって言っておちょくった。
凶暴だとも言ったし、それ以外でもからかうなんてしょっちゅうだ。

それなのに、なんで今頃……

ゆっくりと、かがみのことを思い出す。
私のオタクな話でも、呆れずに最後まで聞いてくれるかがみ。
どんなに私が馬鹿なことをしても、結局付き合ってくれるかがみ。
体重が増えたといって、涙をながすかがみ。
そして今日、ただ一人私のことを気付いてくれて、席をゆずってくれたかがみ。

それどれもが、今の私には、まるで宝物のように感じられた。

「あっ、まただ…」

鼓動が高鳴る。体が熱くなる。嬉しいという気持ちに似てるけど、確かに違うこの気持ち。
この気持ちに耐えられなくて、ついお風呂場を見渡した。
当然目ぼしいものなど何にもなくて、湯船にも私の髪が広がるばかり。

「そういえば……」

私はタオルを手に取ると、そのまま頭にクルクルと巻いていく。
その格好はドラクエの商人みたいで、慣れないからかなんだか変な感じがした。

「かがみ、お風呂はいる時、こんな風にしてたよね。」

夏休みにみんなで海に遊びにいったときのことを思い出す。
あの時かがみは『ナンパされないのはこなたがいるから、家族連れに思われてるからだ』とかっていたんだよね。
あーあ、ヒドイよね。私、けっこう傷ついたよ……
あの時のかがみのお団子頭、新鮮で可愛かったなぁ…

「って、なに思い出に浸って一人でにやけてるのさ!」

これじゃあまるで、この気持ちを肯定してるみたいだ。

私はザバンと思いっきり頭を沈めた。タオルが頭から外れたけれど、そんなの気にしない。


―――――駄目だ、絶対駄目。ありえない、変だよ、おかしいよ。気のせいだ。そう、こんなの気のせいだよ。


湯船の中、私は目を瞑りながら、必死に心の中でそう唱え続ける。
唱えていれば、否定し続ければ、この気持ちが無くなってくれるかのように。

少しすると息が続かなくなった。息を荒げながら仕方がなしに湯船から顔を出す。

「はぁ…、はぁ…、おかしいよ、本当に…」

髪から滴り落ちる水滴を顔に受けながら、私はそう呟いた。


――――――――――――――


次の日も、その次の日も、やっぱり私はそのままだった。
日付が変わればこの気持ちも無くなるのではないかという私の目論見は、脆くも外れてしまったというわけ。

この二日間は学校だったから、どうしてもかがみと会わざるを得なかった。

かがみが待っているいつもの待ち合わせの場所に行く。かがみと朝の挨拶をする。
かがみと一緒に学校に行く。かがみと一緒に朝の休み時間に他愛のない話をして、かがみと一緒に家に帰る。

ただそれだけ。いつも同じはずなのに、妙に意識してしまう。
かがみの言葉に反応が少し遅れる。かがみの顔を見る回数が増える。
その度に私は必死になって否定した。おかしい、ありえないって。
それでもかがみと言葉を交わすたびにそれは増えていって、かがみの顔を見るたびにそれは募っていた。

それが……酷く疎ましかった。
こんなことなら、この気持ちがなくなるまではかがみと会わないほうがいいよ。
そうとまで思った。

そんな思いをして、やっとの思いで春休み。
そしてようやくその願いがかなったというのに、今度逆にはかがみに会いたくて堪らない。
かがみの声を聞きたくて堪らない。
漫画を読んでても、ネトゲをしてても、どうしても身が入らない。
私の傍には電話の子機。それに滅多に使わない携帯電話まで置いてある。
ちょっと前の私だったら、絶対にありえない。

「はぁ……、やっぱり駄目だ。」

ネトゲ内の友人に別れの挨拶を打ち込み、ゲームからログアウトする。
そしてそのまま徐にタスクバーに表示されている時計の部分にマウスを動かす。
表示される日付は3月23日。もう3日もかがみと会っていない。


―――――さみしい。


自分でもはっきりと分かる。私はかがみに会えなくて寂しがってるんだ。
会えば会うほどにこの気持ちは募っていく。かといって、会わなかったら寂しくなる。八方塞だった。

そう言えばそんな歌詞の歌、なんかで聞いたような気がする。

ええっと、確か私が小学生ぐらいのときのアニソンで……

あっ、ナデシコのルリルリの歌だ。
確かタイトルは……あっ、そうそう『あなたの一番になりたい』だ。
さっきの言葉は確か二番の歌詞で……

「あ~えば会うほど募るばかり♪あ~えなきゃ寂しくなるばかり♪」

思い出した歌詞をアカペラで歌う。そういえば、ナデシコってもう10年以上前なんだよね。
『馬鹿ばっか』も、もう10年前かぁ……

そんなことを考えて歌を歌っていると、ほんの少しだけど気持ちが紛れた。
ゆーちゃんとかお父さんとかの迷惑かもしれないけど、構わずに謳い続ける。

「なんて…み~がっぁてな…そして困難な……」

―――――恋をしたのでしょう

「…はぁ。」

歌詞の代わりに口から出たのはため息。
だけどこのため息は疲れからでも、もちろん憂鬱だから出たでもない。
ただ、あまりにもこの歌詞が今の私と同じだから……

「やっぱり私………かがみこと、好きだ……」

今まで言えなかったたった二文字の気持ち。それをようやく、私は認めることが出来た。
どんなに否定しても、結局この気持ちは変わらなかったんだもん。
それじゃあ、やっぱそうなんだ。私はかがみのことが大好きなんだ。

「しっかし、アニソンで認めちゃうなんて、私もオタクだなぁ~」

背もたれに思いっきりもたれかかる。その反動でイスがちょっと浮いた。

「そっか…私、かがみのこと好きなんだ!」

もう一度、認めた気持ちを言い直す。
心が明るくなる。ちょっと前まで疎ましかった気持ちが、まるで宝物のように感じる。

今頃になってかがみが好きになったのは、きっと今までがフラグ立ての途中だったからだよ。
それでライブの日にようやくフラグ立てが全部終了したんだ。

女の子を…かがみを好きなっちゃったのは、きっと仕方のないことなんだよ。
だって私は、女の子のかがみのことが好きなっちゃんだから。
かがみが女の子だから、こうして友達になれて、かがみのことをよく知ることができたんだから。
もしかがみが男だったりしたら、きっとこんな風にはならなかったよ。
うん、そこを否定しちゃ駄目だ。

いつかのお風呂場でも問答を、自分なりに答えを導き出していく。
もう私の中にはこの想いに対して、なんら疑問はない。

「ん~。認めちゃったら、よけいにかがみの声が聞きたくなったよ。」

どうしようかな?電話しちゃってもいいのかな?
ああ、でも今のまま電話をかけて、もしこの気持ちに気付かれちゃったらどうしよう。
ほら、私今ものすごく浮かれているし。声の感じとかで気付かれないかな?
流石にまだかがみに告白するまでの勇気はないよ…

ああ、私も現金だなぁ。そんなこと考えてても手にちゃっかり子機を持ってるし。

「それじゃあ、さっそくかがみに電話を……」

『電話をしようかな』と言おうとした時、子機からメロディが鳴りはじめた。
ディスプレイの表示は『ヒイラギケ』

―――――かがみだ!

私は早く気持ちを押し殺して、ゆっくりと通話ボタンを押した。

「やふ~、かがみん!」


――――――――――――――


「う~ん、これじゃあすっごく早く着いちゃうなぁ。」

昨日のかがみの電話。それは明日みんなでお花見に行こうというものだった。
もちろん私が断る理由なんて微塵もない。
むしろかがみのその変なアグレッシブさに感謝したいくらいだ。
だってそのおかげで、かがみに合えるんだから。

私の服装はいつもと同じ。お洒落でもしようかななんて思ったけど、いきなり私がおしゃれなんかしたらびっくりするよね。
みゆきさんとかつかさだったら絶対そんなこと言わないだろうけど、かがみなんか絶対からかうよ。

そんなことを考えながら、私は一人待ち合わせ場所へと歩いていく。
そして待ち合わせの場所に近づくとツインテールの人が本を開いて座っているのが見えた。


―――――かがみだ。四日ぶりのかがみだ。


顔がにやつく。うれしいという気持ちが止め処なく溢れてくる。
たった四日しか経ってないのに、どうしてこうもうれしいのかな?
もしかして、これが人を好きになるって言う事なのかな?

「おお、かがみ~。」

ベンチに座って本を読もうとしていたかがみに対して、手を振って近寄った。

「遅刻魔のあんたがどういう風の吹き回し?」

かがみが意外そうな顔をして言ってきた。
うんうん、相変わらずきっついな~。けど今はそんな言葉すらうれしいよ。

「失礼だな、かがみは。私だって早く来ることぐらいあるよ。」

私はそう言ってかがみの横に腰を下ろした。
何時もより、ほんのちょっと近い距離。これくらいなら、分からないよね。

そんな言い訳をしつつかがみを見つめると、なんだか見慣れない本を持っていることに気が付いた。
遠くにいた時はラノベかなんかだと思っていたんだけど、どうやら違うみたい。
なんだかタイトルに大学って文字が書いてあるし。

「かがみ、なにそれ?」
「ああ、赤本よ。志望校は決まってないから、有名な奴を適当に選んだんだけど。」

えっ……志望校?
かがみ、大学の事なんか考えてるの?
一瞬、目の前が暗くなった。さっきまでの浮かれた気持ちが消し飛ぶ。

「赤本ってなに?」

そんな気持ちのまま、恐る恐る、私は聞いた。

「ん~そうね、簡単に言うと大学専用問題集って感じかしら?」

かがみに置いてかれた気がした。

志望校?大学受験?

確かにみんなと一緒にいるときにも、その話題があがったことはあった。
でもそれはなんだか遠い話で、私には関係のない話なんだと、心のどこかで思ってた。
だって、みんなといるときはとても楽しくて…ずっとこのままでいられたらなぁなんて思ってたから。

そんな風に考えてたのって、私だけだったのかな?

気が付かないうちにみんな遠くに行っちゃって、私だけ置いてけぼりなのかな?

「ふ~ん。かがみはもうそんなのやってるんだ。」

動揺がしてるのがばれない様に、必死にいつもの口調、いつもの声色で言う。
なんだか隣にいるかがみとの距離が遠い。もう少し近くに座りなおす。

「……ちょっと買ってみただけよ。」

ちょっと買ってみただけ?
普通のちょっとの気持ちで大学の問題集なんか買わないよね。

「でもやってみるんでしょ?問題。」
「うん、もったいないし。」

ほら、やっぱり。
かがみは私達より……ううん、私より先に行こうとしている。自分の道を進もうとしてる。

「ねえ、かがみ。」

もう少しかがみの近くに座りなおす。私の腕とかがみの腕が互いにくっつく。
それでもまだかがみと私の距離は遠くに感じた。
どうしてこんなにもかがみとの距離を感じるのかな?
みゆきさんやつかさだったらどうなんだろう……きっとこんな風には感じないんだろうな。
ああ、やっぱりかがみだから。かがみだから、かがみのことが好きだから、きっとこんな風に感じるんだ。
人を好きになると、距離にまで敏感になるのかな?よく分からないよ。

よく分からないけど……

遠い……遠いよ……かがみ……

「なによ。」
「おいてかないでね。」

かがみの顔を覗きこみながら、私は言った。

みゆきさんがどんどん先に進むのはいい。みゆきさんなら私も笑って応援するよ。
つかさでも……ちょっと釈然としないけど、まあいいや。

でも、かがみだけは……

かがみだけは隣にいて欲しい。かがみだけは私と同じペースで歩いて欲しい。

先にいっちゃ嫌だ。お願いだから、置いてかないでよ、先に行かないでよ…

「何心配してるか知らないけど、私がこなたをおいていくわけないでしょ。」

真っ直ぐに、いつも通りの口調で…だけど優しい顔と優しい声で、かがみは言ってくれた。

「うん、そうだね。」

ああ、ライブのときと同じだよ。私はきっと、こんなかがみに惹かれたんだ。
かがみのこんな何気ない言葉に、私はきっと気付かないうちに救われてきたんだ。

「こなた…」

かがみが私の名前を呼んだ。名前を呼ばれただけなのに、鼓動が少し早くなった。

「私、あんたのことが……」

私のことが何なの、かがみ?
さっきの優しい顔から一転、今度のかがみの顔はすごく真剣で、私は視線を逸らす事が出来なかった。
かがみが何か言わないと、そのまま時が止まってしまいそうだ。
そんな風に思ったその時……

「あら、泉さんとかがみさん。お早いですね。」

聞いたことのあるふんわりとした声が聞こえた。
みゆきさんだ。

「やふ~、みゆきさん!2年ぶりくらい?!」

勢いよく立ち上がると、みゆきさんのところへ向かった。
だって、もしあのままかがみの隣にいたら、この気持ちがばれてしまいそうだったから。

でも…かがみ一体何を言おうと思ったんだろう?
もしかして、私に告白とか?!
そうだったら本当にうれしいけど、それは絶対にありえないよね。
私がどんなにこの恋に肯定的でも、かがみはごく普通の人なんだから。

みゆきさんにも、かがみにも見えないように下を向いて苦笑する。
そしてそっとかがみに触れていた片腕をさすった。
なんだか、まだかがみに触れているみたいで暖かった。


――――――――――――――


自分の部屋に入って上着をハンガーにかけると、私はパソコンの電源を入れた。
ハードディスクが回転する音がして、パソコンが立ち上がる。
いつもだったらパソコンの前に座るけど、今回はベットの方へ。
そしてそのままベットの方に倒れこむ。

「今日は楽しかったな。」

楽しかった。ちょっと前まで悶々とした気持ちが続いていたから、久しぶりかもしれない。
みゆきさんやつかさ、それに…かがみと会って、露天を冷やかして、他愛のない話をして……

たったそれだけ。いつもと同じことなのに、どうしてこんなにも楽しかったのかな?
やっぱりかがみと一緒だったからかな?好きな人とは一緒にいるだけでも楽しいものなのかな?
ん~、よく分かんないけど、まっ、いっか。楽しかったのは本当だし。

「……だけど、楽しい事ばっかりじゃなかったな。」

二人でみゆきさんとつかさを待っていたときの事を思い出す。
志望校、志望学科に大学受験。
私にとってこの言葉は、まだまだ遠い遠いものだと思っていた。
だけど、少なくともかがみはこの言葉の意味ををしっかりと受け止めてた。
受け止めて、さらに先に行こうとしていた。

赤本について説明してくれたかがみ。
あの時のかがみは本当に遠くにいるみたいで、私がどんなに努力しても手も届かないように感じた。

「好きな人って、過大評価したくなるのかな?」

いや、まったく。ちょっと前だったら、絶対そんなこと思わなかったのにさ。
そう思うと、思わず苦笑してしまう。
でも思ってしまったものは仕方がないよね。だって、今と昔は違うんだから。

「よし!」

決めた。かがみに置いていかれないように、私もちゃんと頑張ろう。
先のことを考えるなんて私には似合わないけれど、きっとそれは必要な事なんだよ。

かがみが真っ直ぐな直線だとしたら、私はクネクネ曲がる曲線だけど、曲線は曲線なりに直線についていくからね。
かがみは私のことをおいていかないって言ってくれたけど、大丈夫だよ。ちゃんと私もついていくから。

「それにしても…私がいったこと、かがみにちゃんと伝わったのかな?」

かがみが好きだって事がバレると困るから伝わっちゃ駄目だけど、伝わってたらうれしいな。
きっと、全然わかってなくて適当に言ったんだと思うけどね。
でもいいんだ。適当でもうれしかったから。

「でも、頑張るって何を頑張ればいいのかな?」

やっぱり無難なところで勉強とかかな?それとも先に志望学科や志望校を決めるとか?
とりあえず、ネットで受験とか大学とか調べてみようかな。

そんなことを考えていたら、ノックの音が聞こえてきた。誰だろう?

「こなた、ちょっといいか?」

お父さんの声がドア越しに聞こえた。お父さんが私の部屋まで来るのなんて珍しいよ。どうしたんだろう?

「ほーい。ちょっと待ってよ。」

ベットから飛び降りる。そしてそのままドアを開けた。

「どうしたの、お父さん?」
「いや、ちょっと大事な話があってな。中、入っていいか?」

「―――?まあ、いいけど。」

私がそういうと、お父さんは徐に部屋に入ってきた。
そして、テーブルの前にゆっくりと座った。それにつられて、私もお父さんの前に座る。

「あ~、こなた。驚かないで聞いて欲しいんだけどな。」
「お父さん。それって驚いてくれっていうフラグだよ。」
「ん?あ…ああ、そうだな。」

お父さんは照るように笑うと、顔を人差し指でかいた。

「それじゃあ、言うぞ。実はな……」



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