『か、かがみ・・・』
『こんばんわ、こなた。』




「いきなりだから、ビックリしたよー。前々から言っててくれれば良かったのに。」

こなたの部屋は思ってたより汚くなかった。なんとなく、安心した。いつも遊びに行っていた、こなたの部屋のようだったから。

「いや、ただ近くを通ったからさ。抜き打ちで来てみただけよ。」
「抜き打ちって・・・テストじゃないんだから。」

ぶつぶつ文句を言うこなた。でも、なんとなくだけど、喜んでくれてる。
自惚れかもしれないけど、確信はないけど、こなたの機嫌が良いと思った。

「いきなり、悪かったわね。迷惑じゃなかったかな?」
「迷惑だと思うー?」

こなたはニヤニヤしながら私の顔を見る。こいつ、私をからかってそんな楽しいのか?

「・・・そ、そんなのあんたじゃないと分かんないわよ。」
「迷惑なわけないじゃーん。むしろ嬉しいぐらいだよ。ご飯はー?」
「食べたわよ。今日日下部と峰岸と遊んできたの。」
「みさきちと峰岸さんかー。どーだった?」

些細な話は私の耳を通過するだけ。それよりも胸の鼓動を押さえるのが難しくなってきた。
この部屋の匂い。こなたの雰囲気。こなたの声。こなたの表情。全てが私をおかしくする。
顔が熱い。絶対真っ赤になってる。抑えようとしても止まらない。私から、熱と想いが溢れる。

「・・み?かがみってば?」
「えっ?あ、ごめんボーッとしてた・・・」
「何ー?そんなに私に会えて嬉しいかね?」

どうも私の周りのやつらは私の心を読めるらしい。ならば、私だって、仕返しをしたい。

「・・・そうよ。悪い?」
「おぉぉ、かがみってば大胆。デレキャラに転職したの!?」
「するかっ!」
「相変わらず鋭い突っ込みだね。まぁ座りなって。お茶でも準備するから。」

こなたはそう言ってキッチンに消えていく。
嘘をつきたくなかった。だからこんな大胆な事を言ってしまった。
でも、素直なのも、悪くないって思った。

‐‐‐‐

「今日泊まっていく?」
「えっ!?えっと・・・」

そこまで考えてなかった。ただ勢いで来てしまったからな。勢いって怖いな。

「今日はもう少ししたら帰るわ。」
「えーなんでー?」

キッチンからひょこっと顔を見せる。残念そうな顔も、私は好きだ。
今日は、友達として、こなたに会いにきたんじゃない。自分を変えたくて、今の辛い現実を変えたくてこなたに会いに来たんだ。

「遠慮しなくてもいいんだよ?」
「大丈夫よ。あんたも立て込んでるみたいだし。」

部屋の奥で光を発しているパソコン。画面には昔見せられたギャルゲー。一緒に画面に釘付けになってたっけ。
あのキャラは確か。

「立て込んでるっていうかギャルゲーだし。」
「懐かしいね、あれ。」
「かがみ覚えてたんだ。ちょっと意外。」

忘れられない。
あのキャラは、ツインテールに、赤いセーラー服。そして。

「覚えてるわよ。変わらないね、こなたは。」

ツンデレ。
こなたがあのゲームの中で一番好きなキャラ。
それを聞いたとき、恥ずかしかったけど、それよりも、嬉しかったんだ。

「そうでもないよ。私も・・・」
「私も?」
「・・・前を見て、前に進んでるよ。もう、振り返らないんだ。」

すぐにこなたが言いたい事が分かった。それは今の私には辛くて、悲しくて、切なくて。

「かがみは?」

それでも、進むんだ。

「私はね、進むために、こなたに会いに来たの。こなたに会わなきゃ、進まないの。」

ずっと縛られてた。でもやっと鎖を切れた。雨も、もう降っていない。
だから今日は、止まった季節を動かしたい。

「こなたに聞いて欲しい事があるの。」
「かがみ・・・」

こなたを傷つけた。こなたを拒絶した。こなたを泣かせた。それでも私は。

「私は、泉こなたを愛してる。」

こなたが茶わんと煎餅を乗せたお盆を落とした。大きな音が聞こえなかった。


‐‐‐‐

床に落ちた湯飲みから零れるお茶。散らばる煎餅。それさえも目に入らない。
私の目にはこなたしか写っていない。私はゆっくりこなたに近づく。

「こなた・・・」

こなたは信じられないっていう表情をしている。当たり前だ。
私だって、こんなことになるなんて、4ヶ月前には想像していなかった。
段々こなたが近くなっていく。

「私は、苦しかった。あの日からずっと。謝りたくて、元に戻りたくて、後悔していて。」
「・・・でも、それは私が悪かったから・・・」
「違う!こなたは、悪くない!私が弱かったから、本当はこなたの事、好きだったのに・・・」
「かがみ・・・」

こなたまであと1メートル。こなたの体は寒さに耐えるように、震えている。

「私、彼氏いるよ?」
「・・・知ってる。」

胸に突き刺さる痛み。想像していたけれど、こんなに痛いなんて。
でも泣かない。逃げない。私は負けない。負けたくないんだ。

「かがみは、私を拒絶したんだよ?」
「・・・知ってる。」
「私、前に進んでるよ?」
「・・・知ってる。」
「じゃ・・・なんで?」

こなたの目が潤んでいる。それがこなたをもっと愛しく見せた。

「・・・止まらないの。抑えても抑えても、止まらない。こなたが好き・・・勝手だって、分かってるけど・・・こなたをたくさん傷つけちゃったけど・・・」

私は、全てをぶつけた。

「泉こなたの全てが好き・・・どこが好きで、どこが嫌いなんてない!全部大好きなの!・・・ずっと、傍にいて欲しいの・・・」

息が荒い。全てを吐き出したからだ。大切にしてきた想い全部。
でも、ちょっとだけ後悔してしまった。

「うわぁぁ・・・ぁぁん・・・っひぐ・・・」

目の前にいる蒼髪の小さな少女が、泣き崩れたから。

「うぁぁん・・・うわぁぁん・・・」

声を上げて、泣いていた。まるで生まれたばかりの赤ん坊のように、泣きじゃくっていた。

「こなた・・・」

私はこなたを強く抱き締めた。強く、優しく。こんな事しか、私はこなたにしてあげられなかった。
私の腕の中にいるこなたはすごく小さくて、弱々しく震えていた。あの日の私のように。
髪を撫でた。ぎゅっと力を入れて抱き締めた。背中をさすってあげた。
でも、私は無力で、すぐにこなたを泣き止ませることはできなかった。
それがすごく、切なくて、もどかしかった。

‐‐‐‐

街が静寂に包まれている。たまに車やちらほら人が通るだけ。騒がしい喧騒も今は聞こえない。
駅のデジタル時計は4時を示している。
後悔していないって言ったら嘘になる。こなたを泣かせてしまったから。あの日のこなたも、こんな気分だったのかな。

『ごめんね、こなた・・・ごめんね。』
『えっぐ・・・ひっぐ・・・』

こなたの涙が鮮明な映像として、頭に残っている。こなたが泣いているトコなんて、記憶になかった。
今もまだ、こなたは部屋で一人泣いているのかな?

『ごめんね、4ヶ月前も、今も・・・ごめんね。』

何回、ごめんね、って言ったか覚えていない。私には謝るしかすべはなかった。
どのくらいだろう?かなり長い時間、こなたを抱き締めていた。こなたが泣き止むまで抱き締めていた。

『・・・もう・大丈夫だよ・・・かがみ』
『うん・・・』

泣き止むと同時に、大丈夫とこなたは言った。その意味を理解した私は、こなたを解放した。
本当は離したくなかった。もっともっと、こなたを感じていたかった。

『返事・・・できたら、欲しいな。』
『・・・うん。』
『いつでも、いいから。何日、何週間、何ヵ月、何年後でもいい。ずっと待ってる。』

自分がこんなにエゴイストだとは知らなかった。こなたはあの時、返事はいらないって言ったのにね。

『こなた。』
『・・・』
『ごめんね・・・自分勝手で。ごめんね・・・傷つけて。好きになって、ごめんね。』
『・・・ひっく・・・』

好きになって、ごめんね。よく泣かないで言えたなーって思った。
好きなのに、傷つけてしまう。違う。好きだから、傷つけてしまうのかも、しれない。
だから、ごめんね。

『・・・またね、こなた。それまで、元気でね。』

それだけ告げて、私は夜の街に戻ってきた。また泣きそうになっていたこなたを残して。

きっと、ダメだろうな。でも、泣きたい気分じゃない。むしろ清々しい。これが、『進む』って事なんだ。
さぁ、帰ろう。時計はいつの間にか6時になっていた。電車が、街が動き始めていた。


‐‐‐‐

あれから、1週間。大学の長い夏休みはまだまだ終わらない。
熱いと思ったらいきなり天気が崩れたり、冷え込んだりする日々が続いている。
でも、私は嬉しい。私の中の止まっていた季節が動いていると実感できるから。
ファミレスから見える外の風景は雨。カエルは、喜んでいるだろうな。

「柊は頑張ったと思うぞ。後悔してねーんだろ?」
「こなたを傷つけた事は、後悔してる。でも、私は納得してるよ。」
「柊ちゃんは優しすぎるのよ。誰かが喜べば、必ず誰かが悲しんでるって前にテレビでやってたわ。」

日下部や峰岸は私を励ましてくれている。
1週間前、こなたの部屋で起きたことをありのままに打ち明けた。

「あとはちびっ子しだいだなー。」
「きっと、ダメって言われるよ。」
「まだ分かんねーってヴぁ。」
「ううん。あいつね、私に言ったの。私は、前を見て、前に進んでる、って。意味分かる?」

それはきっと、私への特別な想いを捨てたって事。もう振り返らないって事。

「柊ぃ・・・」
「いいの、気にしないで。言ったでしょ?私はこれで良かったって思ってる。」
「柊ちゃん・・・」
「何よ、二人共。私ならダイジョブ。ホラ、今日は私のおごりだから。」
「柊ぃ・・・」
「まだ何かあるの?」
「ミートボール頼んでいいか?」

可愛らしい八重歯を見せて、日下部はにかっと笑った。・・・ありがとう、日下部。
振り返らない、か。私も、頑張らなきゃ。


日下部と峰岸と夕飯を食べ終わり、私は帰路に着く。時刻はとっくに22時を過ぎていた。
雨はまだ止まない。でもこんな雨はキライじゃなかった。傘越しに見る雨に濡れた夜空も悪くなかった。
こなたは今、何してるんだろうな。こなたは、何を考えてるんだろうな。


アパートに着き、自分の部屋へ向かう為に階段をのぼる。そこまではいつもと変わらない、日常。
でも、階段を登りきった時、夢なのか、現実なのか分からなかった。
部屋の前にうずくまっている人がいた。それは、見間違えるワケがない、綺麗な蒼髪。
うずくまっていた人が私の足音に気が付き、顔を上げた。

目が合った時、時が止まったと思った。

「・・・こなた・・・」
「・・・お帰り、かがみ。」




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