暗闇の中で雨の音だけが響く。月灯りも今日は下界には降りてこない。
それでも、こなたの事ははっきりと見える。

「・・・いつからいたの?何で電話しなかったの?」

濡れた髪。濡れた体。いくら屋根があるといっても、雨は容赦なくこなたに降り注いでいた。
つい、口調が荒くなる。

「来たのはついさっきだよ。かがみが出かけてるのに呼び戻すの、すごく悪い気がしてさ・・・1週間ぶりだね、かがみ。」

こなたが私に微笑みをくれた瞬間、身体が勝手動いていた。

「バカっ・・・バカこなた!」
「・・・知らなかったの?それと苦しいよかがみ。」

気がついたら、こなたを抱き締めていた。
服越しに感じる冷たい体温が、余計にこなたを愛しく感じさせる。

「本当の事言いなさいよ。」
「え・・・な、何の事やら・・・」
「いつからいたの?」
「・・・30分前。」
「・・・本当は?」
「・・・約6時間前。」

時計の針は22時をすぎている。全く、こいつは。

「ごめんね、待たせて。」
「ううん、私が勝手に待ってただけだし。それよりも・・・そろそろ離していただけませんかね?ちょっと苦しい・・・」

しまった。冷静に考えたら、私の行為はしてはいけない行為だった。

「ご、ごめん・・・」

こなたを腕の中から離す。こなたの雫で冷たいはずなのに、凄く温かかった。
ココアを飲んだ後のように、春の日差しを浴びたように。

「ぷはー・・・ううん、大丈夫だよ。」

少し、ほんの少しだけど、こなたの頬が夕焼けのように赤いのは、雨のせいなのかな?それとも・・・

「とりあえず、中入って。まず髪の毛乾かして・・・その間に何か飲み物でも作るから・・・」
「・・・かがみの手作り?」
「な、何よ?イヤなら飲まなくたっていいわよ!」
「・・・むしろ嬉しいよ。」
「・・・お世辞言ったって何も出ないんだから。」

私はこなたにちょっと怒ってみせた。でも失敗した。きっと喜んでるように見えただろうな。


‐‐‐‐

「6時間前って16時頃から待ってたの?て事は、夕飯もまだ?」
「大丈夫!私はいつもチョココロネを装備しているのだよ。」
「・・・この時期にそれはまずくないか?」
「いやいやかがみはチョココロネをなめてるよ。以外と保つよ?」
「はいはい。」

私がミネストローネを作りながら、こなたを軽くあしらう。聞けよー、とこなたはぷーっと頬っぺたを膨らませる。
なんて普通なんだろう。
私達は傷つけ合っていた。傷つけ合う度に、泣いていた。泣くたびに、哀しんでいた。
だからこんな普通がやけに幸せで、普通が普通じゃなくて不思議な気分だった。

「はい、ミネストローネ。」
「おー。美味しそうだねー!!じゃ、いただきますー!」

湿っていた蒼髪も今はさらさらと乾いている。服は私の服を貸してあげた。自分の服を着てるこなたを見るのはなんとなく気恥ずかしい。

「・・・ふぅ。あったまるなぁ。」
「で、どう?」
「どうって何が?」
「あ、味よ!味。」

分かってるくせに。わざと私に言わせたな。ニヤニヤしながら私の方をみる。

「腕をあげたね、かがみ。美味しいよ。」
「ホントに!?」
「本当だよ。そんなに喜ぶなんてかがみは可愛いなぁー。」
「そ、そんなんじゃないわよ!で、今日はどうしたの?」
「うん。」

ミネストローネを全て飲み終える。本当に美味しかったらしい。
そしてこなたは、真剣な目で私の目を覗き込む。綺麗なエメラルド。吸い込まれそうになるぐらい、綺麗だった。

「かがみに、言わなきゃいけない事と、お願いがあって来たんだ。」
「お願い?」
「うん。かがみにしかできない。ううん、かがみに、して欲しいお願い。」

私にして欲しい?彼氏、じゃなくて私?
高鳴る鼓動。不安?心配?違う。それよりも、期待の方が大きかった。

「私にできるなら、なんでもする。こなたの為に何かしてあげたい。」

傷つけるんじゃなくて、力になりたい。泣かせるんじゃなくて、元気づけたい。哀しませるんじゃなくて、

幸せにしたい。

「ありがとう、かがみ。あのね、お願いっていうのはね・・・」


‐‐‐‐

「かがみあったかい。」
「そ、そりゃ、こんなに密着してるからね・・・」

こなたのお願いは予想していたお願いというものと180度違っていた。

『・・・今日、一緒のベッドで、寝てもいい?』

「かがみ照れてる?」
「・・・別に。」

照れているというよりも、正直恥ずかしかった。こなたの目に、私の顔が写っているのが見える。1人用に二人でねたのは、つかさ以来だな。
それよりも、心臓の音がやけに大きい。こなたに聞こえていなか心配になる。
でも、この気持ち、この感情が懐かしい。こなたと一緒にいる時にしか感じられない感情。
その感情のせいで鼓動が早くなる。耳が熱い。顔が火照る。

「ねぇ、かがみ?」
「うん?」

部屋に光は灯っていない。でも確かに感じる、愛しい人の存在。はっきりと見える瞳。心なしか、潤んでいる。

「別れた。今日は、それを伝えに来たの。」

耳を、疑った。でもそれは現実だった。こなたの温度がそう思わせる。

「1週間前に思ったんだ。あの人は私のどこが好きなのかな?どこが嫌いなのかな?って。」

それを聞いた時、自分が必死でこなたに想いを伝えた時を思い出した。

「料理してる私が好きなのかな?ちびな私が好きなのかな?ギャルゲーしてる私は嫌いかな?すぐに人を頼る私は嫌いかな?って。」
「・・・うん。」
「だから、聞いてみたの。そしたら、一つ一つ丁寧に教えてくれた。どこが好きで、どこが嫌いか。」
「・・・うん。」
「それを全て聞き終わった時、あぁ、違うんだなって思った。私はこの人が好きなんじゃない、ただ、一緒にいて、楽しい。それだけだった。」
「・・・うん。」

こなたの表情が曇っていく。こいつの感情が痛いほどに分かる。
他人を大切にする人だから、自分よりも大事にする人だから、苦しんでいるんだ。

「だから、全部伝えた。好きになれなかったって、ごめんねって。ギャルゲーだったら軽く終わるシーンなのに、凄く、辛かった・・・」

そう言って、私を抱き締めた。4ヶ月前とは違う。あの時よりも、強く、そして優しく。


‐‐‐‐

「こなたは・・・悪くない。悪くないんだよ・・・」
「うん・・・」

私も小さい体を優しく抱き締める。優しく頭を撫でた。

「峰岸が言ってた。誰かが喜べば、誰かが哀しむ・・・私達はそうやって生きてる。」
「・・・私と、かがみも、そうなのかな?」

今まで傷つけ合ってきた。哀しみ合ってきた。だったら、いつ幸せが訪れるのだろうか?

「私が哀しめば、かがみは喜んでくれる?」
「そんなワケない!なんでそんな事言うの・・・?」
「・・・私はずっと、かがみに迷惑かけてきたよね?だから、どうしたら、かがみは・・・」
「ばか。」
「・・・え?」

こなたを抱き締める力を強くする。離したくない。こなたの傍にいたい。
だって、こなたを愛してるから。

「ずっと・・・傍にいなさいよ・・・」
「かがみ・・・」
「独りに・・・しないでよ・・・」

また泣く。すぐに泣く。本当に泣き虫になった。こなたのせいだ。

「愛してる・・・だから、傍に、いてよ・・・」

声を絞りだして伝える。でもこなたは、うん、とは言ってくれない。頭を縦に振ることもしてくれない。
ただ抱き締める力を強くした。小さな身体で私を優しく包むだけだった。
でも今はそれだけで、私の心は溶けていく。

「かがみ・・・」

何度も何度も私の名を呼んだ。その度に、こなたの力が強くなる。
だんだん私の意識が遠退いていく。でも、こなたの温度、こなたの声ははっきりと感じる。
夢の中でも、こなたに、あえたら、いいな。

「おやすみ、かがみ。」


‐‐‐‐

温かい。でも何故かもの足りない、・・・まぶしい。
目を開けると昨日の雨が嘘のように綺麗な空が見える。カーテンの隙間から太陽の光が私に注ぐ。

「ん・・・んー・・・」

身体を起こしてあくびと共に大きく背伸びをした。久しぶりに気持ち良く寝ることができた。
そうだ、昨日はこなたが来てくれた。こなたが、私を抱き締めてくれた。
約束はしてくれなかった。でも、今は幸せで満ち足りている。
本当の幸せが分かったような気がした。こなたが傍にいてくれたから。
そうだ、こなたを起こしてあげないと。

「こなた・・・起きて。こなた?」

こなたの名前を呼ぶ。でも呼んでも、何回呼んでも返事がない。

「こ、なた?」

彼女が寝ていた場所、私の隣を見たら、こなたは、居なかった。
確かに昨日、抱き締めていた彼女が、私の隣に、いなかった。

「こなた・・・こなたぁ!?」

声を荒げて叫ぶ。部屋全部に響くぐらいの大きな声で、私は名前を呼んだ。
それでも、返事はなく、この部屋にあるのは私と、静寂だけだった。

「こなた・・・」

なんで?なんでいつも、貴女は居なくなるの?こんなにこなたを想ってるのに。
こんなに、泣いているのに、どうして私には、幸せが来てくれないの?どうしたら、こなたの傍にいれるの?誰か、教えてよ。

ふと顔を上げると私の目にある光景が目に入る。

「チョコ・・・コロネ?」

部屋の端にあるテーブルには、チョココロネと、こなたの携帯。
ベッドから飛び降り、すぐにこなたの携帯を手に取る。
手が震える。携帯を開けば何かが分かる。見たい、見なきゃ。でも見たくない。
そんな矛盾に襲われながら、ゆっくりと携帯を開く。画面には作成中のメール。私は覚悟を決めて、読み始めた。


‐‐‐‐

『かがみへ。
泊めてくれてありがとう。ワガママを聞いてくれてありがとう。
本当はね、かがみに逢っておきたかった。かがみのぬくもりを感じたかったんだ。


ねぇ、かがみ。
私、出かけてくる。どこに行くかは、教えられない。教えたら、きっとかがみは追って来ちゃうでしょ?
もうかがみには迷惑かけたくないんだ。1人で頑張ってみたい事がある。
やりたい事があるんだ。
それが終わるまで、何日、何週間、何ヵ月、何年かかるか分からない。
でもそれが終われば、私は変われると思う。
終わったら、もう一度、かがみに逢いに行くよ。迎えに行くよ。
そこで、かがみからの告白の返事、するよ。だから、待ってて。
これが、最後のお願い。

辛いよね?自分勝手だよね?分かってる。
もし、待てなくても、私はずっとずっとかがみを想ってるから。
ゲームじゃなくても、こんなセリフ言えるんだね。でも、本当だからね。ずっと想ってる。

ねぇ、かがみ。
私達、何回ごめんねを繰り返して、何回ありがとうを繰り返したかな?
あと何回、ごめんね、ありがとうを繰り返すのかな?
私達、あと何回、傷つけ合うのかな?
私達、あと何回、泣き合うのかな?
私達、あと何回、哀しめば、幸せになれるのかな?
もう一度、かがみに逢えたら、幸せになりたいな。
かがみを幸せにしたいな。


最後に、かがみを独りにして、ごめんね。

さよならは言わないよ?また、逢えるのを信じてるから。

ありがとう、かがみ。
またね、かがみ。』


画面が濡れていく。目に変な液体がたまる。視界が悪くなっていく。こなたの、言葉が見えなくなる。
止まれ。止まれ。
そう願っても、嗚咽と涙が止まらない。やっぱり泣き虫は治らない。

「こなたぁぁぁぁぁ・・・っ!」

部屋に私の声が虚しくこだまする。携帯とチョココロネを抱き締めても、こなたを感じられない。
忘れたくないのに、こなたを抱き締めた感覚が冷めていく。


チョココロネを少しかじった。甘かった。
甘さは私の胸に開いた空虚を埋めることはできない。
ただ、甘かった。
それが余計に切なかった。


to be continue



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