二人の時間 4話

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『二人の時間』

「あれ…ここどこ?」
「お、やっとお目覚めか。着いたわよ」
どうやら、あの後また寝てしまったようだ。
ここはどこだろう。かなり山奥に来ているみたいだけど…。
「アキバだけじゃなくて、たまにはこういう所も見てみなさいよ」
「あ?何なのさ一体」
寝起きのせいか、つい不機嫌そうに返事をしてしまう。
「おもちゃの博物館よ」
「あの、私そういう所に無縁な人間なんだけど…」
「いいからいいから」
そう言って車を駐車場に止めると、私の手を引いて歩き出した。
「ネットで見つけて一度だけ来たんだけどね、誰かともう一度来たいなーって思ってたんだ」
「なんか、すごい楽しそうだね」
「そうかな?いいじゃない、別に」
満面の笑みで言うかがみ。
なるほど、もてるのもうなずける。

「すいません、大人二枚」
いつの間にか入場券を買っているかがみ。気前がいいのか、機嫌がいいのか。
「行きましょう」
やはり楽しそうだ。こんなかがみを見るのは久しぶりだ。

館内に入ると、電器仕掛けの人形や、今ではもう手に入らないレアな物がたくさん並んでいる。
それらも十分楽しかったが、一番私が興味を持ったのは…。

パ○クマン。

「おおう、これお父さんから聞いたことあるよ。昔やったって。まさか実物をプレー出来るとは…」
「やっぱ、こっち系のモノが好きなんだなー」
「んー、どれどれ…」
単純に見えてかなり奥が深い。みゆきさんはハマりそうだ。

最初は負けてばかりだったが、段々コツがつかめてきて、点数も伸びてきた。
「こなた、ちょっと貸してよ」
「えー、今いい所なのにぃ…」
「あんたばっかりやってるなんて不公平よ。ホラ」
強引にコントローラーを奪われてしまった。
早速、かがみのプレーが始まった。


うむ、予想通りハマっている。



「ねぇ、かがみん」
「何よ、今いい所なんだから、ジャマしないでよ」
「いや、だって、後ろで待ってる人いるよ」
気がつくと、後ろで困ったような顔で笑っている親子がいた。
どうやら、母親と娘のようだ。
「…す、すみません!どうぞ!!」
「ありがとうございます…フフフ」
笑われてしまった。恥ずかしい。この年になって我を忘れてゲームにのめりこむとは。
「まだまだお子様ですなぁ。かがみんは」
「う…うるさい。放っといてくれ」

それから私たちは土産売り場で、珍しいものを探した。
こなたは家族にお土産を買い、私はお菓子をいくつか買った。
外に出ると、もう日が暮れている。
「あ…もうこんな時間だ」
「本当…結構中にいたのね」
「まぁ大部分はかがみのゲームだったけど」
「は?あんただって、かじりついてたじゃない」
「おぉう、凶暴モード発動!」
「なんだとー」
こんなやり取り、何年ぶりだろう。
ちょっと前まで、当たり前のようにしていた会話が、何故かとても楽しいひと時のように思える。
これからの人生で、あのどのくらい、こんな時間を過ごせるのだろう。
大学を出て、社会人になり、結婚して、子供を産んで…。

そういうお決まりの人生を、私も歩むのだろうか。
そして、こなたも…。
「あー、それよりお腹空いたー」
「あらそう。じゃあ、そこのハンバーガー食べましょう」
「おっけい!じゃあ今度は私が出すよ」
「お、いいのか。じゃあお願いするわ」


「あー、やっぱ美味しー」
嬉しそうに食べるかがみ。食いしん坊さんだ。
ただのハンバーガーだと思っていたら、予想より少し高い値段だった。
(まぁ、味も予想以上だったし、よしとしよう)
「ねぇ、こなた」
「ん?」
「今日、ありがとう。付き合ってくれて」
「いやいや、私も久々に会えて楽しかったよ。リアルもいいもんだねぇ」
「フフッ…相変わらずね…」
笑顔がかわいい。
私が男だったら、これだけで惚れるだろう。
「ねぇかがみ、最近どうしてるの?学校とか」
「あぁ、もうやることもないから、たまに行って適当に時間潰してるわ」
「やっぱり真面目に生きてるんだねぇ」
「だって、留年したくないし…後で苦労するよりマシよ」
「う…」
「その顔は…さては卒業ピンチなのか」
「た…単位落とさなきゃいいんだもん」
「やれやれ…」
「あ、ちょっと、じっとして」
「え?」
私はかがみの唇の真横についているマスタードをナプキンでそっと拭いた。
「あ、ありがと…」
「ふふん、お子様チックなかがみん萌え~」
「いつも思うんだけど、一言多いんだよ」
おしゃべりが続く。
楽しいな、こうやって過ごせるなんて。
今まで、一番一緒にいて楽しい人は誰かと聞かれたら、間違いなくかがみと答えるだろう。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「そだね」

こなたに代金を払ってもらって店を出ると、きれいな夜空が広がっていた。
「わぁ…」
「来て良かったでしょ」
「うん…」
口が半開きになっている。

この気持ちはどう説明したらいいのだろう。
この瞬間が終わって欲しくない、そういう願いが、頭の中を回っている。
どうしてなのだろう…。

「…クシュン!」
「あ、寒いの」
「…うーん、ちょっとね。まさかここまで来るとは思わなかったから」
「じゃあ、暗くなっちゃったし、そろそろ帰りましょ。うち泊まってく?」
「ふふ、そう思ってちゃんと着替えを用意してきたのだよ」
そう言ってバッグの中身を見せる。普段学校に行くときも使っているのか、
筆箱やノートの他に、着替えの入ったビニール袋が見える。
「学校のものは置いて来ればよかったのに」
「いやいや、忘れちゃったら困るんだよ」
「なるほど、あんたらしいわ…」

車に乗り込んでエンジンをかける。
早速暖房を入れた。早く暖まれ。
「じゃあ、行きましょう」
「そだね、じゃ、頼んだよ」
「はいはい」
これでは、こなたの運転手だ。でも、たまにはいいか。

帰りの道は空いていたので、スムーズに走ることが出来た。
友達(元彼)の家に車を返しに行くと、ガソリンくらい入れろとか、こすっただろとか、
色々言って来たが、全部無視した。
やはり別れて正解だった。
アパートに着くころには、もう夜中だった。

「ふー、やっと帰ってこれた」
「おうおう、お疲れだねえかがみん」
「…だるいからちょっと横になっていい?先にお風呂入っててよ」
「ほーい」


湯船にお湯を入れ始めてしばらく経った。
うん、こんなものでいいだろう。
(結構いい所住んでるな…かがみって意外とお嬢様なのかな。そういえば結構大きい家に住んでたし、神主って稼ぎいいのかな…)
ぼんやりとそんなことを考えながら、シャワーのお湯を全身にかける。

(かがみ…随分きれいになってたな。でも性格は昔のまま…ふふふ、変わって欲しくないところは変わらないなんて
……萌えすぎて苦しいじゃないか)
(でも、今度はいつ会えるのかな、学生時代みたいにはいかないだろうし…)
(もっと一緒にいたいよ…)
「何がもっと一緒なのよ?」
「のおわぁ!!」
振り向くとそこには、生まれたままの姿のかがみが。
「何一人でぶつぶつしゃべってんの?早く寝たいから私も一緒に入るわ」
「え…そうなの?」
「何よ?女同士でしょ?別に恥ずかしがることないじゃない」
「それは、そうだけど…心の準備が出来ていなかったもので…」
「いいじゃん別に。高校の頃も一緒にお風呂入ったじゃない」
(何なんだ、私は…女相手にドキドキしちゃうなんて…い、いや、これはかがみが特別なんだ。そう、私は悪くないんだ)
訳のわからないことを心の中で繰り返す自分がそこにいた。


「それにしても、いい所住んでるよねぇ」
私たちは湯船につかりながら語り始めた。
「まぁね、早く探し始めたのが良かったみたい」
「ちなみに…お家賃は?」
「…これだけ」
「え、それでこの広さ」

「うん」
「お化けでも出るんじゃないの~」
「気持ち悪いこと言うな。残念だけど、そんなの一回も見なかったから」
「わかんないよ…明日の夜にバーって…」
「う…うるさい!私に怖い思いをさせたいのか」
「あはは、冗談が通じない子ですねぇ」
「うっ…わ、悪かったな」

なぜ、どうして?
心臓がドクドクしている。
表向きは平静を装っているけど、ずっとドキドキしている。
なんで?
せっかくかがみが傍にいてくれるのに

「さて、そろそろ出ようかな」
「え、まだ入ったばかりじゃない。風邪引くわよ」
「うーん、その…窮屈じゃないかと思って」
「そんなに気を遣うことないのよ、ほら」
かがみに手を引っ張られ、強引に湯船の中に戻された。
「こうすれば、足を伸ばせるでしょ」
「へっ?」
予想外…これぞまさしく予想外。かがみは私を後ろから抱き寄せた。
「どうしたのよ?下向いちゃって、まさか恥ずかしいとか?」
「え、いや、そんな訳じゃ…」
「ふふ…さっきまでの元気はどうしたのかしら」
耳元でささやくかがみ。背中に胸を押し付けられ、おなかの辺りに手を置かれている。
(あぁ…何だこれ、私は同性に興味なんて…)
私が男だったらどうしていたんだろう。こんな時ギャルゲーだったら…。
あぁ、だめだ。もうまともに思考できない。

どのくらいの間、そうしていたかはわからない。ただ、のぼせそうになったのは確かだ。
たくさん水を飲めば気分が変わるかと思ったが、胸の高鳴りはおさまる気配が無い。
何とか服を着たのだが。
「もう眠くてたまんないわ…限界」
「健康的な生活してるんだねぇ」
「春から社会人なんだし、夜型の生活は今のうちに直しておきなさいよ」

「そう言えばそうでしたなぁ…」
「ほら、入んなさいよ」
「おぉう、かがみの匂いが染み込んだ布団で一緒に寝るなんて…何て言うギャルゲーですか」
「変な言い回しはやめろ。嫌なら床で寝てもいいんだぞ」
「えー、やだよ。風邪引いちゃう」
「…じゃあ早く入りなさいよ」
かがみの布団にもそもそと潜り込む。
「じゃ、電気消すからね。おやすみー」
リモコンを天井に向けてボタンを押すと、部屋が暗闇に包まれる。

「…ねぇかがみ」
「ん?」
「私たちさ、高校のときから結構長い付き合いだよね」
「そうね…」
「働くようになってからも、こうやって会えたりするかな…」
「まぁ、大丈夫だと思うけど、でも今までどおりってわけには行かないと思うわ」
「そっか、そうだよね…」
「どうしたのよ?別にずっと会えないってわけじゃないし、携帯やメールだってあるじゃない」
「そうなんだけどさ、現実に会うのと、携帯とじゃ、やっぱり違うと思うよ」
「へぇ…あんたにもそういう一面あるんだ。意外ね…」
「ゲームやネットは確かに楽しいけどさ、でも…現実とはやっぱり違うよ」
「そうね…」
「なんかさ…かがみがどこか遠くに行っちゃったらどうしようとか、そういう事考えると…」
「大丈夫よ。私は東京勤務だし、転勤もないって」
「…そっか」
「ねぇ、こなた」
不意に、かがみが私を抱きしめた。
「何かあったら、すぐ私に言うのよ。上司にセクハラされてるとか、そういう事あったら、遠慮なく電話でも何でもしてきなさい。友達の親が弁護士だから、紹介してもいいわ」
「かがみ…」
「何も心配することなんてないのよ」
思わず、かがみの胸元に顔を埋めた。
優しくて、あったかくて、力強くて…。

そういう感じが、全部伝わって来る気がした。
「うっ…かがみ…」
「ふふ…泣いたっていいのよ」
何だろう…この感じ…。心の中で凍っていたものが、一気に解凍されたような…。
こんな気分になったのは、生まれて初めてだ。母親に甘えたら、こんな気分になるのだろうか。
わからない…でも…。

私は…もしかすると、かがみのことが…。



それからしばらく経って、私は大学を無事卒業した。
お父さんは涙を流して喜び、ゆーちゃんはわざわざバイト代を使って、卒業祝いのプレゼントをくれた。
私は幸せだと思う。こんなにも大切にしてくれる人が周りにいてくれるのだから。
春からは会社に通勤するために、都内で一人暮らしをすることにした。
お父さんは寂しそうな顔をしていたが、なるべく電車に乗る時間は少なくしたい。それに、かがみが一人暮らししているのを見て、私もやってみたいと思ったのだ。
…また会えるのは、いつになるのだろうか。

社会人になってからは、今までの生活が夢幻のように思える毎日だ。
出版業界は厳しいとは聞いていたが、想像以上の激務と体育会系気質だった。
一体私は、これからどうなるのだろう…。

「ふぅ…」
電車の中で私は、軽くため息をついた。
今の会社は、有名な大手企業で、待遇もいい方らしい。
入社したことを後悔しているわけではないが、時々ふと、学生時代に戻りたくなる。
つかさ、みゆきさん……そしてかがみ。
四人で楽しく過ごしていた頃が、ものすごく遠い昔のことのように思える。
(今日は家でちょっと飲もうかな。明日休みだし)
電車を降りた私は、駅前のコンビニで、ビール数本とつまみを買った。そしてまっすぐにアパートへ向かった。
アパートは三階建てで、私は最上階に住んでいる。この街は治安が良いので、少しくらい遅くなっても大丈夫だ。
階段を上って二階に着くと、何やらごそごそとかばんの中を探している人がいる。カギが見つからないのだろうか。
(あれ…まさか…)
よく見ると、それは私のよく知っている人だった。
私が一番、会いたかった人…。

(続く)



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