パーフェクトスター 序章Aパート

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前略、泉こなた19歳。現在、力のあらん限りを尽くして駅から自宅へ走ってます。草々。
じゃなくて!と心で己に突っ込みを入れつつ、走る動作をそのままに携帯で時計を確認した。
17時50分。普段はのんびり歩くから徒歩10分くらいの距離だけど、全速力に近い今の速度なら5分くらいで家に着くだろうか。
気が抜けないことを再確認した私は、携帯をポケットに放り込みながら、こうなった経緯を思い出していた。

13時から17時シフトの4時間労働を終えた私は、今日の晩ご飯は何食べようかなとか、
深夜アニメは日付変更後からが本番だなとか、生活に必要なことと自分の至福を肥やすことを考えながら、
バイト先のロッカーでのんびり着替えていた。
そこにガチャッと扉が開いて、ロッカールームに新参が着たことを知らせる。

「OH!コナタ、お疲れネ!」

元気一杯、ドアも全開。声だけでその新参は誰かは分かったが、
…パティ、ドアを閉めてから挨拶しようね。と訪問者に対して突っ込みたい気持ちを抑えて、

「やふー、パティ。」

パティことパトリシア=マーティン。
私が卒業した陵桜学園の在校2年の留学生であり、職場の同僚に挨拶を返した。
全開だったドアは閉じられ、パティは隣のロッカー前に立つ。

「コナタ、今日はもうアガリですか?」
「うん、今日は午前中で大学終わったから、13時から17時シフトなんだよネ。」

特に普段と変わりない会話を交わしているはずなのに、隣のパティは意外そうな顔をしている。
なんでだろうかと思案したが、その答えはすぐに分かった。

「ソーナンデスカ、
ワタシハてっきり18時から始まる新番アニメの為にこのシフトなのかと思イマシタ。」

…今、なんて言いましたかパトリシアさん。
キーワード"18時"、"新番"、"アニメ"を脳内で急いで検索にかける。

─検索時間約3秒。
見事に私の脳みそは結果をはじき出したのと、私の叫びが口から放たれるのはほぼ同時だった。

「ああああああっーー!今日はあのアニメの初回放送日だった!!!!」

突如放たれた叫びにビクッと反応を示すパティを横目に据えつつも、相変わらず私は自分の世界にいた。
客観的にはじき出された結果によってもたらされた私の感情はもう抑えられない。
アニメ化が決定したときの喜び、絶対見なくてはと思わされた番組宣伝のCM。
その何もかもを忘却の彼方に葬り去っていた私を罰してやりたい。

「やばいっやばいっ!私としたことが録画予約すらしてないヨ!」

焦る気持ちは増すばかりで自分の言動と行動を制御できない。
気づいたら、パティの肩を掴んでいた。

「こ、コナタ。今から急いで帰れば、ギリギリ間に合うんじゃナイデスカ。」

パティは顔を引きつらせながら、冷静に私に行動指針を示してくれた。
後ろの時計は17時15分を指している。
駅まで5分、アパートがある最寄り駅は電車で30分で、そこから走れば…。
瞬時に時間配分を考えた後、希望の光が見えた私はパティの肩から手を下ろして、トキの早さの如く帰り支度をする。

「パティ、思い出させてくれてありがと!バイト頑張ってネ!」

最後にそう言ってロッカールームを後にした。

 * * *

走り出して3分。私はアパートへ繋がる最後の直線を疾走していた。
7月ともなればこの時間はまだ明るいものの、住宅街の街灯はぽつぽつと灯りを灯している。
あとは数百メートル先にある街灯が目印の曲がり角を曲がれば、アパート見えるのだ。

「ぬおおおおおおお!」

ラストスパートをかける意味合いで、小さく、でも自分の耳に届くくらいに声を出す。
気合い充分、速度よし。周りの景色が通り過ぎる速度がちょっぴり上がって、曲がり角が間近に迫る。

これでラストォォ!と、どこぞの赤い少女が赤いロボットに乗って白うなぎを倒すシーンを想像しつつ、
曲がり角を曲がる為に踏み出す足に力をこめて、リリースしたその時。
曲がるはずの方向から人影が見えた。


─ ふぉ…さすがにこの状態からは避けられな「「ドンっ!」」


そう考えた時にはファーストインパクトが私を襲った。
「ぬぁっ!」
思わず声が漏れた私に、すぐさまぶつかり合って跳ね返る力が働き、後方に吹き飛んでセカンドインパクトへ。

頭を打って世界が暗転した、なんてことはなかったけれど、お尻がすごく痛い。
でも、あれだけの速度でぶつかったのに、尻餅だけで済んだのは不幸中の幸いなのか。
と、状況を分析している、いやに冷静な自分に気づいて苦笑した。
どこをどう見ても私が悪いのは明白なのだから、謝るのが先だと私の道徳が訴えている。

目の前を確認すると、私と同じように尻餅をついた人が当然いるわけで、
街灯のおかげもあって、その姿はよく見えた。

薄紫の長い髪をツインテールに結んでいて、ちょっとつり目だけど、顔は綺麗だ。
容姿に対し、服装はラフでオーバーオールの下にTシャツを着ている女の人。
見た目から年齢を予測すると、私と同じくらいだろうか。

─ ただし、私は一般の人から見ると大学生に見えないのは言うまでもないよね。
痛むお尻を擦りながら立ち上がり、女の人へ歩み寄り、謝罪の言葉を口にした。

「ごめんなさい!急いでて前を見てなくて。あの、大丈夫ですか?」

外傷を近くで確認しようと未だに尻餅をついた彼女を見るが、微動だにしない。
目は開いているから、頭を打ったということはなさそうだけど、その目には光がないことに気づいた。
いや、目が見えていないとかの類いではなく、開いてはいるが何も見ていないガラスように冷たい目。
初見でそれは失礼かもしれないが、まったくそれが的を射ている表現なのだから仕方がないと、私は複雑な心境を処理した。
とは言え、このままの状態は非常によろしくないので、
彼女へ手を差し出し、自分の出来る限りを尽くして優しい口調で言ってみた。

「立てますか?」

その言葉で女の人は初めて動いた。視線だけ─
彼女の視線は私の手に注がれ、しばらくした後、その手に手を重ねた。
しかし、重ねただけで立ち上がろうとする力の動きを感じなかったので、
きっと彼女も痛いであろうお尻に気遣いながらも、私は昔やっていた格闘技経験を活かして、彼女を難なく引っ張り上げた。

「よいしょっと。」
「…っ」

かけ声一つの私に、音にはならなかった息の動きが彼女に見えて少し安心。
が、引っ張り上げた反動で、私のポケットから携帯が落ちたのは同時のこと。

「膝とか擦りむいたりしてませんか?大丈夫ですか…って携帯落ちちゃった。」
掴んだ手をそのままに、私は携帯を拾い上げようとした時、
落ちた反動で外装のウィンドウに灯りが灯り、否応無しにその部分に目がいった私は固まった。

17時57分。

こんな事態に陥っていても、戻ってくる焦燥感は実に私らしいと思う。
その焦燥感に従って行動を起こすのも、実に私らしいはずだ。

「っと、ごめんっ!ちょっと話は後にしようか!」

掴んでいた手を離すどころか、逆に力を込めて、彼女を引っ張り走り出す。
彼女はこんな状況でもまだ言葉らしい言葉を発していないが、そんな彼女の無言と歩調を合わせた走行を了承と受け取り、
そのまま私は彼女を家までつれていったのは言うまでもない。



 * * *

アパートは2階建ての小さなもので、1階の角部屋が私の家となる。
鍵を、扉を職人技のように高速で開けて閉めて。玄関で彼女の手を離すと、直ぐさまテレビへ向かう。
17時59分。自動録画をセットする時間なんて当然ない。なりふり構わずチャンネルを合わせて、手動で録画ボタン。
その5秒後に目的のアニメは始まった。

「ミッションコンプリートぉぉぉ…。」

声に出して、自らの目標を達成したことを確認した。
安堵と共に体の力が抜けて、そのまま後ろへ倒れて大の字になる。
元々小さな体だから壁にぶつかるとか心配はないが、私はもう一つ大切なことを忘れていた。
寝転がったことにより、視界の隅に彼女が映る。

─ や、やばいヨ。勢いだけで連れてきちゃったけど、これじゃ誘拐と変わらないんじゃないのかネ…。

先ほど携帯を拾って時計を確認した時とはまた違う焦り。
今度のはそんなレベルが済まない気がするけど、事の大小を気にしてたら大物になれないはずだ。
いや、そうじゃなくて。
恐る恐る体を起こして、問題の人物へ顔を向ける。

彼女は未だ我が家の玄関に立ち尽くしたまま。
けれど、さっきとは違い、軽く息が上がっていて、光の戻った目でしっかり私を見ている。
私は何かフラグでも立てたのかな、なんて軽く現実逃避をしている場合じゃない。
数分見つめ合ったままで、居たたまれない雰囲気に耐えられなくなった私が先制した。

「えーっと、、、とりあえず!け、怪我ないか見せてくれませんか!?」
─ ちょ、これじゃただの変態じゃない?

「じゃ、じゃなくて、ぶつかっちゃったお詫びをしたいので夕飯でもどうですか!?」
─ い、いやこれも無いよね。

何かを言うたびにその言葉が変態じみて聞こえてしまう自分に突っ込みを入れつつ、
この脳みそをどうにかしたいと思った。
そして、何か喋ってくれないと私は墓穴を掘る一方なんですが、
どうでしょう玄関の彼女とついには他力本願へ。

「あ…あの…」

ようやく息が整ったのか、はたまた空気を読んだのか、困惑した表情で彼女が喋る。
ここで喋り始めてもきっと彼女と言葉がかぶるだろうと踏んで、彼女の次の言葉に耳を傾けていた。

「…ここはどこで、私は誰ですか?」
「ほぇ?」

耳に入ってきた言葉に対し、純粋な気持ちを言葉にしたらアホっぽいものになった。




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