パーフェクトスター 序章Bパート

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序章「そして私たちは出会った」Bパート
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 * * *

アパートは2階建ての小さなもので、1階の角部屋が私の家となる。
鍵を、扉を職人技のように高速で開けて閉めて。玄関で彼女の手を離すと、直ぐさまテレビへ向かう。
17時59分。自動録画をセットする時間なんて当然ない。
なりふり構わずチャンネルを合わせて、手動で録画ボタン。
その5秒後に目的のアニメは始まった。

「ミッションコンプリートぉぉぉ…。」

声に出して、自らの目標を達成したことを確認した。
安堵と共に体の力が抜けて、そのまま後ろへ倒れて大の字になる。
元々小さな体だから壁にぶつかるとか心配はないが、私はもう一つ大切なことを忘れていた。
寝転がったことにより、視界の隅に彼女が映る。

─ や、やばいヨ。勢いだけで連れてきちゃったけど、これじゃ誘拐と変わらないんじゃないのかネ…。

先ほど携帯を拾って時計を確認した時とはまた違う焦り。
今度のはそんなレベルが済まない気がするけど、事の大小を気にしてたら大物になれないはずだ。
いや、そうじゃなくて。
恐る恐る体を起こして、問題の人物へ顔を向ける。

彼女は未だ我が家の玄関に立ち尽くしたまま。
けれど、さっきとは違い、軽く息が上がっていて、光の戻った目でしっかり私を見ている。
私は何かフラグでも立てたのかな、なんて軽く現実逃避をしている場合じゃない。
数分見つめ合ったままで、居たたまれない雰囲気に耐えられなくなった私が先制した。

「えーっと、、、とりあえず!け、怪我ないか見せてくれませんか!?」
─ ちょ、これじゃただの変態じゃない?

「じゃ、じゃなくて、ぶつかっちゃったお詫びをしたいので夕飯でもどうですか!?」
─ い、いやこれも無いよね。

何かを言うたびに上擦った言葉が変態じみて聞こえてしまう自分に突っ込みを入れつつ、
この脳みそをどうにかしたいと思った。
そして、何か喋ってくれないと私は墓穴を掘る一方なんですが、
どうでしょう玄関の彼女とついには他力本願へ。

「あ…あの…」

ようやく息が整ったのか、はたまた空気を読んだのか、困惑した表情で彼女が喋る。
ここで喋り始めてもきっと彼女と言葉がかぶるだろうと踏んで、彼女の次の言葉に耳を傾けていた。

「…ここはどこで、私は誰ですか?」
「ほぇ?」

耳に入ってきた言葉に対し、純粋な気持ちを言葉にしたらアホっぽいものになった。

 * * *

状況はどうにしろ、いい加減玄関に立たせっぱなしじゃ謝罪も糞もないので家に上がってもらう。
彼女は先ほどの答えを貰えないことに関して不安な顔をしていたが、そのお願いには素直に従ってくれた。
自分と彼女のお茶を用意しつつ、空いた頭で彼女が紡いだ言葉を冷静に分析する。

『ここはどこで、私は誰ですか?』

前者はまだわかる。私が勝手に家に連れてきた訳だし、居場所がわからなくても仕方が無い。
むしろ誘拐だと思われてもおかしくないくらいだし?
けど、問題はそのあとだ。

さっき会ったばかりの、しかもたまったま曲がり角でぶつかってしまっただけの相手に
『私は誰ですか?』と聞かれても「誰でしょう?」としか返すほかない。

「私は貴方にぶつかったとき、貴方と初めて会ったんだけど。」

私の部屋は8帖の1K。
買い集めたグッズや漫画に部屋が圧迫されているため、据え置きの机はない。
折りたたみの机を出すのは億劫だったので、置く場所のないお茶を彼女に手渡しながら、事実をありのまま伝えた。

「…。」

手渡されたお茶を一口飲んでからも続く沈黙が彼女の答え。
解決の糸口を見つけようと、個人情報の質問攻めにするがどれもスカ。
個人情報が駄目ならば、と質問はこの言葉で終わりにした。

「んーなんでもいいから、思い出せる事ない?」
「…ごめんなさい、何も思い出せない。」

眉間に寄せられた皺が、彼女の言葉がすべて嘘じゃないと物語っている。
といっても「思い出せない」としか言ってないけど。

─ 困ったもんだネ。普通なら交番か警察署へ連れて行くのがいいんだけど…。

ふと時計をみると、質問に沈黙を繰り返してせいか、時間は20時過ぎていた。
警察署はともかく交番なら24時間やっているが、悪事を働いたわけでもないのに留置所で
一夜を過ごす彼女の気持ちを想像するとすぐに連れて行こうとは思えなかった。

『ぐぅ~』

再び思考の迷路に入りかけたとき、彼女の座っている方から音が聞こえる。
はっとして彼女を見直すと、私から視線をそらして頬を赤らめつつもお腹に手を当てていた。
やばい、その仕草は萌えるっ…!と非常事態にも関わらず、考えてる事は相変わらずだ私。

「あはっ、そういえば私もご飯まだだったよ。
記憶がないにしろ、ぶつかっちゃったことは事実だし、お詫びに晩ご飯ごちそうさせてもらえないかな?」

ひと笑い合間をおいてから、いつも通りの口調でそういうと、未だ赤い頬のままの彼女は小さく頷いた。

 * * *

一人暮らしをしていると一人分の自炊は面倒臭くなりがちだけど、こう見えても私は結構する方で、
そのおかげもあってか冷蔵庫には大好物のチキンカレーを作れる食材が丁度あった。

幸い彼女も鶏肉は大丈夫なようで、ちょっとだけ力を入れたカレーを二人で囲む。
料理中にあれこれ考えてみたものの、やっぱり今から留置所は可哀想だということ、
姿格好からして何か危ない事件に絡まれてることはなさそうだという結論に至った私は彼女に提案した。

「あのさ。今日はもう遅いし、もしよかったらだけどうち泊まっていく?」

カレーを運ぼうとしていた手を止めた彼女は、少し考えて。

「…迷惑じゃない、ですか?」
「迷惑だったらそんなこと言わないよ。それに大学生だけど、見た通り一人暮らしだしねっ」

"大学生"の部分で、その青紫の目を大きく見開いたのは見逃してやろう。
─ええ、どうせ大学生には見えませんよ。
自暴自虐に落ちかけたとき、私は大事な事を忘れていたのに気づいた。

「あー…そういえば私の自己紹介がまだだったよね。私は、泉こなた。呼ぶときはこなたでいいよ。」
「私は…「「おーっと待った!」」

私の自己紹介を聞いてから沈んだ表情をすれば止めたくもなる。

「覚えてないのもわかってるし、自己紹介しろって訳じゃなくてね。」

ここでカレーを一口含んでもぐもぐ、ごっくん。その間に彼女の表情が和らいだ。

「…こなたさんがいいなら好意に甘えてもいいですか?」
─ うむ、空気は読めるみたいだね。
「おしっ!そうと決まれば敬語禁止、さん付け禁止だヨ!」

さっき出会ったばっかりの初対面の人に無理な注文を押し付け、その場は終わった。

 * * *

「お風呂空いたから、お風呂はいればぁ?」

タオルで長い髪の毛をゴシゴシと拭きながら、部屋にいるはずの彼女へ声を掛ける。
彼女はベッドに寄りかかり、頭を垂れていた。

すー……すー…。

「あらま、寝ちゃってるよ。」

しっかり結われたツインテールの片割れで顔が見えないけれど、薄く聞こえる寝息が今の彼女の状態を伝えていた。
出会ってからずっと私の勢いに飲まれていた彼女だけど、このうたた寝はちょっとでも安堵を得た証拠なのかな。

─ そうあってくれたらいいけどネ。

起こさないように近づいて、ベッドにあるタオルケットを彼女にそっと掛ける。
身動ぎ一つ起こさない彼女は余程深い眠りについているようだ。

しばらく彼女の寝顔を堪能し、さて自分はどうしたものかと思考を移したとき、自然と欠伸が出た。
大学行ってバイトへ出勤の習慣に加え、全速力での帰宅に、滅多に使わない"気"の消費と脳みその活用で、
私のライフはとっくに0へ近づいていた。
押し入れから未だに一度も使われたことのないタオルケットを引き摺りだして、
極力ベッドを揺らさないように寝そべり、電気を消す。

― 明日は講義もバイトもないから、起きたら警察連れていこうか。

まぶたを閉じるとすぐに眠気はやってきた。
意識が消える前に、すでに夢の住人になっている彼女にこう言おう。

「おやすみなさい。」

 * * *

朝。
若干感じる息苦しさと温もりで私は目が覚めた。
瞼を薄く開けると、薄紫色のもじゃもじゃが目の前に広がる。

─ 薄紫色のものなんか部屋にあったっけ…?

覚醒しきっていない意識はすぐに答えをくれない。

二度寝も可能な睡魔をちょっとだけ頭の隅に追いやり、状況確認のために重い瞼を8割解放。
数秒後、状況把握。

昨日、部屋に泊めたはずの彼女が、私に抱きつくように寝ていた。
いや、むしろこれはもう抱きしめられている。


……?
………なんですとぉぉぉぉぉおぉっ!!

意識を一気に覚醒モードへ突入させて、体を起こすと難なく解放された。
全開になった眼で居場所を確認すると、そこはベッドの上 ─ ではなく床の上。
どうやらシチュエーションを作り出すのに加担した犯人は…どうみても私です。本当にありがとうございました。
不可抗力が働いたとはいえ、昨日出会ったばっかりの人と仲睦まじげに、しかも抱きしめられて寝ていた事に、
少なからず動揺していた。すごく顔が熱い。なんでだろう。



「…んっ…。」

そのままどれくらいだろうか、石化していた私はハッと彼女を見る。
目の前でタオルケットに包まって寝ている彼女に覚醒の兆候が見て取れたので、動揺と赤面を隠すことにした。
どんとこいと構えたところで、彼女の口が一つの言葉を紡いだ。




「…かがみ。」
─ かがみ?なんだろう?

イントネーション的には人の姿を映し返す"鏡"の方ではなく、違う言葉だ。
そう考えたのと彼女がゆっくりと目を開けたのはほぼ同時。
覚醒スピードが遅いせいか、しばらくはそのままぼんやりとしていた彼女は
何かを思い出したようにガバッと勢いよく体を起こす。

「名前…。」

「ここはどこ?」だなんて振り出しに戻るようなことは言わなかったけど、彼女がいった言葉は予想外。
けど、記憶のない彼女にとって今はどんな言葉も手がかりになるので、彼女が意味を忘れる前に聞き返す事にした。

「名前がどったの?」

彼女にとっては独り言だった言葉をオウム返しされて、ようやく隣にいる私の存在に気づいたのか、
「ひゃぁっ!!?」と声を上げながら、タオルケットを掴んだまま一歩後退する。

「いや、そんなに驚かなくても…。んで、名前がどしたのさ?」

驚いた衝撃で一瞬跳んだのか、最初はクエスチョンマークを頭上に掲げていたが、すぐに言葉の意味を理解したようで。
「あっ!!!な、名前!!!名前をっ!」
と、今度は何かに動揺しながらも、一生懸命言葉を伝えようとしていた。

「まぁ落ち着いて。」
彼女の肩に手を置いていつも通りのまったり口調を貫き通すと、
徐々に落ち着いてきた彼女は嬉しそうに、そして何故か達成感を含んだ顔をしている。
その意味はこの後すぐに知る事になった。

「自分の名前、"かがみ"だって思い出せたの。」
「へー…って、ええっ!?」

まさに棚から牡丹餅。
思わず沸き上がった嬉しさで、私は置いていた手に力がこもり、彼女に迫っていた。

「な、名前だけしか思い出せてないんだけど…。それと、ちょ、ちょっと顔近い…。」

私の目から次の質問を察したのか、彼女は補足を付け加えて最後に現状を教えてくれた。
その最後の一言で我に返ると、やってしまった感と恥ずかしさが遅れて顔を出し、
その原因である彼女との距離だけはすぐに修正する。

ちょっとだけ熱くなった頬を冷ますために、目の前の彼女から視線を外した。

─ 彼女が寝言で口にした言葉は彼女の名前で、今私はその事を聞いたんだよネ。

自分が犯した余計な行動を排除して、起きてから今までの事をじっくり消化すると、
十分に冷静になれた私は、彼女に対して一つ大切なことをしていない事に気づいた。
それは今の彼女にとってとても重要なことで、世間一般的にも必要な事も含まれる。

彼女を"かがみ"と認識した証と挨拶を、私は少しはにかみながら言った。

「おはよう、かがみ。」

こうして、私達の朝は始まった。




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