待ち合わせ

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目が覚めたのは八時前。休日とはいえ生活リズムを崩さないよう早起きは当然。
それから普段通りに朝食、軽く勉強してから一日の予定を振り返る。今日はこなたとデートの日だ。
デート、とは言っても私達は付き合っているわけじゃない。というか女の子同士だし。まあ普通に友達としてなら好きだけど、一応ね。
あいつのほうもおそらく友好的な意味では好きなんだと思う。冗談っぽく好きだの愛してるだの言うくらいだもの。
でも二人の間に恋愛感情は存在しない。
私の周りの中でもこなたは確かに好きの最上級の部類に入るだろう。どれだけ世話を焼くことになろうとも、それだけ一緒にいる時間が私にとって幸せだからなんだと思う。
それを仮に恋愛に置き換えるとするなら、なんだ。その、たとえば……キスとか。

足りない身長分精一杯つま先立ちをするこなた。ふるふると震えるているのは緊張のせいだけじゃないらしい。
色々な意味で待つのが苦しそうで、でもしぎゅっと目を閉じてくれているこなたが愛しくて。少しでも和らげてあげたいとの思いが私の体を動かす。
優しく、こなたの細い腰に両手を回す。支えるために、いや抱き寄せるために。
まだ開けたままだった目で目標との距離をしっかりと確認。意を決して視界を閉ざす。
ほんの少し先に待つのはきっとこれまでで最大の幸福が。焦らず、慎重に、確実に近づいていった。

「お姉ちゃん起きてる?」
「おお起きてるわよ?!」
私が触れようとしていたのは写真越しのこなたの唇だった。
ちょ、いやいやあくまで今のは万が一を想定してのことであって。そう、予習。あいつは所構わずシャレにならないようなこともやってのけるんだから。
「ど、どうしたのよ、いつものつかさに比べたら大分早起きじゃない」
「ぇえー、私だってちゃんと起きることもあるよぅ」
「それが毎日続かないんだから驚きもするわよ」
トコトコと部屋の中へ足を踏み入れるつかさ。
ちゃんと私の了承を得てからドアを開けたのだから先ほどのことを見られたというのはまずないだろう。
「お姉ちゃんこんな日でも勉強してたんだ、すごいね」
「何言ってるのよ、受験生なんだし毎日勉強するのは当たり前よ。もう宿題やってないとか言ってる場合じゃないわ」
「はぅ、そういえば数学の宿題があるんだった」
見捨てないでとでも言うように仔犬のような瞳で見てくるつかさに情け無用と強い態度をとる。
よく妹に甘いと言われる私だが、いつまでもそれじゃつかさの為にはならない。同じことはこなたにも言えるか。ってかつかさ以上にあいつには厳しく言ってるはずなんだけど。
「こなちゃん」
「ひゃぁ!? な、何よ急に!?」
「えへへ、お姉ちゃん今日なんでしょ、こなちゃんとのデート」
「なんであんたが知ってっ……というか、そういう意味は全くないから」
「こなちゃんがね昨日電話で『明日はわたしとかがみでデートするから。メールでも絶対に連絡しちゃだめだよ、邪魔しないでね』て言ってたから。お姉ちゃん頑張ってね」
ぐっと握り拳を作って見せたつかさは満面の笑みを浮かべて部屋を出ていく。
一体何を頑張ればいいんだ、だからそれは誤解誤った解釈をしてるんだ、などとの突っ込みは全然届かず、一人残された私には不安ばかり募るのだった。



鏡を見て乱れてもいない髪に幾度か手をやる。リボンで二つくくりにしたお気に入りの髪型。その隙間からキラリ光るものが映る。
去年の誕生日にみゆきからもらったイヤリング。学生の身分ではなかなか機会がなくて実は身に付けて出かけるのは今日が初めてだったりする。
大したものではないと微笑むみゆきを浮かべて謝罪と感謝。ずっと使わないでいてごめん、それから素敵なプレゼントをありがとう。
動機は目一杯おめかししてきてね! との電話越しに(おそらく) 満面の笑みを浮かべたこなたの言葉。
デートなんて柄じゃないと思いつつ言い知れぬ高揚感に身を包まれて。高鳴る鼓動はいつまでも落ち着く気配はない。
考えてみればこなたは私の服をほとんど知ってるんじゃないか。それくらい一緒の時間を過ごしてきたんだ。
どれが一番自信あるかなんて難しい。こなたが気に入るようなものなら尚難しい。そもそもあいつこそどんな格好で来るんだろう。
普段と何ら変わらない、だけど一つだけまだ見せてなかった自分。
鏡に映る私は頬を赤く染めて照れくさそうにぎこちない笑顔を見せていた。

まだ、来ないのかしら。
好天に恵まれたその日は日中むしろ暑いくらいで日除けに帽子か何かあればよかったかなと思った。
腕時計の長針は1と2の間を指している。よく待ち合わせに遅れてくることを思えばまだ許容範囲だろうか。
何度経験しても待つ時間というのは辛いものだ。
本当に来るのだろうか。まず最初に何を言ってあげようか、それから何をしようか。今日の自分は変じゃないかな。
手持ち無沙汰からか普段と少し違う格好をしていることが気になってしまう。どうにも浮わついてしまって落ち着かない。
風に揺られるアクセサリにそっと指を触れさせる。
こなた、早く来ないかな。


「ごめんっ、遅れた」
ほんの数分とかからずに待ち人は息を切らしてやって来た。
「もう、いつまで待たせるつもり、なのよ」
怒りなどよりもようやく会えたことに、今からの出来事に思いを馳せてか鼓動が早くなる。呼吸を整えているこなたよりも言葉がつっかえている私。
「うん、本当にごめん」
深々と頭を下げて謝罪するこなた。いつも色々と言い訳をするのにらしくないと思うも問いかけまではできず。
「まあその、遅れたものはしょうがないんじゃない。それにそこまで待たされたわけじゃないしさ」
「でもこういうときに遅れるのは格好悪いじゃん」
「何を今さら。あんたの遅刻癖はいつものことでしょ」
「何も好きで遅れてるわけじゃないよぅ。だいたい毎回毎回かがみをそんなことで怒らせたくないし」
会話はいつもの私達らしく進んだ。
ちょっと背伸びした服装もデートという約束事もいきなり変われるはずなんてなくて。ただいつもより少しだけドキドキしてる。
「いやね、昨日のうちにある程度予習はしてたんだけど、いざ出かけようと思ってもなんか気になってね」
こなたが自身の長い髪に手を触れる。普段は無造作に流れているそれは今日は一本にまとめられていた。
高い位置で結ばれたポニーテールはこなたの顔の小ささを強調するように。なぜか誇らしげにくるりと回ってみせると尻尾みたいに楽しげに揺れて。
そしてその長い髪をまとめる役の大きなピンク色したリボン。
「えへへ、せっかくもらったんだから使わないと申し訳ないじゃん。ちょっとわたしらしくないから恥ずかしいんだけど、ね」
そう、それは私が誕生日プレゼントにと渡したもの。身だしなみにほとんど無頓着なこなたにきっと似合うからと半ば押し付けるようだったっけ。
基本は実用性のみデザインなど全く考慮しない。スカートも制服以外はめったに見たことなくて、ちょっとは女らしい格好してみたらとたまに言ってみたり。
照れくさそうに頬をかくこなたが冗談なんかじゃなく可愛いって思った。
「よく似合ってるじゃない。か、かわいいわよ」
言って体温が二三度上昇した気がする。たぶん真っ赤になっているだろう顔を見られたくなくてこなたから目を逸らした。
けれど訪れたのはむず痒くなるような沈黙で。どうしたのだろうかと横目でちらり様子をうかがう。先ほど以上に頬を赤くしたこなたと目が合った。
「ちょっと、こなた……?」
「ち、違うからっ。なんでもないからっ!」
慌てて背を向けるもひとくくりにした長髪では真っ赤に染まった耳を隠しきれていない。
ここまで照れているこなたをほとんど見たことはなかった。なんか、すごく可愛いかも。
普段のお返し半分、もっと見たさ半分で口を開こうとしたら、全然顔が赤いままでこなたが急に振り返り。
「かがみだってそのイヤリング似合ってるよ。たしか去年のみゆきさんのプレゼント、だよね」
「よ、よく気がつくわね、これのこと」
「いつも見てるんだもん、違いなんてすぐわかるよ」
言っていて恥ずかしくないのだろうか、いやそんなはずはないか。
「きれいだね」
少し震えた手でこなたが私のイヤリングに触れる。
「こなたも可愛いわよ」
視線の先にぴょこんと立った一房の髪が映る。少し下にずらせば私に負けないくらい赤く染まったこなたが見つめている。優しくその頭を撫でるとこなたはくすぐったそうに笑った。
キュッと締め付けるような胸の痛みを覚えたけれど。
この少し熱いくらいの空気もうるさく鳴ってる鼓動も全て、今日という日が特別だということに他ならないのだから。

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コメント:
  • 久々にきたらまだ作品投下してくれる人がいたなんて…
    GJ -- 名無しさん (2012-08-20 18:38:48)
  • 続編来てたのですね、あーざすっ!!
    -- kk (2012-07-02 23:29:20)

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