レイディアント・シルバーガン 2

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駆け込んだかがみの部屋で、かがみは背中を震わせてPCに向かっている。
「かがみっ!!」
怒ったかがみは振り返らない、私がその肩を掴み、無理矢理振り返らせると……かがみは泣いていた。
「なによ、こなた」
「かがみ、PCから離れて」
「なんでよ、私は」
「いいから!!」
私は強引に、かがみをPCから引き剥がした。
現実に会えば愛すべき人物でも、リアルでは当たり前の言葉でも、ネットの病的な「正義」の前ではただの餌になりはてる。
人々は獣と化して、投げ込まれた「新鮮な肉」に群がるだろう。
ネットではよく言う言葉だ「燃料が投下された」なんて。
誰が見てもかがみは愛すべき人物だが(そうだよね?)、彼女がネットに向いているとは到底思えない。彼女は本当に優しくて真面目だから。そして私は、ネットはゆがんでいる、と感じる。
不意に、スカイプのためのヘッドフォンが私に囁き、私は篝さんがサインインしたことを知る。
「篝さん?!」
「『ただ、経営者、営業職、開発職、販売職、そしてユーザーの方々にも考えてほしいのです。この切り捨て文化であるゲームのことを…。』井内ひろしは言ったよな? 大したもんだ、だから私も言うよ」
篝さんが言う。

「人々は考えるべきなんだ、この切捨て文化である、萌えのことを。ってな」

レイディアントシルバーガンのチームディレクター、井内ひろしは、たかが一つのSTGに魂をこめた。そして篝さんは……どうしようというのか?
「篝さん、仕方ないよ。だってもう、時代は移り変わって」「仕方ない?」
不意に張り上げられた大声に、私の言葉は遮られた。
「仕方ないってのは、なんだ? こなかが好きだ好きだって言って、時間が来たら理由つけてさようならする事のことか?だが言わせてもらうが、『それでも井内ひろしはSTGを作った』、そうだろ?」
「篝さん、ssなんて、所詮遊びなんだよ。プロの作るSTGとは違う」
「本当にそうか? あの頃、ss書いてる奴で、ssなんて所詮遊びで、そのうち別ジャンル書きますよ、なんて言ってた奴がいたか? たかが遊びに、本気になるから楽しいんじゃないのか」
「みんながみんな、篝さんじゃないよ」
「じゃあ、泉はこう言うのか? こなかがBBSが寂れるのはしょうがないし、それはあきらめるべきことだし、さっさと別ジャンルでも見つけてそこで遊べって、そういうことが言いたいのか? どうなんだよ、泉?」
「違うよ、私は……」
「ただじっとしている事なら、誰でも出来る。誰にも責められない。でも私には」





 「意地がある」





 ──皆さんにもわかっているはずだ。我々はもう一度考え直すべきです。





 スカイプの接続は切れた。







   『レイディアント・シルバーガン』





  ──私的代弁者:「この世に生まれた11番目の作品、『シルバーガン』をもって人々に訴えかけるのだ」







時は、待たない。
時代の流れは気づけばすべてを押し流し、一昔前の流行は見向きもされず、未だにそこに留まるものは嘲笑を受ける。
確か、人々はまるで永遠のように何かを好きだと熱弁を振るっていた筈だが、一年も経てばもうその言葉には陰りしか見えない。
もちろん、今でもこなかがは好きだよ? なんて、煮え切らない言葉だけがそこにある。でも私はそれを、自然なことだとは思う。だけど。
「人間の愛情って、なんなんだろうね?」
冬の風が私とかがみの間を通り過ぎていった。身を切るように冷たい風、どうも世界は私達に優しくない。
「でもさ、そんないつまでも、40になっても50になっても、ssに血道をあげてたら、やっぱりちょっと不自然じゃない?」
「そうかな?」
「わかんないけど……」
かがみの言う事はもっともだけど……。
「いつまでも、ずっと好きで、ずっとss書き続けるなんて、無理だと思う、きっと」
そうかも知れない。
どんな愛情もいつかは醒める。いつまでも付き合った当時みたいな夫婦、なんていない。
人間はあらゆることに適応し、慣れなければいけないから。
でもそれじゃあ、暑苦しいほどの愛情や情熱は、不要なものなんだろうか?
「冬だね」
私はかがみの手を握った。
一瞬、かがみが驚いて顔を赤くして、私から眼を逸らした。
「寒いわね」


 私は、かがみの事が好きだ。


 でも私は、その愛情をやり過ごそうと思っている。

 どんな夫婦もいつかは愛情が醒めるなら、同姓同士でリスクばかり多いこの感情が醒めるのを、ただ私は待っている。それが、一番誰も傷つかなくて済む方法だから。

 愛情なんて、所詮はその程度のものでしょ?

「でも……」
 と言いかけて、私は口を噤む。
「どうしたの?こなた?」
 冬の風はとてつもなく冷たいのに、かがみと繋いだ手は、この上なく暖かかった。




  ………




 ──私的かつ客観的代弁者:「お願い、あきらめないで」









「私、ゲーム作るから」
まるで工事現場にいるようなゲームセンターの騒音の中で、篝さんが私にはっきりとそう言った。
篝さんは昭和生まれを馬鹿にするようなことを言う主人公を操って敵を倒していたが、明らかにそのSTGを侮蔑する態度は崩さずにやっている。まったく気が乗らないみたいに。しかし残念ながら、それだけがこの場末の店の唯一のSTGだった。
「ゲーム?」
「そう、ゲーム」
遂に篝さんはレバーから手を離し、体ごと私に向き直った。哀れな主人公は無抵抗のまま敵弾にさらされて消えていく、長ったらしい設定によれば凄まじい超能力者の筈の主人公が雑魚敵の弾で死ぬ。篝さんは眉一つ動かさなかった。
「ssじゃ、今の状況を変えれないと思ったのよね、誰でも参加できて、改造できて、みたいな方が一体感があって盛り上がると思うのよ。だから改造自由なフリーゲームを」「篝さん」
 私は篝さんの言葉を遮った。聞くに耐えないから。
「そういう問題じゃないよ。時代は変わったんだから」
「いずみんは、諦めてるんだね」
「受け入れてるだけだよ、現実を」
「そんなの、やってみなきゃ分かんないよ」
 篝さんは真剣だった、だからこそ痛々しかった。その空気の読めてなさが。
 私は質問を変える。
「篝さん、ゲーム作れるの?」
 篝さんはどう考えても、STGとss一本槍で、プログラムなんか触ったこともない人の筈だった。
「作ったことないけど、作る。ノベルゲームだからできると思うんだ。今は素人でも簡単にノベルゲームを作れる時代だからさ。できれば、すべてのこなかがを網羅するようなノベルゲームが作りたいな。今は板から締め出されたボッチ系とかも、ゲームに関してはアリにする訳、こなかがbbsの自由開放特区なのよ、へんたいかがみさんも、シリアスも甘いのも死にネタもクロスオーバーもなんでもあり、このゲーム一本ですべてのこなかがを楽しめるって訳!」
 子供のように目を輝かせて言う篝さんは悲しいほど滑稽だった。誰もそれを望んでいないのに、風車に戦いを挑むドンキホーテだ。そんな馬鹿げた熱量を誰がこなかがに割くというのか。それに、他人の協力が必要な企画なんて不可能なのが今の情勢だ。それを分からず他人の協力を期待する篝さんは、あまりにも甘く、愚か過ぎる。
「篝さん、あのさ、絵師は……」
「大丈夫!きっと誰か協力してくれるって!」
私はこの時、篝さんのゲームが、完成するなんて欠片も信じなかった。



    ………

     ………






「絵なんか、描く訳ないだろ」





と、知り合いの絵師兼ss書きであるジミーさんは言った。板でのルールで、今の板は避難所と呼ばれていて、頭の番号にHがつく。ジミーさんはH6-43で、ハロージミーとか言っていたが、長いので今はジミーさんと呼ばれている。割と気に入っているらしい。
「ゲームの立ち絵とかどんだけ大変なのか、浅見はぜんぜん分かってないだろ。あいつの言うことは絵に描いた餅だよ、誰も協力する筈がない。大体、他人に別のルートを作ってもらおうなんて甘え自体がおこがましいだろうが、まあ、放っておけばどうせ頓挫して、ゲームなんて完成しないだろ? だから今は適当に話を合わせてるけど、そのうち、自分の言った事が恥ずかしくなる時が来るだろうよ」
メッセに流れる文字を自室で見ながら、私はふうむ、と唸る。
確かにそうかも知れない、と思ったから。
たった一人でノベルゲームを作る、なんて出来る訳がない。
そういうような企画を、口だけで言って全然実現しない人間なんて、世の中に死ぬほど溢れていて、篝さんがそうじゃないなんて、誰にも分からない事だから。
「あいつの愛情の押し付けみたいな暑苦しさには、みんな辟易してるんじゃないか? 俺たちはただ、好きなものに萌えたいだけだ。ssなんか思いつかなきゃ書けないし、絵だって描きたいと思わなきゃ描けない。それをちょっと数が減ったぐらいで、ガミガミ言われちゃ適わない」
「ジミーさん、こなかがbbs、見てます?」
 私の問いに、ジミーさんは不自然な間を空けて答えた。
「今は、見てないな。でもサイトには絵を載せているし、時々はssも書いている。仮にssも絵も書かなくなっても、俺がこなかが好きなのは事実だし変わらない。それを否定しにかかってくるような奴、うんざりだろ?」
「そうですね……」
 そう、何も書かなくなっても、活動しなくても、こなかがを嫌いになった訳じゃない。
 サイトには時々載せるって人は今でもたくさんいるし、ただ単にbbsが寂れただけで、何も変わってない。

 でもじゃあ、この違和感は何なんだろう?

 かがみとは仲の良い友達のままで、たくさんリスクのある恋人同士にならなくても、私はかがみが好きでそれは変わらない。だから誰をも傷つけるような無茶はしてはいけない。つかさも、みゆきさんも、お父さんも、みんな困るから。

 だからこれでいい。





 ……本当に?


………





──正しき主観を持つ者:「愚かだよ、俺たちは…」








篝さんが、消えた。
ネットから、ゲーセンから、ついでに言えば学校からも、その姿を消した。
別に蒸発した訳でもなんでもない、ただのずる休み、あるいは風邪をこじらせたか、そんなところだと思いたい。
でも……。
状況は篝さんに厳しかった。
本スレは消滅したし、BBSにはss荒らしが現れていた。
ss荒らしとは──本人は荒らしのつもりは全く無く、ただ正当にssを書いているつもりなのだが、テンプレを完全に無視した迷惑ssを書く人たちのことだ。一応はssを書ける人なので無碍に扱えない分だけたちが悪い。
こなかがbbsの場合、こなみやかがりが無意味に無残に死んだり、もはやこなかが全然関係明後日の方向へ突き進んでいくssが荒らしになりやすく、ついでに言えば篝さんもややそういう傾向があった。篝さん、自分のルール以外は全然気にしない人だから……。
「うわあ……」
BBSでは壮絶無残に悪意ある殺され方をしたこなみの、そのssへの批判が集中し、よりによってss荒らしはそれに対して自説を主張し反論を始めていた。阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
言論の自由、ssは自由であるべきだ、作品としての深み、このssをどうとってもらっても自由です、怒っておられるなら、私の狙いは成功している……。
火に油どころか、ガソリンを注ぐその様子に、BBSの人間はきっと辟易していくことだろう……終焉の光景。
結局、信念みたいなものを撒き散らすのは、うっとうしいってだけなのかな……?
かがみがサインインした。
「大変な事になってるわね」
「まあ……なんか、どうしようもないね」
「でもほら、私達はこうやって話題に出来るだけ、マシじゃない? 一般利用者なら、ただただ理不尽な思いだけを抱える羽目になるんだから」
 そうかも知れない。
 話せる誰かがいること。
 それが私の場合はかがみで、そういう人がいるのは、とても幸せな事だ。
「なんで、こんなssを書いちゃうんだろうね?」
「さあ、私はssを書く気持ち自体、分からないし」
「なんで、人はssを書くんだろう?」
「ちょ、なんか奥深く聞こえるだろそれ、一瞬!」
みんながss書く訳じゃないし! とかがみのもっともな突っ込み。
でも本当、なんでssを書く人がいて、そしていつの間にかssを書かなくなるのだろう?
こなかがを好きになって、でも醒めてしまって書かなくなるってこと?
「変わらない愛情って、あるのかな?」
「なんだよそれ?! 今日のお前は話が飛びすぎだな?!」
変わらないものがあるって、信じられるのかな……人間は。


 私はいつまで、かがみを好きでいられるだろうか?



 私は、篝さんの家に行く事にした。




   ………







──希望的観測者:「しかし、世の中が移り変わっていっても…変わらないものが一つだけあるはずだ」






篝さんは狭いマンションで一人暮らしをしている、事情は知らない。
たいした事情じゃないかもしれないし、ディープな家庭の事情かもしれないけど、私は理由を知らなかった。
だから風邪なんか引くと完全に一人になってしまうし、心配なので私はその部屋に向かった、二階建て木造のボロアパートだ。
表札もかけられていない、206とだけ書かれた部屋のドア、私がインターフォンを鳴らして入るとそこは──


  腐海。


ご存知だろうか? 風の谷のナ○シカで有名なあれだ。学会で発表できる新種のキノコが生えそうな特殊環境が広がり、詰まれた本と雑誌の山で床は見えない。敷かれた万年床の近くのPCが唸り声をあげて、不健康なディスプレイの光だけが部屋の唯一の明かりだった。そして篝さんはまるで鉱物みたいに不動の様子でそのPCの前に座っている。
「かがりさん!」
「お、いずみん、インターフォン鳴らした?」
鳴らしたに決まってる。
振り返ったかがりさんは年頃の娘的に完全にNGな顔で、化粧してないとかそんな問題をぶっちぎった顔をしていた。
「インターフォンも気づかないぐらい、何やってるんですか!?」
「ゲーム作ってた」
何事もないように言うその顔は、何日も寝てない様子だった。
「いやあ、絵師は全部断られちゃってさ、でも、アニメ映像を切り抜けば立ち絵に出来るって気づいてさ。それがもう、時間がかかるのなんのって、でも、もうすぐ完成だよ」
「それで、こんなになるまで……」
「いずみんだって、ゲームで徹夜するじゃん。何を驚いてんの? 私はいま、最高に楽しいぜ?」
ただでさえ痩せているのに、尚更痩せたかがりさんの姿、痛々しいほど細いその体で、眼だけが爛々と光っている。
情熱も青春も肉体も削って、こなかがに打ち込んでいる。しかし、何故?
「篝さんは、変わらずこなかがを好きなの?」
「当たり前じゃん」
「永遠に?」
篝さんは即答した。
「当然」
この人は、迷ったり、悩んだりしないのだろうか。
馬鹿じゃないのか、とすら、思う。
かがみに会いたい、と一瞬思ってしまうほどに。
「篝さん、篝さんはなんで、ssを書くんですか?」


「好きだからだよ、決まってんだろ?」


篝さんがそういって笑う。
変わらない愛情は、あるのだろうか。
もしあるとしたらそれは、愚者にしか宿らない。
「篝さん、篝さんが好きな場所は今、荒れに荒れているし、時代はもうこなかがじゃないんです。このゲームを作ったって、どうなるかなんてわからない。篝さんは、ほんとに、分かってるんですか、それを?」
「え? 荒れてんの、BBS?」
私の言葉に、篝さんはさらっとBBSを確認すると、はき捨てるように言った。
「つまんねえ」
関係ないこっちも、びくりとするような言い方だった。
「どうでもいい。つまんねえss書く奴が、つまんねえって言われて切れてるだけだ。誰が死のうと、どんなルール違反でも、面白けりゃいいよ。ssにとって一番大事なのは、面白いことだろ? こいつはつまんないから叩かれただけだ」
篝さんのこういう物言いを、私はあまり好まなかった。
「篝さん、好きなら、愛情があれば、ssはいいんじゃないの? さっきだって、篝さんは好きだから書いてるって言ったのに……私はss荒らしは、愛情がないから駄目なんだって思うけど」
「本人は愛情たっぷりのつもりだろ。ssを書くのは愛情だけでいいけど、読まれる時には、面白いかどうかの話は、どうしても出てくるんじゃないか?」
「篝さんは、自分のss、面白いつもりなの?」
「ある程度は」
微妙な空気。
篝さんは言う。
「今度のゲームもきっと面白いからさ。ほら、こなかがの原作ゲーム出たけど、男主人公のギャルゲで評判悪かったじゃん? 文句を言うなら、自分で理想のこなかがギャルゲを作ればいいんだよ。私は率先してこれを作る、あんだけこなかがギャルゲを望む人がいるんだから、きっと盛り上がる」
──絵に描いた餅。







 篝さんが作ったゲームは受け入れられ、面白がられ、消費され──


 ──そして誰もその続きは作らなかった。








 そんな時だった──篝さんが入院したと聞いたのは。



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  • 、こころに・・・つきささる・・・ -- 名無しさん (2010-03-24 19:57:28)
  • 題名のSTGも考えさせられる
    (シューティングとしてもストーリーとしても)
    ものだっただけに、その名を冠するに足る
    深い内容になってると感じます。
    続き楽しみにしております。 -- 名無しさん (2010-03-22 19:57:46)
  • このSS保管庫もいつかは・・・楽しませていただいてるだけに、読んでてチョット背筋が寒くなってきました。 -- kk (2010-03-18 22:47:03)




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