言い訳から始まって

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『言い訳から始まって』


私、柊かがみにはどうしようもなく許せない奴がいる。

そいつの名前は泉こなた。
どういうわけだか高校一年の頃からずっと一緒にいるのだけれど、私はこいつのことが許せない。
まったく、どうして今の今までずっと一緒にいるのか、自分でも不思議なくらいよ。

じゃあ何が許せないのかというと、まず人の言う事を聞かないのが許せない。

ツンデレ、かがみん、かがみ様。

どれも一度はやめろとあいつに言ったことがある言葉。
特にツンデレに関しては言われるたびに、声を大きくして言ってきた。
だけど、未だに止める気配を感じない。むしろない。
そう、これがまず許せない。

次に人をおちょくるあの態度が許せない。
まるであいつには真面目という言葉が欠落しているかのようだ。
ことあるごとに私をおちょっくたり、からかったりしている。
まったく、いい加減にして欲しい。

そして最後に、他人から一歩距離を置くあいつの性格。
これが何より許せない。前の二つなんかこれに比べたら、おまけもおまけ。飾りみたいみたいなものよ。
あいつのこの性格を感じたのは、まだ私達が高校一年の頃の話だ。

それは下校途中のことなんだけど、私達二人は通り雨に降られてしまったのよ。
だけど、それは不幸中の幸い。私の鞄の中に折り畳み傘が一本。
それじゃあ、二人で一緒に入ろうってことになったの。
まあ、別におかしな話じゃないわよね。女同士だし、友達だし。
それで傘は私がもって歩いていたんだけど、あいつの方を見たとき気が付いたのよ。
あいつの片腕が傘からはみ出て濡れてることに。

「もうちょっと近くに寄りなさいよ。腕濡れてるじゃない。」

もちろん私は注意したわ。だって当然でしょ、友達だし。

「近くって、このくらいかな~。」

そうしたらあいつは、そんなことを言って私に抱きついてきた。
あろうことか、道のど真ん中で。まったく、信じられないわよ。

「馬鹿!抱きつくな!離れろ!」

当然私は文句を言った。するとあいつったら……

「んも~、かがみが近くに寄れって言ったから、近くに寄ってあげたのにさ~」

なんて言ってきたわけよ。ああいえばこういうって言葉があるけれど、まさにそれね。

「だからって、抱きつく奴があるか!」
「まあまあ、その辺はデフォってことで。」
「何がデフォなのか全然分からん。」

そんなあいつの言葉にはぐらかされて何も言えなかったけれど、結局あいつの片腕はずっと雨に打たれたままだった。

このとき思ったのよ。ああ、こいつはこういう奴なんだ。
自分の腕が濡れてでも、こいつは他人との距離を持つ奴なんだって。
それが例え友達だとしても……

腹が立った。それに許せなかった。

それはもう、今の今でも許せないくらいだしね。
ああっ!今思い出しただけでも許せないわ。

で、そんなに許せないなら一緒にいなければいいのだろうけど、非常に残念だけどそれはできない。
あいつには『距離なんて持たなくていい。同じ距離で歩いていいんだ』と怒ってやる人が必要だ。
だけど、本当に残念な事にあいつの周りにはそれを言ってくれる人がいない。
あいつの父親でさえ、怒るなんてことはほとんどしないのだから。
だとしたら、あいつはずっと他人と自分との距離を一歩置き続ける。それはもう目に見えている。
そして、将来弁護士を目指している私だ。そんな分かりきった事を放っておけるはずがない。

だから……

だから、仕方がないから……

本当に、ほんっっとうに仕方がないから……

ずっと私が傍にいて怒り続けてやろうと思う。

―――――


「『ずっと私が傍にいて怒り続けてやろうと思う。』っと。どうこなた?結構いい感じに書けてると思わない?」
「っていうか、何これ?」

隣に座っているこなたが首を傾げた。さすがにこれじゃ分からないか。

「何って、私とこなたの仲を聞かれたときの言い訳よ。ほら、私って不意打ちに弱いじゃない?
 だから先に文章として書いておいて、後で練習しておこうと思って。」

私達の関係は決して世間から賛同されるものではない。むしろその逆、非難される対象だ。
だからこそ、怪しまれちゃいけない、気付かれちゃいけないのだけど、こなたとは常日頃からずっと一緒にいる訳で……
もしかしたら、そこからそういう関係だと怪しまれるかもしれない。
こなたとずっと一緒にいなければいいという考えも浮かんだけれど、当然却下。
今の私にそんな事ができるわけがない。
だから怪しまれないように、言い訳を完璧にしておくほか道はない。。
というわけで、思い立ったが吉日。さっそくさっきの文章を書いてみたわけだ。

「これって言い訳だったんだ。いきなり私のパソコンを使い始めて何をしてるのかと思ったけど。」

こなたはマウスを手に取ると、テキストのスクロールバーを動かし始めた。
どうやら、一から見直しているらしい。
いくらこなたと言えど、自分の文章を目の前で見られるのは結構照れる。

「よくわからないけど……まあ、かがみんらしくていいんじゃないかな。最後とか、ツンデレっぽいし。」

そして一通り見終わった後、こなたが言った言葉がこれ。

「ツンデレ言うな。」
「『嫌い』って書かなくて、『許せない』って書くのもいいよね。文章でも私に『嫌い』って書きたくなかったとか?」
「うっ……」

図星だった。だから、隣でニヤニヤ笑っているこなたに対して、何も言えなかった。
ああ、こうなる事は分かっていたのに、なんでこなたの家でこんな物を書こうと思ってしまったのか。

「うんうん、かがみはやっぱり可愛いね~。」
「うるさい、頭を撫でるな、抱きつくな!」

抱きついてくるこなたを私は離そうとしたけれど、結局こなたは離れなかった。
……ああ、そんなに抱きつきたいなら、ずっと抱きついてなさいよ。

「あとかがみ、これなんだけど……」

こなたがそういって指差したのは、最後の言い訳の部分。

「ああ、ここ。この時は本当に許せなかったのよ。『そんなに近くに寄るのが、一緒に歩くのが嫌か~』って。」
「嫌か~って言われても、そんな昔のこと覚えてないよ。」

珍しくこなたが拗ねた声で言った。

「私はちゃんと覚えてるから、安心しなさい。今はこうして距離を持つどころか、
 冗談抜きで抱きついてきてくれるまでになったから、別にいいけどね。」

あの文章ではそう書いたけど、今のこなたに『他人から一歩距離置く性格』なんてものはなくなった。
これが3年間の成長か、それとも私の所為かは分からないけれど。できれば私の所為だとうれしいな。

「でも思えばこの頃なのよね~。こなたが私にとって特別になったのって。」

この傘での出来事がなければ、こなたのことをここまで考える事はなかった。
親友にもならなくて、きっとただの友達で終わっていただろう。何故だか分からないけど、そんな気がする。
ん?そう考えると結構な出来事だったのかもしれない。

「ねえ、かがみ…真顔で言われると、聞いてる方としては恥ずかしいんだけど……」

私の胸に顔をうずめながら、こなたは言った。

「あっ……でも、この頃はこなたに対して恋愛感情なんてもってなかったし。
 なんていうのかな?友情というか義務感というか……まあ、そんな感じの感情よ。
 こなたを好きになったのはもっと別の理由があって………」

そんな風に言われるとこちらも恥ずかしくなってくるわけで、こなたへの私の言葉もしどろもどろになってしまう。
気まずい、というかなんともいえない空気が漂う。
こなたは顔をうずめたまま何も言ってこないし、私も言うべき言葉が見つからない。
顔もやけに熱い。暖房の効きすぎか?

「もうやめようよ、かがみ。この話はこれでおしまいってことで。」

助け舟を出してくれたのは、もちろんこなた。私を見上げてそう言ってくれた。

「そ、そうね。この話はこれで終わり。うん、それが良いわ。」

こなたのおかげでこのなんともいえない空気は薄れ、もとのまったりとした空気に戻る。

「でもさ、かがみ。この言い訳って必要なの?つかさもみゆきさんも知ってるのに?」
「必要よ。」
「みさきちも峰岸さんも知ってるのに?」
「だから必要だって。」
「ゆーちゃんやみなみちゃん、それにひよりんやパティまで知ってるのに?」
「必要だって言ってるでしょ!」
「挙句の果てに、お互いの家族まで私達のこと知ってるのに?しかも公認なのに?」
「くどい!!」
「そっか。」

こなたは私に抱きつくのを止めた。そして立ち上がると、

「それじゃあ、本当に必要か試してみようよ!私が今から質問するから、かがみはその文章どおりに答えてね。」

などといってきた。なるほど、私を試そうというわけね。

「いいわ。いつでもきなさい。」

いくら私でも不意打ちじゃなければ大丈夫だ。文章にまでしたんだ。自信はある。

「『そう言えば、かがみさんと泉さんって仲いいですよね?』」

おっ、いきなりか。
わざわざ声色を変えて聞いてくるこなた。なんでこんなところだけは芸が細かいのかな。

「『言われてみればそうね。』」
「『そうですよ。ずっと一緒にいるじゃないですか?あっ、もしかしてそういう関係とか?』」
「『ちっ違うわよ。あのね、私はあいつが許せないのよ。』」
「………本当に?」

不意に声色が元に戻った。そして寂しげな、今にも泣きそうな表情をみせる。
うん、分かってる。これはあいつの演技。
どうせこういう風にすれば、『違う』とかって私が訂正すると思ってるんだ。
まったく、馬鹿にするな。いくらなんでもベタすぎるだろ。

だけど……

だけど、その演技の中にほんの少しでも本音が混じっていたら……

そう考えたら、もう駄目だった。
気付いたときは、腕の中にこなたがすっぽりと収まっていた。

「ほら、必要ないじゃん。どうせ言えないんだからさ。」

私の腕の中で聞こえるこなたの満足そうな声。
文句の一つでも言ってやろうかと思ったけど、その声を聞くとどうでもよくなってしまう。

「別の言い訳、考えないといけないなぁ……」

思わずため息が出てしまう。私は自分には甘い人間だと思っていた。
だけどどうやらそれは間違いのようで、『自分とこなたのこと』には甘い人間のようだ。
自分の意思の弱さに甚だ悲しくなってくる。

「そんな悲しそうにしないでよ、かがみ。ほら、後でお汁粉作るから一緒に食べよ。ねっ?」
「うん。でも……」
「でも?」

こなたの作る料理は美味しいし、それはそれで非常に魅力的なんだけど。

「今はもう少し、このままでいたい。」

今はこうしてこなたを抱きしめていたかった。
こなたの方からしてきたときは文句を言っておきながら、何言ってるんだか。つくづく私は自分に甘い。

「いいよ。好きなだけ抱きしめてよ。」

でもそんな甘えをこなたは嫌がることなく受け止めてくれる。
それが本当にうれしくて……ああ、私はこなたのことが好きなんだなと心の底から思ってしまう。

「ありがと。」

その言葉に甘えて、そのままこなたを思いっきり抱きしめる。
目を閉じてその温もりをゆっくりと感じ始める。

日差しうららかな午後。ゆっくりと時は流れていく。

そのなかで私が感じた温もりは、とっても暖かで、そして優しかった。


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コメント:
  • 砂糖菓子より甘いです

    ありがとうございます -- ラグ (2009-01-26 16:28:38)
  • コメントしていただいた方々、どうもありがとうございました。

    ↓↓なるほど、その発想はなかった……。
    -- H3-525 (2009-01-17 20:19:29)
  • ↓「好きだからしかたない」 うん。仕方ないねww -- 名無しさん (2009-01-13 09:23:38)
  • 多分最終的な言い訳「好きだから仕方ない」
    -- 名無しさん (2009-01-12 10:20:18)
  • あまあまのニヤニヤです( ´艸`) -- 無垢無垢 (2009-01-12 00:46:06)


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