第15話:別れ

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【第15話 別れ】
(鬱シーン注意)

───脳炎の後遺症です。普通の記憶喪失と違い、脳細胞自体がダメージを受けたので、記憶が戻ることは未来永劫ありません───
医師団の見解だった。
「そんなわけないでしょ!こなた!!私よ!!柊かがみよ!!」無菌室の窓をガンガンたたき、受話器で叫ぶ。
「こなちゃん、柊つかさだよ。ねえ、ねえ」
「こなた、こなた。お父さんが分からんのか。こなた!!」
「お姉ちゃん、ゆたかだよ!」
「やっほー、元気、ねえ、元気……?ねえ、私だよ、成実ゆいだよ。おねがい、返事して!!」
ガラス窓の中のこなたは、子犬のようにおびえていた。
「こなたって誰ですか? あなたたちなんで怒ってるんですか!? いやだ、なんで私ここにいるの……?」
「な、なにをおびえてるのよ。なによ、その目は!!そんなのこなたじゃない!!ちゃんと糸目で私をからかいなさいよ!!」
かがみは大声で怒鳴り、割らんばかりに窓を叩く。
「こわい、こわい……」
こなたはふるえながら布団を被って泣き出した。「だれか、あの人たちをはやく追い出して。怪獣みたいな人がいるよ!!」
戸惑う医者たち。
「おねがい、早く!あやしい人がいるんです。わたしを脅してる。変な人を病院に入れちゃダメです!!こわい、こわい、私殺される!!」
「患者の精神が不安定すぎるので……」と、医者達はかがみたちを追い出しにかかる。
「ちょ、ちょっとなんで、なんでよ!!」
「こなた、こなた!!おまえのお父さんだよ。泉そうじろうだよ!!ほら、欲しがってたギャルゲだよ!!」
スクラムを組んだ医師や看護師によって、全員無菌病棟の外のエレベーターホールまで追い出された。

ホテルのような美しい光沢の大理石の床にみんなしゃがみこんで泣き出す。
そうじろうはうずくまって号泣する。
「こなた……こなた……おまえはもう……死んでしまった……」
ギャルゲのパッケージを床に叩きつける。DVDと特典が飛び出て散らばった。
つかさはかがみの胸に思い切り顔を埋め、嗚咽をあげる。
「治らないなんてウソだよね!!……きっと、こなちゃん治る。治るって!医学は、医学はすごいんだよ……」
かがみは胸にかかる重みを抱きとめながら……そうよ、そうよと必死に答える。
しゃくりあげる背中をなでながら、自身の嗚咽をこらえる。だが、つかさの頭のリボンの上に雫をいくつも落とす。

私のこなたは、もう、死んでしまった。
肉体を残して、魂だけ連れ去られた。
最強のお札ですらも効かなかった……。

同時にかがみの心に猛烈な後悔のようなものがわきあがる。


あのまま、何もせず死なせてやったほうが、こなたは幸せだったんじゃ……。


その時、かがみはホールの大理石の光沢に人影が写っているのを見た。

……かなたが天井から見下ろしている。

そしてその横に……かなたにアホ毛がついただけの、見慣れたこなたのシルエットが……。
かがみは思わず大理石に手を伸ばす。
胸にかかるつかさの重みがそれをさえぎる。
大理石のこなたはかなたと親子らしく手をつなぎ、少し寂しげに笑う。
そしてまるで学校からの帰り道で別れるようにかがみに手を振って
消えていった
…………
…………
…………


「こなた」は、まだ無菌室にいた。
面会用廊下窓のカーテンも閉め切って、ビッグサイトが見える外の窓のブラインドも下ろし、部屋の電気を全部消し、完全にひきこもって面会を一切拒絶している。
ナースセンターの無菌室内監視カメラを見せてもらっているそうじろうやつかさ。
その横で、かがみだけは一人背中を向けていた。

もう、私たちは永遠の別れをしてしまった。
こなたは手を振って、まるで家に帰るように私にさよならをした。
あそこにいるのはこなたの顔をした別の人間だ。
人格も記憶も、完全に違う……。あの顔を見ていると、いっそ死なせてやればという後悔・こなたじゃないのにこなたの顔をしているという怒り・
肉体的には助かったという喜び・魂が死んでしまった悲しみがごっちゃになって、火のついたミキサーが回されているがごとく胸がかき乱されるのだ。

そうじろうは死にそうなクマのついた目で「こなた」を見つめていた。
「たとえ、記憶がなくなっても、人格すら変わっても……こなたは、こなただ……あれは、確かにこなたの肉体を持っているんだから……」
しわがれた声で呟いた。
「それにほら……」
そうじろうはモニターを指差した。無菌室内に設置されている患者専用のテレビ。ここだけが真っ暗な室内で唯一明るく光っている。
「こなた」はアニメを視聴しているところだった。
「医者に頼んで、ためしにアニマックスが映るようにしてもらったんだ。日に日に視聴時間が長くなってるらしい。アップルのパソコンには、マックしか入れられないのと同じだな……」
「脳の構造はけっきょく一緒だからだろうね……」とつかさは言った。
「こんどギャルゲでもやらせてみようかな。……ハハ……また、赤ちゃんの頃からやりなおしだ……」
「……!」
背中を向けて目をそらしていたかがみはその言葉で、何かが心の中で動き始めるのを感じた。
そのとき、不意に……モニターの中の「こなた」と、自分が、面会用窓を貫いた固い糸で結ばれているのを感じた。
……血液型が同じになったから?
いや、ちがう……そんなスイーツな迷信は……どこのケータイ小……

……母性……

ふつふつといとおしさが湧き上がってくるのを感じる。
まるでそこにいるのが「わが子」であるかのように……。

こなた……
あんた、なんてものを残してくれたのよ。
こんなでかい赤ん坊を……。
「……母子家庭って、きついのよ」
モニターの向こうの「こなた」を見てかがみは呟いた。
「こんなに早くいなくなっちゃって」
お返しに、この子、私が母親になって、あんたみたいに育ててやるから。
それどころか、あんたのコピー人間
……いや、あんたそのものにしてやるからね。

また、私たちの時間の続きをはじめるんだ。
そうなるまでは絶対何があっても、私はこの子を守りきってみせる。

もう、絶対、誰にも邪魔はさせない……


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コメント:
  • 作者様は全20話として投下されています。
    ハッピーエンドを信じて、自分は待ってますよ。 -- kk (2008-10-04 22:45:18)
  • ぬえぇぇぇい!まだだ、まだ終わってはならんよ!! -- 名無しさん (2008-10-04 22:30:01)
  • え?終わり? -- 名無しさん (2008-10-04 17:35:22)

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