第7話:キスしようか

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(管理人注:こちらの作品には鬱要素や出血等の表現がございます。そのような展開や描写が苦手な方はご注意ください。
詳しくは作者さんの発言こちらをご覧ください)

【第7話 キスしようか】

こなたは四角い窓の外を指差した。
「あれみてるだけで元気が湧いてくるね……」
ビッグサイトの逆三角にいつも見守られている。
「……やっぱり個室はいいねえ。自分の部屋みたいにできるし」
お守りに加え、漫画やDVD、ギャルゲなど……どうみても入院患者の部屋じゃない。
ましてや白血病なんて重い病気持ちの部屋とは……
こなたはノーパソでギャルゲーをしながらつぶやいた。
「本当にここは天国だね。ね。かがみん、つかさ」
今日はかがみはつかさと2人で見舞いに来ていた。
「……ま、そりゃ、病気じゃなければワンルームマンションやホテルみたいなものだからね
「私も、正直言って病気じゃなければ泊まりたいなあ……景色もいいよね。レインボーブリッジも見えるし」
「東京タワーもみえるからクリアな画像で好きなだけアニメ見れるし最高だよ。ただテレビがビニールの向こうだから映像がゆがむのがちょっとねえ」

こなたは逆三角のほうを見て小さく呟いた
「ね、……私、治らなくてもよくない?」

「……な、何言ってんのよ」とかがみ。

「かがみん……つーか私、ちょっとでも治ってるのかな?」
「と、当然でしょ!」かがみは腰に手をあて胸を張ってみせる。
つかさは自信がなさそうにオロオロしていた。

以前はベッド周りに上半身ぶんだけビニールカーテンがかかっていて、頭から空気清浄機の風を送るだけの構造だったが、いまはより厳重に変えられていた。
見舞い客は部屋の中には入れるものの、ベッドの周りはすっぽりビニールカーテンで完全に覆われて隔離されている。

抗がん剤による骨髄抑制という副作用のせいだった。
今点滴している桃色の抗がん剤は、骨髄を治す目的なのに、骨髄に残っている正常な細胞もガンガンやっつけてしまい血液自体がつくられなくなってしまうという(薬をやめると自然に回復する)。
正常な白血球も死に、免疫力が弱まって危険な感染症にかかりやすくなる。
そのためここで命を落とす患者も多いという。
まさにならず者でならず者をやっつけている状態。DQNブログを荒らしたはいいが常にやりすぎるニュー速民のようだ。

本当に医学は進歩してるの?
かがみは抗がん剤が点滴台に吊るされるたびに怪訝におもっていた。

「こないだは制吐剤が効かなくて、吐きまくったよ……。体が慣れちゃうらしいね。……血小板の輸血でアレルギーみたいなのが起きて蕁麻疹が出てるし」
その愚痴を吐く顔はいつものω口や糸目だ。
だが全身の皮膚には赤いポツポツがいっぱい出ている。手の指先をうずうずさせている。
ポリポリと掻きたいのを必死にこらえているようだった。
こなたの顔から日に日に精気が失われているのをかがみは実感した。
それでも会話はしょうもないヲタ話などで、できるだけこれまでと変わらぬ日常を保とうとしているのが痛ましかった。

つらいときにはつらいって言えっていっているのに…

かがみはやきもきしてじれったく思った。

「個室は確かに気楽だけど……ちょっとだけ外へ出たい気がするんだよね……なんか壮大な時間の無駄遣いみたいな気がしてさ、かがみん」
「何いってんの、ダメ!!あんた治りたくないの?」
「退屈なんだもん、部屋の中すらろくに歩けないんだよ!ちょっとだけ!テントから一瞬顔だけ出すだけ!」
「あ、こなちゃん、ラノベを大量に買ってきたよ」とつかさはカバンの中をまさぐった。
「おーさすができる妹だねえ。最近ちょっと成績上がってるんだって?つかさはやればできる子だったんだねえ。それに比べて姉の方は……」
「なんだってえ」
「んもう、かがみんは最近イライラしすぎだよ。ひょっとして生理?」
「親父臭いセクハラセリフを言うな!」
「あっ」
「どうしたのつかさ」
「ちょっと1階のロビーで読んでたら熱中して置き忘れてきちゃった……取って来るね」
「……しっかりしなさいよ」とかがみ。
こなた「勉強だけはやればできる子に訂正」


二人きりになる。

「ねえかがみん、……私、死んじゃったらどうする?」
急にこなたはかがみの目をじっと見てポツリとつぶやいた

「……な、何言ってんのよ」
緊急入院直前に死にそうだったとき、おんぶした背中から聞こえたのと同じセリフ。
思わずどきりとした。
「そもそも、あんたは治るんだからそういうことは考えてない」
「でもほら、フラグが立ちまくってるじゃん。死亡フラグが」
「あ、あんたねえ、そんなものが現実にあると思ってるの?そういうこというからゲーム脳だのっていわれ……」
「ふーん♪」とこなたはビニールテントの向うから顔を寄せた。
「な、なによ……」とかがみは少し後ずさりした。

「私は死ぬよ」

こなたはかがみの目をじっと見つめた。
「……」

「ごめんね。もう私はかがみんの目の前からいなくなっちゃうんだよ」
こなたは残念そうに少し微笑んだ。

「だから、そろそろちゃんと別れの挨拶しとかなきゃね」
「……」

「かがみんにも、つかさにも。みゆきさんにも、お父さんにも。ゆうちゃん、黒井先生、みさきち……あと沢山の二次元キャラにもね」

「……ちょ、ちょっと、な、何を言ってんのよ。あんたは治るっていってんでしょ。このままちゃんと病院で点滴打ってゆっくり寝てれば治るんだから」

「一応、言っておかなきゃと思ってさ」

こなたは少し苦笑しながらノートパソコンのふたをゆっくり閉じる。
そしてこなたはビニールテントのしわで歪んだ瞳をじっと向けた

「あんた、次のクールのアニメ見たくないの?ほら、ハルヒ二期とかあるでしょ。来年あれも京アニでアニメ化されるでしょ。それにほら、あんたの好きそうな新作ゲームも出るし」
かがみはコンプティークをばらばらめくる「そんなこと考えてたら死ぬなんて考えは浮かばないでしょ」
「うん……確かにそうだね」
ノーパソを布団の中にしまって、こなたはかがみのほうを向いた。
「でも、最近は、ちょっと作画が崩壊してても気にしなくなってきたんだ。なんというか、すべてを受け入れた感じ?三文字スタッフでもMUSASHIもヤシガニもそれはそれで最高の作品って気分になった」
「なななにを変に悟ってるのよ。まったく、あんたらしくない」
「これを最終形態というのさ」とこなたは返す「ねえ……かがみん。」
「……」
「どんなにアニメやゲームや漫画を追いかけてても必ず終りが来るんだね。次クールのアニメが見れなくなるときがくる。コミケも必ず人生最後の参加ってのがあるし、アニメイトも最後の来店ってのがあるし、ギャルゲも最後のプレイ、人生最後のCG回収ってのがある。いくら発売予告を知ってていくら待ち焦がれてても、突然現物を永遠に手に出来なくなるときがくる。絶対にね」
「……」
「なんていうか、私がこの世で体験できるのは、ここまでっていうか?ギャルゲーで言えば。どこかでそういう選択肢選んじゃったんだなって。だから、もうこの世での新しいヲタ経験は、ここで打ち止め」
「……」

【鬱シーン注意】
「だから、これからは天国でエロゲ会社やアニメ製作会社のスタッフ、漫画家、声優の人がやって来るのを待つことにしたよ。そしたらきっと楽しいだろうな。無料であらゆるアニメや漫画が見放題。ゲームやりたい放題。それに米澤前代表なんて絶対コミケやってるよ♪この世の同人作家も全員やってくるはずだしね。そりゃもう一般参加者だけでも数百万人に達する壮大な……」
「私は、やだ……」
かがみはうつむいて体を震わせた。
「やだ……やだ……」
「あ、そんな、ねえかがみんも来るんだよ。つかさもみゆきさんもね。今はちょっと別れるだけで、私と天国で永遠にくらせるん……」
「いやだ!!!!!」
かがみは二人を隔てるビニールテントをバンバン叩いた。
「ずっと、一緒にいなさいよ!!!!!!!!!!!!」
ビニールテントにすがりつき、むせび泣く。
「だ、ダメだよかがみん。そ、そそんなケータイ小説みたいなことをしちゃ……ほら、いつものクールなかがみんを……」
こなたはあたふたする。
「ちょっとでも私から離れたら許さない!!!!そんなことしたら、そんなことをしたら、うちの神様に頼んであんたを地獄に落とすんだから!!!!あの世のコミケなんか行かせない!!!」
泣き崩れたかがみの涙がビニールテントの表面で雫になる。

それを見たこなたは、かがみの顔のそばに自分の顔を静かに近づける。

「……ねえ、かがみん」

「……なによ!!!!」
「……キス、してみようか」

「……………………え」



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