こなた×かがみSS保管庫

第4話:青いモンスター

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匿名ユーザー

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(管理人注:こちらの作品には鬱要素や出血等の表現がございます。そのような展開や描写が苦手な方はご注意ください。
詳しくは作者さんの発言こちらをご覧ください)

【第4話 青いモンスター】

「娘さんは、白血病の中でももっとも悪いタイプです」
医者は浮かない顔で述べた。
「『急性巨芽球性白血病』といいます。昨年1年間に国内では4人しか報告されていません。骨髄が繊維におきかわって急速に破壊されるので、……残念ながら予後はかなり厳しいです。現代医学でも救命しづらい最悪のタイプです」
「きょ……きょっきゃくがきゅう?」
ゆい姉さんがもつれる舌で返答した。
医者はプロジェクターを動かす。顕微鏡の丸い視野の中にたくさんの赤や青のボールのようなものが映っている。
「……これは、先ほど娘さんの骨髄から取り出した、今そこのプレパラートに乗っかっている娘さんの骨髄の中身の映像。ここの中に写っている青いいびつな形の細胞、これは全部『巨核芽球』という白血病の細胞です」
そこには、いかにも悪役そうなグチャグチャな形の青い細胞が大勢寄り集まっていた。
「なお、こっちは正常な人の骨髄です」
別の写真が提示される。
こなたのものとは違って、整った形の美しい細胞ばかりであった。
「ほとんどの白血病は、白血球を作る過程に異常が起きるのですが、まれに血小板という血を止める役割を果たす細胞を作る過程に異常が起きると、この異常な細胞が現れます。

この仕事を始めてから、数え切れない患者や家族に絶望的な結果を伝えてきたのだろう。
医者はベテランらしくスムーズに説明する。
「ちなみに当院では患者さんやご家族に”闘う相手”を直接見せることで長い闘病生活を奮闘できるようにしております」

……どうみても逆効果だ。
グチャグチャな青いモンスターがこなたを食い荒らしている。
その姿を想像して、かがみは震えた。

そうじろうは、ギャルゲに出てきそうな美人看護婦にずっと背中をさすってもらっている。
しかし本人はそのシチュエーションにも気付かないほど号泣していた。
ゆい姉さんは、ダムが崩壊したようにゆたかと一緒に滝のように涙をボロボロ流して、抱き合って泣き出す。
「なんで、なんで!?」
「どうみても私の方が早死するって思ってたのに……私なんて病院じゃお得意様扱いなのに……」
嗚咽と号泣に包まれる部屋。青いモンスターの大群は白い幕の上で一同をあざ笑っているようだった。
かがみはポロポロと涙を流そうとする前に、胸に顔をうずめたつかさの背中を抱きしめる。
雫の冷たさをたくさん胸に感じる。
かがみは震える声で、落ち着いて
「せ、先生、骨髄移植はダメなんですか……!?」と訊いた。
「もちろん骨髄移植は一番有効な治療法です。しかし、その前に抗がん剤で、骨髄から体中に出てしまったこの大量の青い白血病細胞を殺して病状を安定させないと(これを寛解という)成功しないのです。しかしこのタイプは……今までのデータから見てあまり抗がん剤の効きがよくない」
「それに骨髄移植を行ってもこのタイプは生存率は20パーセント。ドナーがいなかったり、細胞を殺せなかったりして骨髄移植が行えなければ、残念ながら、ほぼゼロパーセント。しかしとにかく、最善を尽くしますから頑張りましょう、お父さん」
医者はわんわん泣き続けるそうじろうの肩を、遠慮がちに叩いた。
「とにかく、あらゆる手を使って、"寛解"に持ち込む必要があります。それからご家族の方はドナーになれるかどうかの検査をさせていただだきます」

帰り道、かがみとつかさは前にも増して無言だった。
医者の言葉を反芻しながら、ひたすら何も言わず二人で歩いていた。
(骨髄移植を行っても、このタイプは生存率は20パーセント。ドナーがいなかったり、細胞を殺せなかったりして骨髄移植が行えなければ、残念ながら、ほぼゼロパーセント)

「……なにこれ、これが21世紀の最新医学なの。あんなでかい立派な病院なのに」
帰りの電車の中でかがみは独り言を言っていた。
「ね、一応日本一の設備なんでしょ!?つーことは世界有数の病院なんでしょ!?HDDレコーダーやら、ブルーレイやら、何テラバイトものディスクがホイホイ作れたり、ゲームなんて異常にきれいな映像だし、ネトゲで地球の裏側の人間と冒険できる時代なのに。たかが病気くらいで生存率ゼロなんて、ありえないって!!ね、ね!!」
気がついたらかがみはつかさの肩を揺さぶっていた。
「お、お姉ちゃん、私に当たっても……」
「とにかく、みゆきに電話して聞かないと」

みゆき
「骨髄移植というのは、骨髄の中にある造血幹細胞という血を作る元になる細胞を移しかえる治療法で、正式には造血幹細胞移植といいます。主に三種類のやりかたがあるそうです。
一番目はドナーの生の骨髄を注射で吸い取って直接移しかえる方法。
二番目は末梢血幹細胞移植といって、ドナーに特殊な薬を打って造血幹細胞を血液中に引き出して、機械で選別したものを移植する方法。
そして三番目は臍帯血移植といって、赤ちゃんのへその緒の血を入れる方法です。そこにも骨髄と同じ造血幹細胞が入ってるそうです。どれもすんなりと抗がん剤が効いて『寛解』という状態を経なければ成功しないですね……。
一番目はドナーが見つかりにくく、骨髄バンクで合うのは数万人に一人とされていて、おいそれとは出来ないそうです。二番目は家族にドナーになれる人がいた場合。三番目の臍帯血移植はドナー探しの必要がなくいつでも実施できるのですが、造血幹細胞の量が少ないために成人では成功率がとても低く、小さな子供の患者に対して行われています」

みゆきはおおむね医者の言ったことに追随しているようだった。

家に帰ったふたり。
「おねえちゃん…」
かがみが自室に入る前につかさが声を掛けた。
「なに?」
「こなちゃん死なないよね?」
つかさの目は今にも泣き出しそうにうるんでいた。
「何を泣いてるの。だ、大丈夫よ。あいつは運が強いし、そう簡単に死ぬタイプじゃないわよ。薬もきっと効くし、ドナーだって、案外すぐに見つかるわよ」
かがみは腰に手をあて、胸を張ってつかさに宣言するようにこたえた。自分に対しての宣言でもあった。
───一瞬脳裏をよぎった、こなたをムシャムシャ頬張る青いモンスターのイメージを削除するように。
「ほら、明日も早いんだからきちんと夏休みの宿題やって寝る!また31日に泣くわよ」

扉を閉める。
ノブから手を離すと、かがみはへたり込むように床にしゃがみこみ、傍らのベッドに頭を伏せて嗚咽をあげて泣き出した。
「なんでよ…こなた死んじゃうのに、なんでなんで…」

もうおわりだ、こなたがいなくなる。
うざいほどからかってくるこなた。会うたびに突っ込みたくなるこなた。
重度のヲタでいつも糸目でひょうひょうとしているやたらチビっこいこなた。
そんなこなた一人すら救えない自分はなんなの?
こなた、死んじゃうのに?私は何も出来ないの?
「なんで、なんで!!」
かがみは我慢していたものがはちきれるように、泣き声をあげた。

「お姉ちゃん、あのね、…ネットで調べたんだけど、ほら」
気がつくと扉が開いて、つかさが顔をのぞかしていた。
「ちょ、ちょっと!!ノックしなさいよ!!」
かがみは飛び上がるように驚いて、シーツであわてて顔を拭く。
つかさはパソコンからプリントアウトした紙をかがみにみせた。
「身内だとドナーになれる確率がものすごく高いらしいよ。…成実さんとか、こなちゃんのおじさんなら大丈夫だよきっと!」
かがみはつかさから渡された紙を見た。骨髄バンクのサイトのもののようだった。
「……」
つかさの言うとおりのことが書かれていた。さらにそこには、みゆきの言うとおり赤の他人だとドナーになれる確率は数万分の一以下であるともかかれていた。

「……」
「ね、お姉ちゃん…私達が救えなくても、きっとおじさんや成実さんなら大丈夫だよ」

そうか
そうなんだ…
私とこなたは、まったくの赤の他人同士。
赤の他人じゃない家族なら、きっと……。

「こなちゃん、いまも元気だし、きっと大丈夫だよ。若いし運動得意で体力十分だし。それにここに、白血病は今すぐ闘うというよりは気長に治していく病気ですって書いてあるし」
かがみはまたほろりと涙を流した。それは何かの糸が切れたかのような涙だった。

なんか私一人で先走っちゃっていた…
ずっと心が地に着かない気分だった。
不意に視野が狭くなって、自分だけしか救えないとか思っていた。
病気と闘うのは、私じゃなく、こなた。そしてこなたの家族。
私とはまったく無関係に事はどんどん進んでいる。
そして、ちゃんと行く末はあるんだ。

(つかさに支えられるなんてね…)
かがみはそうだよね、と言って涙を拭いて、つかさの頭をなでた。
まったくあんた、いつのまに成長して姉を追い越そうとしてるのよ。
電気を消すと、街灯の光がカーテン越しにうっすらと暗い部屋のベッドに差し込む。
いつものようにベッドにもぐりこむ。
目をつぶる。

……
……
だけど、もしドナーに合わなかったら…

かがみのつぶった目はすぐにまた開き、不安とともにこの上なく冴えはじめていた。
いてもたってもいられなくなったかがみは、いつのまにか神社へと向けて走り出していた。
暗闇に潜むような鳥居と本殿が月夜に影を落としていた。
生まれたときからいつも見慣れていて、あまりに身近すぎてご利益のごの字も考えたことのない場所。
むしろありもしないものを祀ってるだけで人がわんさかやってくるという半分お笑いみたいな場所と思っていた場所。
かがみは何度も鐘を鳴らし、力一杯手を合わせて祈った。おそらく今までの生涯で最も真剣に神に祈った時だろう。
罰当たりだったこれまでの自分を土下座してでも悔いたい気分だった。

こなたが良くなりますように
こなたのドナーが見つかりますように
こなたが死にませんように
こなたが元気になりますように
こなたのヲタクネタにまたツッコミを入れられますように
こなたと一緒にまた学校へ通えますように
こなたと一緒にまたコミケへ行けますように
こなたとの笑顔が見れますように

気づくと、かがみの目からまた涙がこぼれて、その雫に月が映っていた。
神社の境内は近くを電車が走っているにもかかわらずしんと静まり返っていた


明日から化学療法といって、抗がん剤をジャンジャン点滴で落とし込むらしい。
嘔吐、脱毛、胃腸の潰瘍、下痢から、腎不全・肝不全・心不全に至るまでいろいろな辛い副作用が襲い掛かるという。
───副作用だけで死んでしまうこともあるらしい。

こなたの治療は、明日から本格的に始まる。


そのとき携帯がなる。
こなただ。

『携帯ってこういうときに便利なんだねー。病室からかけられるし、はじめて役に立ったと感じたよ』
いつもののんきなとぼけた声だった。
『かがみん、チョココロネでも買ってきてよ。抗がん剤が来る前にさー、病院食まずすぎて嫌だ』
「そういうところの食事はそれなりに理由があるんでしょうが!」
あまりの呑気ぶりにかがみはぶち切れる。
『怒らないでよ愛しのかがみん~。死んじゃうよー』
「だ、だ、だれが愛しのよ!」
かがみは即座に携帯のスイッチを切った。…しかし、死んじゃう、という言葉がかがみの
心に重くのしかかった。


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  • 下の方もおっしゃっているように、こなたがかがみに自分の辛さ、弱さを見せずに、
    無用に心配をかけまいと普段どおり振舞うその気丈さ、強さが読んでて辛い……
    もっとかがみに甘る描写があれば救いとなるのですが。
    続きに期待します。

    それから、細かいところですが病名は「急性巨核芽球性白血病」が正しいのでは
    ないでしょうか。 -- 名無しさん (2008-09-21 22:54:28)
  • あくまでも気丈に、いつもどおり振舞おうとするこなたの強さが、悲しさを際立たせます・・・
    続きが待ちきれません。 -- 名無しさん (2008-09-20 16:09:37)
  • ドキドキする…
    続き待ってます! -- 名無しさん (2008-09-18 09:29:54)

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