こなた×かがみSS保管庫

第5話:もっと素直に

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kasa

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(管理人注:こちらの作品には鬱要素や出血等の表現がございます。そのような展開や描写が苦手な方はご注意ください。
詳しくは作者さんの発言こちらをご覧ください)

【第5話 もっと素直に】
かがみは一人でこなたのいる癌研有明病院へと向かった。
かがみはカートを引っ張っている。自分の神社の倉庫にあるお守りをありったけ詰め込んだダンボール箱がのっかっている。
(なんか、変な目で見られそう……)
見た目はまるで同人誌を売りに行くかのようだ。

りんかい線国際展示場駅は普通のビジネスマン集団と家族連れでいっぱいだった。
ああもともとビッグサイトはこういう堅気のイベントのために作られたのだ……けっしてヲタの聖地なんかじゃないんだ……と実感。
かがみはビジネスマンの群れからはずれ、癌研のエントランスホールに入った。
もう何度も訪れているが、各種イベントでいつも活気溢れる玄関前と病院内部の空気の差には相変わらず慣れなかった。
かがみはバッグの奥にチョココロネの袋を隠してナースセンターへ向かい、このフロアの見舞い客専用の帽子とマスクを貰う。
こなたは既に免疫力も危険な領域に達していることが分かったからだ。きっちり装着しなければ……。

「あっ、かがみーん。うわー!チョココロネだ!!」
かがみがドアを開けると、こなたがベッドから起き上がり駆け寄ってきた。
相変わらず元気なこなただった。……これのどこが死に掛けなのか。
「あんたねー、重病なんだからベッドに戻りなさいよ!人が来たら枕もとの空気清浄機のそばにいなきゃダメなんでしょ!?」
「ちぇーかがみんのいじわるー」と、こなたは心から不満そうにベッドに戻った。
今いるこなたの部屋は相変わらず個室だった。こなたのベッドはビニールカーテンが上半身ぶんだけ囲ってあって
頭の側の壁は一面が巨大な空気清浄機の吹き出し口の穴がポツポツあいており、ゴーゴーとうなるような音を立てて
ひたすら風を吐き出している。
これにより、免疫力のおちた患者の細菌感染を防ぐ仕組みになっているのだった。
窓の外にはビッグサイトの逆三角が輝いていた。
「つかさは?」
「なんか夏休みの宿題終わらせて医学部受験するって言って急に真面目に頑張り始めた……」
どうみてもありえない妹の行為にかがみ自身も驚いていた。
生まれてからずっと一緒なのにどこにそんな一面があったのだろう?
「でも、ま、たぶん3日もたないとおもうけど」
かがみはカートのダンボールを開き、大量のお守りやお札や破魔矢をせっせと病室一面に取り付ける。

こなたはベッドの上に胡坐をかいて、見た目のんきそうにチョココロネをパクパクと食いまくっていた。
「というか、こんなもの食っていいのか……まあ持って来た私も私だけど……」
「いいんだよ。別に糖尿とかじゃないしね。ハンバーガーもポテチも病状によっては大丈夫。
やばいのは納豆や乳酸菌入りヤクルトらしいね……免疫落ちてるから銀様が大暴れするらしいよ」
「ほんとかよ!」

こなたは入院してからも相変わらず健康な人間のように食欲旺盛だった。
誤診じゃないの…?とまでかがみは思った。ところどころにあるあざや斑点が気になる以外は……。
貧血も輸血で、熱も抗生物質の投与でおさまったみたいだ。

こなたの鎖骨の部分には穴が開けられ、ビニールの管が生え、途中から3つに分岐していた。
ひとつは黄色いシチューのような袋に。ラベルには血小板と書いてある。
……学校で習った。血小板がないと血が止まらなくなる。……もうひとつは無色透明のなぞの液体。舌をかみそうな名前の薬だった。
もうひとつはどこにもつながっていない。これが抗がん剤が入るところである。
それぞれの点滴袋は外付けHDDの函体程度の大きさの速度調整装置とセットになっており、点滴が落ちるたびにピッピッと電子音がなる仕組みだった。
「点滴ってふつうは腕に刺すのに、白血病になると胸の中の心臓の近くの太い血管に向かってながーい針をグサッと刺して、チューブごと中に突っ込んで絶対外れないようにするんだよ。ちょっとした手術までやらされるしね。普通の病気とはいかにも違うスイーツが好きそうな重病って思ったよ。いやースリル満点だねー。うーん、つかさならまず泣くだろうね。みゆきさんは……案外我慢するかな?まあでも、かがみんだったら100本刺しても平気かな♪」
こなたは何事もなかったのようにペラペラしゃべっては鎖骨の上で手を動かして示していた。
「……あ、あんた、平気なの?」かがみは見るからに痛々しいこなたの点滴と、いつもの他人事みたいなのんきな口調のギャップにとまどっていた。
「ん?大丈夫だよ」
こなたはチョココロネをモグモグパクついている。

「あのさこなた、やっぱりあんまり食べない方が」
「なんで?」
「なんか抗がん剤は戻しちゃったり吐き気とかひどかったりするとか聞くけど…」
「そうみたいだねー。でも意外と人によるみたいだよ。薬との相性もあるんだってさ」
「そう…よかった」かがみはほっとした。
「これからどんどんいろんな抗がん剤打たれるけどねえ……頑張らなきゃ、ふう」
「まあ、あんたなら」かがみはこなたの肩をポンと打った。「殺しても死なないから平気でしょ」

ほとんど効かないかもしれないってお医者さんいってたけど……
「……そんなことないわよ」とかがみは自分に言い聞かせた。「……こんなに元気なんだから」

そんなシリアスとは別世界のように、相変わらずの糸目でのんきにチョココロネをぱくつくこなた。
…本当に、こいつ、もうすぐ死んじゃうのかしら?
これのどこがスイーツ好みの難病患者?
かがみはこなたのチョココロネの尻尾の部分をちぎってつまみ食いした。
「かがみん、今食べた分のカロリーちゃんと減らさなきゃダメだよ」
「う、うるさい、分かってる」
こなたは相変わらずモグモグとかぶりついている。
……やっぱり、誤診じゃないの?

やがて、看護婦が明るいオレンジ色の液体の入ったパッケージを持ってきた。
あれが、抗がん剤だ……。
どれくらいこなたを苦しめることになるんだろう……。
ネットで調べると、全身に痛みや苦しみを与え、髪の毛も禿げ、嘔吐・下痢し……と書いてある。
病気が苦痛というけど、この世にそんな薬があるという存在自体こそ苦痛じゃないの?
そんな薬が、なんであんなに天然キャラのおっちょこちょいな魔法少女みたいな明るい色をしてるのよ……!
かがみは顔をゆがませ、緊張した。こなたは一心にチョココロネを食べている。
オレンジの液体が一滴、一滴こなたの体に入り始める。
かがみは固唾を呑んで見守る。心の中に自分の神社のご神体を思い浮かべ必死に祈りを捧げる。



点滴終り。

こなたに変化はない。
拍子抜けした。
「この薬は1日おきにやるらしいよ。夜にも別の薬をやるらしいよ」
こなたはかがみに治療のスケジュール表をみせてくれた。
抗がん剤をやる日に↓マークがずらっとついている。まるで塾の夏期講習かなんかの日程みたいだった。
「緊張した?かがみん」
「……」
「やだなあ、早とちりなんだから。そんなにすぐ副作用はこないよ♪」
こなたはかがみの肩をポンとたたく。
「さーてかがみん。ひと仕事たのむよ」
「なによ」
こなたは大きなハサミとバリカンを持っている。
「バサッと。ほら」
かがみは何を言われているのかが分からなかった。

「……?」
こなたは自分の頭のアホ毛をつかむと、バチッという音とともに勢い良く断ち切った───

託すように、ハサミとバリカンをかがみに渡す
「……切っていいの」
「どうせ全部抜けちゃうから。根元からツルツルにしていいよ。闘病ブログとか見てると、そういうふうに抜ける前にあらかじめ切っちゃう人が多いみたいだし」
さくり、さくり
清浄機の耳障りな重低音を切り裂くように、ためらいがちなリズム。
こわごわと、少し震わせながらはさみを動かす。
女の命といわれる髪を、床まで届く長く青い髪の毛を切っていく。
ビッグサイトの逆三角をバックにしたシルエットがどんどん変わっていく。
「病院にも床屋はあるけど……」
「いい」
長く青い髪の毛が、シーツの上に広げた新聞紙の上に落ち葉のように広がる。
髪の量が多いので、小さな山ができあがる。
「……ハゲ萌えってあるのかねえ……」とシルエットがつぶやき、下を向いて青い髪の小山をすくいあげる。
「お母さんの髪の毛はお父さんが切ったらしいって。その後は同じ髪型のカツラをつけて過ごしたとか。お父さんも一生に二回も身内の髪の毛切るのは辛いだろうしね……やっぱり属性目的にリアルで子供に同じ髪形を求めるのは、非二次世界じゃ難しいよね。いろいろ思っても見ないことがあって……」
こなたの頭がうつむき始める。
「だから、かがみんに切ってもらいたかったんだ。いざというときのダイエット法も教えられるしね。ほら、髪の毛、切れば……何グラムか……ね……ダイエット……に……」
こなたの言葉がつまる。
かがみのハサミの持つ手が止まる。
こなたは下を向いたままかすかに肩を震わせる。鼻をすする。

「────」
かがみはむんず、と残った髪の毛をひっぱる。こなたのうつむいた頭をむりやり上げさせる。
「いたいたあああ!!!」
そして乱暴にザクザクと切り始めるかがみ。
「まったく、あんたって、そうやって、いつも、平気な振りして、……辛いなら辛いって、悲しいなら悲しいっていいなさいよねっ!!!」
バリカンを存分に暴れさせ、こなたの頭はあっというまに虎刈り状態になる。
「チョココロネったって、どうせ抗がん剤が怖かったから好物食べることで現実逃避したかったんでしょ!?それに、私見たんだから。あんたが、マルクを受けてるとき、イタイイタイって言って泣いてたのを……。入院してた日にもビッグサイト見ながら泣いてたでしょ!!」
「うっ……」
「いい?今度から、痛いときには痛い、苦しいときには苦しい、怖いときなら怖い、悲しいときには悲しいってちゃんということ!!わかったわね!!」
「うわわなんか変な髪型……」
「わかった?じゃないとこの点滴の設定いじって思いっきり速度上げるわよ!!」
「わーわかったって、かがみん怒らないで。今度からそうするから」

「んじゃさっそく……おしっこしたくなってきたなあ。毎日点滴が何リットルも入ってるから、早くてしょうがないんだよね。ああそうだ、おしっこの量を計らなきゃ。メンドいんだよなあ」
こなたは病室の隅から大きなカップを持ち出した。
「みゆきさん……じゃなくて医者が『腎臓に来る薬だから』って毎日患者自身で量を計ってノートに記録しないとダメなんだって」
「へえ……」
「かがみん手伝って♪」

「……え?」




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