リバーシ

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夏休み。
いつも通り、こなたはわたしの家に来ている。
ただし今日はこなたとわたしの二人だけ。
まあ二人きりだからと言って、別に特別なことをしている訳じゃないんだけど。
「かがみ、ちょっとこの英訳みて」
今日はこなたは珍しくやる気を出して勉強している。
どうやら夏休みも終盤にさしかかり、ようやくエンジンがかかってきたらしい。
こなたが今差し出したライティングのノートにしても、昨日のうちに家で解いてきた問題のようだ。
「はいはい。
うーん…これは前段との関わりから来ているから、前のページのこの節の…」
そんなことをいいながらページをめくると、ノートの片隅にこなた独特の読みづらい文字で小さくメモ書きがあった。
きっと夜中にでも問題を解いているうちに、なんとなく書いたものなのだろう。
「今月の目標、身長+5㎝…ねぇ」
ぽつりとそこに書かれた言葉を口にする。
「あっ!消し忘れてた!?」
その途端、こなたが驚いた声を出し、わたしの手からノートを奪い取ろうとする。
思わずひょいと避けると、こなたは顔を真っ赤にして膝を詰めてきた。
「ちょっ!ダメだってば!!」
どうやら相当恥ずかしいらしく、耳までゆでだこのようになっている。
「何真っ赤になってるのよ」
こなたの手をかわして、わたしはノートを高く掲げた。
「真っ赤になんかなってないもん!」
そういって更に上体を伸ばしてノートを奪おうとするこなたに対抗するため、わたしは膝を立てた。
これでこなたが立ち上がりでもしない限り、17㎝の身長の差は埋められない。
「むー!!」
そんなことは百も承知だろうに、こなたは必死に手を伸ばす。
あまりいじめるのも可愛そうなのでノートを返すと、こなたは後生大事にそれを抱え込みそっぽを向いた。
それでも耳はまだたこさんのまま。
なんだかちょっと…いやものすごく可愛い。
「別に恥ずかしがらなくてもいいじゃない。
『目標を立てる』、実に結構なことだと思うわ。
ずぼらなあんたには必要なことよ」
せっかくのわたしのフォローに、振り返ったこなたは不機嫌な顔で応えた。
「かがみ、顔が笑ってる」
おっと、思わずにやけてしまっていたようだ。
「それにしても『身長+5㎝』なんて可愛い目標ね。
どうせなら平均身長くらい目指してみればいいじゃない」
「……かがみだっていきなり『体重-5kg』なんて非現実的な目標なんて立てないでしょ?
まずは達成は難しくても、なんとか実現が出来そうな『体重-1kg』を目標にするじゃん」
くっ…
じと目のこなたの反撃に心の中で苦痛の声を漏らす。
わたしの胸に突き刺さった言葉は、胸の奥に存在する怒りのスイッチを押し、『いかに-1kgの壁が厚いか』をこんこんと説きたくなる。
普段ならばこの挑発でこなたのペースに引き込まれるところだ。
しかし、今はこんな挑発ではわたしの優位は崩れない。
なぜなら…
(ふふっ、まだ耳がピンク色じゃない)
おそらくさっきの反撃も照れ隠しなのだろう。
「ところでどうして『身長を5cm』なの?
あんたはもっと『別のところ』も必要なんじゃない?」
わたしは余裕の表情でこなたにそう尋ねた。
「…それ、かがみじゃなかったら『ちょっと頭冷やそうか』レベルの発言だよ。
まぁ、5cmあればあとはヒールかブーツでごまかせるかなって思ってさ」
口を尖らせてよく分からない台詞(どうせ何かのアニメネタなのだろう)を言うこなたに、わたしは首を傾げた。
「『ごまかす』って平均身長までってこと?
たしかわたしの身長が平均だった気がするけど、5cmじゃ上げ底しても全然足りないじゃない。
いったい何がしたいのよ?」
わたしの問いに、こなたは下を向き沈黙する。
どうしたの?
そうわたしが言う前に、こなたは正座のまま、ずずいっと膝を寄せてきた。
あの…こなたさん?随分と近づきますね。
正座をしているわたしの膝とこなたの膝の間には、指が三本入るか入らないかの隙間しかない。
UFO学なら第一種接近遭遇から第二種を飛ばして、第三種にいきなり飛びそうな勢いだ。
でもいきなりのこなたとの接近で、混乱の極みに達しているという意味では、第二種接近遭遇であるとも考えられる。
わたしの心臓のアラームはこの異常事態に激しく高鳴り、外にまで聞こえそうなほどだ。
少なくともそんな訳の分からないことを考えるくらいわたしは慌てていた。
「ちょ、ちょっと、こなた?」
わたしの問い掛けを無視して、こなたはクスリと笑う。
いつの間にかこなたの耳が普段の色に戻っていることにわたしは気づいた。
こなたの両手がわたしの肩にかけられ、その手に力が入る。
こなたがぐいっと背伸びをした。
きっとこなたは腰を浮かせているのだろう。


もしもこなたの身長が5cm伸びたする。
更にヒールやブーツを履いたとしよう。
そんな時にこなたが至近距離で背伸びをしたらこんな状態になるに違いない。
だって、そうでもしないとわたしとこなたとの17㎝の身長差を埋めることは――
つまり、こなたの方からわたしに――
「ねえ、かがみ。
私がしたいこと教えてあげる」
こなたのエメラルドの瞳が悪戯っぽく輝きながら迫ってくる。
そして―――


「あじゅじゅじゅしたー」
わたしから離れたこなたは、「ご馳走さま」と言わんがばかりに手を合わせた。
本来ならば、そのロマンのかけらもない仕草にツッコミをいれるべきなのだが、今のわたしにそんな余裕はなかった。
こなたが離れてくれたお陰で、わたしはようやくまともに呼吸が出来るようになったからだ。
(あ、危なかったわ…)
あともう少しあのままでいたら、わたしの心臓は口から飛び出て、こなたに飲み込まれてしまっていただろう。
そんなことになったら第三種どころか第四種接近遭遇だ。
うぅ…どうやらまだ混乱は続いているらしい。
「ごめん、ちょっとやりすぎたかな?」
肩で息をするわたしに、こなたが笑いながら尋ねる。
さきほどの妖艶とも思える表情ではなく、いつもの無邪気な笑顔だ。
それでもわたしの身体の熱は、そう簡単にいつもの温度には戻りそうにない。
「かがみ、耳までたこさんみたい」
立ち膝の体勢からわたしの首に腕を回し、勝ち誇ったようにこなたが耳元で囁く。
「ひょっとして、さっきので私の顔の赤さが移っちゃった?」
「う、うるさいわね!」
そんな強がりを言ったところで、この顔の熱さからしてさっきのこなたよりもわたしの方が遥かに真っ赤になっているようだ。
悔しいが炎髪灼眼の討ち手もかくやと言わんばかりに違いない。
「実は前から『私の方から』ってシチュエーションに憧れてたんだよね。
大体身長差があるから、私がいくら背伸びをしても、かがみが屈んでくれないと届かないしさ」
そういってこなたはわたしの額に唇を寄せた。
「こういう風に、私がかがみより高い位置からするっていうのも一度やってみたかったんだよね」
こなたに触れられたところが更に熱を増す。
今なら熱光線すら発射できそうだ。
顔や耳、首どころか髪の毛まで真っ赤に染まりそうなわたしに、こなたは優しく微笑んだ。
「かがみ可愛い」
「あう…」
これが止めとなったのか、わたしは完全に身体の力が抜け、こなたに向かって倒れこんでしまった。
そんなわたしを胸で受け止めて抱きしめると、こなたはものすごく嬉しそうな声を上げた。
「いや~かがみは受けに回ると本当に弱いなぁ。
いつもと逆の立場にいるせいか、なんだかイケナイ感覚に目覚めそうだよ」
たしかにその気持ちもわからなくもない。
こうやってこなたから積極的に抱きしめられるのも、いつもと違うせいか新鮮に感じる。
心臓の鼓動もいつものスピードより遥かに早いビートを刻んでいるのがわかった。
何しろ自分の鼓動が聞こえるほどだ。
(でも、『こういうこと』に関しては恥ずかしがり屋のこなたにしては、今日はやけに積極的ね。
いつもならすぐ真っ赤になって力抜けちゃうはずなのに)
そんな風に考えた瞬間、耳元で聞こえる鼓動の音が二種類あることにわたしは気づいた。
耳の動脈から聞こえる音と、それよりも早い音。
前者はわたしのものだから後者はつまり――
そのことに思い至った時、わたしはこなたの肩に両手をおいた。
そしてゆっくりと膝を立て、こなたの驚いた瞳に自分の視線を絡ませる。
わたしはもうほんの少し後でこなたに良いことを教えてあげようと決めた。
背を伸ばさなくても済む方法を、その実演も交えて。


(それにしても今日は二人きりでよかったわ)
『いつものように』目を閉じるべきか、それとも今日のこなたのようにするべきか考えながら、わたしは心の中でそう呟いた。

終了


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コメント:
  • ヤバいツボだわ(´ω`*) -- 名無しさん (2011-02-11 23:33:38)
  • GJ! -- 名無しさん (2010-03-19 17:34:12)
  • 悪くない -- リバー支部 (2010-03-19 12:01:00)

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