星紡ぐ想い

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私は今ものすごく迷っている。
目の前にそびえ立つ陳列棚を眺めながら、途方に暮れていた。
私の背丈の2倍はありそうな棚に、所狭しと様々な商品が並べられている。
いや、実際にはそれほど高くないのだけれど、色鮮やかな数々の小物に圧倒されそのように見えるのだろう。
買うべきか、買うべきでないか……それが問題だ。
英語の授業の時に、そんな台詞を呟く人物を先生が紹介していたような気がする。
「うーん、そのゲームの主人公もこんな心境だったのかな」
うろ覚えの知識を思い出しながら、そんな主人公になりきっていた。
あれ、そもそもゲームじゃないような……。
とにかく、今はこっちに集中しよう。
私は再び目の前の棚に目を移した。


『星紡ぐ想い』


私は郊外にあるアクセサリーなどの小物を扱うお店を訪ねていた。
お店の中には私が普段身につけることも無い数々の装飾品が並べられている。
この辺り一体は洋服やアクセサリーを扱うお洒落な店が数多く軒を構えていることで有名だった。
これまで訪れたことがなかったが、噂どおり私にとっては異世界とも言える場所だった。
町を行きかう人々も、顔つきや身に着けているもの、そして漂う雰囲気が私の知っているものとまるで違う。
町によって人の層がここまで違うとは知らなかった。
普段行き慣れたアニメショップが立ち並ぶ一角とは雲泥の差だ。
以前かがみとつかさを無理に誘ってコミケに行ったことがあったけど、そのときのつかさもこんな風に感じたのだろうか。

「……慣れない店は来るもんじゃないね」
そんな私がここにいることが、とても場違いに感じられた。
こういうのを“浮いている”と言うのだろう。
あえて私がこの異世界に飛び込んだのにも訳がある。
それは、かがみとつかさの誕生日プレゼントを買うためだ。
お店の時計に目をやると、もう18時近い。
横に掛けてあるこれまたお洒落な絵が描かれたカレンダーを確認すると、今日は7月1日。
かがみ達の誕生日ももうすぐだ。

私の誕生日のときもみんなからお祝いされ、いろんなプレゼントを贈ってもらった。
なかでもかがみはとても素敵なプレゼントを贈ってくれた。
これまでもらった中でも最高のものを。
恥ずかしくて、どこかむず痒くなって、でも嬉しくて……
プレゼントをもらうことがこんなにも嬉しいものだと、かがみに気付かされた。
もちろん他のプレゼントがつまらなかったと言いたい訳じゃない。
つかさやみゆきさん、それにゆーちゃんから贈られた、心を込めたプレゼント。
みんなからお祝いの言葉と共に贈られ、心が温かくなった。
でも、……かがみだけは特別。
他と比べることなんてできない。
最初かがみが特別だと思える自分が信じられなかった。
けど、否定できない。
4人集まってもいつもかがみのこと見ている。
かがみの反応が気になる。
私はかがみからどう思われているんだろうと、いつも気にしている。
かがみが私に微笑みかけてくれるだけで、心が温かくなる。
これってやっぱり……ううん、その結論はもう少し後にしよう。
だから、私もかがみにもっと素敵な贈り物をしたい。
私が感じた以上に、もっと喜んでもらいたい。
そう意気込んでこのお店にやって来たのだけど……

「数が多すぎてどれを選べばいいのか分からないよ」
どれも良いものに見えて目移りしてしまう。
それにアクセサリーと一言で言っても、種類も様々だ。
1種類の中にも様々な色や形があるのに、これだけ多いとどれがいいのか分からなくなる。
こっちを買えばあっちが良かったと思い、あっちを買えばどうしてこっちを買わなかったのかと後悔してしまいそうだ。
これが普段買っている漫画や雑誌とかだったら複数買いという手もあるんだけど、
さすがに目の前にあるアクセサリー類はそこそこ値が張る。
バイトで貯めた貯金があるとはいえ、コミケ用の出費も考えなくてはならない。

「うーん、どれを買うべきか」
うんうん悩んでいると、ちょうどつかさがいつも頭につけていそうなかわいいリボンを見つけた。
それはまさにつかさにうってつけのアイテムだった。
「そういやいつも同じリボンつけてたっけ」
巫女服を着ている時には赤いリボンをつけていたけど、それ以外の場面では黄色のリボンばかりつけていた気がする。
他の色が好きじゃないんだろうか。
黄色によほど思い入れがあるんだろうか。
他の色のリボンをプレゼントしたら、どう思うだろう。
目の前にある色とりどりのリボンの中から、つかさの髪の色とよく合いそうな色を想像してみた。
赤は巫女服着てるときにつけてたから、青なんてどうだろう?
似合いそうだけど、これは少し色がきつめかな。
ピンクだと派手すぎるし。
黒だとバニーガールみたいになるし……いや、それはそれで需要が……って誕生日プレゼントだった。
余り濃い色じゃなくて、薄めで目立たない色の方が良さそうだ。
「これなんてどうかな」
薄い色をした黄緑色のリボンを見つけた。
これなら黄色とそれほど色が違わないし、派手じゃなくていいかもしれない。
さんざん悩んだ結果、このリボンに決めた。
某キャラのイメージから若干遠ざかってしまうのが残念だけど、たまにはイメチェンが必要だよね。

あとはかがみだけど……
かがみは何を贈られたら喜ぶだろう。
できることなら自分が贈ったプレゼントをいつも身に付けていてもらいたい。
指輪やネックレスとかは学校でつけることができないし、そうなるとつかさと同じようにリボンが良さそうだ。
かがみは学校へはいつも同じリボンをつけてくる。
休みの日は他の赤や緑のリボンをつけていた。
ただ、今目の前にあるリボンは、どちらかというとつかさ向けの女の子っぽいかわいらしいものだ。
悪いけど、ツンデレなかがみには余り向かないと思う。
他の場所も探してみたけど、どうもこれという物が見つからない。

「あー、どうしよう」
外もだんだん暗くなり始めたので、そろそろ帰らなくてはならない。
だからといって、目の前にあるもので適当に間に合わせることはしたくない。
ちゃんとかがみに似合うものを選びたい。
その点だけは絶対に譲りたくなかった。
「うう、仕方ない。また別の日に来よう」
結局その日は、つかさのリボンだけ買って店を出ることにした。


その夜、私はネットで誕生日プレゼントについて調べてみた。
「ふむ、形に残るものと残らないもの両方用意すること、か」
確かに両方用意しておけば完璧だろう。
「形に残らないものは、クッキーでいいか。つかさみたいに上手くできないかもしれないけど」
では、形に残らないものだけど……
「肝心なところが分からないなあ」
プレゼントランキングみたいなものもあったけど、どうも気が乗らない。
やはり、何を贈るのかは自分で決めたかった。

そのとき、部屋をノックする音が聞こえた。
「お姉ちゃん、夕飯の準備できたよ」
「あっ、ゆーちゃん、ちょっといい?」
「なーに、お姉ちゃん」
「んー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「うん、何?」
「ゆーちゃんだったら、みなみちゃんの誕生日プレゼントに何贈る?」
「えっ、うーん、まだ贈ったことないから考えたことなかったなあ」
「みなみちゃんの誕生日っていつだったっけ?」
「9月12日だよ」
即答するとはさすがだね、ゆーちゃん。
「どうしたのお姉ちゃん? ニヤニヤしてるよ?」
「いや、さすがみなみちゃんのことになると何でも知ってるんだなって」
「えっ、そ、そんなことないよ」
赤くなっちゃって、可愛いねえ。
「それに、と、友達だったら当たり前だよ」
「友達?」
「もう、友達だもん」
「ごめんごめん、で、何贈る?」
「うーん、そうだなあ、ずっと使ってもらえるものとかかな」
「例えば?」
「ハンカチとかかな?」
「なるほどねえ」
「お姉ちゃんもそんなに悩んでるってことは、かがみ先輩に贈るんだよね?」
うおっと、ここで反撃ですか。
「うん、そうだよ。つかさにもだけどね。つかさにはリボンを贈ることにしたんだけど、かがみのが決まらなくってね」
「難しいよね。好きな人に贈るのって」
「うん、ほんとに……って、あっ」
「えっ?」
「い、いや、今のは聞かなかった方向で……」
「わ、ごめんなさい。今のわざとじゃなくって……」
「うああ……」
「と、とにかく。頑張ってね、お姉ちゃん」
「うう……」

なんたる不覚。
素で反応してしまうとは、もっと気をつけなければ。
しかし、ずいぶん腕を上げたね、ゆーちゃん。
「おーい、早く下りてこないと夕飯が冷めるぞ」
ちょうど階段の下からお父さんの呼ぶ声がした。
渡りに船と、そそくさと部屋を出ることにした。
「ごめん、すぐ行く。さっ、行こっか、ゆーちゃん」
「あっ、はーい」
結局プレゼントは決まらなかったけど、仕方が無い。
また明日にでも考えることにしよう。

★☆

その後私はかがみの好きなものをこっそり探ってみることにした。
いつものように抱きつきながらかがみが身に付けているものをよく観察してみたり、
宿題教えてもらう振りをして持ち物を確認したり。
そうした涙ぐましい努力を重ねたにもかかわらず、いまいちピンとこない。
そのままずっと探り続けるにしても、誕生日は刻一刻と迫っている。
仕方が無いのでこちらの真意を気取られぬよう、直接話してみることにした。

いつものように登校しながら、さりげなくかがみに話を振ってみた。
「もう7月なのに、毎日雨が多くてじめじめして暑いよね」
いきなりリボンの話をすると怪しまれるので、まずは天気から。
これはどんな場面でもそうだよね。
「まだ梅雨が明けてないからね。年によって違うらしいけど、7月中旬か下旬ぐらいが梅雨明けじゃなかったっけ?」
「そんなに後だっけ? まだまだ雨の日が続くのかな」
「天気ばかりは文句言っても仕方ないからね。ヨーロッパとかならもっと気候もカラッとしてるのかしら?」
おっと、話題が外国にシフトしようとしている。
軌道を修正せねば。
「うらやましいよね。慣れたとはいえ、髪長いからうなじの辺りが蒸れて大変だよ」
「確かに暑そうね。私みたいに髪を結べばましになるんじゃないの?」
食いついてきたね。
「でも毎日髪結ぶの大変じゃない?」
「そうやって面倒くさがるから駄目なのよ。髪のお手入れぐらいは毎日してるでしょ?」
「うん。でも、朝はばたばたして忙しいからね」
「夜更かししてゲームしてるからよ。せっかく長い髪してるんだから、
もっと色んな髪型試してみたらいいのに。そうすればもっと……」
「もっと、何?」
「いや、何でもない」
私の色んな髪型が見たかったのかな?
気にはなったけど、いよいよリボンについて切り出そう。

「そういやかがみって学校来るとき、いつもそのリボンつけてるよね?」
「えっ、ああ、そういやそうね」
「他にも色んなリボン持ってなかった?」
「持ってるわよ。でも学校来るときあんまり派手なのつけてくるわけにもいかないから」
「その色が気に入ってるの?」
「そうね。でも、どうして?」
「いや、私も髪結ぶときの参考にしようかなと思って」
つかさも自分のこと聞いてほしそうに目を輝かせている。
……ごめんよ、つかさ。
もう少し待ってね。
「私がリボンつけるとしたら、どんなのが似合うかな」
「そうね。そうやって改めて聞かれると難しいものね。きれいな蒼髪だから、空に浮かぶ雲に見立てて白とか? 
もしくは南国に咲く赤い花をイメージして赤とかかな。ごめん、私センスないからその辺よく分からない」
「いやいや、そんなことないよ。ありがと、参考になるよ。かがみだったらどんな色が似合うかな。
私もファッションとか縁が無いからよく分かんないや。嫌いな色とかある?」
「んー、どうだろう。特に無いかな。」
「そっか、ありがと」
よし、かがみへのプレゼントはやはりつかさと同じようにリボンにしよう。
具体的な案もまとまってきて、一安心した。
あとは、どんな種類・色にするかだけだ。

「ねえねえ、こなちゃん。私もいい?」
「ああ、ごめんね、つかさ。かがみんとの熱い語り合いについ熱中しちゃって」
「ちょ、誤解を招くようなこと言わないでよ」
「んー、誤解なんて招いてないよ。つかさはいつもそのリボンつけてるよね。よっぽど気に入ってるの?」
「えへへ、そうなんだ。このリボンはね──」
それからつかさは延々とリボンに対する熱い思いを語った。
「そういや、こんな女の子らしい会話って、私たち余りすること無いわね……」
「かがみ、それは言わない約束だよ……」


昼食後、みゆきさんにも相談してみることにした。
同じプレゼントを贈る側として、何かいいアドバイスをもらえるかもしれない。
「ねえみゆきさん、かがみとつかさの誕生日プレゼントのことなんだけど」
「はい、泉さんはもう決められましたか?」
「それなんだけど、つかさに贈るプレゼントはもう買ったんだ」
「じゃあ、かがみさんの分で悩んでいるんですね?」
「うん。贈りたいものは決まってるんだけど、色とか種類とかどれを選んだらいいのか分からなくて、
何かいいアドバイスは無いかなって思って」
「差し出がましいようですが、具体的に何を贈られる予定ですか?」
「かがみがいつもつけてるようなリボンだよ」
「では、かがみさんの髪に合うリボンの色や種類で悩まれているのですね?」
「うん、そうなんだ。何か良い案ある?」
「そうですね。まずリボンの素材に関してはサテンやコットン、ベルベット、グログランなど様々で、
素材ごとの特徴があるのですが、どれが一番良いとも一概には言えません。
実際に手に取って素材ごとの光沢や感触を確かめられたほうが良いと思います。
次に色に関しては無地のものから、花柄、水玉模様など、
これも挙げればきりがないほど様々な柄がありまして。
かがみさんの髪の色と組み合わせるのであれば、美術用の資料として配色の見本を扱った本が
図書室にあったと思いますので、それを参考になさってはいかがかと思います。
朝昼夜を表す色の組み合わせや、春夏秋冬、カジュアルなイメージ、洗練されたイメージ、
都会的なイメージなど場面によって使い分けられる色見本がたくさん載っており、
見ているだけでも楽しくなりますよ。
最終的にどれが良いかを決めるのは泉さんになりますが──」

頭がオーバーヒートしそうになったが、何とか色の組み合わせを表した本があることは分かった。
「えっと、図書室に行けばその本があるんだね?」
「はい。あまりお力添えになれなくて、申し訳ありません」
「ううん、そんなことないよ。色々教えてくれてありがとう」
みゆきさんはにっこりと笑うと、その場を立ち去ろうとする私に向けて言った。
「でもかがみさんなら、泉さんが贈ってくれるものなら何でも喜びそうですけどね」
「えっ、どうして?」
「さあ、それはどうしてでしょう」
謎の微笑みを見せるみゆきさんを後に残し、そのまま図書室へ向かうことにした。


先月少し風邪をこじらせたせいで保健室はお世話になったことがあるが、これから向かおうとしている図書室は
私にとって全く縁の無い場所だった。
漫画くらいしか読まない人間が活字の博物館へ足を運ぼうとしている。
……
想像しただけで、冷や汗が出てきそうになった。
活字の本の代わりに漫画があれば毎日でも入り浸るんだけど。
でも、それでは学校が漫画喫茶になってしまうか。
「かがみが聞いたら『活字を読まない人間が日本をだめにするのよ』なんて、説教されそうだ」
そんなかがみを想像して、ふふっと笑った。
でも、図書室も活字の本ばかりではなく、これから探そうとしている美術関係の絵の本も置いてある。
もしかすると探せば少しくらい漫画があるかもしれない。
時間があれば探してみよう。

「えっと、確かこっちだったような」
もう3年にもなって、図書室の場所が分からないとはさすがに情けない。
途中本気で迷いそうになりながら、何とかたどり着くことができた。
図書室の中は意外と広く、机に向かい勉強している生徒の姿が見受けられた。
「うっ、なんとなく入り難い雰囲気。まるで見えない壁があるようだね」
そんな障壁をひしひしと感じながら、目的の美術書関係が置いてある一角に向かった。
「えーっと、こっちだったような……あ、あったあった」
学術関係の本とは異なり、大型の本が多いことから見分けがつきやすい。
「確か色見本の本だったはず。これかな?」
有名な画家の絵を載せている大型本に混じって、小さめの本が見つかった。

『色彩学の基礎理論と実践』
『色彩環境論概説(Ⅰ)』

「……」
見なかったことにして、次を探すことに。
大小取り合わせた多くの本の中で、ひときわカラフルな本が見つかった。
背表紙には『配色デザイン見本』と書かれている。
「おお、これだ」
早速手に取り中を見ると、目に飛び込んできたのは鮮やかな色の数々。
様々な写真の例と共に、色の組み合わせが紹介されていた。
季節を表す色や、可愛らしさなど外見的な特徴を表す色、それに性格を表すイメージなど
ジャンルごとに多くの配色例が載せられている。

「ツンデレなイメージってないのかな?」
当たり前というか、それはどこにも見つからなかった。
ぱらぱらとページをめくっていくと、かがみの髪の色である菫色が載ったページを発見した。
そこには菫色と共に、亜麻色とでも言うのだろうか、薄いクリームのような色と組み合わされていた。
「上品なイメージか」
落ち着いた印象を与えながら、同時に優しさを感じさせる色だった。
かがみの髪の色と亜麻色のリボンとの組み合わせを頭の中で想像してみる。
どこかお嬢様みたいに落ち着いた雰囲気を纏うかがみか。
普段からは考えられないけど、結構合うかもしれない。
うん、これにしよう。
私自身には配色センスとかないけれど、プロが書いた本の中に載っている配色なんだから間違いはないだろう。

早速この本を借りるためカウンターに行った。
「すいません、この本借りたいんですけど?」
図書委員の人は慣れた手つきで本を確認すると、バツが悪そうにこう言った。
「残念ながら、この本は貸出禁止です」
「なぬっ!?」
「美術関係の本は貸出が禁止されているものが多いんです」
「ぐぬぬ……」
家に帰ってじっくり目を通そうかと思っていたが、仕方ない。
また放課後にでも見に来よう。
昼休みの残り時間も余り無いので、本を元の場所に戻しそのまま図書室を後にした。


放課後、つかさやみゆきさんに用事があることを伝え、先に帰ってもらうことにした。
足早に図書室に向かい目的の本がある一角までたどり着くと、早速配色の本を机の上に広げた。
「ネットだったら印刷して終わりなんだけどなぁ」
本に書いてある色の組み合わせや説明をノートに書き写した。
授業中もこれぐらい真面目に取り組めばいいんだろうけど……
なぜか授業中はやる気が起きないんだよね。

必要な箇所を全て書き写し終えると、本を元の位置に戻し帰ることにした。
図書室の入り口へ向かう途中、カウンターに見知った後ろ姿を見つけた。
「かがみん?」
「えっ?」
振り向いたその顔は、やはりかがみだった。
「どうしてあんたがここに?」
まるで信じられないものを目の当たりにしたかのような反応だ。
「あんた、こんなところで何してたの?」
「ふふん、かがみんや、私は勉学に目覚めたのだよ」
「ほんとに? あんたが図書室に来るなんて、明日雹でも降るのかしら」
酷い言い様に、さすがにムッとした。
かがみのために調べ物をしに来たというのに。
「むぅ、そんなに言い方ないでしょ? 私だって調べたいものぐらいあるんだよ」
「ああ、ごめん。あんまり珍しかったから、びっくりしちゃって」
珍しく語気を強めた私に驚いているようだった。
「珍しくて悪かったね、ふん」

かがみのバカ。
一生懸命していることが茶化された気がして、どんどんやる気が失せていった。
「ごめん、驚いちゃって、つい。ほんとに悪気があったわけじゃないから」
「だいたい誰のために来たと思って──」
そこで私はハッと口をつぐんだ。
「えっ、今何て?」
「あああ、何でもないよ、うん」
今知られてしまうとまずい。
「……あからさまに怪しいわね。まあ、私も──」
そう言いかけてかがみは言葉を呑んだ。
机のある方を凝視して固まっている。
私もそちらを振り返ると、勉強中の生徒たちが私たちを憎々しげに睨んでいるのが見えた。
「早く行きましょ」
「うん、そだね」
まるで追い立てられるかのように、そそくさとその場を去ることにした。


「もうこなた、いい加減機嫌直してよ」
「ふーんだ」
本当はもう怒ってなんかなかったけど、私の方から突っかかっていった手前、どうしても素直になれなかった。
「ごめん、謝るから」
「……」
「どこか一緒に行ってあげるから」
「……じゃあ、ゲーセンに付き合ってくれる?」
「ゲーセンって、……分かったわよ」
「……ほんとに?」
「ほんとよ。嘘はつかない」
「やったぁ!」
「ちょっ、気分変わるの早っ。なんかしてやられたような気がしないでもないわね……」
「細かいこと気にしちゃ駄目だよ、かがみん」
「気になるわよ」
「ふふ」
「はぁ。ま、いっか。でもやっぱりこなたにはその笑顔が一番似合うわよ」
「えっ?」
その何気ない一言にドキッとした。
「あぅ、べ、別に変な意味じゃないから」
必死に否定するけど顔が真っ赤だよ、かがみん。
「ふふ、私もいじわるしてごめんね」
「もう」
「ふふふ」

かがみが私と一緒に付き合ってくれるというので、結局ゲームセンターにたどり着く前に色んなお店にかがみを連れまわしてしまった。
かがみは口では嫌そうなことを言っていたのに、顔はとても楽しそうで、そんな顔を見ていた私も嬉しくなった。
結局当初の目的のゲームセンターに着いたのは、かなり時間が経ってからになった。
普段よく訪れる場所とはいえ、やはりこういう場所は一人で来るよりも友達と一緒に来たほうが楽しい。
かがみが側にいて、そう実感できる。

「で、何するの? 格闘ゲームなんて私できないわよ」
「そうだね。かがみが一緒だから、何がいいだろ。かがみは何がしたい?」
「いや、私に振られても。そうね、やっぱりクレーンゲームとかかしら?」
「また熱くなりすぎて前みたいに使いすぎないようにしなきゃね」
「あ、あれは、その……ちょっと熱くなってしまっただけよ」
ちょっと熱くなるだけであれだけ散財させるとは、さすがクレーンゲーム、貯金箱と言われるだけある。
「じゃあ、どれにする?」
「そうね。前回のリベンジも兼ねてあれにしようかしら」
そう言ってかがみが向かったのは、某かえるのキャラクター人形を扱うクレーンだった。
「んー、ちょっと難しいかもしれないね」
「そう? 私にはそうは見えないけど」
「いやいや、私の感がそう告げているのだよ」
「まあ、やってみなけりゃ分からないじゃない?」
そう言って、コインをクレーン本体に投入した。
コインの投入口が硬貨をおいしそうに飲み込む。
流れ出る音楽は、まるでこれから始まる硬貨のフルコースにクレーンが歓喜の声をあげているようだった……
……

「……ドンマイ、かがみ」
「あああぁ……」
ショックを受けてうずくまっているかがみの背中を撫でながら思った。
うーむ、しかし恐るべき貯金箱の魔力……
私が誘ったのに、かがみの方が熱中するとは。
勉強で相当ストレスが溜まっていたのだろうか?
涙目のかがみを優しく抱き起こし、代わりに私が挑戦することにした。
難しい位置に人形が置かれていたものの、私の腕なら何とか取れそうだ。
かがみへのプレゼントもあるから、ここで失敗してお金を使い果たすわけにはいかない。
これはクレーンとの真剣勝負だ。

1回目、失敗。
2回目……ああ、惜しい。
3回目こそは……やった、取ることができた。
戦利品を取り出しながら考えた。
落ち込んだ様子のかがみを励ましてあげたい。
私のわがままを聞いてくれたおかげで、私はかがみと一緒に楽しく過ごすことができたから。
だから私もかがみの言うことを聞いてあげたい。
何か良い案は無いだろうか……クレーンゲーム、苦労の末取った人形……そうだ!
ひらめくように良いアイデアが思い浮かんできた。

「はい、かがみ、これあげる」
「えっ、いいの?」
「うん」
「ありがとう、嬉しい」
花開くようにかがみの顔に笑顔が広がっていった。
「ふっふっふ、まだ終わりじゃないよ、かがみん」
「またクレーンに挑戦するつもり?」
「いやいや、今日はもうしないよ。その人形だけど」
「うん」
「実はただの人形じゃなくって、何でも願いをかなえてくれる人形なんだよ」
「えっ、何それ?」
「何かお願い事をすれば、私が叶えてあげる」
「肩叩き券みたいなもの?」
「かがみん、それじゃあまりに夢が無いよ……」
「わ、悪かったからそんなにしょげないでよ。何でも願いが叶うって言ったわよね?」
「私が出来ないことは叶えられないけどね」
「ふーん。……じゃあ、こなたが毎日ちゃんと宿題しますように」
「ああー、そんな殺生な」
「ちょっ、どんだけ意思弱いのよ。 今願い事叶えてくれるって言ったばかりじゃない」
「甘いね、かがみん。世の中には叶えたくても叶えられない願いというものがあるのだよ。かくもこの世は厳し──」
「こらこら、当たり前の願い事してるのにどこが厳しいのよ」
「うっ、でもでも、毎日ってところが……週1回にまけてくれない?」
「あのねえ。願いをかなえるほうがそんなこと言ってちゃ駄目じゃない」
「私が出来ることに限るからね」
「おーい、こんなことも叶えられないんじゃ、あんまりあてになりそうにないわね」
「むう、そんなことないもん。願いを叶えてくれる人形なんだもん」
「ああもう、分かったから。だからそんなにふくれるな」
「ふふふ、やっぱりかがみは優しいね」
「もう」

あきれながらも、元の元気なかがみに戻ってくれた。
「ただし、その人形にはいくつか条件があるよ。まず、願い事はひとつだけ。
古典的だけど、願いを増やすって願い事は駄目だよ」
「さすがにそんなせこいことはしないわよ」
「ふたつめ、その人形の消費期限はかがみの誕生日まで。それ以降はただの人形に戻ってしまうよ」
「消費期限って、……変なところで現実的なのね。分かった。考えとくね」
「うん。じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「そうしましょ」
ゲームセンターを出ると、空は綺麗な夕焼けに染まっていた。
明日も晴れるんだろうか。
「こなた」
「ん、なに?」
「ありがとね」
「うん」
夕日に染まったとてもきれいな笑顔をかがみは返してくれた。
私にとって、かがみの笑顔が最高のプレゼントだよ。
こんな恥ずかしいこと間違っても口に出せないけどね。


その夜、早速今日図書室で調べた亜麻色のリボンをネットで調べてみた。
さすがネットの世界は広大なだけあり、前に行ったお店よりもはるかに多くのリボンが掲載されている。
その中でも、本で見た色とよく似たリボンが見つかった。
とても自然で優しい色合いのリボンで、オーガニックコットンを使用と書いてある。
「これが良さそうだね」
注文しようとして、ひとつ気付いたことがある。
「注文してからどれぐらいで届くんだろ」
発送の詳細ページを確認すると、最短でも1週間かかると書いてあった。
今日はもう7月5日。
今から注文しても、誕生日当日に届かない。
「……ネットは便利だけど、すぐに手に入らないのが不便だよね」
仕方なく、もう一度あの店に行くことにしよう。
幸い明日は日曜日だ。
購入するものも目星をつけたし、探せば見つかるだろう。
そう思い、今日は早めに寝ることにした。



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  • 続きに期待。頑張れこなた! -- まじかる☆あんばー (2008-07-09 13:55:23)

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