伝えるということは

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「あつい」
手で顔を扇ぎながらそれだけを呟く。
「夏も近いし、仕方ないよ」
さらりと返ってくる返事。
「…………っ」
遠回しな抗議のつもりだったのだが、軽く躱された。
ああ、分かってはいたのよ。こいつには、そんな遠回しじゃ伝わらないと。
それなら残る手は
「あんたがべたべたひっついてくるからよ!」
耳元でおもいっきり突っ込んでやることだった。


「ぐぉぉ……耳がぁ……」
こなたがひどいよかがみんと、嘆きながら耳を押さえている。
あまりの暑さに耐え兼ねたか、いつもは下ろしている髪を一つにくくっていた。
揺れているポニーテールは本当にしっぽみたいで――って、それはさておき。
「自業自得でしょ。さっきから何回離れろって言った?」
「うーん……? 思い出せない」
「思い出せないくらい言ってるんだからさあ……っ!」
ああもう、と拳を握りしめて声にならない不満を頭の中でぐるぐると考えた。
何でこいつは尚も離れようとしないんだとか、そんなのばっかりだけど。
「ただでさえ暑いのに、くっついてたら余計暑くなるでしょ!」
「熱々カップルだからね。見せ付けてやろうぜ!」
「字が違う! しかも、誰に見せ付けるのよ!」
「ゆーちゃんとかに?」
そう言って、ドアを指差す。
その先には顔を赤くしたゆたかちゃんがいた。
「え…………、いつから?」
「かがみが、あついって呟いたあたりかな」
「結構前じゃない!」
てことは、こなたにべたべた引っ付かれてたところとか、全部見られてたっていう事、に……?
血の気が引くような音と爆発するような音がほぼ同時に響く。
「おお、かがみが器用なことを」
「ご、ごめんなさいっ! 暑いかと思って、麦茶持って来たんですけど……」
お邪魔だったみたいで、と続けるゆたかちゃん。
「え、ああ! そんなことないわよ? むしろこなたが引っ付いてたから暑くて暑くて」
ありがとう、と言いながらそれを受け取る。
冷たいそれが喉を通る感覚が気持ちいい。
「ええと、ところで」
「うん?」
歯切れ悪く、どうしようかなといった感じの表情でゆたかちゃんがおずおずと尋ねた。
「これからはかがみ先輩の事を、かがみお義姉ちゃんって呼んだ方が……?」
「………――っ!」
「あー、それもいいかもね」
きゃー、とかうわー、とか叫びたいんだけれど、なんかもう言葉にならない。
漫画的な表現ならば、ツインテールがぴん、と天まで突き立っていそうなくらいの衝撃だった。
「でもね、ゆーちゃん。かがみがお義姉ちゃんになるにはまだ早いよ?」
予想外の一言に吹きそうになり、げほげほとむせている私を尻目に、こなたが楽しそうに笑う。
「あ、そうだよね」
えへへ、と可愛く困ったような笑いを零しているけれど、ちょっと待って。

「げほっ……結婚するって決まったわけじゃないから!」
「……え?」
「そんな照れなくてもいいのにー」
眉を下げて、暗い顔をしているゆたかちゃんと、
私の背中を撫でる(と、同時に抱き着いている)こなた。
「暑い。そもそも、日本じゃ結婚できないでしょ」
ぐい、とこなたの頭を引きはがしながら言うと、誇らしげに胸をはられた。
「人間、やればできる」
「じゃあやってみなさいよ」
「なら、今からドイツに行ってこようか。ハネムーンも兼ねて」
「アホか!」
「あれ? サンフランシスコがよかった?」
「何でそんなマイナーな地域なのよ!」
いや、マイナーかどうかは知らないけれど。現地の方々すみません。
「我が儘だなあ」
「どこがよ! ていうか、今からなんて無理でしょ!」
と、意味がない掛け合いをしていると、ゆたかちゃんが出ていこうとしているのが目に入った。
「あれ? どうしたのゆたかちゃん?」
どきーん。
そんな効果音が聞こえそうなくらいに固まって、申し訳なさそうに振り向く。
「あ、あの、お邪魔みたいなので、こっそり出ていこう……かと……」
お邪魔ってそんなうわあ、なんていうか、うわあ。
「流石、ゆーちゃんは空気読めるね」
いや、私的にはこなたが少し自重してくれるから万々歳なんだけれど。
ああでも、さっきから爆弾発言飛ばしすぎだし、突っ込みが倍になって疲れるし、どうしよう!
「……かがみー? ゆーちゃんが困ってるよ?」
ぷすぷすと、湯気を吹いている私の前でこなたがぱたぱたと手を振る。
あ、ああ! 私が明言しないとゆーちゃんがなんだかいたたまれない空気になっちゃうわよね!
「あ、ああ、のね、私達は、そういう関係じゃなくて……」
「そこからですか!?」
「流石にそれはもう無理だよ!?」
「え、嘘ッ!?」
「かがみ、しっかりして! このままじゃ色んな方面の人に怒られる!」
「いきなりメタ的な事を言うなっ!」
「ええ!? 何でその突っ込み能力を現状把握に活かさないの!?」
「あれ? 今、何故か無意識に突っ込んじゃってた!」
「そういう事象には無意識でも反応できるんだ!?
 うわ、どこまで反応できるか実験してみたい!」
「だ、ダメだよこなたお姉ちゃん!
 かがみお義姉さん! 1+1はいくつですか!?」
「え、ええと!?」
「駄目だ! なんか本格的に駄目だ!
 ゆーちゃんに声荒げさせて突っ込ませるとかゆーちゃんの身体的にも、キャラ的にも!」
「だからメタ的なネタするなっ!
 あと、突っ込む所はそこかい!」
「こなたお姉ちゃんには突っ込めるんだ!?」

大混乱だった……らしい。
「私が? 何だって?」
「……覚えてないの?」
「うーん、ここ数分間の記憶が無いのよね……」
顎に手を添えながら考え込むけれど、どうしても思い出すことは出来なくて。
「あー、それなら思い出せない方がいいかもね」
「え、私、思い出せない方がいいような事を?」
「そりゃあもう、阿鼻叫喚。この世の地獄を再現したかのような……」
「流石にそれは嘘だろ!」
「あー、このテンポ……やっぱりかがみはこうじゃなきゃねえ……」
ぽわわーんと、妙に嬉しそうに目尻に涙をためながら愛おしそうに抱き着いてこようと――
「ちょ、押し倒すな!」
「うんにゃ。こなたさんはもう我慢の限界なのです」
何キャラだよ! と、突っ込もうとするが、私が口を開く前にこなたが言葉を吐き出した。
「だって、かがみがゆーちゃんにばっかデレデレしてるから」
「こなた……?」
正直、妹のような存在に嫉妬するのもどうかと思うが……。
というより、そこまでデレた覚えもないし。
つかさになつくこなたを想像してみる。
あ、これは結構、つらい。
「……こな」
「というわけで、こなたさんは勢いでヤっちゃうのです! 主にナニを! ふしゃー!」
「だからそれ何キャラだよ!」
せっかくシリアスになりかけていたのに台なしだ。
いや、シリアスになっていたかどうかは分からないけど!
「じゃあ、かがみ。ちょっとじっとしててね」
「へ?」
ひょいと、手を背中に、もう一方は膝の裏に添えられて持ち上げられる。
「かがみ様抱っこ~」
「変な抑揚を付けるな!」
何だか改名されていたが、これはまさしく、お姫様抱っこだ。
やばい! これ、恥ずかしい!
「あ、暴れると落ちるよ?」
「う」
お姫様抱っこというものは、案外怖いのだ。
とっさの時に対応出来る格好じゃないし、安定しないし。
足をぱたぱたさせてみると、変な浮遊感が足に纏わり付いた。
「か、かがみ! 落ちるって!」
「せめてもの反抗よ」
まあ、そんな気持ちはこれっぽっちもなかったのだけれど。

こなたは、私をベットに降ろすと、隣に座ってぼんやりと考える素振りをした。
「さて、どうしようかな」
「まだ考えてなかったんかい!」
「いやー、するつもりだったんだけどね? 主にナニを」
「…………」
無言で抗議。
こなたはそれを見て、猫のように笑った。
「お姫様抱っこをされるかがみが可愛かったから」
「な……っそれが何の理由に……!」
急激に熱くなる頬を意識しながら、返答を待つ。
「違う方向に可愛がることにしようかなって」
「ち、ちがうほうこう?」
少し警戒しながら問うてみると、嬉しそうな笑みを見せながら
「ひゃっ!?」
勢いよく抱き着いてきた。
「今日はかがみんを猫可愛がりする方向で!」
「だ、だから、暑いってば!」
無理矢理引きはがそうとするけれど、首に回された手がそれを許さない。
「かがみ」
「なによ」
急に耳元で名前を呼ばれ、頬が熱くなるのを感じる。
「かがみがツンデレなのは分かってるけど、言ってくれなきゃ伝わらないよ?」
「伝えるって、何をよ」
「んー? 何だろうね」
抱き着かれているので表情は見えないが、こなたは、何かを言ってほしいように思えた。
それは、私の自惚れで、なければ。
「……大好き」
囁くようにぽつりと呟く。
「うん。私も」
そう。言わなきゃ伝わらないことは驚くほど多いのだ。
私は不器用だから、つい、ごまかしてしまうけれど。
少しずつ伝えていきたいと、思った。
……ゆたかちゃんに嫉妬させちゃったのも、私がうまく愛情表現できないせいだしね。
「大好き」
もう一回。
私自身にも、聞こえないくらいに小さく。
目の前にあるポニーテールが喜んでいる犬の尻尾のように揺れていた。


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コメント:
  • 逝ける…今なら萌え死ねる!!! -- 名無しさん (2010-05-05 17:34:21)
  • 猫可愛がり想像して萌えた -- 名無しさん (2010-03-30 23:30:28)
  • ? ゆたかちゃん、いい子だなwこなたはいい(義)妹を持ってるwとりあえず、内容に関してはかなり笑えたのでグッジョブと言っておくw -- 名無しさん (2008-06-22 00:38:30)

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