運命を駆ける猫【第二章】

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学校に着いた私たちは各自の教室へ向かう。日下部と峰岸は職員室に寄るらしく、私達とは階段手前で別れる形になった。
薄暗い明かりのついた階段を、つかさとみゆきの三人で上がる。

「そういえばみゆき…まずは二年の時の教室に集まるんだっけ?」
「はい。始業式が終わってからクラス発表がありますので…その後に三年の教室へ移動にするんですよ」
「ゆきちゃん…それだと新しい一年生の子は何処に集まるの?」
「新入生の方には既に郵送でクラスが伝えられているんです。だから、もう体育館に集まっていると思いますよ」
「そっかー」

みゆきの丁寧な説明を聞きながら、階段の踊り場で足を止める。

「今年こそは…二人と同じクラスなれるかなぁ?」
「なれるよー!だってお姉ちゃん、お正月にあんなに…」
「うぉい!つかさっ!?そのことは内緒って…」
「うふふふ…」

つかさの口を塞ぎながら、階段を進み始める。
もう!確かに私は二人と同じクラスになったことはないし、最後くらいはー…同じクラスになれたらなって思ってるけど…。

色々な話をしながら三人で笑って歩いてたら、もう私の教室の前に着いた。
つかさとみゆきは隣のクラスだからここで別れることになる。

「お姉ちゃん、また後でねー」
「失礼します」
「うん、それじゃ」

一人寂しく教室へ入ると、何やら喧しい話し声が耳に響いた。教室中を見渡すと、女子が端の方で集まって話をしているようだった。生憎、日下部と峰岸もまだ来てないみたいだし…思い切ってその集団に声をかけてみることにした。

「おはよう。何か話し込んでるみたいだけど…」
「柊さん、おはよう!実はさー…」

集団の中でも特に明るい感じ子が丁寧に言葉を返してくれた。でも、何か苦手なタイプかも…。

「どうしたの?」
「今日ね、私達の学年に転校生が来るらしいよ!」
「………それだけ?」

なんだ、そんなことか。
盛り上がってるからもっと凄いことかと思っていた分、期待外れだった。

「それだけって…柊さんは楽しみじゃないの?」
「だって関係ないもん…」「転校生がカッコイイ男子でも?」
「それなら余計関係なくなるなー」

苦笑いしながら答える。
色恋沙汰なんて…残りの高校生活の中では、自分と全く縁の無い話になるだろう。まぁいいけどさ…もう諦めはついてる。

「分かんないよー?運命の出会いってのがあるかもしれないじゃん!」
「あはは、そうだといいわねー」

パタパタと手を振りながら適当に話を流し、自分の席へと向かう。
それと同時に授業開始のチャイムが鳴り響いた。

「おい、柊ぃー」
「おわっ!?何で日下部が私の席に座ってんのよ!」
「柊を待ってたんだぜ。向こうで楽しそうに何話してたんだよー?」
「んー、何か転校生がどうとかいう話。それより早くどきなさいよ」

日下部を引っ張り立たせ、自分の席に落ち着く。

「転校生が来るのか!?そっかー、楽しみだなぁ!」
「何よ、あんたも気になるの?」
「そりゃあな!何と言っても……おわっ!?先生来たから席に戻るなー!」
「はぁ………慌ただしい奴だ」

そんな日下部を尻目に、机に肘を付きながら先生の話を聞く…つもりだったけど、さっきの話が頭に残る。

何だかんだ言いながら、私だって少しくらいは転校生の話が気になるのよね。
男子なのか女子なのか…どんなキャラをしているのかなんて考えてみたり。
実は本当に運命の相手だったり………いや、それは流石に…ね。

膨らむ妄想を理性で押さえ込む。私がそんな考えを繰り広げている間、先生からはちょっとした挨拶と始業式での並び方などの説明が行われていた。

「よし、じゃあ体育館へ移動だぞー」

先生のその一言で皆一斉に席を立ち、廊下に出た。
一足遅れてゆっくりと席を立つと、教室の入り口辺りで峰岸が待っていてくれた。更に廊下には日下部もいた。

「行こっか、柊ちゃん」
「うん」
「あやのー、早く行こうぜ!柊なんて放っておいてさー」
「みさちゃん、そんな慌てなくても…」
「ならお前が一人で行け!」
「じ、冗談だってば…」

日下部の言葉にいつもの調子で返し、三人で体育館に向かう。
ただ普通の会話をするだけじゃ何だから、さっき聞いたばかりの転校生の話を二人にしてみることにした。

「そういえばさ、私達の学年に転校生が来るらしいわよ」
「それさっきも聞いたぞー」
「じゃああんたは聞くな。峰岸、興味あったりする?」
「うーん…どんな人か見てみたい感じはするわ」

そりゃあそうよね。私だって無関心を装ってるだけで、本当はほんの少し気になるし。

「やっぱり?私もちょっと気になってるんだよね」
「よーし!それじゃあこのみさお様が真っ先に声かけてやろう!!」
「やめろ。転校生が学校にトラウマを持つから」
「何でだよー!」
「ふふふ。でもまぁ、学校来てればそのうち会えるわよね」
「そうねー」

峰岸の最もな意見に納得する。学校も学年も同じなら、必ず会うことは出来るし友達にだってなれる。やっぱりいちいち気にすることじゃないか…。


そうして喋っている間に、もう体育館の前に着いていた。

靴を脱いで中に入り自分のクラスの列を探す。体育館の真ん中には二年生、それを基準に左側は三年生、右側には一年生となっていた。その一年生達からは見るからに緊張感が漂っている。

自分のクラスの列を探し座ると、しばらくして体育館は静まりかえり…堅苦しい先生の話が始まった。
さすがの私でも新学期早々に先生のお堅い話を真面目に聞く気はなく、ただひたすらにボーッとしていた。

―ガラガラ。


その時、ふと後ろの方から体育館のドアが開く音が聞こえた。静かな体育館の中にその音は響き渡り、より大きく聞こえた。
前に集中していた生徒達はざわめき立ち、一斉に後ろを振り向く。つられて私も後ろを向くと、生徒指導の先生とその後ろに一人の生徒が入ってきたところだった。

「…っ!?あの人っ…」
「…柊さん、知り合いなの?」

私が思わず上げた声に、後ろにいた子が話しかけてきた。知り合いなんかじゃない、ただ私が一方的に見取れていただけで…。

「………」

だけど、私がそれに返すことはない。気が付けばあの子を目で追っていた。

彼女は教育指導の先生に誘導されて、体育館の一番後ろの隅に座った。…いや、無理矢理座らされたと言う方が正しいかもしれない。凄く嫌そうな顔をしてたから。いや、嫌そうじゃなく、何か…。

それから先の式の内容は何一つ覚えていない。

知らないうちに始業式は終わり、私は一人だけで足早にクラスに戻った。


―――。


「…で、………はC組」
「………」
「おい。聞いてるか、柊?」
「え!?あ、はい……もう一度言ってもらえますか?」「おいおい、お前にしては珍しいな。新学期早々、ボケるんじゃないぞ」

周りから笑い声がしたけど、気にはならなかった。
私が気になることは、ただ一つだけ。綺麗な…紅い目をしたあの子のことだけだった。

「柊、お前はC組だ。間違えるなよ?」
「…はい」

生徒全員のクラス発表も終わり、各自が決まったクラスへと移動することになった。廊下へ出て、もう一度確認してみる。

「えっと、確かC組…だったわよね?」

先生に言い直してもらったにも関わらず、話の内容は全くウロ覚えな自分にほんの少し腑甲斐なさを感じた。

「そうだぞー、柊ぃ」
「…日下部?」
「私も峰岸もC組なんだってば」
「柊ちゃん、今年もよろしくね」
「…うん」
「そんじゃあ行くとすっかー!」

私達の教室は、二年の時の教室の真上に当たる場所だった。ちなみにウチの学校では学年が上になる程、教室も上の階になる。

新しい教室の前に着いて一呼吸置き、ドアを開ける。中に入って見渡すと…どうやらつかさとみゆきはいないみたいだった。それどころか、日下部と峰岸以外に知っている人がほぼいない感じ。

「………」
「残念だなー、柊。妹はいないみたいだぜ」
「柊ちゃん、元気出してね?」

日下部と峰岸、二人から同時に肩を叩かれる。確かに…つかさとみゆき、一回も同じクラスになれなかったのは悲しい。この二人がいてくれるだけ、私にとっては十分にありがたいのよね…。

いつまでも立って話している暇はないので、名簿を確認し、自分の席を探す。私の座席は真ん中よりも少し後ろの方にあった。
そこに座り、もう一度教室を見渡してみるけどやっぱり知っている人なんていない。本当ならここで肩を落とすべきなんだろう…。だけど今はそんなことどうでも良かった。

あの子…なんでちゃんと式に出なかったんだろう?紅い目…あんなの見たことも聞いたことない。

…ふと思う。

つかさやみゆき、それに峰岸や日下部は別にして…、私は今までこんなにも誰かに興味を持ったことなんてなかった。他人と必要以上に馴れ合おうとはしなかった。

それなのに私…喋ったこともない、一目見ただけの人を気にしてる。
私、頭がおかしいのかな?それとも、もしかしたら何か………。


―――。


教室のドアが開く音で我に還る。先程までの考えをストップさせて、そちらに注目することした。さっきみたいにボケッとしてちゃいけない。

教室に入ってきたのはどうやら先生みたいだった。…って、あれ?入ってきたのはついさっきのクラス発表でもお世話になった、二年の時と同じ桜庭先生だった。ほぼ知らない人ばかりのクラスで、偶然にも二年と同じ先生に当たったことに大きな安心感を覚える。
これはきっと桜庭先生に好かれてるのかもしれない。つかさのクラスの黒井先生には…何とも言えないけど。

そんなことを考えているうちに、桜庭先生は黒板に自分の名前を大きく書きだした。恒例の自己紹介ってことだろう。

二年の時の桜庭先生の自己紹介を思い出してみるけど、参考になったのは名前くらいだっけ?こんなの、聞くより実際に話してみたほうが早いんだよね…。先生のこと、もう良く知っているから深く聴き入る必要もないよね…。

頭の中でそんなことを考え、窓の方を見る。二年の時とは違い、景色の良くなったこの教室は、私に三年生だということを実感させる。

それに、綺麗な青い空。また思い出してしまう。
あの長くて蒼い髪はまるで彼女自身を覆い隠す壁のようで、あの紅い瞳は人を寄せ付けない獣の眼光のように思える。
けど…私には凄く魅力的なものだった。

何故彼女はちゃんと式に出ていなかったの?
何故あんなに…寂しそうな顔を………

桜庭先生によるHRはすぐに終わった。今日は新しいクラスでの顔合わせだけで、授業はないらしい。
私は日下部と峰岸に別れを告げて廊下に出る。

「えっと…つかさとみゆきに連絡するべきよね」

そういえば、あの二人は何処のクラスなんだ?まさかまた二人とも同じクラスで、私だけが…

「あ、お姉ちゃん!」
「つかさ?」

声をかけてきたのは私の隣のクラスにあたるB組から出てきた妹。

「あんたB組だったの?」「うん、お姉ちゃんは?」「私はCよ」
「また隣のクラスになっちゃったね…」
「仕方ないわよ…。それよりみゆきは?」
「あ…、ゆきちゃんは………」

つかさは少し気まずそうな顔をしながら、自分が出て来たばかりの教室を見てる。…ああ、もう言いたいこと分かったわよ。

「つかささん、お待たせしました」
「そういうワケか…」
「えへへ…」
「あ、かがみさん。…また離れてしまいましたね」
「もう慣れたわよ、はは」

まさかまた私だけ違うとは。本当に、何かの陰謀なんじゃないかと疑ってしまう。………陰謀?

「ねぇ、もしかしてB組の担任は…黒井先生?」
「うん、そうだよー」
「黒井先生と…何かあったんですか?」
「いや、別に…」

またしてもやられた。私、黒井先生に何か悪いことしたのか?いや、今更何を言っても仕方ないことなんだけど…。

心の中で黒井先生の陰謀を疑いながら、私達は廊下を離れ、学校を出る。
登下校の時が一番落ち着くなんて何だか寂しいわね、私。
「それでは私は失礼しますね、また明日」
「バイバイ、ゆきちゃん」「またね!」

みゆきは私達と帰る方向が違うので、学校出てすぐに別れることになる。
だから妹のつかさと二人で帰るのも、もはやお馴染みってこと。

「そういえばね…今日私のクラスに転校生が来たんだよ」
「え、ホントに?あんた達のクラスだったんだ…」

朝から何度も気にしていた転校生のこと。それが意外にも身近なところから聞けるなんて思ってもいなかった。

「どんな子だったの?男?それとも女?」
「女の子だったよ。けど…」
「どうしたの?」
「何だかちょっと変わった雰囲気だったの…」

つかさはその時のことを思い出してか、首を傾げる。

「どういう意味なの?」
「あのね…外見は別に、普通なの。蒼くて長い髪をしてて…目の色がちょっと紅い感じの子だったかな?」「え…!?」

そのの説明を聞いて、驚きが隠せない。
まさか…あの時の彼女が転校生だったの?

「でもね…自己紹介の時に、なんというか…言っていいのかな、これって」

つかさは語尾を弱めながら何か考えてるようだった。そんなに意味深なことがあったんだろうか、自己紹介くらいで…。

言い辛そうなつかさには悪いけど、私はその話を聞きたい。何故か分からないけど、私は無性に彼女のことが知りたかった。

「…教えて、つかさ。何があったの?」
「えっと…、自己紹介の…時にね………」


―――。


私という世界に落ちた、蒼い絵の具は徐々にその色を広げていく。

何も知らない私は、それを受け入れる術を知らなかった。


to be continued?





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