3話 目の合わせ方

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「ホラ行くぞ!忘れ物ない?生徒手帳は?」
「あ、忘れた。」
「ったく。早くしなさいよ。」
「おはよー、お姉ちゃん。こなちゃんは?」
「おはよ、つかさ。こなたは生徒手帳取りに行ってるわ。」
「あ、いっけない。生徒手帳忘れてた!」
「・・・どいつもこいつも全く。」

眠い。結局寝たのは3時間くらい。なんだかんだでこなたの宿題が終わるまで起きてた。
今日から陵桜学園での3年間が始まる。なのにこの眠さ、だるさ、やる気なさ。幸先悪すぎ。

「ごめん、かがみ。生徒手帳、制服のポケットに入ってた。」
「お待たせ!生徒手帳、バックの中に入ってたの忘れてたよ。」
「・・・」

手のかかる妹がもう1人増えたような感覚。本当にこんな日が新学園生活の第一歩でいいのだろうか。

「あんた達ね・・・まぁ、いいや。早く行かないとバスに遅れるわよ。」
「そだね。」
「あ、待ってよお姉ちゃん、こなちゃん!」

相変わらず、こなたは無愛想。昨日、ちょっとは距離が縮まったと思ったのは、勘違いだったのかな?

「所でつかさ。こなちゃんって私の事?」
「そーだよ。こなた、だからこなちゃん!」
「やけに単純だな。」
「だってあだ名があった方が良くない?こなちゃんは?」
「んー、変なのじゃなかったらいいんじゃない?」
「じゃ、これからこなちゃん、って呼ぶね。」
「うん。」

つかさに対しても愛想がいいとは思えない。これがこいつのデフォなのか?
いつになったら、こなたは私に慣れてくれるのかな?いつになったら、心を開くのかな?
ちょっとした、高揚感。メランコリーな気分を吹き飛ばす。さぁ、楽しい1日の始まりだ。

「ホラ、早く行くわよ!」

変わりゆく普通。早く、この状況が普通になりますように。
天は青い。見事な快晴。私達の隣を駆け抜ける春風。甘い桜の香り。
いい1日になりそうだ。


‐‐‐‐


「あ、クラスが発表になってるよ。お姉ちゃんとこなちゃんと同じクラスがいいなぁ。」

中学校とは全く異なった校舎内、匂い、雰囲気。やっと実感できた私の成長。
1年生廊下の前に張り出されるクラス編成。目に写るのは何百というたくさんの名前。

「あ、こなちゃんと私同じクラスだー!1年間、ヨロシクね。」
「ヨロシク、つかさ。あれ?かがみは?」

やっとの思いで見つけた『柊かがみ』の傍には、『泉こなた』と『柊つかさ』はなかった。

「私はあんたの隣のクラスよ。ま、これであんたとつかさが忘れ物した時の頼れる人が出来たわけだ。」
「うっ・・・お姉ちゃんエスパー?」
「やるな、かがみ。」
「あんた達の考えなんかお見通しよ。じゃ、そろそろ私はクラスに行くね。」
「じゃ、私達もいこっか、こなちゃん。」
「うん、じゃ、またねかがみ。」

本当に不思議な奴だ。無愛想だと思ったら、今は微笑みながら私に手を振る。
正直、二人と同じクラスになれなくて、残念っていう気持ちもある。そんな自分も不思議だ。
そういえば、私の名前の近くには見慣れた2つの名前があった。

「おーっす、柊ぃ。久しぶりだなー!」

噂をすればなんとやら。中学時代に聞き慣れた友達の声。
黒と茶色のマーブル。にかっと笑った時にちらつく八重歯。子供みたいな笑顔。よく響く大きな声。

「おはよう、柊ちゃん。卒業式以来ね。」

爽やかなベージュ。さらさらとなびく髪。ヘアバンドで上げた前髪。優しく私の耳をくすぐる声。

「おー、日下部!峰岸!久しぶりね。もしかして・・・また同じクラス?」
「そーなんだよ。3年連続だな。また今年もよろしくなー。」
「あんたは相変わらずうるさいぐらい元気だな。ま、ヨロシク。」
「そういえば、さっき柊ちゃんと一緒にいた内の一人は妹ちゃんよね?あと一人は誰?」

あと一人。それは私の奇妙な同居人かつ新しい友達。でも、今のあいつの態度は本当に友達なのかな?

「それがさー、話すと長くなるのよね。」


‐‐‐‐


入学式。長い校長講話。先輩方のあいさつ。そして始業式。ちょっと退屈なのもお約束。
そんな行事も終わり、今は初めての昼休み。私の傍には日下部と峰岸。

「へー。こーいうのって不思議な巡り合わせって言うんじゃね?」
「不思議なのはあいつの方よ。何考えてるか分かんないし、あんまり話し掛けてこないし。」
「恥ずかしがり屋なんじゃないかな?」
「それか柊にびびってるとか!?」
「失礼ねっ!何もしてないわよ。」

中学から変わらないこの風景。変わったのは私の周囲だけ。
日下部と峰岸にこなたの事を話してみたけれど、考えている事は私と大して変わらない。

「でも柊ちゃん、よく知らない人を見て面白そうなんて思ったね。」
「度胸あるよなー。」
「んー。そこが自分でも不思議なのよね。」

取り敢えず、面白そう、とは言った。惹かれた、なんて恥ずかしくて言えなかった。
惹かれる。それは、男女間だけだと思ってた。それに、そんな感情は生まれてまだ1回もなかった。
だからこそ、信じられないからこそ、信じる気になったのかもしれない。

「じゃーさ、柊はそのちびっ子の趣味聞いたのか?」
「・・・え?まだだけど、何で?」
「あっちゃー。趣味聞かない事には始まんねーだろ。」
「・・・それは偏見じゃないのか?」
「でも、みさちゃんの考えは何気に的を獲てるかもよ?」

ふふふ、と微笑む峰岸。この笑顔が日下部の兄貴を落としたのかと思うと、すごく綺麗に見える。

「表面だけじゃ、分からない事ってたくさんあると思うの。例えば・・・ちょっと見た目がオタクみたいな人でも、中身が素敵な人ってたくさんいると、私は思うな。」
「おっ!あやのはいい事言うなー。」
「そうね。日下部には勿体ないお義姉さんかもね!」
「ひ、柊ちゃん!?」
「ふふっ、冗談だって。でも、なんとなく分かったかも、外交手段。」

そう、私はただ手に入れただけ。今まで見たことがない、とても綺麗な宝箱を。
中身はまだ見ていない。神話のように、もたらすのはパンドラの箱のような不幸かもしれない。
でも、私は信じる。私の手に入れた宝箱に詰め込まれたのは、幸福であると。


‐‐‐‐


『明日、宿題の答え合わせしようね。頑張ってね、柊ちゃん。土産話、聞かせてね。』
「あ、り、が、と、峰、岸、エクスクラメーションマーク、っと。送信。」

携帯電話のデジタル時計はもう23時50分を刻んでいた。それでもこたなの部屋からは、やはり光が漏れている。

「こんな時間まで何やってるのかな?よい子は寝る時間だぞ?またゲームか?」
「まぁね。」

やっぱり素っ気ない。返事も画面を向いたまま、私と顔を合わせない。

「ねぇ、こなた?」
「んー?」

パンドラも、こんな気持ちでゼウスからもらった箱を開けたのかな?でも、私は貴女みたいに、不幸にはならない。

「私も、そのゲームに付き合っても良いかな?」
「えっ?あの、その・・・それは・・・」
「いいでしょ?あんたのパソコンの音のせいで眠れないんだから・・・責任とりなさいよ。」
「・・・仕方ないな。いいけど・・・がっかりしないでよ?」
「それってどういう意味・・・ってちょっとこなたっ!?」
「だから言ったじゃん・・・」

画面に映るのは、可愛らしいアニメーションキャラ。セリフにはこなたくん、と書いてある。

「こなたさん、これ、もしやいわゆる・・・」
「はい、ギャルゲーですが・・・」
「しかも・・このキャラ・・・」
「あっ、やっぱり?このキャラかがみに似てるよねー?」

赤いセーラー服。長いツインテール。つり目。不覚にもそう思ってしまった。それと同時に、鼓動が早くなったのは気のせいじゃない。

「ま、いわゆるオタクですが何か?」
「・・・いばるな。全く・・・昨日といい今日といい。あんたといると退屈しないわ。」
「それって褒めてる?」

ありがとう。私のインスピレーション。同居人は、ちょっとどころじゃなく変わった友達。

「当たり前よ。これからも退屈しない毎日にしてくれるんでしょ?」
「望むところだよ、かがみん。まかせたまへー。って事で宿題貸してー?」
「またかよ!ギャルゲーやる前に勉強しろ!」

ギャルゲーとか、ツンデレのような単語を当たり前のように口にする少女。戸惑ったけど、やっぱりパンドラの箱じゃなかった。
今は、こなたのエメラルドがよく見える。私の目を見て、笑っているから。これだけで、今日は大収穫。


‐‐‐‐



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