4話 友達の作り方

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こなた。こなちゃん。そう呼んでくれるトモダチが出来て約3ヶ月。最近は泉さん、と呼んでくれるトモダチもできた。

「ふぅ・・・」
「何よ、ため息なんてついちゃって。」
「んー、何でもないよ。」

中学校に通っていた時には想像していなかった今。あの時は、トモダチって言える人は何人いたかな?

「・・・私が夕飯当番だからか?」
「・・・それもある。」
「オイっ!それは偏見だぞ!?私だって上達してるんだから。」
「冗談だよ。」

そう言いながらも私の鼻をかすめる焦げた匂い。かがみめ、鮭を焦がしたな。

「何かあったら言いなさいよ。私で良かったら相談にのるわよ?」

私の記憶では、こんなセリフを言うのはアニメのキャラだけだった。
現実では聞いたことがなかった。だから、私の口からはため息がでる。

「ふぅ・・・じゃあ、夏休みの宿題を・・・」
「それは断る。ていうか、まだ夏休み始まってないだろ?」
「予約だよ、予約。」
「意味が分からん。ギャルゲーもいいけど、いや、ホントは良くないけど・・・宿題は自分でやりなさい!」

頭の中を捜して見付かった記憶。そこに映るのはお父さん。
一生懸命、世話をやいてくれるお父さん。一緒にゲームしてくれるお父さん。ギャルゲーを一緒にやってくれるお父さん。

「明日が終業式だっけか?」
「そうよ。午前中で終わりだったはず。だからお弁当は無し。良かったわね、早起きする必要なくて。」
「そだね。今日はゲーム漬けかな。」
「じゃーさ、この間のシューティングゲームやらない?少し練習したんだ。」
「いいよー。」

でも、今私に刻まれるメモリーに映るのは、かがみ。私を怒ってくれる。私を気に掛けてくれる。私に笑ってくれる。

「ふっ。かがみが負けたら夏休みの宿題見せてね。」
「それは断る。」

だから私は笑ってしまう。かがみにつられて。幸せを感じている、自分が、おかしくて。


‐‐‐‐

「でね、間違って酢の物にバルサミコ酢使っちゃったの・・・」
「どんだけよ?」
「むぅ。つかさにもドジっ娘属性があったとは。」
「あ、あれゆきちゃんじゃない?」
「ホントだ。おーい!みゆきさーん!」

早くも夏の日差し。綺麗に咲き誇っていた桜に変わり、今は緑の葉が木々を覆っている。
今校門の近くに映える桜色の髪。羊のようにモフモフしている。
私の声を聞いて振り替える女性。私達に微笑みかける姿は、高貴なお嬢様のようだ。

「おはようございます、泉さん、つかささん、かがみさん。」
「おはよー、ゆきちゃん。眠そうだね?」
「おはよ、みゆき。遅くまで勉強?」
「勉強ではないんですが・・・虫歯がまた痛みだしまして。気にしていたらいつの間にか夜中だったんですよ。」
「あー!分かるかもそれ!虫歯って気になるよね?」
「歯医者に行けばいいのですが・・・お恥ずかしながら怖くて行けないんですよ・・・」
「みゆきさん、あなたって人は本当に得だよね。」
「もっと一般人に分かるように説明してくれ。」

つかさとみゆきさん、そしてかがみ。その中を歩く、私。
つかさとみゆきさんの緩い会話。私のディープなコメント。かがみのツッコミ。
そして、かがみと二人で暮らす。これが今の、私の、普通。

「あ、そういえば午後どうする?みゆきは暇?」
「はい、今日は特に用事はありませんよ。」
「じゃあさ、皆でどこか行かない?つかさは?」
「私賛成!4人でどこか行こうよー!いいよね、こなちゃん?」

嬉しい。楽しい。最近はそんな感情ばっかり。これが『トモダチ』。
だから私は、分からなくなる。戸惑う。頭が真っ白になる。

「うん。いいよ。」
「じゃ、決まりね。皆行きたいトコ考えといてね。それから・・・」

かがみの声を聞きながら、私は扉を閉める。私は器用なのかもしれない。
そして、いつものように、自分に話し掛ける。私は本当に皆の、かがみの友達なのかな?


‐‐‐‐

「えー、この式がXの解になるので、右辺の式を整理してみると・・・」

教室から見える空。ゆらりゆらりと動く雲。あの雲はチョココロネみたい。
チョークが生む音。黒井先生の声。重なるように響く飛行機の飛ぶ音。ぼーっとしていても私の中で反響する。
それと共鳴するように、3つの声がする。


『こなちゃん』
『泉さん』
『こなた』


みんなと仲良くなればなるほど、分からなくなる。どう接したらいいんだろう?どう笑えばいいんだろう?
どうすれば、つかさ、みゆきさん、そしてかがみに伝えられるのだろう?
私が、皆といて楽しいと思える事を。皆にも私といて楽しいって思って欲しい。
大切な友達だから。

「以上の事からXの解は3ちゅー事になる。ここ、テストに出すでー!」

でも、大切な友達だから、いつも皆と一線を引いていた。勝手に壁を作っていたんだ。
オタクは隠したくなかった。皆を騙しているような気分になるから。
嫌われたくない。そう思うから、私は変われない。なくさない為に、得ようとはしてこなかった私。
無機質、無表情、無関心。ずっと装備していた鎧。外したい。でもやっぱり、恐がっている私がいる。

「前回のテストで悪い点とったヤツ、覚えとき!・・・泉?おい泉!」

いつも、話し掛けてきてくれるつかさ、みゆきさん。そしてこんな私を、一番に受け入れてくれたかがみ。
だから、変わりたい。本当に大切だから。初めて、欲しいと思った『友達』。
装備を外して、壁も境界線も壊して、生身で皆と友達になりたい。
ううん、なりたい、じゃダメだ。なろう。怖くても、一歩を踏み出すんだ。頑張れ、こなた。

「泉っ!ぼけっとすな!」
「ふぎゃっ!」


‐‐‐‐

「なぁ、こなた?この状況を説明してくれないか?」
「あ、私が説明させていただきますね。私とつかささんは特に行きたいところがなかったので、今日は泉さんに任せたんですよ。」
「そーゆう事。私はここに来たかったんだよ。何故ならば、私がオタクだからだよ。」
「だからって・・・女子高生4人でアニメイトに来るか普通?」

やっと終わった1学期。明日は休み。今日は何をしよう?
いつもだったら、そんな事を考えてたのに、今はそんな余裕がない。
ちょっとだけ震える体。小さな体から振り絞って勇気を出してみた。みんなをアニメイトに。それが苦肉の策。無い頭を絞って考えた結果。

「私は賛成だよ!だってオモチャ屋さんに来たの久しぶりだもん!」
「つかさ、ここはオモチャ屋じゃないよ。日本国内で最大のアニメグッズの販売店なのだよ。」
「なんだか子供の頃に戻ったような気分ですね。」
「あ、ケロロ!見て見て!ゆきちゃんケロロ軍曹って知ってる?」
「名前だけは聞いたことがありますよ。可愛いですね、このカエルさん!」

アニメイトには似合わない二人がはしゃぎながらフィギュアを見つめる。

「ったく・・・みゆきまで夢中になって。」
「嫌、だった?」
「え?」

得意になっていたのかもしれない。ギャルゲーを一緒にやったから。かがみは受け入れてくれる。そう、勝手に決め付けていた。

「ごめんね、無理矢理で。でもね、つかさにも、みゆきさんにも、かがみにも、本当の私を見て欲しくて・・・」
「本当のこなた?」
「嫌われてたくないけど、でも・・これが私だから・・皆とは、かがみとは、別世界の人間だよ。」

嫌われたくないから、怖いから、大切だから、初めてだから。
だから、私を、曝け出したい。すべてを皆に。失敗しても後悔しない。

「それでも、今更だけど、『友達』になってくれませんか?」

言いたい言葉。伝えたい想い。これを皆に、かがみに届けられないほうが、ずっと後悔するから。


‐‐‐‐

沈黙が続く。店に流れるアニソン。でも今はよく聞こえない。聞こえるのは私の心臓の音だけ。
沈黙に耐えられなくて、かがみの顔を見る。そこには、いつもの凛とした笑顔があった。

「バーカ!私はあんたに、嫌だ、なんて言った?」
「・・・言ってない。」
「だったら、それでいいじゃない。私達もう、友達、でしょ?それに・・・私は、つかさも、みゆきも、アンタがオタクだって知っていて、アンタの傍にいるのよ?言っている意味、分かる?」

頬がどんどん緩んでいく。耳が熱くなっていく。同時に、鎧が音を立てて崩れるのが分かった。
やっと、始まるんだ。

「ナイスツンデレ!」
「う、うるさいっ!ツンデレとか恥ずかしいから言うなっ!」
「いいじゃん、本当なんだからさー。かがみは萌えるよ?」
「うるさぁーいっ!」

その瞬間、おでこに鈍い痛み。かがみのデコピンが私のおでこを打つ。

「いった!かがみん酷いよ・・・」
「ふん。仕返しよ!」

怒った口調。それでも、かがみは満面の笑みで私にあっかんべーをした。

「あ、その表情もなかなか萌え・・・」
「またやられたいのか?」
「お姉ちゃん!ちょっと来てー!これ見てよ!」
「ホラ、つかさが呼んでるよ!」
「運の良い奴め。また言ったら宿題見せないからなっ!」

そう言いながら、つかさとみゆきさんの元に駆け寄ってゆく。
デコピンされた場所がやけに熱い。でも、痛くない。熱い場所を私は優しく撫でる。

「へへ・・・」

零れ落ちる笑み。今の私の顔、どうしようもなくニヤニヤしているんだろうな。でも、それが嬉しい。

「こなたー!ちょっと来てよ!」
「色々教えて欲しいのですがよろしいでしょうか?」
「こなちゃん、早くー!」

初めて得た物。その代償はおでこの細胞。余韻に浸る暇もなく、友達が私の名前を呼ぶ。

「うん!今行くよ!」

始まった夏。そして、鎧のない、無防備な私の冒険が始まる。
でも、もう怖くない。みゆきさん、つかさ、そして大切な同居人、かがみ。皆がいるから、大丈夫。
これからは、1秒もムダにできないストーリー。


「ありがと、よろしく。」



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