うつるもの6

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空はもう完全に暗くなっていた。
街灯が街を薄暗く照らす中を、私は走り続ける。
早いペースで吐かれる白い息が、夜の寒さを証明する。

はぁ、はぁ……げほっ……はぁ、はぁ………。
ずっと走り続けていたせいか、両脚に激痛が襲う。
体力も、とっくに限界を超えている。
「ぁっ………」
ふわりと私の身体が宙に浮き、そのまま地面に倒れる。
「いたた………」
こんな、なんにもないところで転んじゃうなんて……。
もしこなたに見られたら、またからかわれちゃうな……。
『かがみぃ~、こんなところで転んじゃうなんて、もしかして、ドジッ娘属性もあったのかな~?
ツンデレにドジッ娘……。よくゲームにでてくるパターンだねぇ~??
また1つかがみんの魅力に気づいちゃったよ~♪
でも、俺の嫁なんだから、ちゃんと身体を大事にしてよね~?』
こなたのニヤニヤ顔と独特間の延びした声が浮かぶ。
―――こなただけじゃない。
『信じてます、かがみさん』
うん―――。そうだよね―――。
『お姉ちゃんが、できないことなんてないよ!』
みんな、私を信じてくれてる――。みんな、私を支えてくれてる――。
『こなたを……頼んだよ』
近くからも―――。
『……あの子を……お願いします』
彼方からも―――。

みんなの気持ちを、無駄にできない。
私の覚悟を、曲げられない!!
「しっかり……しなさい……!今だけでいいから……!!」
振り疲れた腕を叱咤し、疲労困憊の脚に力を込め、なんとか立ち上がる。
痛っ……。
今までとは違う痛みを感じ、見ると、右脚から赤い鮮血が流れていた。
転んだ時に怪我しちゃったみたいね……。
でもこれくらい、どうってことない。
こなたへの気持ちを我慢していた頃に比べたら、ちっとも辛くない。
『わあぁ!お姉ちゃん、その脚どうしたの!?』
『かがみさん、すぐ消毒しましょう!菌が入ってしまうと大変です!』
『かがみん何してたの?もしかして獣人と戦闘してその程度の傷っていうわけじゃ……』
頭だけは、ちゃんと働くみたいね………。
『誰が戦闘するか!』
私も、『いつものみんな』の中に入る。
こなた、聞こえてる?
私はね、そんないつもの風景を取り戻しに来たの。

あなたを取り戻しに来たの。
わたしを―――――取り戻しに来たの。



それだけを、その場所だけを目指して、走り出した。
さっきまでの疲れが嘘のように消え、脚の傷の痛みなんて少しも感じなかった。
まるで、昼に屋上の空を祝福していた神様が、今度は私を祝福してくれてるみたいだった。
―――ありがとうございます、神様―――。
心の中でお礼を言った。



見慣れた建物が、見えてきた。
そう、そこは―――学校。
やっと着いた……!!
こんなにも望んで、強い思いを抱いて校門をくぐるのは、初めてだった。
「こなた……!!」
早く探さないと……!!
校舎の中は昼とは違い、多分つかさなら怖がってその場から動けなくなるくらい、真っ暗。
………………私も正直、怖い。
けれど今はそんなこと言ってられない。
感覚を頼りに教室を目指し、月明かりに照らされた廊下を駆け抜け、扉を開ける。
そこには暗闇に覆われた光景が広がっていた。
「こなた……?」
呼び掛けた相手の有無を確認するように、名前を呼ぶ。
存在が認知出来るのは、机と椅子と窓と黒板。


………こなたの姿はなかった。


まだ――。
まだ1つしか見てないじゃない。
まだこなたがいないって決ったらワケじゃないわ。


――窓には、少し陰った月がうつっていた。


私はやみくもに探し回る。
けれどその姿はない。


こなた、何処にいるの……!?
こなた、こなた、こなた……!!
ねぇ、隠れてないで、出てきてよ!!
こなた、お願いっ!!私の願いに応えて……!!


私はその名前を呼び続けた。
けれど声は闇に吸い込まれていくだけだった。



最後の教室――――。
私はすがるような思いで扉を開ける。



熱いものが込み上げてきて、視界が歪む。



そこにも、私の求めてる姿はなかった――――――。



まだ……まだ……。
そう思いたい。だけど、もう探す場所がない。
もう一度探してみよう……。


ほんの数十分前まで気にならなかった疲れと痛みが、徐々に襲ってくる。


それでも私は来た道を戻りながら、一つひとつ見て回る。




けれど、どこの教室もあるのは暗闇だけ。


漆黒の空にたった一つ浮かぶ光。


空の教室を見る度に、その光も暗雲に覆われていく。


さっきまで私の中であんなに強い意志という名の光を放っていた心は、
今ではとても弱々しい、今にも消えてしまいそうなほど儚いものになっていた。




スタートラインだった教室。
今、そこに私は戻ってきた。


これが最後。


………怖い。
もしこなたがいなかったら………。
ううん、いない確率のほうが高い……。



『扉をあける』という、誰でも日常的にやっていること。
今の私にはそれが計り知れないほどの恐怖の対象だった。


―――こなた―――。


震える手で、扉を開けた。


――――あったのは、どこまでもつづく暗闇。



………こなたぁ……。
ねぇ……どこなの……?
……もしかして……違ったの……?
こなたの望んでいたことは、私の望んでいたことと違ったの……?




私の中の僅かな光さえも、闇に――――。




月明かりが照らす僅かな光の中。


そこにうつるもの――――。


私の心の闇の中を、一筋の光が差し込み始めた。


小さな身体。
蒼の長い綺麗な髪。
頭に象徴を主張するようにあるアホ毛。
右目の下の泣き黒子。
エメラルドグリーンの瞳。



私の目にうつるもの―――。



一筋の光が、一瞬で大きくなった。




「こなたぁっ!!!」
私はその名前を呼んでいた。
また走り出していた。
さっきまでの辛さを少しも感じなかった。


私の心は、完全に光を取り戻していた。


そこは――――




―――3年C組。私のクラス。



こなたはいてくれた。
私が思ったところに。


その小さな身体をさらに小さくして、膝を抱えて座る姿がそこにあった。


「こなた……!」
私はただただ嬉しくて、その名前を呼ぶ。
「か、かがみ……?」
こなたは対照的に、暗く小さな声で私の名前を呼んだ。
「本当にかがみなの………?夢とかお化けじゃない……?」
「そうよ……」
「さっきのも、夢じゃなかったんだ……」
こなたはびっくりしたような顔になった。
「こなた……な、なにやってたのよ……?」
息があがってしまい、単純な言葉しか話せないのが、もどかしい。
「今日休んだ分のノート写させてもらいたいから、かがみが来るのを待ってようかなって……」
「何時間……待つつもりなのよ……!」
「6時間でも12時間でも24時間でも……。かがみが朝に登校するのを待ってるつもりだったよ。
ほら私、ネトゲのモンスターの出現待ちとかで、待つのには慣れてるしね」
放課後から朝まで。
半日を越える時間。
わざわざ制服をきているし、本気で待つつもりだったんだろう。
「もう……!何言ってんのよ……!」
こなたが言っていることが建前だっていうのは分かる。
……何で……。何でそこまでするのよ……。
私のためにそこまでしてくれたのはすごく嬉しい。
だけど、こなたがそんな辛い思いするようなことしなくていいのに……。
悪いのは私なんだから、辛いのは私だけで良いのに……。
「……かがみはどうしてこんなところに……?もしかして、忘れ物?
人に見られちゃマズイ物だから、夜に取りに来たのかな~?」
「バカ……。アンタを探してたのよ……!」
「えっ………?」
こなたは驚いたような顔になる。
「かがみが、私を……?」
「そうよ!な、なんかおかしいの!?」
もう息は整っていた。
「かがみはやっぱり優しいね……。私なんかのこと、探してくれてたんだ……」
「当たり前じゃない……!」
だって、こなたに会いたかったから……!
「…………ありがとう」
「私がそうしたかったからやったのよ。だから、お礼を言われる資格はないわ」
そう、これは私の意志――――。
だから私は今、こうしてこなたの前にいれる。
「私もかがみに会いたかった……。だから、学校に来たんだけど、もう放課後で……。
かがみがいるわけなかったんだよね……」
「こなた………」
待たせてごめんね……。
もっと早く気づいてあげればよかったのに……。
「かがみ、ごめん」
「こなたは謝らなくていいの。だって―――」
「何も言わないで良いよ。私、分かってるから……」
「違うの!」
「私、何か怒らせることしちゃったんだよね。だから、私のこと、最近避けてるんだよね……」
「こなたのせいじゃ―――」
言い終わる前に、言葉が止まった。
小さな身体が、小さな声が、小さく震えていた。
「ごめん……ごめん……なさい……。私……何でも……するから……かがみが……
して……欲しいこと……絶対……するから……許して……かがみ……お願い……」


こなたが……あのこなたが、泣いてる……。
いつもふざけたことばっかり言ってるこなたが……。
いつも私の宿題を写してばっかりのこなたが……。
いつも猫口で私の名前を呼んでくれるこなたが……。
いつも私の隣にいてくれたこなたが……。

私の好きな――ううん、愛してるこなたが……。


そのこなたが、泣いている。


こなたに悲しい涙を流させてるのは誰――?
――私だ。

なら、私のすべきことは何―――?
――それは、私が一番よく知ってる。

「こなた、ごめんね………」
「えっ……?」
私は、こなたをぎゅっと抱き締めた。
「謝らなくちゃいけないのは、私……。ごめんね……。
私にもっと勇気があれば、こなたにこんな悲しい思いをさせずにすんだのに……」
「かがみ……どうゆう……こと……?」
私は、こなたを抱き締めていた手を離し、こなたと向き合う。
「私、こなたのことが好き。世界中で一番好き。誰よりもこなたを愛してる」
「えっぇっ……?」
こなたの顔が、見たことがないくらい真っ赤になっている。
「ずっと、自分の気持ちを抑えてた……。こなたに迷惑かかるって思って。
それにもし伝えて、それで断られたら、こなたと、それからつかさやみゆきとも一緒にいられなくなるって……」
辛かった。でも、それが最善の策だと思ってた。
「だから、こなたと少し離れて気持ちを消そうって思ったの。
でも逆に、気持ちはどんどん大きくなっていちゃって……」
そう、自分の気持ちにウソはつけない。
「こなたが今日休んで……つかさとみゆきに呼び出されたわ。
そこで二人に言われて、やっとこなたと向き合う勇気が持てたの」
こなたは呆然としていたけど、すぐハッとなったように慌て始める。
「でも私、背も小さいし、胸もないし、オタクだし、アニメとゲームとマンガの
話ばっかりだし、勉強出来ないし、宿題も写してもらってばっかりだよ……?」
「バカ……。そんなところも全部好きなのよ」
こなたの全部。良いところも悪いところも。
その全てを、私は好きになったんだ。
「かがみ……」
こなたが、顔を伏せる。
「でも、女………だよ………?」
こなたもやっぱりそう思ってたんだ……。
でも、私の答えはもう出てる。
「私もずっと悩んでた……。でもわかったの。
私は一人の人間として、こなたを好きになったんだから、性別なんて関係ないって」
「ぁっ……」
「だから、こな――」
「かがみッ!!」
こなたが抱きついてきた。
「私もかがみのことが好き!」
「こなた……!」
私もこなたを抱きしめ返した。
「私も怖かったんだ……!かがみ、普通に彼氏とか作りたいみたいだったから……。
だから、身近に自分のことを好きだと思ってる『女』がいたら、距離を置かれると思った。
そしたら、今までみたいに、かがみと一緒にいることも出来なくなる……。
それだけは、絶対嫌だったんだ……。だから、隠そうと思った。
少しかがみに触れたり、私の嫁だって言うくらいなら良いよね、って自分に言い聞かせて、
それで我慢しようとしてたんだ。でもかがみはそれも嫌がってるみたいだった――。
だから、もう私はかがみの近くにいることを諦めたんだ……。
もう、私にはかがみの近くにいる資格をなくしちゃったから……」
それって――――私と同じ―――。
「でも、私は耐えられなくなっちゃったんだ……かがみが近くにいてくれないことに。
資格がないのに会おうとするのは、違反だってわかってたよ。
でも、自分の心にウソをつけなかった。
だから、無理やりにでも明日学校にくるまで、かがみを待ってることにしたんだ」
すごい……。こなたは私と違って、強いのね……。
「こなたは、自分でちゃんと正しい答えをだせたんだ……」
「実は……そうでもないんだよね……」
こなたはあはは、と笑いながら言いにくそうに言った。
「えっ?」
「実は私も、つかさやみゆきさんに色々言われてね……。
でも私、悪い想像ばっかりしちゃっててさ。それじゃダメだ!って思って、
今日休んでずっと考えた。それで、行動に移そうって決めたんだ」
「そうだったんだ」
つかさ、みゆき……本当にありがとう。
もし二人がいなかったら、私たちはきっと今ここにいなかった。
二人には、感謝してもしたりないわ……。
「ね、かがみ。私からも言わせて」
その時のこなたの顔は、力強かった。
「う、うん……」
「私もかがみのこと、1億年と2千年前から愛してる!!」
こなたの言葉が、私の心に何度も木霊する。
――嬉しい。
私とこなた、ちゃんと繋がってる。そんな気がする。
でも、不思議……。照れくさくなると、つい憎まれ口を叩いちゃう。
「もう、こんなときにもアニメネタか」
「いいじゃん。そうゆうところも好きでいてくれてるん……でしょ?」
「ば、バカ……。恥ずかしいこと言わせるな……」
「自分で言ったことなのに照れてるかがみ萌え♪」
こなたは、もういつものこなたに戻っていた。
「う、うるさいわね……!もう、せっかくのムードが台無しよ」
「むふふ、かがみ、かっこよかったよ~?あんなこと言われたら、誰でもイチコロだよ♪」
「そ、そうゆうこなたも、さっき私のお願い、なんでも聞いてくれるって言ったわよね」
「い、言ったけど、それが?」
泣いたことが恥ずかしかったのか、こなたは少し顔を赤くして言った。
「それじゃ、一つ聞いてもらおうかしら」
「でも良いの?一回限定だよ?」
「そんなこといつ言ったのよ?」
「七つの玉で召喚される大きな龍だって、一回でしょ?」
また適当な言い訳を……。
ま、でも良いわ。
何回でもだったら、何か弱味を握ってるみたいだし、それに―――。


「それじゃ、こなた……」
「かがみ、ここは全年齢対象の板だからね?それを踏まえた発言をしてよね?」
「そんな変なことなんて言わないわよ!」
もう……!まぁ、でも今の方がこなたらしいんだけどね……。
「で、なに?」
不思議そうに眺めてくるこなた。
私は、いつもと変わらない口調で言った。
「もう『俺の嫁』って言うの、やめてくれる?」
「えっ、なんで……?」
さっきまでの顔から一変、こなたの顔は不安の色に染まる。
色んな表情を見せるこなた。
もう少しこの顔をみていたい気もするけれど、憂慮したままじゃ可哀想だしね……。
「それはね――――こなたが『俺の嫁』だからよ」
ふふ、こなたがまた顔を真っ赤にしてる。
「か、かがみ……それって……」
私はそれ以上何も言わなかった。
お互いの考えは同じだから、言葉にする必要ないから。


「ねぇ、こなた」
「なに?」
「あれ、見てよ」
私がこなたを抱き締めていた片手で、ある物を指差した。
こなたが、うわぁっ、と驚いたような表情をする。
「満月だ……」
黒い夜空に浮かぶ、真ん丸な月。
さっきまであんなに翳っていたはずの光……。
それがいつしか、神々しく輝いていた。
吉田兼好は陰りがあるほうが良いって言ってたけど、私はそんなことないと思う。
だって――――。
「私たちの未来は、きっと円満よ」
「それは、鏡じゃ……?」
「月は私なの」
「え?それってどう言うこと?」
「……ヒミツ」
「むむ、隠し事なんて、酷いなぁ」
「仕方ないわね。こなたがウサギだからよ」
「えぇっ!何で私がウサギなのさ!」
「私に会えなくて、寂しくなって目を赤くしちゃったじゃない」
「むむぅっ……かがみのイジワル……」
「良いじゃない、好きな子にはイジワルしたくなるものよ?」
「それって、小学生の男の子と同じLvだよ……」
「な、何とでも言いなさい」
「むむむ~~」
私はこなたの耳元でこっそりと囁く。
「そうすれば、私たち、毎日一緒にいられるでしょ………?」
「うわ……か、かがみ、大胆……だね」
「ふふ、こんなときくらい、素直になってもいいじゃない?」
「やっぱり普段は素直じゃなかったんだね」
「ば、バカ………そうゆうのは言わないものよ……」
『色々』の一言ですませられないくらいたくさんのことがあった……。
そして私は今――――こなたとここにいる。
お父さん、お母さん。
『かがみ』って名前をつけてくれて、ありがとう―――。
私、神様の恩恵をうけれたよ―――。



私とこなたの回りにいてくれている、みんな―――








                   ――――ありがとう――――






              この世界には、約60億人もの多くの人がいる。

               その60億人の中で、私とこなたは出会えた。

             そして私たちは今――――‘辛’さが‘幸’せになった。

                        「こなた」

                       「何?かがみ」

                  「もうこなたのこと、離さないわよ」

                   「望むところだよ、かがみん♪」

                    わたしの目にうつるもの。

                      それは、泉こなた。

                      ――――最愛の人。





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  • やばい、感動してしもた…。 -- 名無し (2010-05-16 07:41:58)

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