夢の果てに得たものは(前)

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 夢。 夢を見ていた。 あ、別に某たい焼き少女の真似じゃないよ?
 それに、こんな夢を見ることになっちゃったのは、結局自分のせいなんだし。
 まさか、かがみに高校一年生の頃の話を振っただけで、あんな展開になる
とは思ってなかったからね。 そう、あんな昔話をしただけで――

――――――――――――――――――――――――――――――――

「はぁ~、こりゃ完全に待ち合わせ時間オーバーだね。 参っちゃうよ」

 誰かに話しかけている訳でもないのに、私は移動中の電車の中で
つり革に揺られながらぽつりと呟いていた。 加えて車内は朝のラッシュに
突入していることもあり、通勤や通学の人達でごったがえしていた。
 その光景は高校に入学してから間もない私の気を滅入らせるには、
大きなお釣りがついて来るほどに充分過ぎるものだった。

(う~。 よりにもよって、こんな日に寝坊しちゃうなんて、
 最悪だよ……。 二人になんて言えばいいんだろ)

 そして、私をへこませているもう一つの原因。 それは自分にあった。
 実を言うと、今日から新しい友達であるつかさ達と一緒に登校する
ことにしたのだが、待ち合わせ場所に派手に遅刻しそうなのだ。
 しかも、まさか自分から言い出した待ち合わせの時間に遅刻するなんて。
 つかさはまだしも、柊さんは全力で怒るだろうなぁ。 ……って待てよ。

(あれ? そういえば、つかさの方は名前で呼んでるけど、かがみは……)

 ここに来て、私はかがみの方だけ苗字で呼んでいることに気が付いていた。
 といっても、つかさに紹介されてからまだ一週間も経ってないから、当然と
言えば当然なのかな。 ……よし! 今日からはちゃんと名前で呼ぼうっと。

「ま、それ以前に今回の件を許してもらえるかなぁ。 そこが問題だよ」

 再びぽつりと呟いた私をよそに、電車が目的の駅のホームに到着していた。
 少しグラリと揺れながら駅のホームに収まった電車のドアが一斉に開く。 
 と同時に、今日の待ち合わせの相手達が私の目の前に現れていた。

 似ているようで全然違う特徴を持った双子の姉妹、かがみとつかさだ。
 そして、次の瞬間二人と目線が合った。 私はとっさに頭を掻きながら、

「ごめんごめ~ん。 遅れちゃったよ。
 朝の準備で少し手間取っちゃってさぁ」

 という様な感じで謝っていた。
 う~、我ながら下手な言い訳だなぁ。
 かがみに至っては相当怒ってるみたいだし。
 どうしよう、ここはとりあえず……



「あ、こなちゃん。 おはよ~」

 って、この微妙な空気を完全にスルーですかい! さっすがつかさ。
 う~、まあいいや。 これに乗じて、二人に挨拶を……

「おはよっ、つかさ! あと……。 
 え~っと、柊さんもおはよ~」
「えっ!? お、おはよう」

 あっ、あれぇ~? 何で苗字で呼んじゃったんだろ、私。
 やっぱり、一度定着した呼びかたって変えづらいのかな?
 だけど、かがみの方はどう思ってるのかなぁ。
 今だって色々考え込んじゃってるみたいだし。

「どうしたの、お姉ちゃん。 具合でも悪いの?」 

 いやいやつかさ。 それ多分私のせいだからさ、私の。
 よ、よ~し。 それじゃあ今度こそかがみをちゃんと名前で……

「ううん、なんでもないわよ。 とにかく、早く駅から出ましょ。 
 じゃないと、ホントに遅刻しちゃうもの」 
「そうだね。 それじゃあ急ごっか、こなちゃん」
「はいは~い、柊さんもああ言ってるしね」

 ぐわぁ~! 何でまた失敗してるのさ~。
 朝日が目に染みるよ、全くさ。
 だけど、このままじゃどうしようもないな~。

「よし、それじゃあさっさと急ぐわよ!
 ……あ、言い忘れてたけど、私今日は学級委員会で遅くなるから、
 放課後になったら先に二人で帰っててくれないかな?」
「うん、いいよ~。 ね、こなちゃん」
「えっ? あ……うん」

 その後、私はしっかりと自覚できる程もやもやした気持ちで
一日を過ごすことになった。 授業でうっかり寝ていた時も、
チョココロネを食べていた時も、雑誌を見ていた時も、
そのもやもやを拭うことは出来なかったわけで――


「こなちゃん。 もう放課後だよ、早く帰ろ?」
「ん……。 もう放課後かぁ」

 結局、あっという間に放課後になってしまった。
 変わった出来事といえば、世界史の授業で居眠りしていた時、
担当の黒井先生にコツンとやられたくらいかな。
 でも、あの先生ど~も私と似たような匂いがするんだよね。
 今度じっくりと話してみよっかな。 それに……

「こなちゃん、大丈夫? なんかぼ~っとしてるけど」
「えっ? ああ、大丈夫だよつかさ。 心配しないで。
 それより、後は肝心な人を待つだ……」

 そう言いかけた瞬間、私は自分の机に両手をついていた。
 しまった。 かがみは今日、これから学級委員会に出るんだった。
 だから、今日は一緒に帰れないって今朝私たちに言ってたじゃん。 

 う~、これじゃあかがみとうち解けられないじゃないのさ~。
 って待てよ、うちのクラスの方の学級委員って確か……

「そっ、そうだっ!」
「わっ。 びっくりしたぁ」
「つかさっ! 高良さんってまだ近くにいるでしょ?」
「う、うん。 ていうか、もの凄く近くにいるよ。 ほら」

 つかさが反射的に指さしたすぐそこに、彼女はいた。
 容姿端麗、品行方正、加えて眼鏡っ娘という、まさに委員長
というキャラがそのまま具現化したような人だった。
 どうやら学級委員会で使う資料の準備をしているらしく、
机の中から数枚のプリントを出して鞄に入れているのが見えた。

「高良さ~ん。 ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 おもむろに高良さんの机に向かって呼びかけてみる。
 すると高良さんは少し申し訳なさそうに左手を頬に
当てながら、私の方に振り向いていた。

「すみません、泉さん。 これから委員会がありますので、
 ご要望にお応え出来ない可能性が……」
「いやいや~、そんなに考え込まなくたって大丈夫だよ。
 その委員会に出てもらうっていうのが重要なんだから」
「えっ、そうなんですか? それなら大丈夫かもしれませんが……」

 高良さんは、呆気にとられた様な表情で私を見つめていた。
 ま、仕方ないよね。 私だって今の今までこんなこと考えつきも
しなかったんだから。 さて、後は……

「あ、あとつかさにもお願いしたいことがあるんだけど」
「いいよ~。 私に出来ることがあったら、何でもするよぉ」
「ありがとっ、つかさ。 それじゃあ本題に入るね。 実は……」

 今さっき思いついた妙案を二人に説明していく私。
 春眠を繰り返していた授業中も、このくらい頭が回ればいいのに。

「ていう訳なんだよ。 どうかな?」
「うん、いいよ~。 お姉ちゃんとこなちゃんの為だもん」
「ええ。 そういうことならお力になりますよ」  
「ありがと~、二人とも。 恩に着るよ。
 それじゃあ早速行動開始だぁ!」

 今考えると、この頃の自分はものすごく照れていたんだと思う。
 だって、二人にこんな無茶な頼み事をしてまで、かがみと話す
機会を作ろうとしていたのだから――


「遅いなぁ、高良さん。 何かあったのかな?」

 行動を開始してから約一時間後、学級委員会が行われていた
会議室の廊下の壁に寄りかかっている私がいた。
 そして、さっき閃いたこの作戦についての概要を確認してみる。

 私が考えた作戦はこうだ。 まず高良さんには委員会が行われる
会議室でかがみをほんの少しだけ足止めしてもらう。
 そして頃合いを見て高良さんの方が先に会議室を出てその直後に
私が中に突入して二人きり。 といった感じだ。

 そして、つかさには予定通り先に帰ってもらうことにした。
 明日になったらたくさんお礼を言わなきゃね。

(そんでもって、後は私がちゃんとしなきゃね、よしっ)

 ぐっと右手を握りしめて改めて気合いを入れ直す。
 そんな最中、目標の会議室のドアが静かに開き、
中から出てきた高良さんと目が合っていた。
 私は、握りしめたままの拳を素早くパーの形に戻し、
そろそろと高良さんに近づき、ひそひそと話しかけた。

「どう、うまくいった?」
「ええ。 かがみさんはまだ会議室の中にいらっしゃいますよ。
 ですが、私はこれといってなにかしたわけでは……。
 実を言うと、かがみさんの方から私に話しかけて来てくれましたので」
「あ、そうだったんだ~。 それで、どんな話をしたわけ?」

 私がそう聞き返すと同時に、高良さんは少し複雑そうな顔をしながら、
なにやら考え込んでしまった。 しかし、それからジャスト五秒後。
 高良さんは急に元の笑顔に戻ると、

「ふふっ、秘密です」

 と言いながら、人差し指を唇に軽く当てていた。
 ……何か、ものすごい勢いで誤魔化されたような気がする。
 だけど、そんな満面の笑顔でそんなこと言われたら、
逆に聞き返せないじゃないか~。 まあ、ここまで真剣に
協力してくれたんだし、いちいち確認するのも失礼ってもんだよね。 

「……よぉ~しっ! じゃあそろそろ行ってくるよ」
「頑張って下さいね、泉さん」
「うん! 色々ありがとねっ」

 ぶんぶんと手を振って高良さんに別れを告げた私は、
足早に目の前にある会議室のドアに手をかけた。


 刹那、言葉では表現できない緊張感に襲われ、私は唾を飲み込んだ。
 この先に、かがみがいる。 ごく最近に知り合ったばかりの新しい友達。
 だけど、迷っている暇なんてない。 前に進まなきゃ。 そう思った瞬間、
私はドアを開けていた。 と同時に、正面からかがみの声が聞こえていた。

「い、泉さん?」
「あっ。 やっと見つけたよ~」 

 うっ、いきなり第一声が、『見つけたよ~』
はまずかったかな。 何かもの凄い違和感が。 

「見つけた~もなにもないわよ。

 つかさと一緒に帰ったんじゃなかったの?」
「いや~、なんとな~く柊さんのことが気になったと
 いうかなんというか……。 あ、ちゃんとつかさには
 事情を説明してきたから、心配しなくていいからね」

 懲りずに名前で呼んでしまっている自分がいたが、
話題を維持するので精一杯でそれどころでは無い。
 それに、朝の時は悪い思いさせちゃっただろうし、
ここは正直に……

「まぁ~、なんて言うのかねぇ。 朝の時の柊さん、
 少し様子がおかしかったからさ。 それで……」
「えっ? それでこんな時間になるまで私を待ってたわけ!?」

 私自身、まさかこんなに時間がかかるとは思ってもいなかった。
 ま、こうやってちゃんと話せているんだから時間なんて関係ないよね。
 ……ゴールデンタイムのアニメだってちゃんと録画予約頼んできたし。

「ま、そういうことになるよね。 思ってたより待たされちゃったけど」
「なるほど、そういうことだったわけね。
 だけど、つかさには改めて説明してあげた方がいいわよ。
 あの子だって、泉さんと帰るの楽しみにしてたハズだから」

「うっ…… そうだね、つかさには明日話しておくよ」

 ……かがみの言う通りだった。 私一人のわがままのせいで、
こんなことになっちゃったんだし。 ううっ、ダメダメだよね、私。
 一方、かがみの方はというと、顔を曇らせたままの私をじっと
見つめた後、ふうっと息を吐きながら静かに喋り出していた。


「……まっ、ちゃんとわかってくれたみたいだし、
 朝のことも含めて全部許してあげよっかな」
「えっ、ホント!?」

 瞬間、自分の顔が一気に綻んでいくのを感じた。
 それだけ、かがみがかけてくれたその一言が、
嬉しくてたまらなかったってことなのかな。

「うん。 だから、もう帰りましょ」
「そうだね。 それじゃあ、早くバス停に行かなくちゃ。
 もうすぐ、バス来ちゃうもん」
「……」

 さりげなく歩き出しながら伝えた私の言葉に対して、
不思議とかがみからのリアクションが無かった。
 振り返ってかがみを見てみると、青紫色の瞳を宙に
浮かせたまま、何やら物思いにふけっているようだった。

「どったの? ぼ~っとしちゃってさ。
 早くしないと置いてっちゃうぞ~」
「あ、ちょっと待ちなさいよ~」

 私の一言で我に返ったかがみは、急いで鞄を
持ち直しながら、歩幅を合わせて一緒に歩き始めてくれていた。
 そんなかがみのさりげない行動に優しさを感じながら、
私達はスクールバスの発車所へ向かうのであった……


「ふう、やっと駅まで来れたわね」
「そだね~。 結構時間かかったよね」

 傾きかけた夕日が斜めに差し込み始めた頃、私は駅の
ホームに立っている柱に身を預けながらかがみと話していた。
 ホームの周りは帰宅ラッシュの影響でにわかに混み始め、
朝の時とは違った雰囲気に包まれていた。  

(それにしてもかがみって、アニメや漫画の話には少し疎いみたいだね。
 ……ふふ、まあこれからちょっとずつレクチャーしてけばいいかっ)

 自分が乗ろうとしている電車の案内放送を聞きながら、
バスの中でのかがみとの会話を思い出し、自然と頬が緩む。
 だけど、もうすぐお別れだ。 なんか寂しい。 


「んじゃ私、この電車に乗ってくからさ。
 柊さんも、気をつけて帰ってね」
「あ、うん……」

 それに、結局かがみのことを名前で呼べなかった。
 何度も勇気を出そうとしてるのに。 だから私は……

「こっ、こなたっ!」
「えっ?」

 一瞬、時が止まった。 柱に密着させている背中がじんと熱くなる。
 予想外の言葉。 その言葉の力に影響された私は、ただ呆然と
立ちつくすしか選択肢がなかった。

「あっ、明日は、ちゃんと遅れずに来なさいよね。
 そうしてくれないと、私やつかさが困るんだから!」

 駅の雑踏がさらに増していく中、かがみは緊張した素振りを
一切隠すことなく、か細く声を震わせながら私に向かって喋っていた。

(そっか。 かがみも私と同じ気持ちだったんだ……)

 途端、自分の頬が赤く染まっていくのがわかった。
 だけど、それ以上にかがみが私のことを名前で呼んでくれた
ことが嬉しくて、私はいつものテンションで返事を返すことにした。

「そうだね、今度はちゃんと早起きするよ。 それに――」

 そこまで言いかけた時、電車がホームに到着していた。
 騒音が辺りに響き、思考が一時中断される。
 だけど、一度伝えようとした気持ちは止まることはなく、
私は躊躇することなく息を吸い込んだ。


「それに、これから楽しくなりそうだよね!
 できれば、来年は同じクラスにでもなって
 一緒にいられたら、いいよね!」

 ここで、一旦息継ぎ。
 後は、さよならの挨拶だ。

「ま、来年の話だけどさ。
 あっ、それじゃあ私は先にこの電車で帰るから」
「えっ。 あ、ちょっと!」


 たった今自分が言ったことに恥じらいを感じながら、
私は目の前の電車に飛び乗る体制に入った。
 ……そういえば、今かがみが何か驚いてたような?
 よ~し、それならもっと驚かしてあげなきゃね。

 そう決意した私は、車内に入ると同時にくるりとかがみの
方を向いた。 そして、今までどうしても伝えられなかったかった
言葉を、初めて口に出していた。

「う~んと、今日は楽しかったよ、色々話せてさ。
 ――それじゃあまた明日ね、かがみっ!」 
「あっ……」

 次の瞬間、私の中のもやもやは完全に消えていた。
 もしかしたら、それはかがみにも同じことが言えてるのかな。
 だってさ。 かがみの顔、すっごい幸せそうなんだもん。

 ふと気が付くと、かがみが私のことをじ~っと見つめていた。
 そして、言葉が紡がれる。 私たちだけの、さよならの挨拶。

「うん。 また明日ね、こなたっ」

 かがみの優しい声が聞こえたのとほぼ同時に、電車のドアが閉まっていた。
 そして、ホームにいるかがみの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 発車時に電車の中にあったざわめきはだんだんと消え始め、私は
朝と同じようにつり革に揺られながら、今日の出来事を振り返っていた。

(かがみ……か。 これから長い付き合いになりそうだね。
 あ、もしかしたらかがみの方もそう思ってたりしてねっ)

――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして、その予感は見事に的中。 まあ、大学二年生になってまで、
こんなに密着しながら一緒に寝ることになるとは思ってなかったけどね。

 ……結局、今思うとこの頃からかがみフラグ全開で立ててたんだね、私。
 そう考えると、多分この夢を見たことは偶然なんかじゃない。
 だって、おかげではっきりしたもん。 私の、本当の気持ちがさ。




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