夢の果てに得たものは(後)

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『……の様な気圧配置の為、今日の関東地方はいつもより
 少し冷え込むでしょう。 以上、お昼のニュースを――』

(う、ううん……。 もう、お昼……か)

 小さめに聞こえるテレビの音声と見慣れた天井を確認しながら、
私は目を覚ました。 どうやらテレビの電源を消し忘れたらしい。
 と同時に、今の今まで大切な夢を見ていた、という感覚だけが思い出される。

 なんの夢だったんだろ、あれ? なんか恥ずかしいような嬉しいような。
 ま、気にしてもしょうがないか。 早く起きなきゃ……あれっ?

 何故か体が動かない。 いや、何かに締め付けられて動けないと言うべきか。
 私は、原因を探ろうとかろうじて動く上半身を使って真横に振り返った。
 すると、そこには――

「あ、こなたぁ。 おふぁよ~」

 かがみがいた。 しかも私をがっちりとガードしたままで。
 しきりに眠たそうに目をこすってはいるものの、
私の動きには敏感に反応している。 

「あの~、かがみさん? これじゃあ動けないんですけど……」
「ん~? ふぁに言ってんのよこなたぁ……って、ええ!?」 

 ……どうやら、私の一言でやっと目が醒めたらしい。
 そんなことよりも、その乱れた髪が気になるんですけど。
 って、私も人のこと言える立場じゃないか。

「ふふん。 いつになく大胆だねぇ、かがみん」
「しょ、しょうがないでしょ! こんな密着して寝てたんだから……」

 そう言い訳しながら私の体から離れるかがみ。
 おやおや、照れ隠しですかな? 顔が真っ赤っかじゃん。
 ま、そこがかがみの萌え要素なんだけどね! 
 と言って追い打ちを試みる私。 効果は直ぐに現れた。

「ちょっ! これのどこが萌え要素だっていうのよ~!」

 数秒後、『いやいや、その反応こそが萌え要素なんだって』と私が
ツッコミを入れたのは言う間でもない。 こうして、秋の日差しをカーテン
越しに感じつつ、私たちの一日はつつがなく始まっていた……。

「よしっ、このタイミングでかきまわして……と」

 かがみといつものやりとりを交わしてから数十分後。
 洗顔や着替えを速攻で済ませた私は、すっかり見慣れた
いつものキッチンで、今日のお昼を作っていた。

 ガスコンロの上に置かれている大きめな鍋の中では、放射線状に広がった
パスタがグラグラと揺れている。 という訳で、今日のメニューはカレーパスタ。
 幸い、カレーの方も無事に一夜を過ごしていたので、今日は美味しく作れそうだ。

「かがみっ、今一本だけパスタを出すから、
 ゆで加減チェックしてくれないかな?」
「うんっ。 いいわよ、こなた」

 そして、さらに今日はかがみが手伝ってくれている。
 ホントはゆっくりしててほしかったけど、昨日の夕食時と
同じパターンで押し切られてしまっている私がいた。 

 一方のかがみはというと、たったいま渡したパスタを口の
中に入れて、ムグムグとゆで加減をチェックした後、

「ん~、大丈夫みたいよ。 そういえば、このゆで加減って
 なんか呼び方があったわよね。 え~と、ア……あれ?」 

 中途半端に何かを思い出そうとしていた。
 そこにすかさず私が口をはさむ。

「アル・デンテだよ、かがみ。 ちなみにね、本来の茹で時間よりも、
 ほんの少しだけ短めにすると、結構美味しく出来るんだよ。
 といっても、この辺についてはつかさの方が詳しいと思うけど」
「へぇ~。 そういえば、つかさも同じようなこと言ってたっけ」

 腕を組んでフムフムと首を縦に振りながら納得するかがみ。
 惜しい。 これでそれっぽいエプロンとかしてたら完璧なのに。

「ん~、かがみもこれからどんどん料理していけば、自然に
 覚えていくと思うよ。 技術もちゃんと身に付いてくしね。」
「技術、か。 確かに私も出来てはきてるんだけど、覚え悪いしなぁ……」

 組んでいた腕を少しずつ元に戻しつつ、かがみは
不安混じりの声を出しながら私に視線を返してきていた。

 まずい、かがみが変なプレッシャーに押されている。
 ピキューンという音と共に状況を把握した私はすかさず
いつものノリで励ますことにした。

「そんなことないよ、かがみ。 人によりけりってとこもあるだろうけど、
 結果はちゃんとついてくるって。 今の私のクエストレベルみたいにね!」 

 親指をビシッと立てて精一杯明るく振る舞ってみる。
 そんな私を見ていたかがみがクスッと笑った。

「励ましてくれてど~も。 だけど、例えがわかりにくいわよ~。
 そこで“ネトゲ”ねたはないんじゃないの?」
「いいじゃ~ん、ちゃんと通じたんだからさ。
 それよりも、早く盛りつけちゃおうよ。 お腹も空いたし」
「確かにもうお腹ペコペコね。 ……よし、さっさと仕上げちゃおっか!」

 元気になったかがみと一緒に料理を盛りつけていく。
 少し遅めだけど、楽しい昼食の始まりだった。

「味の方はどう? かがみ」
「うん、美味しいよ。 つかさが作った料理と同じくらい、ね」

 時計の針が午後一時になろうとした頃、昨日の夕食と全く同じ配置で
昼食を食べ始めた私たちは、フォークにパスタをくるくると絡めながら
女同士の雑談に花を咲かせていた。 私が一番楽しみにしている時間だ。

「そりゃ良かったよ。 だけど、調子に乗ってあんまり食べ過ぎないようにね。
 ……とは言っても、既に半分以上食べちゃってるけど」
「だ、だってもったいないじゃないのよ。 大体あんたが……ん?」

 ふと、何かに気が付いたかがみが、手持ちのバッグの中を
ごそごそと探り始めていた。 そこから出てきたのはリズム良く
着信音を鳴らし続けているかがみの携帯電話だった。

 ちなみに、着信音については最近私が勧めているゲームの
主題歌に設定してくれている。 昔は勝手に設定を変えちゃって
怒られたりもしたけど、さっきのネトゲねたの件といい、かがみも
だいぶ染まってきてたんだねぇ。 っと、そんなことよりも……

「どったのかがみ? 誰かから連絡でもあったの?」
「うん。 今つかさからメールがきてね。
 今日の夕ご飯の買い出しどうする? ってさ」
「あ、そっか。 今日はかがみ達が夕食作る番なんだっけ」

 つい最近知ったのだが、どうやらかがみの家では当番制で
食事を作ることにしたとのことだった。 なんでも、もう大学生に
なったから家事についてはある程度二人でなんとかしたいって
いうのがことの発端らしい。 

「そうそう。 と言っても私はただ手伝うだけなんだけど」
「いやいや~。 さっきも言ったけどかがみは料理だってやれば
 出来るんだから、もう少し自信持ってもいいと思うけどね?」

 ……だってさ、形はちょっと悪かったりするけど、かがみが作って
くれた料理って、とってもおいしいもん。 それに、私は知ってるよ。
 かがみが陰でいつも努力してたってこともね。

「そ、そうかな? それじゃあちょっと頑張ってみよっかな」
「ま、調子に乗ってまな板とか割っちゃダメだからね~」
「するかっ! ていうか出来るかっ!」

 おおっ、怒濤の突っ込みラッシュ。 
 さすがかがみん。 早さが違うね、早さが。
 ……っと、こんなことしてる場合じゃないよ。  
 早く話を進めなくちゃ。

「あ。 それでさ、買い出しはどうするの? 
 つかさと一緒に行くんだとは思うけどさ」
「そうね~。 一旦家に帰って荷物置いてから改めて出直しかな。
 だから、あと少ししたら帰らなきゃ」

 ドクン。 急に私の中で鼓動が早まった。
 “帰らなきゃ”その言葉に反応した為だと頭の中で
自動的に結論が出る。 しかし、高鳴る鼓動をぐっと
奧に押し込めて、私はかがみに一つ提案をした。

「じゃあさ、駅まで送って行くよ。 どうせ私も暇だしさ。
 だから、それまではゆっくりしてってよ」

 突然の提案に少しためらうような表情をするかがみ。
 だけど、すぐにいつもの優しい顔に戻って、

「そうね、じゃあお願いするわ。 あ、話は変わるんだけどさ、
 この前の講義の時の担当の教授がね……」
「なになに、なんかあったわけ? 早く話してよ~」

 思考の波を切らない様にしつつ会話を再開する私。
 かがみとの雑談を楽しみながらも、私は想い続けていた。

――出来ればずっと、こうしていたい。
   例えいつか別れることになったとしても――

“ゆっくり”それは儚い願い事だったのかもしれない。
 現に、私がこの後感じた時間の流れは、心の中の思惑とは
全く逆のものとなっていた。 三十分が過ぎ、一時間が過ぎ、
あっと言う間にかがみが私の家を出る時間になっていた。

 そして今、私たちは駅まで続く並木道をゆっくりと歩いている。
 家で流れた時間を取り戻すかの様に、木漏れ日の暖かさを肌に
感じながら、ただゆっくりと私たちは歩く。 見慣れてきたはずの光景。
 だけど、今日はいつもとは違う。 かがみと一緒にいるから?
 ううん、それだけじゃない。 変わったのは、私の――

「……た、こ……た。 もう、こなたぁ!」
「ふぇっ! か、かがみ?」

 かがみの声で急に現実に引き戻された私は、ようやく
目の前にまで迫ってきている道路脇の木の存在に気が付いた。
 咄嗟に体を左に傾けて障害物を回避。 ギリギリセーフだった。

「どうしたのよ、ぼ~っとしちゃって。
 早くしないと置いてっちゃうわよ?」
「ううん、何でもないよ。 ……でも」

 ――何だろう、この感じ。 なんか前にもコレと似たような会話が
あったような。 もしかして、これが“既視感”って奴なのかな。
 でも、どこかが違うような。 そして昨日あったハズの何かをど忘れ
しているような気がするのは、なんでだろう。

 っと、そんなこと考えてる場合じゃないよね。 いつもの調子でいなきゃ。 

「普段はあれこれ文句を言いつつも、結局は心配してくれるかがみ萌え~」
「うるっさいわね! もうレポートの手伝いとかしてあげないわよっ!」

 そう言って微かに髪をなびかせながら先に歩き始めるかがみ。
 追うように私が小走りしながらそれに続く。 結局この後も、
私たちは秋晴れの空の下でいつも通りの会話をしながら目的地に
向かっていた。 そして約十分後、大学に通っている私たちにとっては
すっかりお馴染みとなった駅舎が並木道の果ての方に見え始めていた。 

駅舎が見えた。 それはすなわち私の見送りが終わることを意味する。
 元々ここまでって約束だったから、別にこれ以上なにかある訳でもない。
 でも、なんだろう。 いつかどこかで感じた様な、この感覚……

「はあ~、やっといつもの駅まで着けたわね。
 ちゃんと送ってくれてありがと、こなた」
「う、うん……」

 ドクン。 再び私の中で鼓動が加速した。
 同時に、頭が強く締め付けられる様な感覚に
 襲われて、何か大切なことを思い出そうとしていた。

「それじゃあ私もう行くわね。 こなたも、気をつけて帰ってよね」

 くるりと回れ右をして、かがみが駅舎に向かって
並木道を歩き始めようとした、まさに次の瞬間。
 私は今のかがみのセリフが最終的なきっかけとなって、
この奇妙な感覚の正体を突き止めていた。 そして――

「待って……。 かがみぃ!」 

 瞬きも出来ないくらいの早さで、私は無意識の内に
かがみの右手を掴んで叫んでいた。
 同時に、かがみの上着の袖が大きく揺れる。

「こっ……」
「ごめんね、かがみ。 そのままでいいから、
 話を聞いてほしいんだ」

 無理な頼みだとは分かっていた。
 突然後ろから引き留めてしまったのだから。

 だけど、かがみは決して掴まれた右手を振りほどこうとはしなかった。
 それを返事と受け取った私は、ゆっくりと本題に入ることにした。

「私、夢を見たんだ。 夜中にかがみが話してくれた内容と同じ夢。
 その中のかがみもとっても優しくて、それは今でも変わらなくて……」 
「うん……」

 頭の上の方から、かがみの声が私の耳に僅かに響く。 
 木々のざわめきと同じくらいか細かったけれど、凛とした声が。
 私は言葉を続けた。

「だけどね、私思うんだ。 変わらないねって言われている人ほど、
 実は色んな部分が変わってるんじゃないのかなって」

 そういえば、つかさとみゆきさんには高校生の頃にこれと
似たような話をしたっけ。 ま、あの時は同窓会をネタにした
ただの例え話としてだったけど。

「いきなりは変われなかったのかもしれないけど、
 少なくともかがみはちゃんと変われている。 そう思うんだ。
 だから私は、そんなかがみがっ……!」

 思わず言葉に詰まる。 加えて、いつのまにか真っ赤に
なっていた頬を、少し冷えてきた秋の空気が撫でる。
 ダメだ、ここで勇気を出さなきゃ私は前に進めない。

 “あの時” かがみは私のことを初めて名前で呼んでくれた。
 ちょうど、今の私みたいにガッチガチに緊張しながら。
 だから、今度は私が……!

「だっ、だからね。 そんなかがみのことが、
 やっぱり好き、なんじゃないかな~っ……てね」
「こなた……」

 心の奥底の想いを打ち明けた瞬間、頭の中が真っ白になり、唇が乾く。
 それに呼応して、胸の鼓動がどんどん早くなっていくのがわかる。
 私は、糸が切れた人形の様にかがみを掴んでいた手を離して、

「あ、あはは。 ごめんね、急にこんなこと言っちゃってさ。
 ……迷惑、だったかな?」
「ううん、そんなことない。 そんなことないよ、こなた」
「かっ、かがみっ?」

 不意にかけられた言葉。 同時にかがみがくるりと私の方を向いた。
 その表情は、何もかもを理解したかのような、澄み切った印象を私に与えていた。

「全然迷惑なんかじゃないって。 むしろ、嬉しいくらいよ。
 それに、アンタだってちゃんとあの時よりも変われてるじゃない。
 私のお見舞いの時も、昨日の夜の時だってそう。 あと――」
「あと?」

 かがみがふう~っと息を吸い込んで深呼吸をした。
 どうやらかがみも相当緊張しているらしい。
 そして、一通り呼吸を整えた後、かがみはゆっくりと
動きだし、おもむろに私の頭に軽く手を乗せながら、  

「背……。 少し伸びたんじゃない?
 アンタのそのかわいいアホ毛もふくめてねっ」
「あっ……」

 かがみの言うとおり、確かにほんの少しだけ身長は伸びていた。
 だけど、そのことは誰にも話していないハズなのに……。

 ――あはは、かがみには敵わないや。
 いっつも私のこと、見ててくれてたってことかぁ。

「それにね。 私も昨日の夜からずっと考えてたんだ。 
 私自身はこなたのことをどう思ってるのかなって」
「かがみ……」

 かがみは、いつでも優しかった。
 いつも誰かの為に一生懸命になることが出来て――

「でも、今のこなたの言葉で答えが出たような気がするんだ。
 多分……。 私もこなたと同じ気持ちだから」

 初めて名前で呼び合ったあの時から、私たちはいつも一緒に笑って、
泣いて、時にはケンカもした。 だけど、それを乗り越えていく度に私たちは
どんどんお互いのことを知っていくことが出来た。

「だからね、ちゃんと伝えたいんだ。 私、こなたのことが……」

 そしてまさに今、かがみはいつになく真剣な眼差しで私を見つめていた。 

(でもさ、そんな表情してたら次に何を言うかまるわかりじゃん。
 よーし、それじゃあ私ももう一度……)

「私も、かがみのことがぁっ!」
「……!」

 心の中で大きな決意をした私は、その直後に自然と叫んでいた。
 対するかがみの方も、私の意図をわかってくれたらしく、微妙に
呼吸を合わせながら次の言葉を出そうとしてくれていた。

 ……ありがと、かがみはやっぱり優しいね。
 だから、もう一度言うよ、私もそんなかがみのことが――

「「だーい好きっ! だよっ!」」 

――その時、風が吹いた。 舞い降りてきた物は、
銀色の雪でも、桜色の花びらでもなく、赤と黄色に彩られた落ち葉。
 その落ち葉が私たちの周囲をひらひらと舞い続け、
いつまでも、いつまでも私たちを祝福していた―― 









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