愛は藍より出でて愛より青し

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「おかえり、かがみ♪」
 玄関を開けた瞬間に私を迎えてくれる、笑顔と夕食の匂い。
「もしかして、まだ食べてないの?」
「うん、溜まってたDVD消化するのが忙しかったし……それに二人の方がおいしいじゃん」
「ったく、素直じゃないわね」

 思わず顔をほころばせる私に、いやいや御本家様ほどでは、なんて反撃してくるこなた。
 けど、口元はからかいモードでも、そんなに真っ赤になってたら、説得力ないぞ。

「ところで、ケーキ買ってきたんだけど、夜食に食べる?」
「おぉ~サンキュー!でもなんで?」
「だってほら、今日って例の『なんとか』ってアニメが始まるんでしょ?」

 そう言いながら、いつの間にかすっかりコイツに毒されている自分に気付く。
 初めは高濃度汚染区域みたいに感じていた世界なのに、そういう『情報』を自分から調べる
 ようになったのは、いつからだろう。

 コイツの笑顔を見たい、コイツの隣を歩きたいって思っているうちに、今やすっかり同じ穴の
 ナントカだよ。……なんて、こっちは感慨に浸っているのに、コイツときたら。

「エロゲ原作の深夜アニメだと思うとついつい恥ずかしくて名前を伏せてしまうかがみ萌え」
「どやかましいっ!!そんなこと言うなら、やっぱりこれ一人で食べちゃおうかな~」
「太るよ」
「あんたねぇ…………ふふっ」

 マイペースで、欲望に忠実で、人のことを振り回してばかりで。
 時々、どうしてこんなヤツのこと好きになったんだろうって、頭痛くなることもあるけど……。

「…………ごめんね、かがみ」
「どうしたのよいきなり」
「だって、かがみは毎日朝早くからこんな遅くまで頑張って、それなのに深夜アニメとかゲーム
 とか付き合ってくれるじゃん。今日だって、わざわざケーキまで……」

 さっきまでとは一変して、感謝と不安が混ざった、弱い笑顔。

「そんなの全然いいって。それにそんなこと言ったら、私だって、家事とかこなたがしてくれて、
 凄い助かってるんだし」
「けど、かがみ最近忙しいんでしょ?頭使う仕事だから、睡眠もいっぱい取らなくちゃいけない
 のに、私ばっかりいい思いしていいのかな、って」

 こなたが気にするのも、分かるといえば分かる。
 食費も今住んでるマンションの家賃も、殆どが私持ち。一方こなたの原稿料はというと、
 趣味(というか、むしろ資料)につぎ込む分で、手元にはあまり残らない。
 今までは『愛情』で済んでいたけど、最近突然忙しくなって、泊り込むことも多くなってきて、
 色々不安になって……。

 知ってるわよ、こなた。
 さっきのやり取りだって、こなたなりに私に気を使おうとしてくれてるんだって。
 でも、不安な気持ちを隠し通せるほど、強くもないんだって。
 だけど。

「こなた」
 いつもより小さく見える体を、胸の中に引き寄せて。
「私のこと心配してくれるのは本当に嬉しい。けど、なんであんたは『私が一緒にアニメ見る
 のを楽しみにしてる』って考えないのよ」
「いやでも、本番でかがみが失敗したらと思うと……」
「もう、あんただって、アニメとかゲームで色々デフラグしてるじゃない。睡眠も大事だけど、
 あんたとそうやって過ごす時間の方が……って、何言わせるのよ……」

 本当に、困ったヤツ。
 照れ隠しにこなたをぎゅっと抱いて、長い髪を撫でるけど、一度変に傾いてしまった空気は
 なかなか変わらない。
 こなたが真面目モードなのも手伝って、どんどん変な台詞が出てきてしまう。
 でも、少しでも気持ちが伝わるなら、恥ずかしい言葉だっていい。

「と、とにかく、こなたは私にご飯作ってくれる、自分の部屋以外はちゃんと片付けてくれる、
 仕事の愚痴も聞いてくれるし、辛い時にぎゅうって抱きしめてくれる、それだけで十分なの。
 それに……」
 零れそうな涙で、空色の髪を濡らさないように、窓の方に顔を向けて。
「職場でも家族の前でも『しっかり者』の私が、こんなに自然になれる……こんなにツンデレに
 なれるのって、こなたの前だけなんだから……」

 口下手じゃなかったら、こいつにもっと言ってやりたい。
 締め切り間際なのにちゃんと夕食を作ってくれるのが、どんなに嬉しいかって。
 素の自分になれる場所があることが、どんなに私を癒してくれてるかって。

「あと、ついでだから言っとくけど、あんたよく『自分の給料は全部怪しいグッズとか取材で
 使っちゃう』って言ってるけど、その『グッズ』とやらを楽しみにしてるのって、あんただけじゃ
 ないの。私の代わりに、あんたに買って貰ってるようなもんなの」

 もしこなたが、そのテの店が閉まる時間にしか帰れない生活だったら、きっと私がいくらでも
 頼まれてる。そうやって、アニメと一緒に『こなたとの時間』を買ってくる。
 で、いつものようにギャルゲーに萌えるこなたにイライラしたり、アニメにツッコミ入れ合って
 仲良く笑う。ほんとうに、これなんてアキバ系。

 ……でも、うん、これでオッケー。
 泣きそうになる話題を逸らして、ネタと勢いで誤魔化して……大丈夫、もういつもの顔。
 後は笑顔で一言、「冷めないうちにご飯食べよう」。

「だから、こなたはそんなこと気にしないで、ほら、冷めないうちに、」
「かがみ」

 不意にこなたの手が、逸らしていた顔を捕まえる。
 そのまま精一杯背伸びして、優しい、優しいキス。

「ありがと。でも、ご飯の前に、涙拭かないとおいしくないよ?」
 近くのティッシュを引き寄せながら、穏やかに笑う。
「っ、そんな……」
「かがみはいつも、私が一番嬉しいこと言ってくれる。でも私だって、かがみが何考えてるか
 くらい、分かってるつもりだよ」

 自分だって瞳潤ませてるくせに、自信満々に笑うこなたを見て、改めて『勝てないな』と思う。
 マイペースで、欲望に忠実で、人のことを振り回してばかりで。
 でも、本当はこんなに……。

「ありがと、こなた、本当に、あり……」
「おぉーっとそこから先のお礼は禁止!」
 咄嗟に私の口を塞ぎながら、びしぃっと時計を指差す。

「あれを見よかがみん!アニメまでに残された時間はもう1時間しかないのだよ!急いでご飯
 食べて一緒にお風呂入ってDVDセットして全裸待機しないと我が生涯に永遠に悔いが
 残るじゃまいか!
 ……だから、『冷めないうちにご飯食べよ』、かがみ」
「ったく、珍しく感動させてくれたと思ったら……ま、もう馴れたからいいけどね」

 アニメに追いかけられる夜。
 嬉しい涙を拭ってから、私達は笑い合ってテーブルについた。
 声に出さない『ありがとう』と、それ以上にたくさんの『愛してる』を込めて。










「って、最後の『一緒にお風呂』とか『全裸待機』って何だよ!」
「あるぇ?こういうの好みじゃなかったっけ?昨日だって体温が伝わるとか、こなたに体触ら」
「いい加減にせんかいっ!!!」


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