こなた×かがみSS保管庫

泊まった日

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匿名ユーザー

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ピーンポーン

やっと来たか~。
そう思って、急いで玄関の扉を開ける。

扉の先には、見知った面々。
かがみとつかさとみゆきさん。

今日は私の家にみんなで泊まる予定だ。
といっても、言い出したのは私だけど。
お父さんは用事でいないし、ゆーちゃんはみなみちゃんの家にお泊りだ。
久しぶりに、独りで過ごす夜になった。
それが寂しかったからか、チャンスだったからかはわからないけど、ともかく私は三人を誘ってみた。

明日家に誰にもいなくなるから、うちに泊まらない? って。
みんな賛成してくれて、金曜の放課後来てくれることになった。

今がその、金曜の放課後。
「いらっしゃい。待ってたよ~。さ、入って入って」

「おじゃましまーす。いやー、それにしても、こなたの家に泊まるのも久しぶりね」
「そうだね~。一年ぶりくらいかな~」
「私は初めてですので、ちょっとドキドキしてます」
「あ~、みゆきさんは友達の家に泊まるって感じじゃないからね~」
「ええ、実際その通りでして」

そんな会話の花を咲かせながら、とりあえず自室に向かう。
誰もいないんだから、どこでも自由に使えるけど、やっぱりここが一番落ち着く。

時計を見ると、六時近くになっていた。
そろそろ晩御飯の時間だ。
今日は四人で集まってから何かを作る予定だったから、まだ何も出来ていない。

「じゃあ、早速だけど、晩御飯作ろうか」
「うん。私、バルサミコ酢持ってきたんだ~」
「私も色々と食材を持ってきました」


かがみを見る。
どことなく、居辛そうな感じがする。もじもじと、何かを言いたそうにしてる。
みんな料理がうまいのに、かがみだけ下手だからな~。劣等感になってるのかな。
そんなの気にしなくていいのに。
それも立派なステータスだよ、かがみ。

ぼんやりそんなことを考えていると、当のかがみが口を開いた。
少しもごもご動かした後、
「わ、私も何か手伝おうか?」

それを聞いた瞬間、口元が微妙に釣り上がるのがわかった。
「いいよいいよ。私たちだけで十分だから」
「え、で、でも……」

残念そうに俯く顔。かがみは反応が分かりやすくてかわいいなあ。
そんなに悲しそうな顔してるの見たら、もっといじりたくなっちゃうよ。
あ~、もう我慢できない。

ちょっと背伸びして、俯いてるかがみの頭を優しく撫でてあげる。
「な、ちょ、やめてよ。恥ずかしいじゃない」
「かがみは試食役だよ。食べてくれる人がいたほうが、作り甲斐があるからね~」
「え……?」
「かがみのために頑張って作るよ~。だから、楽しみにしててね」
「う、うん……」

かがみの顔が赤くなっているのがわかる。
照れてるのかなー。嬉しかったのかな~。

「じゃ、つかさにみゆきさん。行こうか」
「ええ」

かがみにはそれ以上何も言わないで、部屋を後にした。
これでかがみは部屋で独りだ。
かがみはうさちゃんだから、寂しがるかな?
独り取り残されたかがみを想像する。
本当に、かがみはかわいいなあ。

そこで、ふと思った。
私にとって、かがみは何なんだろう。
何で、ああいうことを言ったんだろう。
かがみの反応を見るのが楽しいから?
それだけなのかな……。
……まあ、いいか。これから晩御飯を作るんだし。




まずは何を作ろうかという話になった。
何を作るかっていうのも、全然決めてなかった。その場で決めようってことになったから。
みんなが持ってきた食材を集めると、何でも作れそうな気がした。
だからこそ、決めるのが難しい。

あ、そうだ。
私は一つの妙案を思いついた。
「どうせならさ、かがみが喜ぶようなもの作ろうよ。かがみは私たちの料理をお召し上がりになるお客様なんだから」
「そうですね。かがみさんの好きな料理を作りましょうか」
「でも、かがみって甘いもの以外で何が好きなんだろ……」

考えてみる。
ケーキ……チョコレート、クッキー。
……あれ? 甘いものしか思いつかない。

小さくため息をつく。
かがみのことなら結構知ってるつもりだったのにな……。
こんな簡単なことも、私は知らなかったのか……。

「つかさ、かがみの好物って何か知ってる? 甘いもの以外で」
「え? う~ん、なんだろ。……嫌いなものじゃなかったら何でも食べるんじゃないかな~」
あ~、そういうイメージ確かにあるなー。
でもそれじゃ、何作ればいいかわかんないよ。

もうこうなったら直接かがみに聞くしかないかな。
何作るかバレるかもしれないけど、好きな物の方がかがみも嬉しいはずだ。
そうなったら、私も嬉しい。

「お客様のオーダーを取ってくるよ。ちょっと待っててね」
とっても大切なお客様に、喜んでもらえるように。

●●●

こなたたちは夕食を作りに台所に行ってしまった。
私一人が、部屋に取り残されている。

なんとなく手持ち無沙汰で、時計を眺めながらじっと座っていた。
やっぱり料理が出来ないと駄目なんだろうか。
今まで何度も練習したけど、みんなのようにうまくはなれなかった。
多少は向上したかもしれないけど、それは昔に比べたら、という意味合いでしかない。

干されてるな、と思う。

緊張気味に座っているのも馬鹿らしくなって、カーペットに寝転がった。
することもなく、ただぼんやりと天井を眺める。

私だって、こなたたちと一緒に料理を作りたかった。
そりゃ、味付けや、煮たり炒めたりの重要なことは出来ないけど、御飯を炊いたり、皮を剥いたりなら出来るのに。
それだけでもいいから、役割が欲しかった。

今から台所に行こうかとも思うけど、さすがにそれは恥ずかしい。
それに、やっぱり行っても同じように手持ち無沙汰になるだけかな。

何かしたいと思う一方で、何も出来ないとも思う。
どうせ手伝うことになっても、みんなの手際のよさについていけなくなる。
不適材不適所かな。

さっきのこなたの台詞が浮かんでくる。
私の頭を撫でながら、言ってくれた言葉。

今でもはっきりと覚えている。台詞も、独特の抑揚も、あの手の感触も。
――かがみのために頑張って作るよ~。だから、楽しみにしててね。
全てが脳裏に蘇ってきた。

気恥ずかしさに耐え切れなくなる。考えるだけで、頬が熱くなってくる。
うつ伏せになって、目を瞑って、体をくねらせながら、それでも何度も思い起こす。

ああ言われたんだから、こなたを信じて待つしかない。
こなたのことだ。きっと私を驚かせようとするに違いない。
期待が膨らんでいく……。

それに、嬉しかった。
あの時は、自分がどうすればいいか分からなかったから。居場所を見失いそうになってたから。
そこにこなたが手を差し伸べてくれた。いや、乗せてきたって言うべきか。
この部屋で待ってるのが私の役割なんだろう。

……あれ?

確かここは、こなたの部屋……。
その中に、私は独りきり……。

立ち上がる。
今からやろうとしてることが、パンドラの箱を開けるのと同じだというのは分かってる。
もし見つかりでもしたら、私はずっとこなたに軽蔑されることだろう。
でも、好奇心や興味が、そんな僅かな恐れを感じなくさせた。
何より……こなたのことをもっと知りたかった。

本棚のガラス戸をそっと開ける。
なんというか、こなたらしい漫画でいっぱいだ。
適当に手にとって読んでみる。
……これが、こなたが好きな漫画か……。

こういうのも共有できたらいいけど、やっぱり私にはよく分からない。
今度買ってみようか。読んでいれば慣れて、分かるようになるかな。
順番が変わらないように注意しながら、漫画を戻す。
多分ここには漫画しかないだろうと、ガラス戸を閉めた。

壁際のベッドが目に入る。
こなたがいつも寝ている場所だ。
こなたはここで、どんな格好をしているのだろう。

ふらふらと近づいて、ベッドの上に横たわった。
枕に顔をうずめる。

……ああ、こなたの匂いがする……。
それはこなたにぐっと接近したときに漂ってくるのと同じ。
何のシャンプーかなんて分からないけど、関係ない。
これは、こなたの匂い。それだけは分かってる。

なんだか気持ちがいいな……。
この匂いを嗅ぐと、不思議と気分が安らぐ。安心できるっていうことかな。

こなたに包まれているような気分になって、しばらくそのままベッドに突っ伏していた。

……駄目だ。こんなことをしてる場合じゃない。
僅かな眠気を振り払い、立ち上がる。
こんなところを見られたら、と思うだけで恥ずかしくなる。

ベッドの隣には、机。
机には、引き出しがあった。
これこそ、大抵の人が大切なものを隠している場所だと思う。

一呼吸を置いて、
ゆっくりと、引き出しを開けていく。

「あ……」
携帯が、ぽつんと置かれていた。

何が入ってるんだろう。誰とメールしてるんだろう。誰と電話してるんだろう。
震える手で、携帯を掴む。

誰もいないのは分かりきってるのに、左右を見回す。ドアが閉まっているのを確認する。
その場にへたり込むように正座して、深呼吸。一回。二回。三回。
躊躇いを捨てて、一気に開いた。

何かのアニメの待ち受け画面が表示される。
それに不思議と安堵を覚えた。
やっぱりこなただ。

メール画面を開く。受信ボックスにカーソルを合わせる。
携帯を握った左手の親指で、何度もボタンを撫でた。
これを押せば。これを押せば。
……私の知らないこなたが。

罪悪感がゆっくりと、お腹の底から湧き上がってくる。
友人の携帯を勝手に覗くなんて最低だ。
私は、最悪の人間だな。こなたに見つかったら、間違いなく拒絶されるだろう。
私を、醜悪な人間だと思うだろう。
でも、どうしても、止められなかった。

……気になるから。怖いから。

……何が?
何が気になるの? 何が怖いの?
こなたが誰とメールしてても、それは私には関係ないことじゃない。
それなのに……。

一つ溜め息をつく。肩の力を抜く。
いつまでたっても、現実に向き合えないから、
……せめて自分自身には、正直にならないと。

分かってる。
こなたに男がいるかが気になって、いるかもしれないから怖いんだ。

最近、こなたの様子がおかしい時がある。
時々、虚ろな目でどこか遠くを眺めていたり、私が話しかけても、上の空だったり。
だからこそ、確かめたい。

心の中でこなたに謝る。今度ケーキでもおごってあげるから、と。
そう呟いて、親指に力を込めた。

受信ボックス。
そこにあるのは、見知った名前の羅列。
かがみ、かがみ、かがみ、かがみ、みゆきさん、みゆきさん、つかさ、みゆきさん……。
スクロールしていく。

「かがみー、入るよー」
ノックをする音。
明らかにこなたの声。
手の中には、こなたの携帯。
開けっ放しの机の引き出し。

早く携帯を引き出しに戻して閉めないといけない。
だが体は言うことを聞かず、金縛りのように全く動かなかった。
背筋が冷たくなる、嫌な汗が一瞬で全身から噴き出してくる。

どうにかしないといけないのに、どうにもならない。
ヤバいヤバいヤバい……。

●●●


ドアを開けて中に入る。
……あれ?

何故かかがみが、机にもたれて立っていた。
「どうしたの、かがみ? 一人で突っ立って」
「……え、いや、これは……。な、なんでもないわよ」

あ~、何か隠してるな。
かがみがしどろもどろな答え方をするときは、大体何かがある。
それくらいは分かってる。

でも、何をしてたかまでは分かんないな。
机の近くに何かあったっけ……。

机の上のパソコンが目に入った。
……多分これだな。
画面消してただけだし、かがみもすることがなかっただろうし。

「もしかして、パソコン使ってた?」
「え…………そ、そうよ」

かがみは一瞬口篭った。
僅かに頬を紅潮させている。
別に隠さなくてもいいのにな。
かがみになら、Dドライブの中を見られてもいいと思う。

「遠慮しないで、使ってていいんだよ」
「う、うん。ありがと……」
焦っていたように見えたかがみも、落ち着きを取り戻してきたようだ。

でも、さっきのかがみの様子……。
もしかして、パソコン使ってたっていうのは嘘なのかな。
かがみは変に正直だから、嘘をつくときも表情に出てしまう。
いや、あれは動揺してただけなんだろう。きっとそうだ。

「ところで、私に何か用でもあるの?」
そこでようやく、自分の目的を思い出した。
「あ、忘れてたよ。かがみは何か食べたいものある?」

「え? 何でそんなこと聞くのよ」
「かがみはお客様だからね。お客様の食べたいものを作るのが我々の仕事なのだよ」

かがみは急に黙り込んでしまった。
どうしたんだろう。何か変なことでも言っちゃったのかな。

「な、なんでもいいわよ」
うわ、一番困る返事が来たよ……。
せめて大まかな種類だけでも聞きたいのに。

「なんでもいいじゃわかんないよ~。もっと詳しく教えて」
「だから、なんでもいいのよ」

あ~、困ったな~。
かがみの好きなものを作りたいのに、全然わかんないよ。
本当に何でも食べるのかもしれないけど、それでも一番好きなものを食べてもらいたい。
どうしたらいいんだろ……。これ以上しつこく聞くのもあれだし。

「…………なら……」
そんなことを考えてたから、かがみが何か言ってたのを聞き逃してしまった。
「かがみ? 何か言った?」
「だ、だから、こなたがつ、作ったものなら、なんでもいい、って……」 

……あれ? これは、どういうことだろう。
私の作ったものなら、何でもいいって?
どうして、そんなこと言うんだろう。
何でもいいから、作れってことなのかな。
それとも……。

よく分かんないけど、なんだか嬉しくなってきた。
「うん。わかったよ。じゃあ、ちょっと待っててね」
はりきって作るから。とっておきの料理を、かがみの為に。

それから、
「ありがとう、かがみ……」
かがみの反応を見ないように、すぐに振り返って、部屋を後にした。

かがみは、何でもいいって言ってくれたけど。
作るのなら、やっぱりかがみの一番を。

材料はあるかな。
道具はあるかな。
うまく作れるかな。

でも、やってみよう。
晩御飯とは少し違うかもしれないけど、何を作るかは、決めた。
かがみの為に。かがみの為だけに。

かがみの抜群の笑顔を頭に思い浮かべて、
台所へ。




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