こなた×かがみSS保管庫

1月12日・前半

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匿名ユーザー

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 さて、今年のカレンダーを見ていただければお分かりになると思うが、1月の12、13、14日は三連休である。
 これは、センター試験や受験を直前に控えた受験生に対して用意された「せいぜい足掻けよ」といった意味か、もしくは「少しの間息抜きしてください」といった意味の連休か、どちらを取るかは、学生諸君にお任せしよう。
 そして、この連休を利用して、この物語の主人公である4人組、泉こなた、柊かがみ、柊つかさ、高良みゆきは後輩の岩崎みなみ家が所有する別荘を借り、気分転換を兼ねた一泊二日の勉強合宿を開こうと計画していた。
 さて、この計画を持ち出したのはみゆきであり、こなたとかがみが互いに恋心を抱いていて、さらに互いが無自覚であることに一石を投じる為、というのは今まで読んで頂けたのならばお分かりいただいていると思うので、詳しくは割愛させていただきましょう。

 ところで、女子高生四人が別荘を借りて一夜を共にする、ということは常識的に考えたら危ない。故に、岩崎家から出された条件が二つ。
 信頼の置ける保護者を一人、随伴させること。そしてもう一つ、持ち主の岩崎家の一員であるみなみを連れて行くこと。
 まぁ、そもそも他人に別荘を貸すと言う行為自体が、珍しいと言えば珍しいのだが、そこは姉妹のような付き合いをしている高良家、岩崎家の信頼がなせる業と言えるだろう。
 ところで、岩崎家の一員、みなみからも提案が一つ。こなたの従姉である小早川ゆたかをこの合宿に参加させて欲しい、というものだった。さてはて、みなみの真意はどこにあるのか。やはりこの話では関係ないので割愛させていただく。

 そして運命の1月12日、朝。
「よ~し、みんな準備はいい?」
 この言葉を発したのは成実ゆい。ゆたかの姉であり、こなたの従姉なのだが、とにかくノリが軽い。信頼が置ける保護者であるかは微妙な所だが、取りあえず、この時期に暇人をと探した結果、該当したのが彼女だったのでやむを得ない。この際、贅沢は言っていられないのだ。
「お、オッケーですよ……姉さん」
 少し怯えたようにこなたが答える。ゆいはハンドルを握ると性格が変わる。その恐怖を、ここにいる全員が知っている以上、反応が鈍いのもやむなし。天の神様が存在するのならば、願わくば、事故にだけは逢いませんように。ゆいを除いた全員が祈った瞬間だった。
「んじゃぁ、出発!!!」
 ゆいの言葉に合わせて、7人を乗せた車はいきなりのオーバースピードを披露した。
 さて、荒い運転である以上舗装された道であろうとなんのその。揺れる揺れる、車に弱い人間なら一発でKO。そうでなくてもウッと来る。

 さて、何回乗っても何回乗っても、慣れる事は無いこなた。僅かに顔色が悪くなり、汗が吹き出てくる。
 そんな状況を見かねたのだろう、隣の席に座っていたかがみは極自然に、こなたの背中をさする。少しでも楽になるようにと。
 そんな彼女の気遣いが分かったのだろう。こなたは、気丈にもかがみに笑いかけると、その手を握った。
 ちなみに寒い寒いこの季節、車内は地球温暖化に大貢献。暖房ガンガンなのだが、二人には、それが少し熱いように感じたのは、何故だろう、何故だろう?

 さて、この地獄が続いて凡そ一時間。ようやく岩崎家所有の別荘にたどり着いた。車から降りた7人、ゆいを除いて、他6人には贖罪を終えた、殉教者のような顔をしていたが、気にしない気にしない。重要なのはこれからだ。

 この別荘の外観について語ることも割愛させていただく。とにかくデカイ、とだけは言っておくが。そして、この別荘の内観を知っているみなみから一つ注意が促された。
「えっと……我が家は人数が少ないので、部屋数もそんなに多くありません。ですから……大体が相部屋になってしまうかと」
 それを聞いたかがみ。だが、大した事は無いというように、
「ふ~ん、ま、気心知れた仲だしね。私は誰と相部屋になってもいいわよ」
 と、言いながら。さり気なくこなたの手を握ると先導する。素直についていくこなた。それが当たり前のような空気が、二人の間には出来ていた。

 だが、このタイミングはみゆきにとっては、まだ早い。みゆきは、コホン、と咳払いをして皆の注目を集めると、
「お恥ずかしながら、くじを作ってきたんですよ。折角の気分転換、ちょっとしたサプライズもいいと思いません?部屋割りをこれで決めたいと思うのですが」
 といって7本に割った割り箸を差し出した。割り箸にはそれぞれに対の色が付いていて、同じ色を引いた人が同じ部屋になると言う仕組みだ。ちなみに余りの一本には何も印が無い。

「さあ、どうぞ」
 ズイ、と差し出される運命のくじ。かがみの表情がピクと強張る。彼女はこなたと同じクラスになりたいと思いつつ、3年間、結局その機会に恵まれることはなかった。
 今度こそ、と意気込んでくじを引くかがみ。さて、割り箸の先端には赤色の印が付いている。
「じゃあ、次は私の番だね~」
 表情こそ変化無しだが、声に僅かに緊張感を滲ませたこなたが、くじを引く……その結果は、緑色。また、違う部屋になってしまった。

 落胆する二人を尻目にくじ引きは進み、結果、みなみ、ゆたか。こなた、つかさ。みゆき、かがみ。ゆいは一人部屋という組み合わせになった。
「いいよ、どうせおねーさん、背景さ……」
 落胆するゆいを尻目に、みゆきはどんどん話しを進めていく。
「さて、一応勉強合宿、という名目もありますので、私たちは30分程自室で勉強をしたいと思います。よろしいですね?」
 問いではなく、確認。いつもより強硬なみゆきの態度に、残りの受験生3人は訝しみながらも、素直に頷く。
「その間、みなみさんとゆたかさん、それにゆいさんはリビングでくつろいでいてください。後程私達も合流いたしますので」
 その言葉は、これ以上の疑問も反証も一切受け付けない、という力強さに満ち溢れていた

 さて、こちらはみゆき、かがみ部屋。もとより真面目な二人はセンターで受ける科目に重点を置いて、総復習、とまでは行かなくても、軽快にペンを走らせていた。
「x-y=(D-1)-z」
 みゆきが持ってきたナガト式数学問題集に目を通してその答えに頭を悩ませている間、凡そ5分。たったそれだけの時間で、かがみの様子が少し変わっていた。
 最初は真面目に問題を解いていたのだが、段々、周りをキョロキョロし始め、扉の方を気にする様になってきた。
 勿論、それを見逃すみゆきではない。
「おや?どうかなさいましたか、かがみさん」
 すると、かがみは明らかにギクッとした表情、仕草で、
「あ、い、いやね。こな――いや、つかさがちゃんと勉強してるかなって気になって」
 僅かにどもりながら、言い訳をする。内容としては妹を心配する姉、としてとても微笑ましいのだが、一瞬漏れた‘こな――’この言葉を聞き流すほど、みゆきは甘くない。
「そうですね、でも、つかささんはああ見えて真面目ですし、大丈夫ではないでしょうか?」
「そ、そうよね」
 みゆきの言葉に安堵の表情を見せるかがみ。だが、油断大敵。
「ところで、かがみさんは、泉さんの様子は気になりませんか?」
「ふぇっ!?」
「どちらかと言うと、泉さんの方が勉強をしていないイメージがありますけど、そちらは気にならないんですか?」
 みゆきの言葉に、かがみは最初、あぅ、あぅなんて言っていたが、その内、自棄になったように、
「あ、アイツの事はアイツの事で心配に――あー!もう、私達の勉強を進めるわよっ!!」
 怒った振りをして話を紛らわせる、所謂逆切れ、というヤツだろう。を披露した。
 だが、みゆきはそれにも動じず、ただ、「はい」とだけ頷いた。

 さて、それから更に10分程度。もはや、かがみの行動は勉強とは全くかけ離れた所にあった。しきりにドアを気にし、ペンを回しては、口だけでこなた、と呟く。

 みゆきはこの辺りがタイミングだろうと見極めると、先程から考えていた言葉を紡ぐ。
「かがみさん、もしかして、お手洗いに行きたいのですか?」
「へ?」
 突然のことに戸惑うかがみ。だが、茫然自失は一瞬で、すぐに立ち直ると、
「そ、そう。実はさっきから我慢しててさ~」
 と言葉を返した。

 計画通り。みゆきは眼鏡の位置を直す振りをして表情を隠す。柊かがみという人物は負けん気が強い。そういった人は本当にやりたいことでも自分からアプローチするのでは負けだと思う。
 だから、第3者が如何にもそれっぽく、且つ万人が納得する理由を提示してやればそれに食いつく。つまり、思惑通りに動かしやすい。
「だったら、無理をせず行って来て下さい。ここから出て、右手奥の扉がそうですから」
「そう?悪いわね」
 そう言って部屋を出ようとするかがみ。ここで更なる一手、みゆきは、
「この別荘は広いですからね。‘途中で道に迷って、別の部屋に入らないように注意してください’」
 分かってるわよ、と言って、かがみは部屋を出て行った。
 さて、ここからは賭けだ。かがみがどう動くか。この後のシナリオに繋げられるか。
 みゆきはやおらにチェス板を鞄の中から取り出すと、いくらか進んでいる盤面、その上の駒をまた一手、動かした。

 場面を変えよう。こちらは、こなた、つかさ部屋。
 この二人は、決して不真面目、というわけではないのだが、
 さてはて学校の教室とは不思議なもので、しっかり眠ったつもりでもそこに存在する一種独特な怪電波……この場合は教師の講義と言い換えようか、の反響によって更なる睡魔を呼び起こす魔力を秘めている。
 そしてこの二人は、その魔力に対抗する術を知らない。ぶっちゃければ、授業中の居眠りが日常茶飯事で真面目に授業を聞けたためしが少ない。
 だが、流石に時期が時期なうえに、場所まで違うと気合が入るのか、つかさは英語の教科書、ノートを開き、一心不乱に英文を訳していた。
「えっと、この訳は……フタエノキワミデ……アッ、そうか、だから次は絶対勝つために、僕はとかちつくちてミックミクにしてやんよってことなんだ!」
 意味不明にして、理解不能。姉が聞いたらさぞ嘆くであろう和訳を展開するつかさに対して、こなたは未だ教科書すら用意していなかった。
 こなたは、ぼんやりとしながら、扉を、廊下を挟んで向かい側の部屋にいるであろう人物の事を、思っていた。

 さっき、車の中で、自らの体調に気が付いて気を遣ってくれたかがみ。別荘に着いた時、自然に手を引いて先導しようとしてくれたかがみ。
 いや、もっとそれ以前。冬休みから感じ始めた違和感。でも、それはもっと前から存在していたような、親友に対する、気持ち。

 親友?そう、親友。ネトゲにも仲間はたくさんいる、画面越しとはいえ気軽に話せる。ある意味、彼らも親友。
 だけど、かがみは?リアルで話が出来る、親友。彼らとは一次元超越した、実際に触れる、ことが出来る人間。
 だから、こうなのかな?こんな気持ちに、なるのかな?この気持ちは、何だろう?

 こなたの問いに対する答え。それはセンター試験や受験で、全く役に立たないもの。故に教科書なんかには載っていない。じゃあ、この答えは誰に求めればいいの?誰が、教えてくれるのかな?
 本当は、すぐ近くに、その答えを持っている人がいる。それは、自分。でも、気が付かない。悩んで、悩んで、悩んで、心の奥に隠された、どんな方程式にも当てはまらないその答えを、自力で拾い上げなくてはならないのだ。

 かがみが出て行った部屋で、みゆきは一人チェス板をいじっていた。こなたは、そしてかがみも気が付いていないが、二人が持つその気持ちに対するヒント自体は、みゆきが何度も出している。
 さて、そのヒントが、蒔かれた種がどう芽吹くか、それをチェスに例えて、駒を動かす。最終目標は、キングの駒。そこに到達するまで、後、何手足りないのか。それはみゆきにも分からない。人の心は、ゲームのようにはいかず、難しい。
「頑張ってくださいね、泉さん、かがみさん……」
 一人しかいない部屋で、みゆきはそっと、呟く。
 時計を見ると、かがみが出て行ってからもう10分経っていた。みゆきはチェス番の駒の位置、それを正確に記憶すると仕舞い、立ち上がった。
 扉を開ける、向かいの部屋が見えた。きっと彼女は愛しい人の下へ向かっただろう。自分は、そのための種を蒔いたのだから。
 さて、ここからどう動かすか……微かに苦笑しながら、みゆきは‘3人’がいる部屋の扉へと手を伸ばした。




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  • みゆきさんがカッコいい -- 名無しさん (2012-12-16 11:10:03)

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