好きの証明

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朝、いつもの場所に待ち合わせ。到着するのは大体私が後だった。
今日もやっぱり仲良し姉妹が先にいて待っている。まだかまだかという様子は見なきゃよかった。
苛立ち、心配はたぶんありえない、そんな顔をさせていることにちくりと胸が痛む。
それでも何食わぬ顔で行くのが私だけどね。
「おはよー、かがみ、つかさ」
「おはよう、こなちゃん」
「おはよ」
にこっと微笑んでくれるつかさに癒され、ちょっと無愛想なかがみに頬が緩む。
いやマゾとかじゃなくて、こういうキツいとこがかがみらしくて可愛いんだよ。
「あんた時間通りに来るってできないのか。前に時間遅らせたらその分さらに遅れてくるし」
「いやまあ、それが私らしさってことで一つ」
「時間守れないなんて絶対将来苦労するわよ」
「その点は大丈夫。バイトはまだ無遅刻無欠勤だし」
「その精神を私らにも回してくれ」
呆れるかがみ。罪悪感がないこともない。
でもかがみは待ってくれるんだよね?文句を言いながらも待ってくれていると信じてるよ。
「お姉ちゃんこなちゃん、バス来たよ」
「ほらかがみ、行こう。乗り遅れるよ」
何か言いたげだったかがみの手をとる。柔らかくて温かくて、私のより一回り大きい。
「全くあんたは」なんてこぼしながら優しく笑って、ぎゅっと握り返してくれた。

バス停から教室までのちょっとある距離。私はかがみと手を繋いだまま歩く。
ちょっと恥ずかしいけど、こうして一緒に登校することも少し前はもうできないって思ってたんだよね。
かがみを好きになって、かがみが私を好きになってくれたこと。
擦れ違い一人寂しく過ごしていた日々を思い出し胸が締め付けられる。
つい繋いだ手に力が入ってしまってかがみの足が止まる。訝しむかがみに普段通りの表情ができてるかな。
握り返してくれた手から伝わる温かさに安心する。
くっと引き上げてくれるかがみは強いね。悩み押し潰されそうになっていた私とは全然違うよ。
少し先を行くつかさがちらりこっちを見て嬉しそうに笑う。いつだってその笑顔で支えてくれていた。
私と同じ女の子だけどかがみはおっきくて、それに甘えてばかりの私がいる。
「ねえかがみ」
好きだよ、大好き。かがみと出会えてよかった。今すごく幸せだよ。
そう伝えたいのになかなか声にならなくて、どうしようもなく顔が熱い。
「どうした?」
「えっとね、その……」
あの日、かがみが私を好きだと言ってくれたとき。嬉しくて、夢みたいで、涙が止まらなくて、抱きついてただ頷くことしかできなかった。
あれからずっと、ちゃんと言わなきゃって思ってるのに、なんで伝えられないかな。
「ほんとあんたは可愛いわね」
何も言えずにいる私にかがみは声に出して笑って、ぐりぐりとちょっと乱暴に頭を撫でてくる。
「うー。あ、あのさ、かが」
「ごめんこなた。今日ちょっと職員室寄らなきゃ行けなくて、また後でね」
パッと離れてかがみが行ってしまう。残された微かな温もりと引かない熱。
「あれこなちゃん、顔赤いよ。大丈夫?」
「だ、大丈夫だから!」
急ぎ足で教室に向かう。つかさが情けない声を出しながら追ってくるけど待っている余裕はない。
乙女的思考と真っ赤な顔は誰にも見られたくなかった。

「かがみさまー」
ガラリとC組の扉を開けて開口一番かがみを呼ぶ。
峰岸さんとみさきちと話していたかがみが露骨に嫌そうな顔してこちらに向く。
何人か私とかがみのほうを見比べていたけど、なんだまたあの二人かって感じですぐ元の姿勢に戻る。
私もかがみも、お互いのクラスに頻繁に行き来してるからそういう認識されてるみたいなのかな。
「なんの用?と言うか様はやめろと言ってるでしょうが」
「誰も気にしてないからいいじゃん。とりあえずかがみ、お願いが」
「言っとくけど、宿題なら見せないわよ」
「ぬおっ、エスパー!?」
「はぁ。いい加減受験生なんだし少しは勉強しようと思わないのか」
ごもっともですかがみ様。でも目的も報酬もなきゃやる気が出ないんだよね。
将来のことなんて今決められるわけないじゃん、なんて言ったらかがみはますます呆れるんだろうな。
「毎度のことだけど、なんでわざわざ私のところに来るわけ。みゆきなら同じクラスじゃない」
「んー、みゆきさんにそういうこと頼み辛くない?宿題丸写しとかさ」
「言いたいことはわからんでもないが、納得できん」
「ま、それはそれとして、かがみに会う口実ができるじゃん?」
「なっ……ど、同意を求めるな」
いつだったか似たようなこと言ったけど、あの時は内心結構傷ついたんだよ?
赤い顔して効果ありみたいだね。あともう一押しかな。言ってるこっちもなかなか恥ずかしいもんだけど。
「かがみの好きなこなたからの、おねがいっ」
「っ……!」
「効果はばつぐんだ」
「うっさいわ、ばか」
ぶっきらぼうに言っても真っ赤になって口元緩んでたら全然だよ。
「かがみありがとー」
感謝の記しに抱きつく。以前から冗談っぽくスキンシップはしてたけど、今は正直なところ照れ臭かったり。
「おーいお二人さん、もうすぐ休み時間終わるぞ」
みさきちの指摘に慌てて離れる私たち。
密かに私の腰に手が回されてたことに気づかないふりをして、そそくさとC組を後にした。

じーっと時計を眺めても、当たり前だけど時間の流れが変わったりすることはない。
昼休み、つかさとみゆきさんと机を囲んでいるけど、まだお弁当には手をつけてない。
「かがみ遅いね」
ぽつり呟く。遅くなるときや来れないときはいつも事前に伝えてくれてたのに。
「泉さん、その台詞4回目です」
「そ、そだっけ?」
指摘されるとなんか恥ずかしい。時計の針は全然進んでないし。
「というか二人は先に食べないの?私はその、かがみを待つ理由があるし」
「慌てることもないですから」
「みんなで食べるほうが美味しいもんね」
つかさもみゆきさんも言ってることは普通なのに、こっちを見ながらにこにこされると困る。
ガラガラと教室の扉が開く音に反射的に視線が行く。入ってきた人物を見て自然と頬が緩んだ。
「こなちゃん可愛いね」「そうですね」とか聞こえた気がするけど気のせい。後ろは振り向かない。
「ごめん遅くなって」
「もー、遅いよかがみ」
「ちょっと桜庭先生に呼ばれてて。学級委員でもないのに色々手伝わされちゃったわよ」
「かがみさんだから先生も頼ったんじゃないでしょうか」
「うーん、何かとこき使われてる気がするし勘弁してほしいわ」
かがみは真面目で一年の時に学級委員してたくらいだし。わかりやすく優等生だよね。
おかげさまで私はお世話になりっぱなしですよ。
「あれ、先に食べてなかったの?」
「うん。こなちゃんがお姉ちゃんを待とうって」
「ちょっ。私はかがみを待つよって言っただけで」
「そっか。ありがとねこなた」
「えっと、うん」
微妙に誤解されてると思うのは私だけ?
「ところでかがみさん今日はお弁当はどうされたんですか?」
「ああ、それは」
「はい、かがみ。つかさに敵うかは自信ないけど、かがみが自分で作るより美味しいはずだよ」
「一言余計よ」
「なるほど、ごちそうさまです」
いやまだいただきますもしてないから。
みゆきさんもつかさも、認めてくれてるのは嬉しいけど、なんか楽しんでない?
「とにかく食べよ。もうお腹ペコペコだよ」
とは言いつつ自分の箸を進めるよりかがみのほうが気になる。
「な、なに?……いただくわね」
お泊まりの時とか調理実習で食べてもらったこともあるから、今さら不安なんてない、はずだけど。
「ど、どうかな?」
「んー、ちょっと、薄いかな?」
「えっ……と、それはあれだよ。ゆーちゃんやお父さんに合わせていつも味付けは濃くしないようにしてて……」
言い訳してどうする。かがみに食べてもらう分なのに何やってるんだろ、私。
「えっと、家庭によって味の違いって出るよね」
「そ、そうよね。勝手にいつもの味を想像してて。十分美味しいわよこなた」
「……かがみは濃いめのほうが好き?」
「ああ、まあ、そうね」
かがみ用の味付けは濃いめで。忘れないようにあとでメモ必須。
「こなた、この卵焼き美味しいわね」
「え、ほんと?美味しい?」
「美味しいよ、こなた」
真っ直ぐに、優しい笑顔で言われて、肩の力が抜けた。
「えへへ、よかったぁ」
「かわいい……」
「ふぇ?ちょ、かがみ、いきなりなに?」
無言で頭撫でてくるとかちょっと怖いよ。
「あ、ごめん」
「別に謝るようなことじゃないけどさ」
そろそろ自分の分を食べないと。
かがみのことばかり見ていたのを自覚し一呼吸。つかさとみゆきさんが微笑みを湛えてこちらを見ていた。
な、なんか言ってよ。
「微笑ましいですね」
「ね。なんだか新婚さんみたいだよね」
やっぱり何も言わないで。てか、そんな見てて楽しいかな。
「うん。……やっぱり料理できるっていいわよね」
満足げに頷いたあと少しへこんでいるかがみ。
気づいたらもうほとんど弁当箱が空になっていた。かがみの食べることへの意欲ってすごい。
「そうよ!」
「どったのかがみ?」
「こなた、これから毎日私の分のお弁当作ってきてくれない?」
「はい?」
「間違えた。こなた、毎日作ってきなさい。わかったわね。決定事項だから」
あの、かがみさん、肩が痛いです。あと、顔近くないですか。
「愛妻弁当だねお姉ちゃん」
「羨ましいです」
二人ともバカなこと言ってないでかがみを止めてよ。
「あれこなた、全然食べてないじゃない。そうだ、私が食べさせてあげるわよ。ほら、あーん」
「じ、自分で食べられるから。はなせ~~」


「つかさ、みゆきさん。またねー」
教室を出ていく二人に手を振る。
かがみと付き合うことをカミングアウトしてから、二人と一緒に帰る機会が少なくなったと思う。
もちろんかがみと二人きりにしてくれていることはありがたいのだけれど、ちょっと照れ臭かったり、私にとってつかさもみゆきさんも大切な友達なわけで。
私とかがみの間柄が変わったからって4人一緒で仲良くいたいというのはずっと前から願い続けているから。
「おーいこなた、帰ろうよ」
「うん。今行くー」
ま、明日にでも話せたらいいかな。今は今で楽しまなくちゃね。
かがみのもとへ小走りで駆け寄ってピタリと寄り添う。
日中は暖かいからいいけど夕方頃から急に冷え込んできて困る。コートやマフラーはまだ押し入れに眠ったまま。
「ちょっと、歩き辛いでしょ」
「気にしない気にしない」
かがみはやわっこくてぬくぬくでほんと心地良い。
のんびりと歩きながらちらりとかがみを見上げる。
最近はあまり照れてくれなくて、凛とした表情で背筋を伸ばして歩く姿はキレイだなと思う。
「どうかした?」
「な、何でもないよ」
それ以上追及はしてこないけど、不思議そうに首をかしげる仕草がかわいい。
かがみの一挙手一投足に釘付けになってしまう。これが惚れた弱みってやつか。
「ねえこなた」
「ん?」
「今日あんたん家行っていい?」
「いいよ」
よし、とかがみが呟いて、私の手を取り急に歩くスピードを上げた。
「別に急ぐ必要はないんじゃ」
「何言ってるのよ。手を繋ぐのもいいけど、部屋でまったり過ごすのが一番でしょ。……人目も気にしなくていいし」
ニヤリと口角を上げて笑うかがみ。そういうのは私の特権だったはずなのに。
散々ツンデレとか言ってたのに、今のかがみは欲求に正直すぎだ。
「かがみはさ、変わったよね」
真面目で呆れさせてしまうことも多いけど優しくしてくれる。照れることが少なくなって素直になって、私を困らせたりする。
「そうかしら?」
「そうだよ」
スキンシップも普通のことみたいに、かがみの温もりがなくちゃ生きられないって思うくらい。
「でもそれも当たり前じゃない?」
かがみが変わったと感じるように私自身も変わった。
朝から晩までずっと一人の人のことを考えて、良くも悪くもその人に振り回されっぱなし。
でもそんな自分が嫌だとは思ってないんだよね。
「私はこなたが好きなんだから」
私はかがみが好きなんだから。
「前まではずっと我慢していたんだもの。今こうしていられること以上に嬉しいことなんてないわ」
繋いだ手に力を込めてとびきりの笑顔でかがみが笑った。
「ねっ、こなたは?」
「……私も」
「私も?」
待ってまって。ちゃんと言うから。少し離れて、顔近いよ。
「私も、今、すごく幸せだよ。……それと」
「それと?」
「……っ」
ちょっと動けばキスしちゃいそうな。心臓がうるさい、顔が熱い。全部かがみも気づいてるはず。
「私はかがみが好きだよ。大好き」
全てを伝えて私は目を閉じた。



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  • ありがとうございました。
    あなたの作品をいつも楽しみにしてます。 -- kk (2014-10-20 23:48:24)



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