こなた×かがみSS保管庫

パーフェクトスター第4章Cパート

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匿名ユーザー

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『パーフェクトスター』
●第4章「夢の終わりに謳う歌」Cパート1
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あれから2日が経過した。

「それじゃ行ってくるわね、こなた」
「…」
「こなた?」
「ふぇ?」

少し強めのかがみの声で我に返る。
かがみと一緒に朝食を食べてた途中でトリップしていたようだ。
すでに朝食を済ませ、出かける準備を終えたかがみが、不思議そうに私を見つめてる。

── またやっちゃった。取り繕わないと、ほら前みたいにね。

「あーごめん。ぼーっとしてたヨ」
「あんた、最近ぼけーっとするの多くない?まさか!こなたさん、恋の悩みっすか!?」
「いやいや…ほら今度出るアニメのDVD、限定版買おうか迷ってて」
「って、そっちかよ」

わざとらしいかがみのネタ振りに、“相変わらず”を装った返事する。
今では、こんなやり取りをしょっちゅう繰り広げている。
…悪いのは私のせいなのは言うまでもない。

「あはは。で、かがみ、何か用だった?」
「いや、特に用はないんだけど…そろそろ、バイト行くね」
「ん、もうそんな時間なんだ」

私の言葉に、かかがみがバツ悪そうな表情をして立ち上がり、玄関へ向かって歩いて行く。
本来なら話を聞いてない私がする表情のはずなのに、気づいたときには今更すぎた。

かがみの背中が遠のいていく。
しばらくその背を見つめていると、ふいに私の中に不安が生成された。

『このまま、かがみは帰ってこないかもしれない』

事実を知った今、形式を問わずそれは確実に起こりうることなのはわかっている。
…起こってしまったら私にはどうにもできないのも理解しているつもりだ。
でも、頭では理解していても、私の感情に従順な部分が不安を覚えてしまう。
肥大化していく不安に飲まれて私は、結局行動を起こす分からず屋。

「かがみ!」

目の前を歩いていくかがみの存在が、膨れ上がる不安に比例して徐々に霞んでいく感覚に囚われた私は、
玄関で靴を履き替えているかがみを呼び止めて、走り寄っていた。
かがみが振り返る前に、心の何かが伸ばしかけた手だけは押さえ込む。
…その何かは、“諦め”かもしれない。

「ん?」
「あ…いや、その」

―― どうして我慢出来ないかな…?

感情の抑制が完全に出来なかった自分が恨めしい。
そんな心中の葛藤に唸る私を、急かさず静かにかがみは見守っていてくれていた。

「えっと…今日さ、何時に帰ってくるの?」
「そうね、今日は割と早いんじゃない、そうねー19時とか?
何、また待ち合わせして、外食でもする?」

いつも通りに返してくれるかがみの優しさが胸を抉る。

「んーん。…ご飯作って待ってる、ね」

想いに涙腺が緩むのを堪えてそれだけ伝えると。

「じゃあ楽しみにして帰ってくるとしますか!」

かがみが本当に嬉しそうに笑って玄関を出た。
扉が閉まるのを確認したと同時に、左目から頬へ一筋の線が出来て行く。
どうやら声には出来そうにないから、心の中で呟いた。

── いってらっしゃい、かがみ。

 * * *

バイトも無いフリーな日には、決まって家事をするのが、かがみと暮らし始めてからの習慣になっていた。
最初のうちは面倒だったこともあったけど、何もしなければ考え込んでしまう今、
こうして家事をこなしている間の、無心になれる時間が楽だった。
が、どんなに時間をかけたっても、終わりがある作業には変わりはなく。
一通り済ませた私は、綺麗になった床に座って、ベッドに寄りかかりながら、あの日の事をまた考えていた。

実は、みゆきさんの口から告げられたあの話には続きが存在している。
ただ、“続き”の前に聞いた事実の衝撃に耐えきれなかった私は、その内容を考察できるほど冷静ではなかった。
お風呂場で思い切り泣いたのが多少功を奏したのだろう。
幸い、頭の中に内容は残っていたおかげもあって、改めてその内容を思い返し、考えるようになったのは次の日からだった。
ここ2日間、私がぼんやりするのは理由はそれでもあった。

当時放心状態に近かったため、必要な部分しか録音されていない脳内のテープレコーダーを再生する。
正直言えば再生したくない、思い出したくない。
けど、逃げていられない理由がそこにはある。

──もう私には残された時間は少ない。

『つかささんととかがみさんを引き合わせた場合ですが、かがみさんが過去の記憶を
失うきっかけになった原因が消え、代わりに過去の記憶は思い出されますが、泉さんと過ごした3週間の記憶は必然的に消去されます』

みゆきさんが最初に私に提示した解決方法。
“つかさの事故”を明かす事が、かがみの記憶が戻る基軸なのは言うまでもない。

『次に何らかの行動を起こさず、時間の経過を経た場合ですが…
元々解離性遁走の期間は短期間である事が多く、いずれは前者同様の事が起こります』

ようは時間が経ってば、いずれかがみは私の事を忘れてしまうということ。
この2つだけだと、結局かがみが私を忘れる事は避けられないという事実を突きつけられてるだけで、選択することなんてない。
…ただ、私がかがみを諦めればすべてが済む話だ。

でも、みゆきさんとつかさは、私のためにほんの僅かな可能性をこの後示してくれた。

『最後に一つだけ。“かがみさんが泉さんを忘れずに過去の記憶を戻す”可能性を…ほんの僅かですが、上げられるかもしれない方法があります』

険しく、すごく悲しそうな顔をしていたみゆきさんが思い出される。
こうして客観的になってみれば、みゆきさんがずっと冷たい口調や険しい表情を貫いていた理由がわかる気がする。

── 私が必要以上に希望を持たないように、そうしてくれてたんだね。

つかさのことから始まり、かがみの状態を話す間。
この可能性の示唆だって、“ほんの僅か”と明言しているあたりはみゆきさんの優しさなんだと思う。
言葉を濁したり、優しい表情を見せてしまえば、私は縋りっぱなしになってしまうから。
裏切られたときの反動を軽減してくれるよう、最初から仕向けてくれていたみゆきさんの優しさに感謝しつつ、続きを再生する。

2人のくれた最後の選択肢は。

『それは、泉さんがかがみさんにすべてをお話すること。
かがみさんが記憶を消失してしまいたいと思うほどのことです。今の“かがみ”さんに、
過去や今回の発端を提示することで、潜在的に残っている以前のかがみさんの記憶が何かしらの反応を示す可能性はあります。
自己が確立される前に、泉さんが本来の“かがみ”さんと近い自己と対峙ができれば、
泉さんとかがみさんとの間に接点が生まれ、きっかけさえあれば、かがみさんに過去の記憶が戻った場合も、
消えるはずの3週間の記憶が想起が出来るかもしれない、ということです』

この言葉を私なりに解釈するため、赤い糸を過去のかがみ、青い糸を今のかがみに例える。
記憶が完全に戻ってしまった場合、青い糸は消滅し、赤い糸は一本の糸として再び形を確立する。
そこから私が接点を持ったとしても、赤い糸は赤い糸としてしか伸びない。
みゆきさんの提案は、私が赤い糸を引っ張りだす役目を負えば、青い糸に私との接点が生まれ、
その2つの糸が繋がるかもしれないって考えになる。

『ただし、記憶を喪失するほどの事象は少なからず、本人にとっては耐え難いような出来事がきっかけとなっているため、
それを提示することは本来ならタブーとされています』

なぜならば、それを強制的に思い出されることは、過去のかがみには苦痛でしかないため、
思い出させて行く過程の中で何をするかわからないから。
…そうみゆきさんは後付けをした。

つかさと対面した場合、原因が一気に解消されるため、リスクは発生しない。
が、第三者である私がそれを起こした場合は大きく変わる。
かがみに苦痛を強いる事になる上に、その間にかがみが自傷しないとも限らない。
そうなれば、かがみはもちろんのこと、つかさや他の家族にも多大な迷惑をかける事になるということだ。
…しかも、成功する確率は極めて低く、失敗すればかがみは確実に私を忘れる。

『どれを選ぶかは、泉さん次第です。この件に関してはつかささんにも了承は得ています』

この言葉を最後にみゆきさんの口を閉ざす。

『こなちゃん…実は、今お姉ちゃんの存在は、お姉ちゃんの携帯で家族には誤摩化してる状態なの。
それで、そろそろお盆が近いせいもあって、顔を出せって言われてて、
もうすぐ誤摩化せる限界も近いんだ。本当ならもっと時間を上げたいけど…』

…3日以内にどうするか答えが欲しい。
最後につかさがこう言ったのも覚えている。

 * * *

ため息を吐いてから、ベッドに寄り掛かっていた体を滑らせ、完全に床へ身を預ける。
床のひんやりとした感触が、熱を持った肌を冷やしてく。
ついでに頭の中にある熱も冷まして欲しいな、なんて徒為一つ考えて、一方で私は再び思考の渦へと身を投げた。

思い返すたびに辿り着く選択肢は3つ。
3つとも糸を手繰れば、辿り着くところは同じかもしれない。
大きな違いは糸の手繰り方、その過程。

── じゃあ、私はどうしたい?

関係者であるつかさやかがみのことを考えれば、私がかがみへの想いを諦め、早期段階でつかさに会わせるのが最善なのはわかっている。
かがみも、この3週間の記憶を忘れ、差し障りなく以前の生活へ戻れるし、苦しむ人がいるとすれば、知る限りでは私1人だけだ。
私一人の想いさえ捨てきれば、何一つリスクがない、最善の選択肢。

…聖人に等しい人格の持ち主だったら、何の迷いもなくその選択肢を選ぶんだろう。
そこまでわかっていても、結論として出せないのは。
今の私はすんなりと現実を受け入れられるほど、物わかりがよくないから。

人とはちょっと違う価値観の中、些細で変なところは現実的だったり、妙に醒めた部分があるって誰かに言われた事がある。
たまたま“醒めている”と評価した人にみせた私がそうなだけで、あくまで複数存在する私の一部でしかない。
中には好きなモノに対しては諦めが悪く、妥協のない欲を持つ自分もいるのは自分がよく解っていた。

今回、2人に提示された最後の選択肢が。
1つだけ全く違うものに化ける可能性を秘めた糸が、よりにもよってその私を呼び覚ましてしまった。
厄介者の強欲な私が見据えているものは常に直線的。

─ かがみが好きだからこそ、その可能性に縋りたい。足掻きたい。

その想いを原動力とする私は、行動を起こす事で望む結果が得られなかったときに返ってくる絶望の度合いも、
剰えかがみにリスクを科せることさえも見えていない。
冷静で現実的な私は、真逆で。そこに恐れを持っていた。

── 行動を起こして、失ったときの絶望に耐えられる自信がない。

この2日間結論が出せなかった思考の葛藤図がこうして出来上がる。

諦めるには可能性を捨てるきっかけが掴めず。
選ぶには、何かが足りない。

…私に残された時間はあと1日。
答えは出ない。

 * * *


……
………

《なぞなぞ~みたいに~地球儀を~解き明かしたら♪》

私は考えながら寝てしまったらしい。
いつマナーモード解除したか覚えの無い、けど聞いた事のある着信音が耳に付き、その音源へ手を伸ばす。
着信相手が誰かもわからないうちに、無造作に通話ボタンを押した。

「……はい」
「もしもし、こなちゃん?」

寝ぼけていた私の意識は、意外な電話相手により一気に覚醒した。

「ん…つかさ?」
「うん。もしかして、こなちゃん寝てた?」

2日前に聞いたよりも声は明るく、お見舞いに行ったときのような気軽さがある。
相変わらずのつかさのペースに自然と乗せられて行く。

「あー…家の事した後、ちょっと寝ちゃってたみたいだね」
「そうなんだ、おはよーこなちゃん」
「ん、おはよ。で、急に電話してきてどしたの、つかさ?」
「え、えっと、今何してるのかなーって」

つかさらしいさがにじみ出るその言葉に、私は電話口で苦笑した。
吃ってるところを聞くと、何か他に用件があるのが丸わかりだ。

「つかさが当てた通り、寝てたよ。今日はバイトもないしね」
「お姉ちゃんは、いる?」
「…かがみなら、バイトに行ってるから、今はいないよ」

つかさは「そうなんだ」と一言納得した後、受話口に走った携帯特有のノイズが沈黙を生む。
受話器を耳に当てていない方の耳で、部屋の音を拾う。
壁がけ時計の針が、20回くらい音を鳴らしたところで、沈黙が終った。

「こなちゃん、今日これから時間とれたりしないかな?」
「とれなくはないよ。でも、まだ結論は」
「あ、違うの。その話じゃなくて──」

てっきり選択肢の結論を聞かれるのかと思ったところ。違うらしい。
私はつかさの言葉を待つ事にした。

「こなちゃんともう少し話がしたいんだ」



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