こなた×かがみSS保管庫

てろてろ

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
知らないとこにいきたいな 一人歩いて
大きな木陰で
雨宿りをしたり

風に揺れてどこまでも青い草の中を
歩いて行きたいな
柔らかな土の匂い



『てろてろ』


静かに揺れる電車の音が聞こえてくる。
揺り篭の中で聞こえるようなその音は、ゆったりとこなたの体を包んでいる。扉近くの壁にもたれるようにしながらこなたが聞いているイヤホンからは、女性歌手の優しげな歌声が聞こえてきて、電車の扉の向こうを流れる緑は目に優しかった。
車内は静かで、見知らぬ人たち同士が物言わぬ穏やかな犀のように礼儀正しくしていて、不意にイヤホンから流れる曲が途切れると、電車はその速度を落としてゆっくり田舎の駅のホームに滑り込んでいった。
終着駅を告げるアナウンスにこなたが駅に降りると、そこは緑に包まれた見知らぬ田舎で、誰も知る事のないような長閑な場所だった。優しげな鳥の囀りがこなたの耳に届き、こなたは改札で駅員に切符を渡して改札を出た。自動改札がないのだ、この駅は。
駅前に広がっているのはひたすらの田舎道でコンビニすらない。こなたはそこをゆっくりと歩いていく。両脇に広がる緑の野原を見ながら。

初夏の匂いがする。

田園の間のあぜ道をてろてろ歩いていると蛙の声が聞こえて、こなたはそれを聞きながらポケットに手を突っ込んで歩く。目に優しい緑がどこを向いても飛び込んできて、空は青くて、太陽はさわやかに輝いていた。

こなたはそんな美しい光景に親友の笑顔を思い出す。
かがみと過ごす教室、しょうがないな、と笑うかがみ。どこまでもどこまでも本当は優しい女の子。世話焼きで、ツンデレで、恥ずかしがりで、寂しがり屋。こなたはかがみとの楽しいことを思い出して、にこりと笑う。

その時不意に、空は真っ青なままなのに、こなたの頬を水滴が打った。

見れば微かな雲が通り雨の到来を告げている。
「こりゃいけない」
慌てて駆け出すこなたは野原に分け入り、草の中を駆けて大きな木陰に入った。瞬く間に青空の中を雨は降り出し、雨宿りするこなたはその雨を眺めていた。雨に濡れても気持ちいいかも知れない、なんて思いながら。
 馬鹿ね、風邪引いちゃうでしょ、とでもかがみは言うかな?
 いつも心配してくれるかがみ、ライブで席を替わってくれたり、宿題を見せてくれたり、ラノベを貸しては共通の話題が出来るのを楽しみにする、可愛い、かがみ。
「かがみ……」
 いつの間にか雨は止み、虹が出ている。こなたはそれを見上げると、野原の中を歩き出した。
 青い草の中を歩いていると柔らかな土の匂いがする。
 踏みしめる感触も、吹く風も、夏の匂いがする。
「かがみ……」
 教室でかがみをからかっていて、不意にかがみは強く言った「いい加減にして!」その表情が本気で怒っていて、拒絶するみたいで、上手くそれを認められなくて。
 気づいたら自分は電車を乗って遠くに来ていた。
 知らないとこに行きたいな。
 一人歩いて。
 茂る草の緑を歩いて、青い空の下で思い出すのはかがみの事ばかりで。
 いつもみたいにからかって、抱きついて、それを拒絶したかがみは、本当は今までもそれが嫌だったのかも。
 ううん、もしかしたら……。
 私がかがみに抱きつく時、そこにどうしようもない『本気』が混じるようになったから、かがみは私を拒絶したのかも知れない。違うとしても、私はかがみに本気になってしまって、かがみに拒絶されてそれに気づいて、もうどうしていいか分からないんだ。
 かがみが私を拒絶するのは、当然の事だから。

 こなたは気づけば、かがみを愛していた。

 知らないとこに行きたいな。
 一人歩いて、見える山や野原の風景はひたすら自由で、広くて、風が気持ちいい。
 どこまでもこのまま歩いて行けるような気がする。
 それでこのまま、どこまでもどこまでも緑の中を歩いて、そのまま風に溶けていけたらいいのにな。
 そしたら気持ちいいまま、誰にも迷惑をかけず消えていけるのに。
 通り雨の後の風は少し湿っていて、草の上でかがやく水滴はキラキラと輝いていた。

 知らないとこに行きたいな。

「かがみ……」

 嘘だよ。
 本当はね。
 ここにいたい。
 ここにいたいんだ。

「あはは、変なの」
 私、泣いてる。
 かがみにちょっと、怒られただけなのにね。
 私、間抜けな顔してるよ。
 泣き虫弱虫で、おまけにへっぴり腰で。
 てろてろ歩いて、おかしいね。

不意に茂みの中に捨てられた自転車を見つけて、まるでそれが自分みたいに思えた。触れると錆びた自転車はぎぃぎぃ音を立てたけどまだまだ乗れそうで、こなたはそれにまたがる。
「行こうか、相棒」
 行く当てなんてないけれど。
「GO!」
 強くペダルを踏み出すと自転車は風を切って走り出す。
 体全面に当たる初夏の雨上がりの風。
 それだけでも、随分気持ちいい気がした。
 私よりは大きなこの町の、硬い道の上を、てろてろ自転車で走る。
 ああ、帰りたくないな。
 このままずっとぐるぐる、自転車で回っていたいな。
 何も考えず、てろてろ、てろてろ。
 どんどん、知らない駅の知らない場所を自転車は走っていく。どんどん、どんどん。
 もう戻れないような緑の山の向こうまで、どんどん行きたいな。
 風を切ってびゅんびゅん走って、不意に自転車はガタガタ言い出して。
 気づけばタイヤの空気が抜けきってしまう。
「パンク?」
 そりゃ、パンクもするよね、放置されてた自転車だし。
 こなたが周囲を見回すとそこは全然知らない場所で、駅へ戻れるかどうか、全く分からなかった。
 こなたは自転車を押しながら、駅へ向かって戻ろうとトボトボ歩いていく。
「かがみ……」
 かつて明るい陽の差す教室でかがみは言っていた、こなたが薦める百合ものなんかを読みながら、ごく簡潔に。

 「現実だったら、引いちゃうよね」

 別に普通のこと。
 そんなに悪意があった訳じゃなくて。
 同性愛者に偏見とかがある訳でもなくて。
 でも。
 でも。
 ああ、道が分からない。
 一日に何回も同じ道を通って。
 気づけばぐるぐる回って。
 夜が近づいて世界は夕日に包まれて。
 ああ、誰にも知られず消えていきたい。
 かがみを思って夜は泣きそうになっても。

 知らないとこに行きたいな

 一人歩いて

 大きな木陰で

 雨宿りをしたり


 気づけば、私はかがみをこんなに愛してた。戻ることがどうしてもできず、湧き上がる思いを抑えることができないくらいに。
 私はどうしようもなくかがみを愛している。それをかがみが気持ち悪いと思うとしても。

 知らないとこに行きたいな
 かがみを苦しめないために。
 この愛情を永遠に封じ込めるために。
 それがきっと、二人にとって一番いいことだから……。
 なんて……

 夕日に伸びる自転車を押すこなたの長い影、こなたは張り裂けそうな胸の想いに震えた。

 嘘だよ
 ほんとうはね

 ここにいたい

 ここにいたいんだ

 本当はいつも誰よりも

 かがみの笑顔、かがみの優しさ、かがみの想い、かがみの温もり……
「かがみ、かがみ、かがみ……!」 

 君のことを思っているんだ!!

 誰にも負けないくらい
 君の傍にいたいんだ。
 そう思ってこなたは泣いた。

どれくらい泣いていただろう。
 世界はまだ茜色に染まっていて、滲んでいく夕日が遠くに見える。
 もうここがどこかも分からなくて。
 きっとみんなは心配しているのに、帰りたくなかった。
 どうしていいか分からなかった。
 夕日が沈んで行こうとする。ただこなたは呆然と立ち尽くして、かがみを思い出して泣いた。
 そんな涙に滲んだ視界に、ありえない姿が映る。
「こなた!!」
 自分の願望が生み出した幻かと、こなたは思った。
「家出って、何考えてんのよ!学校さぼって探しちゃったじゃない!」
 そう言って顔を真っ赤にするかがみを、こなたはもうどんな顔をして見ればいいのか分からなかった。
「怒ってないの?」
「怒るわけないでしょ!あんなことぐらいで!もう、こなたらしくないじゃない!」
 かがみは本気で怒っている。
 何も言わずに学校を休んで、いなくなって、こんな所をふらついている私に。
 そんな優しさが嬉しくて、愛しくて、でも、だから。
「私は、帰れないよ、かがみ」 
「なんでよ!」
「帰ったら、きっとかがみに迷惑かけちゃう」
「今までだって十分迷惑でしょ!いまさらよ!」
「そうじゃないよ!!」
というこなたの言葉が想像以上に強く、激しいくらいに切羽詰っていて、かがみは思わず沈黙した。夕日の作る長い影が二人の足元に伸びていく。
「そうじゃない、そうじゃないんだよ……」
そう言って遂に泣き出したこなたの涙が茜色の雫となって落ちて、キラキラと輝いた。
「本当に、本当に迷惑をかけちゃうんだよ……」
そんな風に泣き続けるこなたにかがみは近づいていって、その手をぎゅっと握った。
「なんであんたがそんなに怖がってんのかわかんないけどさ……こなたにどんな迷惑かけられても、私は……その。大丈夫よ、そんなに、弱くない」

ああ

かがみがそんなに優しいから
私は泣いているんだよ。

ああ

かがみがそんなに優しいから
こんなにも私は、かがみが愛しいんだ

もう、自分の心をごまかすことが出来ないくらいに。

そしてこなたは泣きながら、遂にずっと押し隠していた本当の心を伝えた。
「かがみ……好きなんだよ……かがみが好きなんだ……!」
あふれ出した思いは、止める事が出来ない。
「友達としてじゃない、かがみが他のだれよりも、世界中のだれより好きなかけがえのない人なんだよ……!」
そう
「ほんとうは、いつも、だれよりも、かがみのことをおもっているんだ……!」
そして
「誰にも負けないくらい、かがみのそばにいたいんだ……」
そう言ってこなたは泣き崩れた。

……言ってしまった。

これで何もかもおしまいだ。
私はもう、かがみの傍にはいられない。
私が、かがみをどうしようもなく愛してしまったから……。
そんなこなたの頭上から、限りなく優しい声が響く。

「馬鹿ね、こなた」

「え?」
かがみはこなたに近づくと顔を真っ赤にして、一瞬息を止めると、意を決したようにこなたを抱きしめた。こなたの涙がかがみの服ににじみ、熱い吐息がかがみの胸を焼いた。
「私が、どんだけ時間かけてあんたを探したと思ってんの?あんたが行きそうなところ、どれだけ探したと思ってんの?」
かがみはこなたに顔を見られないよう、きつくきつくこなたを抱きしめると、言う。
その胸に隠していた本当の気持ちを。
「私だって、本当はいつもだれよりも、こなたのことを思ってるわよ!」
そしてかがみは、今まで決して打ち明けず、未来永劫いわないつもりだった言葉を述べた。
「私だって、誰にも負けないくらい、こなたの傍にいたい!!」
「かがみ……かがみ!」
こなたが感激の涙を流し、かがみはこなたを強く強く抱きしめ、見詰め合う二人は互いの想いを確かめ合うように、限りない愛情のままに口付けあう。

街灯の灯りが星の光を消しても
傾いた夕日は
本当にすばらしかった


       ………


休みの日に、かがみとサイクリングをする事になった。
二人が『恋人』になった特別な場所まで、自転車で。
つまり、デート。
こなたとかがみは、二人で夏の風を切って自転車を漕いでいく。
自分よりは大きなこの街の硬い道の上を。

「こなたー?」
「んー?」
「たまにはアウトドアもいいもんでしょー?」
「かがみんはダイエットになるしね?」
「もう!」

二人で笑いながら走る。
てろてろ自転車で
時々パンクもするけど

「もう、パンクー?しょうがないなあ」
「あちゃー、なんだろう。家を出た時は普通だったのになー」
二人で自転車を押して歩く。隣にはかがみの苦笑。
ああ、一人でパンクした時は泣きそうだったのにな。
自転車に寄って、修理が終わって、レッツゴー。
私たちは初夏の日差しの中で笑いあって、二人でいちゃつくみたいに走っていく。
 こなたはそんなかがみの笑顔を見て、この上もなく愛していると思う。
 この世界も、かがみも、みんな好き。

 だから

 ここにいる私が触れるもの全部、愛して生きたいんだ

 いつの日か


「かがみ!」
「ん?」
 こなたは思い切り叫ぶ。

「大好き!!」



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コメント:
  • GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-08-16 10:50:51)
  • これを読んで…、てろてろを聴いて。
    凄く好きになってしまいました。
    ありがとうございます -- 名無しさん (2009-08-19 13:09:27)
  • 素敵なお話ありがとうございました!詩のような作品をもっと読みたいと思ってます☆ これからも頑張ってください!☆ -- 紗那*゚ (2009-06-12 00:42:08)
  • なんかこう詩的な描写がすごくいいです。 -- こなかがは正義ッ! (2009-06-11 13:59:36)
  • 幸せをありがとうww -- 名無しさん (2009-06-11 12:45:50)
  • すごく良い話でGJだったんですが最後らへんの誤字のかがきでちょっと吹いてしまったw -- 名無しさん (2009-06-11 02:48:00)


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