【Buonanotte...】
至る街で前触れもなく倒れる者たち。
それだけで、勘の良い人々は駆け出した――メインヤードへと。
唐突に造られた小さな小さな教会は奇妙な形状をしていた。
入り口は一つだけ。窓は一つもなく、屋根もない。
これが意味する事はたった一つ。
訪問者達は真っ白な棺を囲む五人の青年に詰め寄った。
彼らは痛々しいほど真っ白な軍服に身を包んでいた。
そんな事ありえないのに、傷一つない姿で。
「どうして……?」
こんな事あってはいけないのに、一人も欠ける事無く。
「どうして、貴方たちがいながらッ……」
こうして詰め寄ったのは、彼女で幾人目だろうか。
どんな言葉を投げつけようと、彼らは微動だにせず無表情を通していた。
何の感情も見せず、彼ら自身の心を悟らせてはくれない。
何人であろうと排除するように。
「お前、ずっと側にいたんじゃなかったのか!」
丈之助の胸倉を掴む。
「お前らも! お前らさえいれば、どうとでもなっただろ!」
護衛としての能力だけで言えば、彼ら以上の存在などいない。
指先を掠める事すら不可能なほど完璧であったはずだ。
だからこそ、信頼して任せていたのに。
自分たちも、彼女自身も――
意図的に見ないようにしていた棺の中へと視線を移す。
最後に見た姿と変わらぬ、穏やかな表情。
純白のドレスは彼女によく似合っている。
分かっていた。
これは、彼らだけのせいではない。
藤司朗が彼女の傍らに止まっていた一羽のカラスへと視線を向ける。
レジーナは何も言わずに天高く飛び立つ。
「そろそろ、時間ですから」
彼女――否、彼にしては男にしか見えないような振る舞いで、政宗は丈之助を掴んでいた手を強引に解く。
他の面々からの視線を受け、幸成は有無を言わさずに訪問客を外へと押し出す。
戸が閉まる直前、彼は頭を覆っていた布を無造作に剥いだ。
初めて見る隠されていない幸成の素顔。
痛々しいほどの傷痕の残る顔で愛らしく微笑む幸成の姿は、容赦なく断絶された。
鍵穴はない。内側からしか鍵を閉める事も開ける事も出来ない造りになっているのだろう。
それでも、天井が開いているのだ。無理に入ろうと思えば出来ない事もない。
けれど……
「卑怯だな」
あんな顔をされては、これからここで何が起ころうと止める事が出来ないではないか。
鈴臣の指先から眼鏡が滑り落ちる。
ガラスの割れた小さな音が静かな教会内に響いた。
眠る少女の前髪を上げ、幼い子供にするようにそっと口付ける。
「おやすみ……良い夢を」
ようやく、ゆっくりと休む事が出来る。
五人の青年は、棺に頭を預けてきつく目を閉じた。
――無数の羽音を子守唄に。
至る街で前触れもなく倒れる者たち。
それだけで、勘の良い人々は駆け出した――メインヤードへと。
唐突に造られた小さな小さな教会は奇妙な形状をしていた。
入り口は一つだけ。窓は一つもなく、屋根もない。
これが意味する事はたった一つ。
訪問者達は真っ白な棺を囲む五人の青年に詰め寄った。
彼らは痛々しいほど真っ白な軍服に身を包んでいた。
そんな事ありえないのに、傷一つない姿で。
「どうして……?」
こんな事あってはいけないのに、一人も欠ける事無く。
「どうして、貴方たちがいながらッ……」
こうして詰め寄ったのは、彼女で幾人目だろうか。
どんな言葉を投げつけようと、彼らは微動だにせず無表情を通していた。
何の感情も見せず、彼ら自身の心を悟らせてはくれない。
何人であろうと排除するように。
「お前、ずっと側にいたんじゃなかったのか!」
丈之助の胸倉を掴む。
「お前らも! お前らさえいれば、どうとでもなっただろ!」
護衛としての能力だけで言えば、彼ら以上の存在などいない。
指先を掠める事すら不可能なほど完璧であったはずだ。
だからこそ、信頼して任せていたのに。
自分たちも、彼女自身も――
意図的に見ないようにしていた棺の中へと視線を移す。
最後に見た姿と変わらぬ、穏やかな表情。
純白のドレスは彼女によく似合っている。
分かっていた。
これは、彼らだけのせいではない。
藤司朗が彼女の傍らに止まっていた一羽のカラスへと視線を向ける。
レジーナは何も言わずに天高く飛び立つ。
「そろそろ、時間ですから」
彼女――否、彼にしては男にしか見えないような振る舞いで、政宗は丈之助を掴んでいた手を強引に解く。
他の面々からの視線を受け、幸成は有無を言わさずに訪問客を外へと押し出す。
戸が閉まる直前、彼は頭を覆っていた布を無造作に剥いだ。
初めて見る隠されていない幸成の素顔。
痛々しいほどの傷痕の残る顔で愛らしく微笑む幸成の姿は、容赦なく断絶された。
鍵穴はない。内側からしか鍵を閉める事も開ける事も出来ない造りになっているのだろう。
それでも、天井が開いているのだ。無理に入ろうと思えば出来ない事もない。
けれど……
「卑怯だな」
あんな顔をされては、これからここで何が起ころうと止める事が出来ないではないか。
鈴臣の指先から眼鏡が滑り落ちる。
ガラスの割れた小さな音が静かな教会内に響いた。
眠る少女の前髪を上げ、幼い子供にするようにそっと口付ける。
「おやすみ……良い夢を」
ようやく、ゆっくりと休む事が出来る。
五人の青年は、棺に頭を預けてきつく目を閉じた。
――無数の羽音を子守唄に。