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奇抜な形の車、ファンキーレディオ号が高速で走りってくる。ウィリーしながら。
一応だが、ファンキーレディオ号は四輪車に分類される。それが、左後輪のみで走行しているというのはどういう了見だろうか。
『やっほう今日も元気だね皆! それで良かったら止めてくれると逢ちゃん嬉しいな!』
『暴走かよ!?』
高等テクのなせる技ではなかったようだ。しかし、どう制御を間違えば四輪車が一輪ウィリーで華麗に道路を走るのだろうか。
『ほら早くしないと被害者が! あれ? 出てもいいのか? そうか、100人くらい轢いたら止まるよね!』
「おい誰か止めろ! 早く!」
「お前いけよ、グラップラーだろ!」
「東王呼んでこい! あの人なら止められる!」
「いや南王呼べ南王! 轢かれても多分あれなら大丈夫だ!」
ざわめく生徒達。
何人かは手持ちの銃でタイヤを狙い撃つ。それで止めようと言う魂胆だ。
しかし、装甲もタイヤも傷ひとつつかない。恐るべき硬度だ。
『逢ちゃんとみーちゃんとの合作、そう簡単に止めれると思うな……!』
「離せ! 一度あいつは殴らなきゃダメだ! 人として! 人として!」
「気持ちはわかるが落ち着け! アレに立ち向かうのは無茶だ!」
「畜生、無駄に頑丈で凶悪な兵器に乗りやがって……っ!」
幾らトランキライザーの生徒が優秀で、肉体的に優れていると言っても、戦車に勝てる生徒など一握り。
それが最新鋭の兵器技術をふんだんに組み込んだ装甲車、ファンキーレディオ号ならば、トップランカークラスの実力がなければ無理だろう。
無力に嘆く生徒達。膝をついてダンダンと地面を殴っている。
『みゃはは、なんて冗談冗談! ちゃんと止ま』
「ウボァー!」
誰かが吹き飛ばされた。きりもみ式に宙を舞う不運な男子生徒。
空間を沈黙が支配する。ファンキーレディオ号のエンジン音だけが虚しく響いていたが、それも徐々に収まって停止する。
『ちゃんと止まったよ!』
「なかった事にしやがった!?」
「ケン! おい、大丈夫かケン!」
吹き飛ばされた生徒に駆け寄る、彼の友人らしき生徒。
「へっ……ざ、ざまぁ……ねぇぜ。格好つけてこの様だ……!」
「喋るな、今衛生兵を……!」
「やめてくれよ、自分の体だ……もう無駄だって分かってオヴァー!?」
「ウボァァ!」
『はいはい三文芝居はそこまでだだだだだ! 全く皆不真面目だね?』
ファンキーレディオ号をアクセル全開でバックさせ、再度轢いた。非道にも程がある。
間に入った友人も一緒に轢かれた。情け容赦がない。
『なさけようしゃ、むよう』
「鬼だ、鬼がいる……!」
まぁ、轢かれた生徒は二人とも無傷だからいいのだろう。偶発的なパフォーマンスのようなものだ。
そのくらいの気持ちがなければ、ファンキーレディオ号には近づいていない。たまに本気で怪我人が出るものの、その程度は学園都市ではよくある事。
『それでは用意はオールライト! 老若男女にメカも動物も誰でもいいからステイチューン! 人類最強の請負人も無敵至極の最強最優も最狂最悪の暗殺者も正体不明の手品師もその他の皆も纏めてレッツリスン! チャンネル電波はこのままで、勝手に変えたら悪戯するよ!』
堂々と言い切り、今日も賑やかに開始宣言。
『はてさて、今日も貴方に強制試聴☆ ファンキーレディオ、はじまるよーん!』


『ではでは早速開始宣言! そういえばちょっと前はバレンタインだったね! チョコあげた? ラブっちゃった? 逢ちゃんは勿論あげたよ! ……みーちゃんと自分に』
(うわぁ……)
最後だけ明らかにテンションが違った。思わず同情するリスター達。
『さて、それでは今日はバレンタイン特別企画! 【お前の幸せが俺達の不幸、お前の不幸が俺達の悲願】でお送りだ! 異論は認める! ただし考慮も反映もしない!』
「……悔しかったのか……」
「相手がいないから……」
「一二三……オマエは今、泣いていい……泣いていいんだ……!」
『マジ同情!? 大丈夫だよ逢ちゃん強い子! この強さでハッピーバレンタインをヒャッハー言いながら世紀末風に打ち砕いていいかな! いいよね!』
一部から完全同意の声が轟く。どんな一角なのかは、見るまでもないだろう。
『さぁじゃあ早速、今日の為に学園中に仕掛けた録音機が火を噴くよ……! タイトルは『セキラララバレンタイン!』だ! これでこの世の春を謳歌する幸せな野郎どもからリアルってものの恐怖を教えて殺るって寸法だ! 準備はいいか諸君、撃鉄を起こせー!』
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
「ちょっとテンション違くねぇ!?」
『知った事かー! レッツ暴露だスタートゴゴゴー!』

南区画のどこか。
「お? 恋ちゃんやん」
「……!? な、なによ急に!」
「…? いや、普通に見かけたから声かけただけやけど?」
「そ、そう……逆襄は今、一人?」
「見ての通りやな。寂しい限りやでホンマ」
「そう、なんだ……。あ、あのね逆襄、今日って何の日か……知ってる?」
「ん? 今日は……ああ、バレンタインやな。ま、俺にはあんま縁のない話やん? ……アカン、自分で言って寂しなってきたわ」
「じゃ、じゃあ、私があげる」
「マジか!?」
「い、言っとくけど義理だからね! か、勘違いしないでよ!」
「分かっとるって、本命な訳あらへんもんな。でも恋ちゃんのチョコ美味いし、それに貰えるだけ嬉しいわ。毎年ありがとうな」
「――――ッ! じゃ、じゃあ渡したからね! それじゃあ!」
「……何や? ああ、もしかして他の奴にも渡しに行くんかな。まめやなぁ。さて……」
『逆襄? どこですか、逆襄?』という音声を拾った。かなり聞き取りづらい。恐らく、距離が離れているからだ。
「……夜んとこか、宿禰んとこで匿ってもらおかな……」


『何これマジありえないんだけど……。ギルティオアノットギルティでいえば100%ギルティどころか判決死刑確定だよね?』
同意の声があちこちから聞こえる。
『よし。今から南王、これから南王、殴りに行こうか!』
100年以上前に流行ったフレーズを口ずさみつつ、次の暴露へ。

地下区画のどこか。
「ユタくん! チョコです!」
「分かったっての、くっつくなっての、暑苦しいっての」
「あうあう」

東区画のどこか。
「あの、これ、宜しければ……」
「私のチョコも食べてください!」
「うん、ありがとう。美味しそうだね」

西区画のどこか。
「団長の所、また大量にチョコ届いたんだってな」
「ああ、でもどうせ殆ど処分だろ?」
「勿体ねぇよなぁ」

中央区画のどこか。
「バーガールドのバレンタイン企画、チョコバーガーでーす!」
「無料配布してますのでどうぞー!」


『最後のは幸せと言うかチャレンジメニューだよね? 誰か食べた人いるのかな?』
誰もが目を逸らした。忘れよう。
『しかし王様はどこも人気だねぇ。逢ちゃんも送ればよかったかな? 皆も逢ちゃんのチョコ食べてみたいよね! ね!』
誰もが目を逸らした。
『え、ちょっと何その反応。傷つくなぁ……。逢ちゃんだってO☆TO☆MEなんだよ! そんな変なの作ったりしないよ? 不器用ながら健気に頑張るよ! 手に傷をこさえながらチョコ作るよ! 血を入れるって可愛いおまじないもするよ!』
「いやそれ呪いじゃね?」
間違いない。どちらかと言えば黒魔術に分類されそうな具合だ。
「あれ? そういや北の王様は?」
「そういや、あそこだけねぇな……。どういう事だ?」
東西南中央地下と来て、北区画だけが何の情報もない。これは不思議だ、と首を傾げる。
『さぁてそれじゃあ今日も音楽……ってありゃ? メール? みーちゃん? 読め? 何だろうこのメール……。『虚偽放送 (・A・)イクナイ!! 』……なななななななな何の事かな!? 逢ちゃん分かんないな、何も虚偽なんかしてないからな!』
何か隠してる。確信するリスナー達。
『しかし隠していようがいまいがデータは逢ちゃんの手の中……! 逢ちゃんが黒と言えば雨も黒く変わる……! 核の雨! にゅーくりあーれいん! と言う事で音楽にゴー……ってまたメール? 『甘い』? え、ちょっと待ってみーちゃんストップストップトップス! な、なにをするだぁー!』
リスナー達には見えないが、この時、ファンキー号の中では壮絶な戦いが繰り広げられていた。
録音機に仕掛けが施されており、速水がいつでもその録音を流せるように仕組んでおいたらしい。完全に消した筈なのに、サルベージまでされている。一二三は咄嗟にパソコンと録音機を繋ぎ、そのシステムを破壊しようとしている所だ。
『やっ、だめっ、そんな早くしちゃ、で、でちゃう、音でちゃう!』
そうとは知らないリスナー達は、お前は何を言っているんだという顔である。
何かしら一二三に予想外な事が起こったのは把握したが、だからといってどうしようもない。どうかできたとしてもしないだろう。面白ければそれでいいのだ、リスナーは。
『ちょ、待ってああもう解析不可ー!』
そして、消したはずの音声が学園全土に流される。


北区画のどこか。
「ン? オヤ、逢ではアリマセンカ。直接会うのはお久しぶりデスネ」
「あ、はいっ! 夜さんも元気そうで何よりです!」
「ハハ、それはコチラのセリフですヨ。貴方の活躍はドコにいても聞こえマスカラネ」
「い、いえいえそんな。恐縮ですっ」
「謙遜デスヨ。トコロで、これから何か御用デモ? 随分と落ち着きがアリマセンが」
「は、はい! 用といいますか何と言いますか、ですねっ!」
「ソウデシタカ。ではアマリ長話するのも申し訳ありませんネ」
「ふえっ!? いえいえいえいえいえそんな事は決して!」
「お気遣いありがとうゴザイマス。デスガ、用事がある方を無理に引き止めるヨウナ無礼な真似はデキマセンヨ。本日はコレにて失礼すると致しマス」
「え、ええっ!?」
「……オヤ? モシカシテ、俺に御用デシタカ?」
「え、ええ、あの、いえ、はい、こ、これで失礼します!」
「エエ、マタ。次の出会いヲ楽しみにシテイマス」
足音が遠ざかっていく。一二三が去って行く音だろう。


――‐うわぁ……。
先程以上の同情がリスナー達の心を支配する。何があったかは明白だ、これは酷い。
『いやいや違うよ? 違うよ? 皆が想像しているような事じゃないよ? ね、ねぇ? これはほらあれだよ逢ちゃん最初のコーナーがね、ほら、覚えてるでしょ皆』
そこまで言って、自分の言葉が萎んでいくのを自覚する。リスナー達も、多くは神妙な顔つきになった。
一二三のファンキーレディオが一躍有名になった理由。それは、彼女が初めて行ったコーナーだ。
誰にも名をしられない、駆け出しのヒヨコ、まだ背中にカラがついているようなヒヨッコが、自分の身長を顧みずに背伸びして。出会う人出会う人、高みにいた誰もが手の届かない相手に思え怯えながら、それでもその高みに手を無理矢理に届かせて掴んだ、初めての大特ダネ。
"第一回トップランカーに聞いてみよう”。"現北王”夜識夜巖と、"前北王”雨月幽那の二人の出会いをインタビューする事に成功し、それで彼女は一躍有名になった。背中からカラを取り外し、ちょっとはマシなヒヨコになれた。
けれど、もう。だけど、もう。初めて出会った強者の一人は、もう。
『その縁でね!? ほらご縁を笑うとご縁に泣くって言うからさ、北王さんにはお礼の意味も込めて、ね! ね! そういう事でね!?』
知らず沈みそうになる声を、どうにか盛り上げる。気を抜けば、声まで震えてしまいそうだ。
初めて出会った強者は、どちらも優しかった。無礼で怯えていた自分を、優しく包んでくれた事を思い出す。その後も、結構色々とお世話になった。その人は、暗くなる事を望んでいない。
『べ、別に逢ちゃんが北王さんにチョコを渡したかったとか、そ、そんなんじゃないんだからねっ! あくまでお世話になったお礼の義理なんだから、勘違いしないでよねっ!』
だから、一二三は虚勢を張る。思って泣くより、笑ってみせる。
そうした方が、あの人は喜ぶだろうから。
「……しかし、南王もだけど北王も大概だな」
「まぁ、一二三がどれだけ乙女な反応だよって話じゃね?」
「そうねぇ、思いっきりキョドってるし」
「恋城とは違う方向のテンパリ具合だな」
『いやいやだから違うからね? お礼だからね? ……毎年あげれてないけど、お礼なのだよワトソンくん!』
『そうなんだよねホームズ。別に逢先輩が夜巖さんをラブってるって訳じゃないんだよね』
電波に乗って、一二三ではない声が流される。首を傾げる生徒達。
中には、聞き覚えがあるのか、軽く笑っている生徒もいた。
『みーちゃん!? おのれよくものこのこと声を出せたな……! はっ! 声だけだされたら反撃できなくね!? おのれ卑怯な……!』
『良い空気すってるから無視するよ。ともあれ名誉の為に言うと、逢先輩、結構人見知りするからねぇ。対面で会うと大抵あんな感じなんだよ、知ってたかな? 話して平気なのは私含めてちょっとしかいないもんねぇ』
『'`,、('∀`) '`,、。なななななにをいいいいいうのかなななみーちゃんは。そのような事実は一切確認されておりませんですのことよ? この社交性の塊に向かって、ねぇ? ほら今までインタビューを受けた皆、否定して否定して! 電波を乗っとっていいからノットって言って!』
『そうだねぇ、先輩はそんな事ないもんねー。仕事だと割り切れば平気だけど、そうじゃない場合で話すのは苦手なんだよねー』
『そ、そんな事ないよ? ないよ? ないよーう』
『うん、そうだねぇ』
『やーめーてーよー! 私のクールでデキル女なイメージが潰れちゃうじゃないー!』
「……クール?」
「……デキル女?」
「ハハハご冗談を」
『全否定!? ああもういいよ今日はこれで強制終了! またのゲリラ放送をお楽しみに! 待ってろみーちゃんお仕置きだべぇー!』
「おいちょっと待て照れ隠しに轢こうとするんじゃない!」
「……!? おいあいつ模擬弾打ってきたぞ!」
わいわいと騒ぎながら散っていく生徒達。
今日も概ね学園は平和だった。