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講談「とら侍」その壱

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sudouin

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【※ ●は張り扇で釈台を叩く音を、_は少しの間、―は_よりも多めの間を表してます。なお( )内に行動などが記してある場合はト書きです】

 (早良、スススッと高座に上がり、正座)
 ●_●_本日はまことにありがとうございます。お相手は崇道院早良が務めさせていただきます。(一礼)
 旧世紀の頃にはどうであったのか、とんと存じ上げないのでございますが善だの悪だのさほど騒がれなくなりました昨今におきましてはぁ●“勧善懲悪”なる事象はその絶滅を危惧されている次第、というのは皆様ご存知の通りでぇございます●●
 胸中より爽やかなる薫風が吹きますような、スッ―とするお話はそうそう現実にはないわけでぇございますな_●しかしながらいつ如何なる時代におきましても“時代劇”というのは趣が異なる●●“勧善懲悪”それこそルール、善は栄えて悪は滅びる、愉快・痛快・爽快な、胸のすくような物語なのだとわたくしなんぞは捉えているわけでありますけれどもぉ_
 ●時はいつやら分かりませぬが、おそらく多分江戸くらい。ところヘンテコ虎木町(とらんきちょう)―この虎木町と申しますのはぁ、姫宮虎左衛門之介、通称虎さんという城主が治めております奇妙奇天烈●かーなーりぃー変な町でぇございました_
 ●さて姫宮の虎さん殿様でございます、昔は相当やんちゃをしておりましたが今では双子の姫君の、おパパ上とぞ成っておりました●―
 ところがところが姫君たちは、一体誰に似たのやら●大層元気な性格に、すっくすっくと育ったのでぇございます●●姉の成実に妹の沁、とりわけ妹、姫宮沁は特段にやんちゃ娘でぇございました●_●_
 そんな双子のお目付け役は毎度苦労で頭の痛い胃の痛い、比良坂ぁ何某_●お役目放って出かけた沁に今日もこめかみピクピクと●●
 さて、町に繰り出しました沁は「お役目なんか俺はごめんだ、いやいや今日はどこでぇ遊ぼかな」「まぁたサボりか、比良にあんまり世話かけんなや」声をかけるは大工の逆上_●「俺がいたところで大差はない、むしろ比良がやればいい」次期頭首がそのようなことを、とたしなめました逆上に返すとも無く呟かれました「頭首なんざなりたくてなるんじゃぁねぇよ」なる沁の一言●―
 逆上が何やら声をかけようとしました矢先、町の空気を切り裂き渡る娘の悲鳴が●●ハッと二人が見るや、素行甚だ悪かろう男二人●下劣なる言葉をかけながら娘に不埒な行いをせんとせまっておりました●_●_
 ここで黙れば何が廃るやら沁、声をかけるが早いか――●バシッと男の顔面に、飛び蹴り一撃踏みつけたのでありました●●_
 「いけねぇなぁ。嫌がる女子に無理強いするヤツぁ、この俺が許さねぇ」、と残る男を見据えて沁が言い放ちますと、すかさず逆上●その手に持ちたる角材で男の脳天を打ち据え、しかとノシたのでありました●●
 不埒な男どもを一蹴し、頭まですっぽりと布で隠しておりました娘に沁、声をかけましたところ娘は布をはらりと解き人探しをしている旨を伝えたのであります●_
 娘のあらわになりたる素顔を見ました逆上は、角材を取り落とすほどに胸ときめかせましたが、沁に自らの角材にて昏倒させられた次第でぇございました●_●_
 逆上を殴りました沁、彼をば被虐趣味とぞ罵り、娘に事の仔細を聞くために茶屋へと去るのでぇございました―●―●

‐続く‐
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