音土けモノ屋の日常~東区画編~
ある日、東区画にて。正午のまだピークを迎えていない日差しを浴びながら【ジャック・ザ・リバー(闊歩する自由)】崇道院早良は独り言つ。
「だぁ~、あったけぇこって。今日もどこかで喧騒や爆音、全くもって平和だねぃ、眠くなっちまうねぃ。こんな日にゃあ誰が依頼に来るかねぃ」
何が起きてもおかしくない、ここはトランキライザーなのだから。
ケース1 吹雪 嵐
「よう、ちょっといいか」
「最初の客が来ましたねぃ。はいはい、なんですかっと……」
しばし絶句。そこにいたのは頭の先からつま先まで、もといモヒカンの先からブーツの底まで、どこからどう見ても全身全霊でヤンキーヤンキーしたヤンキーであった。えっと、何? カツアゲされる? 飛び跳ねる覚悟まで終わったところでヤンキー、【マイクロブラスト(極小災害)】吹雪嵐が話し出した。
「俺は別にどうってことねぇんだけどよ。テメェが面白いことしてってダチ公が気にすっからよ、来てみたってワケだ。んで、そのよぉ、ダチ公が15分後くらいにあ、あ、アリシアって女の声を音土で聞きたいんだってよ。つ、作ってみろや!!」
一気に話す吹雪をみて早良は落ち着きを取り戻し、内心にやにやしだした。素直じゃねぃのは可愛いねぃ。会話、ろくにできないのかも。
「で。お客さん、どんな声がいいんですかい?」
「どんなんでもいいんだよ!!黙って作れや!!」
「どんなんでもいいだねっと。2~3分、ここでお待ちくだせぃ。今シアんとこ行ってきますから」
―3分後
「はい、お待ちどー。12時20分頃に解放すんので待っててねぃ」
「おぅ、あんがとよ。だ、ダチ公も喜ぶぜ。じゃまたな」
心なしかウキウキの背中を見送りながら早良はチェシャ猫のように笑う。
「またのお越しを待ってます」
―きっかり12分後
「マニアックなリクエストにお答えして声を聞かせてやるぜ、はっはー」
音土の声を聞いて吹雪は崩れ落ち、地面にめり込みかけた。その頃、ツーくんの声を仕込んだ張本人は日向ぼっこをしながらほくそ笑んでいた。
ケース2 ジェイル・クロムウェル
「零れ落ちては消えゆく運命の言霊たちを形に留めておくことができる、あぁなんて素晴らしい。そのようなものを思い思いのあるべき場所へと運ぶ、いわば言霊の救世主がいるというのはここでしょうか」
二番目の客にも絶句した。もはや言葉は不要。
「私の真珠の月の姫は幼心をいつまでも忘れず、その純真さがにじみ出るようです。鬼ごっこがお好きなようで私が影を踏むことすら許しません。軽やかさはさながら風のようで月の姫の気まぐれがこちらに吹いてくることを待つばかり」
「……で、なんの御用ですかい?」
「あぁ、申し訳ない。月の姫の素晴らしさなど万人の知るところ、語るべくもありませんでしたね。無邪気に逃げまわる麗しき人に、積もり積もって届かない私の言霊を届けて欲しいのです。」
「……で、どんな言葉ですかい?」
「語らずとも万人が素晴らしさをs」
「ストップ。小難しくて長すぎると認識しきれなくて音土作れないんですよねぃ」
「月の姫の素晴らしさと姫への思いを言葉にしていると千代に八千代に語るとも尽きませんものね。では、手短に。『貴女が望まなくとも僕は貴女の全てを、貴女を輝かせる全てのものを受け入れましょう。だから、貴女自身の光を見失わないで』、と」
「承知承知……いっちょ上がりぃ。こいつを届けりゃいいんですねぃ?」
「えぇ、私の月の姫には輝いていて欲しいものですから」
「へぇ、毎度ありぃ」
頭痛がする。ジェイルの去った後、とろけてしまった脳みそで今の音土を素直に届けようか切り札にしようか悪戯に使おうか考えあぐね、それを全力で否定する早良が残された。
ちなみにジェイルの音土は復活した脳みそによる「いのちをだいじに」の命令の元、「月の姫」に届けられることもなく即刻解放処分された。当然と言えば当然である。
ケース3 パドマバディ・ガエクワッド
その客はチョコレートの匂いと共にやってきた。
「シアのお友達の……。頼みたいこt」
「無理、駄目、時間なんで、閉店、ごめんよ、さいならっ」
チョコが苦手な早良はぽかんとする客を置いて脱兎の勢いで立ち去った。
余談だがアルシアとは親交がある早良は実はパドマバディとはまともな面識があるかすら危ぶまれるという。
ここは何が起きてもおかしくない、学園都市トランキライザーである。
ある日、東区画にて。正午のまだピークを迎えていない日差しを浴びながら【ジャック・ザ・リバー(闊歩する自由)】崇道院早良は独り言つ。
「だぁ~、あったけぇこって。今日もどこかで喧騒や爆音、全くもって平和だねぃ、眠くなっちまうねぃ。こんな日にゃあ誰が依頼に来るかねぃ」
何が起きてもおかしくない、ここはトランキライザーなのだから。
ケース1 吹雪 嵐
「よう、ちょっといいか」
「最初の客が来ましたねぃ。はいはい、なんですかっと……」
しばし絶句。そこにいたのは頭の先からつま先まで、もといモヒカンの先からブーツの底まで、どこからどう見ても全身全霊でヤンキーヤンキーしたヤンキーであった。えっと、何? カツアゲされる? 飛び跳ねる覚悟まで終わったところでヤンキー、【マイクロブラスト(極小災害)】吹雪嵐が話し出した。
「俺は別にどうってことねぇんだけどよ。テメェが面白いことしてってダチ公が気にすっからよ、来てみたってワケだ。んで、そのよぉ、ダチ公が15分後くらいにあ、あ、アリシアって女の声を音土で聞きたいんだってよ。つ、作ってみろや!!」
一気に話す吹雪をみて早良は落ち着きを取り戻し、内心にやにやしだした。素直じゃねぃのは可愛いねぃ。会話、ろくにできないのかも。
「で。お客さん、どんな声がいいんですかい?」
「どんなんでもいいんだよ!!黙って作れや!!」
「どんなんでもいいだねっと。2~3分、ここでお待ちくだせぃ。今シアんとこ行ってきますから」
―3分後
「はい、お待ちどー。12時20分頃に解放すんので待っててねぃ」
「おぅ、あんがとよ。だ、ダチ公も喜ぶぜ。じゃまたな」
心なしかウキウキの背中を見送りながら早良はチェシャ猫のように笑う。
「またのお越しを待ってます」
―きっかり12分後
「マニアックなリクエストにお答えして声を聞かせてやるぜ、はっはー」
音土の声を聞いて吹雪は崩れ落ち、地面にめり込みかけた。その頃、ツーくんの声を仕込んだ張本人は日向ぼっこをしながらほくそ笑んでいた。
ケース2 ジェイル・クロムウェル
「零れ落ちては消えゆく運命の言霊たちを形に留めておくことができる、あぁなんて素晴らしい。そのようなものを思い思いのあるべき場所へと運ぶ、いわば言霊の救世主がいるというのはここでしょうか」
二番目の客にも絶句した。もはや言葉は不要。
「私の真珠の月の姫は幼心をいつまでも忘れず、その純真さがにじみ出るようです。鬼ごっこがお好きなようで私が影を踏むことすら許しません。軽やかさはさながら風のようで月の姫の気まぐれがこちらに吹いてくることを待つばかり」
「……で、なんの御用ですかい?」
「あぁ、申し訳ない。月の姫の素晴らしさなど万人の知るところ、語るべくもありませんでしたね。無邪気に逃げまわる麗しき人に、積もり積もって届かない私の言霊を届けて欲しいのです。」
「……で、どんな言葉ですかい?」
「語らずとも万人が素晴らしさをs」
「ストップ。小難しくて長すぎると認識しきれなくて音土作れないんですよねぃ」
「月の姫の素晴らしさと姫への思いを言葉にしていると千代に八千代に語るとも尽きませんものね。では、手短に。『貴女が望まなくとも僕は貴女の全てを、貴女を輝かせる全てのものを受け入れましょう。だから、貴女自身の光を見失わないで』、と」
「承知承知……いっちょ上がりぃ。こいつを届けりゃいいんですねぃ?」
「えぇ、私の月の姫には輝いていて欲しいものですから」
「へぇ、毎度ありぃ」
頭痛がする。ジェイルの去った後、とろけてしまった脳みそで今の音土を素直に届けようか切り札にしようか悪戯に使おうか考えあぐね、それを全力で否定する早良が残された。
ちなみにジェイルの音土は復活した脳みそによる「いのちをだいじに」の命令の元、「月の姫」に届けられることもなく即刻解放処分された。当然と言えば当然である。
ケース3 パドマバディ・ガエクワッド
その客はチョコレートの匂いと共にやってきた。
「シアのお友達の……。頼みたいこt」
「無理、駄目、時間なんで、閉店、ごめんよ、さいならっ」
チョコが苦手な早良はぽかんとする客を置いて脱兎の勢いで立ち去った。
余談だがアルシアとは親交がある早良は実はパドマバディとはまともな面識があるかすら危ぶまれるという。
ここは何が起きてもおかしくない、学園都市トランキライザーである。