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Psychic and Witch」(2007/12/30 (日) 01:23:23) の最新版変更点

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 「Psychic and Witch」   「なぜ基本デスクワーカーの僕がわざわざ街に出向いて調査しなければいけないのでしょう?いささか理解しかねますな」  西区画の繁華街を長身の男が愚痴を零しながら歩いている。見ただけで高級品だと分かる上等のスーツを着こなし、白い手袋をした手にステッキを突いている。男は入念に撫で付けられたオールバックの金髪を再び軽く撫でつけた。  「それもこれも、団長たちがいない時に限って現れた誘拐犯のせいですよ」  周囲の建物によって切り取られた空を見上げ、ランキング140位、【ロウオブワン・ツー・スリー(三本の矢)】のアルフレッド・フレミングは大きなため息を吐いた。  「それじゃあ実地調査にはアルフレッドが行ってきてくださいね」  数時間前、西区画の中央に位置する複雑怪奇な建造物の集合体、『九竜城砦』のとある一室で、【ファンタズマゴリアバディ(幻想具現化)】の望月・遡羅はそうアルフレッドに言いつけた。もちろん、ここ最近学園都市を騒がせている誘拐犯についての調査である。  「えっと……一つ質問をよろしいでしょうか?」  片手を挙げるアルフレッドに、遡羅は微笑しながら頷いた。  「なぜ私が行かねばならんのでしょう?」  「逆に、私に行かせるつもりなのですかと問い返してもいいですか?」  「よろこんで行かせてもらいます」  微笑んだままの遡羅に思わずアルフレッドは了承をしていた。現在、西区画を管理する澪漂・二重と彼のパートナーである澪漂・一重は、彼らが所属する世界的な殲滅屋・澪漂交響楽団の統率者である澪漂・千重の元へ出かけている。さらに遡羅やアルフレッドも所属するその第六管弦楽団の古参メンバーである三島広・光路も、今日は自分の所属する九龍公司の影爪行幣に出張中。とすれば、残ったメンバーの中で情報収集に向いている人間はアルフレッドと遡羅しかいないわけで。  「それじゃあお願いしますね。あ、分かっていると思いますが、何か情報を掴むまで帰ってきちゃだめですよ」  あくまで微笑みながら過酷なことを言う遡羅に見送られ、アルフレッドは城砦を後にした。もちろん心の中では、残りの第六管弦楽団メンバーを呪いながら。  「まぁ仕方ないですかね。まさか二角やルリヤに聞き込みをさせるわけにもいかないでしょうし……カールやフランチェスカは論外ですね。蟻塚さんは蟻塚さんで朝からいないようですし……まぁきっとロックハート洋菓子店でしょうけど」  ぶつぶつと仲間の悪口を呟きながら街を歩き続けるアルフレッド。  「だったら私が歩き回る方がよほど効率的ですな。住人からの信頼も篤いですし。きっと遡羅さんが私にこの任を与えたのも、私のことをできる男だと信頼してくれているからですよね。えぇ、きっとそうです」  確かに彼の言うとおり、アルフレッドは地域住民、特に女性からは非常に人気がある。整った容姿と女性相手には見境なく優しく接する性格のためだ。ただ、先ほどから見ていれば分かるように、彼はちょっとしたナルシストでしかも独り言の多い奴である。今のように独り言を呟きながら歩いているため、しばしば物陰から出てきた人にぶつかることもある。そう、例えば、  「うにゃあっ!?」  今アルフレッドが曲がろうとした角の反対側から出てきた少女が、彼に勢い良くぶつかって後ろにひっくり返ったように。  アルフレッドはいきなり死角から現れて自分にぶつかった少女に驚いて手を伸ばす。すると、彼は少女が巨大なカボチャを被っていることに気が付いた。  「おやおや、大丈夫ですか、モニカ?」  学園都市広しと言えど、ファッションでカボチャを被っている少女などそうはいない。名前を呼ばれた少女――ランキング283位、【リトルウィッチ(小さな魔女)】のモニカ・アスキスは、カボチャの頭をめぐらせて声の主を見る。  「あっ、アルフレッド! もぅ、どこ見て歩いてるのよ!」  「それはこっちの科白ですよ」  言いながらもアルフレッドはモニカに手を貸して起き上がらせた。被ったカボチャが重いためなかなか起き上がれなかったモニカは小さく息を吐くと、服についた埃を払った。  「どこに行くんですか、モニカ?小さい女の子の一人歩きは危険ですよ。最近は小さい女の子を狙った誘拐犯が出ているようですから。小さい女の子は家の中にいないと……ごふっ!」  「小さい小さい言うな!」  やたらと「小さい」を連発するアルフレッドに、彼の胸より下くらいしか背のないモニカはその腹部にカボチャ頭突きをお見舞いした。腹を抱えてうずくまるアルフレッドを尻目に彼女は咳払いをして言った。  「私もその誘拐犯とやらの調査に来たのよ。カヴンの代表としてね。ほら、ウチの社員って戦闘向けじゃないミスティックが多いでしょ?早いとこ事件解決してもらわないと、おちおち仕事もしてられないのよね」  モニカの言う『カヴン』とは、彼女の所属するリンク『カヴン・サラバンド』のことである。大気中のエーテルを資源に魔法のような異能力を発揮するミスティッククラスの生徒を多く抱える、西区画でも特に大きなリンクの一つだ。  「でも、あなたの話を聴く限りだと、まだ事件は解決してないみたいね」  ようやく悶絶から立ち直ったアルフレッドが、咳き込みながら頷く。  「えぇ……実は私もその調査を遡羅さんから仰せつかって出てきたわけなんですが……」  「ほんと!? じゃあ一緒に調べようよ」  アルフレッドは少し考えた。今モニカを振って、その後彼女が例の誘拐犯に襲われたりしたら自分が責任を追及されるのだろうか?それならば彼女を連れて行った方が得策かもしれない。それに、彼女の弁舌が何かの役に立つかもしれない、と。ただ、  「別にそれはかまわないですよ。一人より二人のほうが心強いですから」  「やったー! 実は私も結構困ってたのよね。実際に誘拐犯が出てきて襲われたらどうしようって……」  「さっきの頭突きを謝ってくれるなら、ですが」  ぴょこぴょこ喜んでいたカボチャが止まった。そして「ぐぬぬ……」と唸り始める。自分のプライドを守るか、自分の身を守るか考えあぐねているようだ。  「まぁ嫌なら結構ですがね。でも、あなたが誘拐犯に襲われているときに都合よく助けてくれる人が出てくるかはわからないですよ?」  「わ……わかったわよ。謝ればいいんでしょ? 謝れば……」  「もちろん、土下座ですけどね?」  再び「ぐぬぬ……」と唸り始めるモニカ。  結局五分間の苦悩の後、モニカはアルフレッドに時代遅れな土下座姿をさらすことになる。そうして、奇妙な【ロウオブワン・ツー・スリー】と【リトルウィッチ】のコンビが結成された。おそらくこの二人が今後在学中手を組むことはないだろう。  なお、事件解決の数日後、夜道を歩いていたアルフレッドがカボチャを被った何者かに闇討ちにあったということは別の話。

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