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【Contrare(逆襲)】 「いらっしゃい。ちょうど良かった。ついさっきね、沙鳥がブルーローズのケーキを大量に持って帰ってきたところなんだ。好きなの一個取って良いよ」 「……ありがとうございます」  遡羅はお礼を言いつつも、藤司朗と視線を合わせる事が出来ない。普段とは違う意味で。 「自分で食べる? あーんってする? 口移しが良い?」 「じ、自分で食べます……」 「残念。はい、どうぞ」  満面の笑みでケーキを差し出される。 「こ、紅茶で良いかしら……」 「じゃまですよ、マサ。踏みますよ」 「ひ、酷いわ。スズちゃん……」  扉の奥から紅茶の載った盆をソソソと押し入れる政宗と、それを遠慮なく踏み付けて部屋に入ってくる鈴臣。 「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ、マサ姉。とても可愛いよ」 「そうかしら……」 「照れてる所なんか最高。ギュってしてチューしたいくらい」 「……気色悪い」 「酷いな、スズ……たった一人しか愛せない狭量な君と違って、俺の愛は深くて大きいだけだよ」 「はいはい。とっととその辺の女でも男でも構わないので、刺されて来て下さい」 「スズが盾になってくれるなら良いよ」 「死ね」 「もう、スズちゃんもシロちゃんも仲良くしないとダメじゃない!」  そんないつも通りの三人を見回して、心の中で呟く。  ……何事だ。  階段を下りてくる足音が聞こえ、期待を込めて視線を向ける。 「あれ、丈。沙鳥は?」 「……お休み中」 「扉の前で番犬しないの……って、あそっか。前に扉を思い切り開けた沙鳥のせいで背中に青痣作っちゃって、番犬禁止令出されちゃったんだっけ。ごめんね、お兄ちゃんうっかりしちゃった」  わざとらしく口許を抑えてぷぷぷと笑う藤司朗。 「……背を向けて、動くな」  そう抜刀する丈之助の頭部を見て、遡羅はより一層追い詰められる。  何だろう。何なんだろう。  店の中を通って来た時から、嫌な予感はしていた。  店内を駆けずり回る霞や東華の頭部にもあったし、カウンターの奥にはポスターも貼ってあったから。  頭で理解していても、心が理解しない。  何でこの人たち……猫耳してるの? 「ん? どうかした?」  いつもと変わらぬ優しげな笑みを浮かべて、藤司朗が問いかける。 「いえ、あの……」 「まだるっこしいですね。言うなら言う。言わないなら悟らせない。常識でしょう?」 「ご、ごめんなさい……」  鈴臣の冷たい言葉と視線に身を竦ませる。 「スズちゃん! 遡羅ちゃんが可哀想でしょう? どうして沙鳥以外にも優しく出来ないの!」 「生憎、そんな余剰はありません。沙鳥へで手一杯です。他に与える余裕があるなら、その分も沙鳥へ回します。沙鳥へはいくら贈っても足りないくらいですからね」  膨れ面の政宗を、鈴臣は鼻で笑い飛ばす。  そんな周りを無視して、丈之助はケーキの箱を覗き込む。 「チョコが良い。クリームのヤツ」 「はいはい。分かったから、手掴みで食べないの。今、フォークとお皿持ってきてあげるから」  席を立ってキッチンへ向かう政宗の注意を聞かずに丈之助は、ケーキに指を突っ込んで掬い取る。 「……美味しい」  ……どうして、こんなに平然と受け入れているのだろう。  この中で間違っているのは自分なのではないのか――と錯覚をしてしまうほど馴染んでいる彼らの猫耳。  それぞれの髪質にも完璧に似せてあるから、実は元々ついてたんだ★ なんて言われても、今なら本気で信じてしまいそう……  というか、今なら何でも受け入れられる気がする。  そこへ、音もなく戸が開かれる。  政宗が戻ってきたのかとビクつく丈之助をスルーして、幸成が遡羅の前に立つ。  中にきちんと付けているのだろう。フードの上からでも分かる、猫耳のシルエット。  その格好のまま、座っている遡羅を見下ろして、布のようなものを突き出す。  くれてやる、と…… 「おや。珍しいですね、ユキ。……何ですか、それ」 「あれま。可愛いウサ耳だね。バニーさん?」  とはいえ、女の子相手だからか、沙鳥に怒られたら困るとでも考えているのか、一般的なバニーガールの衣装ではなく、可愛らしいミニスカな白いワンピースタイプになっている。 「えっと……」  真っ直ぐに遡羅を見つめる目は、優しく微笑んでいるようで……けれども、そのオーラは怒りに包まれている。 「えっと……」  何かを口にする気配はないが、付き合いが短い遡羅にも分かった。 『勿論、着るだろ?』  幸成と前に会った時の事を思い出す。  ……赤ずきんの仕返しだ! 「あら、ユキちゃんも下りて来てたのね。どうしたの? あら、可愛いじゃない! 遡羅ちゃんに? きっと似合うわ! 奥で着替えてきたら?」 「そうですね。ユキの腕は完璧ですからね。何となくのイメージだけで軍服を作れるくらいですし」 「可愛いだろうな。あ、写真撮って彼にあげたら? きっと喜ぶと思うよ。男だし」 「……手触り本物?」  「本物の感触を想像して作ってみた」と丈之助へ視線を移して無言で頷く幸成。そして、遡羅へと戻し、真っ直ぐに見つめ続ける。何も言わず、ただじっと。  ……何で来ちゃったんだろう、今日。  助けてくれるような人は存在しない。退路もしっかりと奪われている。拒否権はない。  遡羅は渡された服を握り締めて、深々と溜め息を吐いた。
【Contrare(逆襲)】 「いらっしゃい。ちょうど良かった。ついさっきね、沙鳥がブルーローズのケーキを大量に持って帰ってきたところなんだ。好きなの一個取って良いよ」 「……ありがとうございます」  遡羅はお礼を言いつつも、藤司朗と視線を合わせる事が出来ない。普段とは違う意味で。 「自分で食べる? あーんってする? 口移しが良い?」 「じ、自分で食べます……」 「残念。はい、どうぞ」  満面の笑みでケーキを差し出される。 「こ、紅茶で良いかしら……」 「じゃまですよ、マサ。踏みますよ」 「ひ、酷いわ。スズちゃん……」  扉の奥から紅茶の載った盆をソソソと押し入れる政宗と、それを遠慮なく踏み付けて部屋に入ってくる鈴臣。 「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ、マサ姉。とても可愛いよ」 「そうかしら……」 「照れてる所なんか最高。ギュってしてチューしたいくらい」 「……気色悪い」 「酷いな、スズ……たった一人しか愛せない狭量な君と違って、俺の愛は深くて大きいだけだよ」 「はいはい。とっととその辺の女でも男でも構わないので、刺されて来て下さい」 「スズが盾になってくれるなら良いよ」 「死ね」 「もう、スズちゃんもシロちゃんも仲良くしないとダメじゃない!」  そんないつも通りの三人を見回して、心の中で呟く。  ……何事だ。  階段を下りてくる足音が聞こえ、期待を込めて視線を向ける。 「あれ、丈。沙鳥は?」 「……お休み中」 「扉の前で番犬しないの……って、あそっか。前に扉を思い切り開けた沙鳥のせいで背中に青痣作っちゃって、番犬禁止令出されちゃったんだっけ。ごめんね、お兄ちゃんうっかりしちゃった」  わざとらしく口許を抑えてぷぷぷと笑う藤司朗。 「……背を向けて、動くな」  そう抜刀する丈之助の頭部を見て、遡羅はより一層追い詰められる。  何だろう。何なんだろう。  店の中を通って来た時から、嫌な予感はしていた。  店内を駆けずり回る霞や東華の頭部にもあったし、カウンターの奥にはポスターも貼ってあったから。  頭で理解していても、心が理解しない。  何でこの人たち……猫耳してるの? 「ん? どうかした?」  いつもと変わらぬ優しげな笑みを浮かべて、藤司朗が問いかける。 「いえ、あの……」 「まだるっこしいですね。言うなら言う。言わないなら悟らせない。常識でしょう?」 「ご、ごめんなさい……」  鈴臣の冷たい言葉と視線に身を竦ませる。 「スズちゃん! 遡羅ちゃんが可哀想でしょう? どうして沙鳥以外にも優しく出来ないの!」 「生憎、そんな余剰はありません。沙鳥へで手一杯です。他に与える余裕があるなら、その分も沙鳥へ回します。沙鳥へはいくら贈っても足りないくらいですからね」  膨れ面の政宗を、鈴臣は鼻で笑い飛ばす。  そんな周りを無視して、丈之助はケーキの箱を覗き込む。 「チョコが良い。クリームのヤツ」 「はいはい。分かったから、手掴みで食べないの。今、フォークとお皿持ってきてあげるから」  席を立ってキッチンへ向かう政宗の注意を聞かずに丈之助は、ケーキに指を突っ込んで掬い取る。 「……美味しい」  ……どうして、こんなに平然と受け入れているのだろう。  この中で間違っているのは自分なのではないのか――と錯覚をしてしまうほど馴染んでいる彼らの猫耳。  それぞれの髪質にも完璧に似せてあるから、実は元々ついてたんだ★ なんて言われても、今なら本気で信じてしまいそう……  というか、今なら何でも受け入れられる気がする。  そこへ、音もなく戸が開かれる。  政宗が戻ってきたのかとビクつく丈之助をスルーして、幸成が遡羅の前に立つ。  中にきちんと付けているのだろう。フードの上からでも分かる、猫耳のシルエット。  その格好のまま、座っている遡羅を見下ろして、布のようなものを突き出す。  くれてやる、と…… 「おや。珍しいですね、ユキ。……何ですか、それ」 「あれま。可愛いウサ耳だね。バニーさん?」  とはいえ、女の子相手だからか、沙鳥に怒られたら困るとでも考えているのか、一般的なバニーガールの衣装ではなく、可愛らしいミニスカな白いワンピースタイプになっている。 「えっと……」  真っ直ぐに遡羅を見つめる目は、優しく微笑んでいるようで……けれども、そのオーラは怒りに包まれている。 「えっと……」  何かを口にする気配はないが、付き合いが短い遡羅にも分かった。 『勿論、着るだろ?』  幸成と前に会った時の事を思い出す。  ……赤ずきんの仕返しだ! 「あら、ユキちゃんも下りて来てたのね。どうしたの? あら、可愛いじゃない! 遡羅ちゃんに? きっと似合うわ! 奥で着替えてきたら?」 「そうですね。ユキの腕は完璧ですからね。何となくのイメージだけで軍服を作れるくらいですし」 「可愛いだろうな。あ、写真撮って彼にあげたら? きっと喜ぶと思うよ。男だし。次は貴方の前だけで着たいな、今夜とか……なんて望月さんから言われたら、どんな男でも陥落するだろうね」 「この手触り……本物?」  「本物の感触を想像して作ってみた」と丈之助へ視線を移して無言で頷く幸成。そして、遡羅へと戻し、真っ直ぐに見つめ続ける。何も言わず、ただじっと。  ……何で来ちゃったんだろう、今日。  助けてくれるような人は存在しない。退路もしっかりと奪われている。拒否権はない。  遡羅は渡された服を握り締めて、深々と溜め息を吐いた。

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