「Contrare」(2009/03/09 (月) 10:25:06) の最新版変更点
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【Contrare(逆襲)】
「いらっしゃい。ちょうど良かった。ついさっきね、沙鳥がブルーローズのケーキを大量に持って帰ってきたところなんだ。好きなの一個取って良いよ」
「……ありがとうございます」
遡羅はお礼を言いつつも、藤司朗と視線を合わせる事が出来ない。普段とは違う意味で。
「自分で食べる? あーんってする? 口移しが良い?」
「じ、自分で食べます……」
「残念。はい、どうぞ」
満面の笑みでケーキを差し出される。
「こ、紅茶で良いかしら……」
「じゃまですよ、マサ。踏みますよ」
「ひ、酷いわ。スズちゃん……」
扉の奥から紅茶の載った盆をソソソと押し入れる政宗と、それを遠慮なく踏み付けて部屋に入ってくる鈴臣。
「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ、マサ姉。とても可愛いよ」
「そうかしら……」
「照れてる所なんか最高。ギュってしてチューしたいくらい」
「……気色悪い」
「酷いな、スズ……たった一人しか愛せない狭量な君と違って、俺の愛は深くて大きいだけだよ」
「はいはい。とっととその辺の女でも男でも構わないので、刺されて来て下さい」
「スズが盾になってくれるなら良いよ」
「死ね」
「もう、スズちゃんもシロちゃんも仲良くしないとダメじゃない!」
そんないつも通りの三人を見回して、心の中で呟く。
……何事だ。
階段を下りてくる足音が聞こえ、期待を込めて視線を向ける。
「あれ、丈。沙鳥は?」
「……お休み中」
「扉の前で番犬しないの……って、あそっか。前に扉を思い切り開けた沙鳥のせいで背中に青痣作っちゃって、番犬禁止令出されちゃったんだっけ。ごめんね、お兄ちゃんうっかりしちゃった」
わざとらしく口許を抑えてぷぷぷと笑う藤司朗。
「……背を向けて、動くな」
そう抜刀する丈之助の頭部を見て、遡羅はより一層追い詰められる。
何だろう。何なんだろう。
店の中を通って来た時から、嫌な予感はしていた。
店内を駆けずり回る霞や東華の頭部にもあったし、カウンターの奥にはポスターも貼ってあったから。
頭で理解していても、心が理解しない。
何でこの人たち……猫耳してるの?
「ん? どうかした?」
いつもと変わらぬ優しげな笑みを浮かべて、藤司朗が問いかける。
「いえ、あの……」
「まだるっこしいですね。言うなら言う。言わないなら悟らせない。常識でしょう?」
「ご、ごめんなさい……」
鈴臣の冷たい言葉と視線に身を竦ませる。
「スズちゃん! 遡羅ちゃんが可哀想でしょう? どうして沙鳥以外にも優しく出来ないの!」
「生憎、そんな余剰はありません。沙鳥へで手一杯です。他に与える余裕があるなら、その分も沙鳥へ回します。沙鳥へはいくら贈っても足りないくらいですからね」
膨れ面の政宗を、鈴臣は鼻で笑い飛ばす。
そんな周りを無視して、丈之助はケーキの箱を覗き込む。
「チョコが良い。クリームのヤツ」
「はいはい。分かったから、手掴みで食べないの。今、フォークとお皿持ってきてあげるから」
席を立ってキッチンへ向かう政宗の注意を聞かずに丈之助は、ケーキに指を突っ込んで掬い取る。
「……美味しい」
……どうして、こんなに平然と受け入れているのだろう。
この中で間違っているのは自分なのではないのか――と錯覚をしてしまうほど馴染んでいる彼らの猫耳。
それぞれの髪質にも完璧に似せてあるから、実は元々ついてたんだ★ なんて言われても、今なら本気で信じてしまいそう……
というか、今なら何でも受け入れられる気がする。
そこへ、音もなく戸が開かれる。
政宗が戻ってきたのかとビクつく丈之助をスルーして、幸成が遡羅の前に立つ。
中にきちんと付けているのだろう。フードの上からでも分かる、猫耳のシルエット。
その格好のまま、座っている遡羅を見下ろして、布のようなものを突き出す。
くれてやる、と……
「おや。珍しいですね、ユキ。……何ですか、それ」
「あれま。可愛いウサ耳だね。バニーさん?」
とはいえ、女の子相手だからか、沙鳥に怒られたら困るとでも考えているのか、一般的なバニーガールの衣装ではなく、可愛らしいミニスカな白いワンピースタイプになっている。
「えっと……」
真っ直ぐに遡羅を見つめる目は、優しく微笑んでいるようで……けれども、そのオーラは怒りに包まれている。
「えっと……」
何かを口にする気配はないが、付き合いが短い遡羅にも分かった。
『勿論、着るだろ?』
幸成と前に会った時の事を思い出す。
……赤ずきんの仕返しだ!
「あら、ユキちゃんも下りて来てたのね。どうしたの? あら、可愛いじゃない! 遡羅ちゃんに? きっと似合うわ! 奥で着替えてきたら?」
「そうですね。ユキの腕は完璧ですからね。何となくのイメージだけで軍服を作れるくらいですし」
「可愛いだろうな。あ、写真撮って彼にあげたら? きっと喜ぶと思うよ。男だし」
「……手触り本物?」
「本物の感触を想像して作ってみた」と丈之助へ視線を移して無言で頷く幸成。そして、遡羅へと戻し、真っ直ぐに見つめ続ける。何も言わず、ただじっと。
……何で来ちゃったんだろう、今日。
助けてくれるような人は存在しない。退路もしっかりと奪われている。拒否権はない。
遡羅は渡された服を握り締めて、深々と溜め息を吐いた。
【Contrare(逆襲)】
「いらっしゃい。ちょうど良かった。ついさっきね、沙鳥がブルーローズのケーキを大量に持って帰ってきたところなんだ。好きなの一個取って良いよ」
「……ありがとうございます」
遡羅はお礼を言いつつも、藤司朗と視線を合わせる事が出来ない。普段とは違う意味で。
「自分で食べる? あーんってする? 口移しが良い?」
「じ、自分で食べます……」
「残念。はい、どうぞ」
満面の笑みでケーキを差し出される。
「こ、紅茶で良いかしら……」
「じゃまですよ、マサ。踏みますよ」
「ひ、酷いわ。スズちゃん……」
扉の奥から紅茶の載った盆をソソソと押し入れる政宗と、それを遠慮なく踏み付けて部屋に入ってくる鈴臣。
「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ、マサ姉。とても可愛いよ」
「そうかしら……」
「照れてる所なんか最高。ギュってしてチューしたいくらい」
「……気色悪い」
「酷いな、スズ……たった一人しか愛せない狭量な君と違って、俺の愛は深くて大きいだけだよ」
「はいはい。とっととその辺の女でも男でも構わないので、刺されて来て下さい」
「スズが盾になってくれるなら良いよ」
「死ね」
「もう、スズちゃんもシロちゃんも仲良くしないとダメじゃない!」
そんないつも通りの三人を見回して、心の中で呟く。
……何事だ。
階段を下りてくる足音が聞こえ、期待を込めて視線を向ける。
「あれ、丈。沙鳥は?」
「……お休み中」
「扉の前で番犬しないの……って、あそっか。前に扉を思い切り開けた沙鳥のせいで背中に青痣作っちゃって、番犬禁止令出されちゃったんだっけ。ごめんね、お兄ちゃんうっかりしちゃった」
わざとらしく口許を抑えてぷぷぷと笑う藤司朗。
「……背を向けて、動くな」
そう抜刀する丈之助の頭部を見て、遡羅はより一層追い詰められる。
何だろう。何なんだろう。
店の中を通って来た時から、嫌な予感はしていた。
店内を駆けずり回る霞や東華の頭部にもあったし、カウンターの奥にはポスターも貼ってあったから。
頭で理解していても、心が理解しない。
何でこの人たち……猫耳してるの?
「ん? どうかした?」
いつもと変わらぬ優しげな笑みを浮かべて、藤司朗が問いかける。
「いえ、あの……」
「まだるっこしいですね。言うなら言う。言わないなら悟らせない。常識でしょう?」
「ご、ごめんなさい……」
鈴臣の冷たい言葉と視線に身を竦ませる。
「スズちゃん! 遡羅ちゃんが可哀想でしょう? どうして沙鳥以外にも優しく出来ないの!」
「生憎、そんな余剰はありません。沙鳥へで手一杯です。他に与える余裕があるなら、その分も沙鳥へ回します。沙鳥へはいくら贈っても足りないくらいですからね」
膨れ面の政宗を、鈴臣は鼻で笑い飛ばす。
そんな周りを無視して、丈之助はケーキの箱を覗き込む。
「チョコが良い。クリームのヤツ」
「はいはい。分かったから、手掴みで食べないの。今、フォークとお皿持ってきてあげるから」
席を立ってキッチンへ向かう政宗の注意を聞かずに丈之助は、ケーキに指を突っ込んで掬い取る。
「……美味しい」
……どうして、こんなに平然と受け入れているのだろう。
この中で間違っているのは自分なのではないのか――と錯覚をしてしまうほど馴染んでいる彼らの猫耳。
それぞれの髪質にも完璧に似せてあるから、実は元々ついてたんだ★ なんて言われても、今なら本気で信じてしまいそう……
というか、今なら何でも受け入れられる気がする。
そこへ、音もなく戸が開かれる。
政宗が戻ってきたのかとビクつく丈之助をスルーして、幸成が遡羅の前に立つ。
中にきちんと付けているのだろう。フードの上からでも分かる、猫耳のシルエット。
その格好のまま、座っている遡羅を見下ろして、布のようなものを突き出す。
くれてやる、と……
「おや。珍しいですね、ユキ。……何ですか、それ」
「あれま。可愛いウサ耳だね。バニーさん?」
とはいえ、女の子相手だからか、沙鳥に怒られたら困るとでも考えているのか、一般的なバニーガールの衣装ではなく、可愛らしいミニスカな白いワンピースタイプになっている。
「えっと……」
真っ直ぐに遡羅を見つめる目は、優しく微笑んでいるようで……けれども、そのオーラは怒りに包まれている。
「えっと……」
何かを口にする気配はないが、付き合いが短い遡羅にも分かった。
『勿論、着るだろ?』
幸成と前に会った時の事を思い出す。
……赤ずきんの仕返しだ!
「あら、ユキちゃんも下りて来てたのね。どうしたの? あら、可愛いじゃない! 遡羅ちゃんに? きっと似合うわ! 奥で着替えてきたら?」
「そうですね。ユキの腕は完璧ですからね。何となくのイメージだけで軍服を作れるくらいですし」
「可愛いだろうな。あ、写真撮って彼にあげたら? きっと喜ぶと思うよ。男だし。次は貴方の前だけで着たいな、今夜とか……なんて望月さんから言われたら、どんな男でも陥落するだろうね」
「この手触り……本物?」
「本物の感触を想像して作ってみた」と丈之助へ視線を移して無言で頷く幸成。そして、遡羅へと戻し、真っ直ぐに見つめ続ける。何も言わず、ただじっと。
……何で来ちゃったんだろう、今日。
助けてくれるような人は存在しない。退路もしっかりと奪われている。拒否権はない。
遡羅は渡された服を握り締めて、深々と溜め息を吐いた。
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