快晴の日の出来事 -午前-

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休み明け。
いつもより少し早めの起床。
小鳥のさえずりと、布越しの柔らかな光が差す室内。

あたしはカーテンを両手で掴み、一息で左右へと開く。
そして窓の外に拡がった世界。

快晴。
雲一つさえもない空。
きらりと輝く、町の景色。

あまりの眩しさに、思わず目が眩んでしまう。

そのまま誘われるように窓を開く。

頬を撫でる透き通った風。
振り注ぐ光の波と、凪いでゆく風の調和が見事に取れている。
その爽やかな空気を大きく吸い込み、ゆっくりと吐きだす。

気温良し。
天候良し。
体調良し。
騒音無し。

すべてが自分へと味方してくれている、そんな気がする1日の始まり。

……学校に行けば、きっと皆に会える。
今日こそ4人、揃っているといいなっ!



「ほら、朝だよ、朝ごはん食べて学校いくよ?」

つかさは布団を蹴っ飛ばし、ベッドの上で猫のように丸くなっていた。
マタタビでも嗅がせれば飛び起きるのかな?
なーんてどうでもいい事を考えている場合じゃないわね。

「あと5分だけぇー」
「それ10分前にも聞いたわよ!」
「ほんとにぃー」
「その言葉を信用した結果がこれだよ!」
「じゃあ、あと5分だけぇー」
「それは今聞いた」
「ほんとにぃー」
「アンタのその言葉ほど信用出来ないもんは無ぇよ」
「じゃあ、あと10分だけぇー」
「さり気無く伸ばすな!」
「ほんとにぃー」

「いい加減にしなさいっ!」
つかさの両手を掴んでベッドから引きずり降ろす。
だらしなく伸びきった体が、冷たい床の上へと転がった。

「ふんっ、どんなもんよ」
手を離す。
すると丸くなるつかさ。

「こら!」
もう一度引っ張って真っ直ぐにしてみる。

手を離す。
すると丸くなるつかさ。
仕方がないので足で脇腹をぐりぐりとなじりつける。

しかし、これって何処かで見たことがあるな。
見た目は定規のようだけど、腕なんかに叩きつけると巻き付いてくる玩具。
なんて言ったっけアレ?
確か100円で回せるガチャガチャの景品だったわよね。
あー……えっと、名前が思い出せない。
いいや、後でみゆきにでも訊ねてみよう。

再び足元を見る。
「あったかいなりぃー」
いつの間にやら、つかさがあたしの足に巻きついていた。

もうコイツ、ほんと駄目な奴だなと心底悟った。



「暑ッ! ちょ、すんごい暑い、クーラー入ってないのこれ!?」

乗り込んだバスの中に溢れ返る、人と熱気。
少し早めに家を出たことで、出勤時間の人々と見事に重なってしまったらしい。

なんという裏目。
座る場所も無いじゃないのよ……

そう心の中で愚痴っていると、車内にアナウンスが響いた。
「えぇー、本日ぅーわぁー……まぁことにご乗車、ありがとぅ御座いまッす」
普通に喋れ、と言うのはナンセンスだろうか。

「申し訳ぇーござーせんがぁー、現在ぃ、エアーコントロゥーラッが故障しております故ぇー……」

それを聞いたサラリーマン風の乗車客が呟いた。
「ふざけんなよー」
年の頃の近い学生が呟く。
「ほんっと、勘弁して欲しいわ」
マッチョな男性も呟く。
「あぁ、仕方ないね」

その各々の思いを受けてか、運転手も呟く。
「いやぁ、すんまっせぇーん」

その様と熱気にうんざりしつつ妹を覗くとメモ帳片手に、
「オウケーイ……オウケェイ……オウケェーイ……オウケ、エーイ……」
と何やら熱心に呟いている。

やがて静かだった車内はざわざわと騒音にまみれていき、
私はというと、こうやって街や駅の雑踏は生まれていくのだな、と一人感心していた。



「何してんの、置いてっちゃうわよ?」

上履きに履き替えたところで、つかさが立ち止まってしまった。
登校途中に何度も確認していたメモをまたもや開き、熱心に目を通している。

抜き打ちテストでもあるのかしら?

邪魔をするのも悪いので、
「それじゃ先に行ってるからね」
と声を掛けてから別れることにした。

トントントン。
一人軽快に階段を駆け上がっていく。

そして……

「おーっす、みゆき!」
「お早うございます……あら?」
「ん?」
「鞄くらい置いてから来られたほうが、いいのではないでしょうか?」
「いいのいいのすぐ行くからさ、それより……」
「泉さんならまだですよ」

まぁ時間も早いし、そうだとは思っていたけどね。

「かがみさん、つかささんとは御一緒では無いのでしょうか?」
返す刀の質問。
「つかさも玄関までは一緒だったよ、すぐに来ると思うわ」
「そうですか、安心しました」

みゆきは頬に手を当て、小首を傾げて微笑んでいる。
そうか、この子もやっぱり4人揃わなくて寂しかったんだろうな。

「それじゃ、また後でね」
「はい」

軽く手を振りつつ、その場を後にした。


時間が飛んで4時間目、体育。
クラス対抗ドッジボール。

「おーっし、頑張ろうなぁ柊ぃー」
やたら張り切る日下部。
「こういう荒っぽいことは苦手なんだけど」
不安そうな峰岸。

自陣の中には、あたし達3人と他2人。
そして相手コートには……
みゆき、つかさ、こなた、他2人。

「お、柊妹が居るじゃーん……む! アレはちびっ子!」
息を巻く日下部は放っておき、あたしには一つ気に掛かかる事があった。

こなたが額を押さえては俯き加減に顔を歪めているのだ。
それからは首に手を当て何度も頭を振っている。

もしかすると、まだ調子が悪いままなのだろうか。
……大丈夫かな、このまま続けて?

『それでは両チーム、中央線の前へ整列してください』
何故かハンドマイクを片手に白石が指示を飛ばす。

やがて、白線を跨いで両チームが整列した。

「どうぞよろしく、よろしくどうぞー」
「よろしくね、妹ちゃん」
つかさと峰岸が笑顔で言葉を交わす。

「おーいちびっ子ぉ、負けても泣くんじゃねぇぞー」
「……あ、ごめん、なにか言った?」
好戦的な日下部とマイペースなこなた。

「それでは、お手柔らかにお願いしますね」
みゆきがニッコリと笑って皆に頭を下げる。

その時こなたがチラリと、あたしの様子を窺ってきた。
ずっと彼女を眺めていた為にばっちり視線が絡む。

やばっ!

一瞬何か言われるのだろうかとハッとした。
しかし彼女は一言も発さず、ただニィっとだけ笑った。

……なるほどね。

あたしは大きく息を吸い込んでから、
「アンタ達――」
こなたに挑戦的な笑みを返し、
「――悪いけど手加減はしないからね!」
宣戦布告した。


「怖い……怖いよぉ……あいつ怖いよぉ……」
先ほどまでの勢いは何処吹く風か、日下部は私の背中にすっぽりと隠れてしまった。
「ほらほらぁ、隠れてないで出てきてくださぁい」
みゆきが片手でボールを弄びつつ、猫撫で声で語りかけている。


僅か数秒前の出来事である。
トスを私が奪い、日下部が投げたボール。
それをみゆきは、短く息を吐きつつ、地面と垂直方向に孤を描くチョップで叩き落としたのだ。

っていうか、あれってアウトじゃないの?

実況 兼 審判の白石に眼で訴える。
……あ、逸らしやがった。

「いけぇー! ゆきちゃん、やっちゃえー!」
つかさが間延びした声で声援を送っている。
それに応じるかのように、みゆきの目の色も変わる。

やれやれ、困ったわ。
運動力的に頼りにしていた日下部がこうなってしまうと、劣勢なんてもんじゃない。
しかし勝負は勝負、全力を尽くしてこそなの。
仲間が動けないのなら、あたしが動けばいい。
不完全な負けなど断じて認めないわ。

……大丈夫、勝算は十二分にある。
こちらへボールが回ってきさえすれば、外野を使い揺さぶりを掛け、あたしか日下部の二択で隙を突けばいい。
そうして当てやすい者から倒していき、最後にみゆきを持ってくればいいだろう。
となると最初の狙いは、やはりつかさね。

さて、

「みゆき!」
あたしは声を張り上げる。
「さっさと投げなさいよ! 日下部を倒したいのなら、まずあたしから片付けなさい!」
背後から、
「柊ぃー……あんがとぉー……」
という声が聞こえてきた。
世話の焼ける子ね、まったく。
よしよし、と後ろ手に頭を撫でてやる。

などと感傷に浸っていた次の瞬間、眼前には唸りを上げるボールが迫っていた。

「あぶなっ!」

咄嗟に身を翻す。
フォンッ、と空を切るソレ。

――ドズゥッ!

重い石を砂地の地面へと叩きつける音。
短く消える呻き声。

背後を振り向いたとき、日下部の体は宙を舞っていた。


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  • つかさがだめな子すぎるwww -- 名無しさん (2008-06-06 23:59:26)

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