ゆびきりげんまん

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道を行き交う人々。スーツを着込んだ会社員や買い物バッグを提げる主婦、楽しげに談笑するカッターシャツの高校生たち。
みんなかがみの二歩先を歩く少女より大きく、しかしかがみにとって少女ほど大きな存在はいない。
未発達な男の子たちの、それでも自分より広い肩幅。
腰下まで伸びた長い髪を見つめる。手入れがひどく面倒そうだけれど、かがみが羨むくらいに髪質が良い。
かがみにはその髪に隠された小柄なこなたの背中を見た記憶がほとんどなかった。

「ごめん、峰岸たちと話してたら遅くなった。って、あれ」

かがみが待たせちゃったかなと謝意を込めながら扉を開けると教室に残っていたのはこなた一人。

「ねえ、つかさとみゆきは?」
「つかさが買いたいものがあるって、みゆきさんと一緒に先に帰ったよ。かがみにごめんねって」
「そう、別にいいのに。で、こなたは?」

一緒に帰ってればよかったのにと。が、誰も残っていない教室を想像してこなたがいてくれてよかったと思う自分もいる。
こなたは別段かがみが嬉しくなるような理由は述べず、いつもの眠そうな表情で、

「なんとなく。今日は見たいアニメもないし急いで帰る必要はなかったから」

と返答し、もぞもぞと帰宅の支度を始める。
最近はあまり見ていなかったこなたの茫洋とした表情に反応が遅れた。
かがみの肩ほどに並ぶこなたの頭。見上げてくる視線とぶつかった。

「かがみ、帰ろう?」
「うん──」

小さな手に引かれてようやくかがみは歩みを進めた。


すっかり静まり返った校内を二人は手を繋いで歩いた。
ただ視線は合わせずお互いに前方ばかり見つめて、物音を立てるのを恐れるように会話もなかった。
玄関まで着いてどちらともなく手を離す。その呆気なさにかがみは靴箱を開けていて「あ」と小さく呟いていた。
しかし思い返す時間もなく、こなたがどうしたのと首を傾げて待っている。
なんでもないと笑顔で応えて歩み寄るものの、再びその手を取ることはなかった。

半歩前を上機嫌に歩き、何度も振り返ってはかがみを見上げるこなた。
学校での沈黙が嘘のようにこなたはいつも通りかがみにはよくわからないアニメの話を嬉々として進めた。
分かるものには大きく相槌を打ち、しかし大半はきっぱり「わからん」と斬り捨てるかがみ。
それでもこなたが落ち込んで話を止めることはなかったし、こなた自身が発する楽しさが伝わってかがみの表情も明るかった。

「うんうん。かがみは絶対にオタクの才能があるね」
「才能って呼んでいいのかそれは。喜んでいいのかそれは」
「もちろんだよー」

同志が増えて嬉しい、なんて喜ぶこなたを見るとちょっと待て、とかがみは掴みかかりたくなる。
こなたというオタクと友達になって彼らに対する嫌悪感はほとんどないが、自分がそうだと言われると否定したくなる。
こなたのような人前で羞恥心の欠片もない発言をするような人格だと思われたくない、と。
だがそれでも、こなたと共通の話題を持てるということはかがみにとってとても嬉しいことだった。

「何度だって言うが私は絶対にオタクじゃない……と思う」

二人の会話をぽかんとして見ているつかさとみゆきの顔が思い浮かんだので。

「かがみはさ、やっぱりツンデレだよね。生まれつきのツンデレ」
「ツンデレ言うな!」

こなたの中では褒め言葉の萌えもいまだにかがみは馴染めない。
ついでにこなた特有のにんまりといった笑い方にかがみの体温はいつも上昇させられる。
頭ごなしの否定、感情的なツッコミ。どれほど声を荒げても泉こなたは全く動じない。
ツンデレ、ツンデレと何度となく言われるが、かがみ自身自覚している精神的に幼い部分を表現を変えて(理解し難くとも)可愛いと言われることは正直嬉しかった。
きつい言動を繰り返しても、説教がましくても、すぐに感情的になっても。
彼女にとってそれは萌えであったり、冗談を言って笑いに変わることこそあれ、怖いと避けられることはなかった。
だから、こなたの隣はかがみにとって居心地の良い場所。


「こなた、今日はどこにも寄り道しないの?」
「……なんで?」
「い、いや深い意味はないんだけど」

歩みを止めてしまうような変なことを言ったのだろうかという思いと、見上げてくる視線にかがみは焦る。
ふーんとまるで納得していない反応を示しながらもこなたは正面に向き直って二歩三歩、だけ進んで。
安堵のため息をつきながら続くかがみはろくに足元を見ず。

「ちょ、こなたっ。あ、あぶないじゃない、急に止まらないでよ」

危うくぶつかりかけたかがみの鼻先に蒼い草原。
シャンプーの香りが残っているのだろうか甘い匂いがする。
つい鼻を鳴らしていたことを気取られまいとして注意の声が大きくなっていた。
こなたはかがみの(普段ならからかうところ)反応に関心はせず、再度疑問を呈した。

「じゃあさ、かがみはどこに行きたい?」
「えっ」
「何か用事があったんじゃなかったの。それとも、普通に帰り道を一緒に歩いているだけじゃ物足りない?」

さらに増やされる質問のどれ一つにもかがみが答えることはかなわなかった。
全然からかう風のない真っすぐな瞳と紡がれた言葉の不一致。
本当のことを一瞬口にしてしまおうかと思った。が、羞恥心が勝って言葉にはならない。
代わりに普段あまり見ることのない真剣な瞳を見つめ返した。かすかに浮かべた微笑みに釘付けになっていた。

「……なーんてねっ」

何分、いや何秒ばかり静止していたのか。弾けた様に言葉を発したこなたは長い髪をくるりと翻させた。
意識が戻ってくる、その刹那のこなたの表情は髪に隠されて見えなかった。
周りの雑音以上に大きく響く鼓動。それから顔が熱い。現実感覚と共に急にやってきた。
立ち直りの早かったこなたが先を行く。かがみは慌てて後を追いかけ、でも恥ずかしくて半歩後ろに続いた。
見下ろす、揺れる髪の隙間から、確かに赤く染まった耳がちらり覗かせていた。


一緒にいられる時間を大事にしたいと思うほど軽口の一つでも口にしづらくなる。
陽が落ちていく。昼間の明るさも暑さも嘘のように。太陽の光と人工のライトの両方を失った瞬間。

「かがみは夕日って好き?」

手を伸ばせば届く距離にいるこなたの表情さえもよく見えない。
空は夕焼けというほどには赤く染まっておらず、淡い橙色を夜の闇が覆い尽くそうとしていた。
世界を照らしづつける存在は建物の向こうか、あるいは既に隠れてしまったのか捉えられなかった。

「私は好き、かな。一日の中でも短い時間の間だけだし、空の色が変わるのってなんていうか、さ」

神秘的とも幻想的とも。赤々と煌めく太陽、熱を発し遥か彼方を照らし続ける。
こなたの頬に朱色を映し、何かを見つめる眼差し、少し憂いを秘め。何も言えず、ただ綺麗だと思った。

「こなたは確か赤色って好きなんじゃなかった」
「好きだよ、比較的にね。でもこの赤い空はあまり好きじゃない」

好きじゃない。ちょっと嫌いかもしれない。ちくり胸が痛んだ。
無感動なこなたの表情にかがみは言い様のない不安を覚える。
薄く開いた唇から発される言葉を聞くよりも先にこなたの手を掴んでいた。

「かがみ……?」
「何が嫌なのか知らないけど、見たくないなら見なければいいでしょ」

小さな小さな掌を離さないとばかりに強く握りしめる。
痛いよ、と口先だけでこなたが不満を漏らしたが無視した。

「見たくないと思ってもどうしたって視界に入ってくるじゃん」
「なら、ずっと私のことを見てなさいよ」

思いもかけない言葉にこなたは目を見開いて瞬かせる。
夕日では全然言い訳にならないほど真っ赤に染まったかがみがいた。

「なに、それ。かがみはずっと傍にいてくれるの?」
「そうよ」
「雨の日も雪の日も? たとえ槍が降ったって?」
「雨が降ろうが雪が降ろうが、だ。槍は知らん、降るか」
「病める時も健やかなる時も?」
「誓いませんっ」

「えー、ダメじゃん。そこは誓ってよ」とこなたが笑う。
赤い顔をしたままかがみが応える。「勝手にしろ」とそっぽを向くが頬は緩んでる。
からかってくるこなたの視線から逃れようとかがみが歩けば、手を繋いだこなたもしっかりとついてきた。
離れろ、やだよ、声が飛び交う。随分と楽しげで。

「……いつかはかがみも離してしまうのかな」

だんだんと深まる闇と共にかき消されてしまいそうな問いかけ。
華奢な身体、小さな双肩に降りかかる災い全て。自分が盾となって、こなたの悲しみ奪って去ってやる。
こなたの幸せはかがみの幸せでもある。その逆も、きっと。
固く繋いだ手にさらに力を込め、紅潮した顔つきで言い切った。

「いつだって私はあんたの傍にいるからな。だから、こなたこそ、離すんじゃないわよ」
「うんっ」



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  • いい感じですね♪ -- かがみんラブ (2012-09-16 23:10:59)
  • ほんのりと甘く温かくて、ほのかに苦くて。GJでした! -- 名無しさん (2011-07-01 07:06:32)
  • 新作うpされてたんですね。
    いつもながらmonoさんの作品は、ほんわか暖ったかくなるんですよね~。
    ラブラブも良いけど、この友達以上恋人未満的な2人の関係を取り入れた作品は大好きです。
    -- kk (2011-06-10 23:48:12)



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