春遠からじ

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冷たい風が音を立てて通り抜ける。こなたは小さな体を震わせた。
学校指定のコートに埋まるかのようにできる限り露出面積を減らす。マフラーがないのが辛かった。
ほんの数日前はすごく暖かかったのに。また冬に逆戻りしたみたいだ。

「こなた、寒くない? 大丈夫?」

隣を歩いているかがみが心配してくれていた。
自分より大きな体。凍てつく冬の日も、うだるように暑い夏場も、凛として真っすぐに伸びた背筋。
かがみの優しい言葉にからかうつもりの返しがすぐにできなかった。

「……ぜんぜん、へーきだよ」

と、言ったそばから鼻を鳴らした。
もう、と苦笑交じりにかがみが近寄った。二人の身長差15cmとちょっと。
生まれながらに姉だったからなのか、少し大人びた仕草、気遣い。この頃はどうも、かなわない。
言ってしまえば母性的なものを感じさせること。で、あるかもしれないが、頑として認めない。認めていいわけない。
当り前に常に対等でありたいのだ。

「しょうがないわね、マフラー貸してあげる」
「いいよ。かがみが寒くなるじゃん。特にうなじとかさ」
「なんでうなじなんだ。あんたは小動物なんだし私より弱いんだから」

なにをー、と抗議するより先にぐるぐるとマフラーを巻きつけられる。
ちょっと不器用で乱暴で、でもすごくあったかい。もう、何も言えなくなってしまった。
ポン、とかがみがこなたの背中を押す。寒いのなんて関係ないよと、軽やかな足取りで。
マフラーにコートに手袋で、もこもこしているこなたが可愛くてちょっぴり可笑しかったのだ。
笑い声の理由を知る由もない彼女は、それでもつられて笑顔になって歩き出す。

空気の冷え込んでいる日には、人々は気が急くように足早だった。
春夏秋冬、季節の変遷を好むものはいても寒さを心から望む人間はいない。
故に寒さをしのぐもの。こたつの魔力とはよく言ったもので、このネコとて例外ではなかった。

「早く家に帰って炬燵でぬくぬくしたいよね」
「そうねー。でも、炬燵をつけるとみんなテコでも動かなくなってしまうのよね」
「それは仕方ないよかがみ。ウチなんてお父さんとゲームしながらそのまま寝落ちとか、よくあることだよ」

アハハと笑うこなた。口元はかがみのマフラーで隠れているけど。
早く暖房の利いた部屋で暖まりたいと思いつつ。一緒に笑い合う帰り道の時間を大切にしたい、とも。
行き交う人々の中には親子だったり、姉妹だったり、恋人同士だったり。手袋を着けていない手を重ね合わせていた。
人のぬくもりが恋しくなる、そんな季節。

「……あのさ、こなた」
「んー、なにかなかがみんや」

意外にも先に切り出したのはかがみだったが、こなたにはすでにばれていたようだ。
お決まりのにまにま笑い、はマフラーに埋もれて効果なし。小悪魔なアイツではなく、小動物な彼女。
やっぱり可愛くて可笑しくて、どうしてもにやけてしまう。照れは全くなかった。

「手、つなごう。まだあんた、寒そうだしさ」

元々手袋も着けずポケットに突っこんだままだった右手を差し出す。
こなた自身の手より当然大きくて、女の子らしく綺麗だけど、実際に触れると頼もしさというか安心できる。
選択肢は一つしかなかった。いつものツンでデレなかがみじゃなかった。触れたい、と思った。
手袋を外す、外気はやはり冷たい。でも、直に感じたい。
おずおずと重ねられた小さな手を、かがみはしっかりと握りしめた。

「なんか、ずるい」
「ん?」

小さく呟いたこなただけれど、かがみには聞こえていたらしい。
胸を張って歩く姿がよく似合うかがみも、手を繋いだ今は歩調をこなたに合わせていた。そんな優しさもずるい。
数か月前とあまり変わっていないはずの表情を少し見つめる。ガードの解けた無防備な表情。
そしてその次に見せるのは、心配している顔。些細なことでも気にしてくれている。
以前だったら呆れたり理解できない、と関心を失うのが普通だった。

「どうしたの、こなた」

そして問うてくる。
見つめられ、手も握られ、逃れようはない。
だからそーゆーのがずるいんだって。

「いやね、うん。かがみは、冬って好き?」

とはいえ、やられっぱなしは面白くない。

「えっ、何よ急に」
「急にじゃないよ。こないだまでもう春が来たって思ったのに、今日はすごく寒いじゃん、冬みたいでさ」

こなたの言葉にしぶしぶながらも頷いたかがみはあさっての方向を向いて思案し始めた。
真剣だった。けど繋いでいる手は離さなかった。
数秒の間。普通に人が行き交う往来で、足を止めて手を繋いでいる状況。見つめあってはいないが。
込み上げてくる羞恥心。考え中で気づかないかがみはこなたの力では動かしようがなかった。
この人、抱きしめてくるときとか、すごい力発揮するのはなんでなんだ。と、さらに顔が熱くなった。

「好きよ」
「はぇ?」

いつの間にか戻っていたかがみの、至近距離での『好き』。
一瞬、二人の時間が止まった。

「いや、だから、冬が。ったく、なんて顔してんのよ」

にやけつつ、赤面しつつ、かがみがつっこむ。
阿呆な想像を繰り広げていたことにこれ以上ない恥ずかしさを感じるも、どうにもほどけない。
逃さないとばかりに掴んでいるかがみにしても、まさか一般道で抱きしめるのは注目度が高すぎる。
こなたの回復に先んじてかがみ。ツンデレのツンが抜ければまさに直球一本勝負。

「人の体温って結構あったかいでしょ。寒いとほら、より一層ぬくもりを感じられるし。なんていうかやっぱり、幸せじゃない?」

結局、かがみの辞書の中に自重という文字は大概存在していないものらしい。
まだ赤みの引いていなかったこなたは、かがみの腕の中で表情は見られることはなく。しかし不意打ちで真っ赤になっていた。
長い髪の隙間から覗く、耳をも赤く染めた彼女と、幸せいっぱいの笑顔な彼女。二人の姿を見て。
足早に過ぎ去っていこうとした幾人かは歩みを止めかけ舌打ちし。
手を握り合っていた男女は「バカップル」と呟きながら、愛しの恋人に熱い視線を送るのだった。


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  • 好きって言うのは冬のこと?こなたのこと? -- かがみんラブ (2012-09-19 21:37:11)
  • 好きだなーこの感じ♪
    暖かい作品をありがとう作者様。 -- 名無しさん (2011-03-19 02:18:32)
  • 今、この季節にぴったりな作品ですね。
    オイラにも2人の様に物理的&心情的な『春』は
    訪れるのでしょうか? う~ん・・・苦笑 -- kk (2011-03-14 22:38:15)
  • 心が暖かくなりました -- 名無しさん (2011-03-14 02:22:28)




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