Any time 

このページを編集する    
『 Any time 』


 鉛のように重い身体を引きずって、マンションの長い廊下を歩く。
 振る雪に濡れた私の分厚いコートが、その足取りをさらに重く、陰鬱な様子にさせていた。
 後ろで一つに結んだ薄紫色の髪や、肩ににかかった雪を面倒臭そうに片手で払い除け、コツリ、コツリ、と一歩ずつ確かめるような靴音を、私は静かな廊下に反響させながら進んでいった。
 やっと目の前に見えてきた、この街の日常と私とを分かつ、鋼鉄の扉。
 焦る気持ちを押さえながら、キーケースから素早く鍵を取り出すと、私はその扉の鍵を、かちゃり……、ゆっくり静かに開けた。
 もう辺りは深い夜が降りていて、周りの住人たちのそのほとんどは、穏やかな寝息を立てていることだろう。
 そんな彼らに若干の嫉妬を感じながらも、起こさないようにそっと扉を開け、隙間に身体をするりと潜り込ませるとまた、かちゃり、と静かに扉を閉じる。
 そうして私はようやく、

「――はぁー……」

 と、大きなため息を一つ付いて、冷たい扉に背中を預けた。

 ――今日の仕事はとりわけ大変だったな。

 好きでやりはじめた仕事とはいえ、それが仕事終わりにくる疲労を軽減させてくれるかというと、実際にはそれほどでもなく……。
 強い達成感と同時にやってくる、その仕事量に比例した疲労感。
 それが、一晩しっかり休んでも回復せずに次の日の朝にまで持ち越してしまうことも最近たまにあってしまったり。
 昔はこんなことなかった。若かった頃は――なんて言い出してしまいそうなあたり、私ももうそんなに若くはないのかな。

 高校を卒業して、大学を出て……。
 昔からの夢、それを一途に想い、叶える事が出来、そして今も忙しいと漏らす私はずいぶんと幸せ者だ。
 幸せ者の……はずなんだけどなぁ。

 私はもう一度、はぁ、と大きめなため息を付きながら、そのままずるずると背中を滑らせて、玄関の床にペタリと腰を下ろす。

 …………。

 ……ああ、いけない。悪い癖だ。
 こんなところで休んでどうするのよ。
 服にだってシワにが出来ちゃうし、せめて……、リビング、ま、で……。

 よっこらしょっと腰を上げ、よたよたおぼつかない足取りで、リビングまで一歩、二歩……。
 途中、着ていたコートを壁にあるハンガーにかけると、リビングにあるお気に入りの座椅子に、身体を投げ出すように私はえいやっと飛び乗った。
 柔らかい、クッションの感触が私を優しく受け止めてくれる。
 四肢をぐたりと投げ出して、一息小さな深呼吸……。

 ふぅ……お疲れ様、私。

 疲れが重力に従うように下へ下へと落ちていき、私からゆっくり溶け出していくような錯覚。
 半分、このまま寝ちゃってもいいのかな? なんて本気で思っている私が居たりして。
 でも、駄目だ。
 化粧を落とさないといけないし……
 お風呂も……

 そう、思うだけでいっこうに起き上がろうともしないココロと身体。
 もしこんなトコロを誰かに見られてしまったら、もう一生あいつのコト、『だらしない』だなんて言えないよね。
 この前あいつが言ってたコト、今ならすっごく理解できる。
 まぁ流石に服を着るのが面倒臭いからってハダカで寝るようなことはしないけど。

 あいつの……
 こなたのコトを思い出した私の口元に、自然と笑みがうまれた。

 ホント、あいつってばだらしないナ。
 掃除もろくにしない。
 出した本は収めない。
 夜だって、遅くまで起きてるみたいだし……

 そういうトコ、知り合った頃とあんまり変わってないよなぁ。
 でも、一人暮らしをし始めてから、それがもっと酷くなっているような気がする。
 私がちょこちょこ顔を出して、色々してあげてるのがいけないのかな?
 でも、あいつのコトを放っておくのは私の精神衛生上、良くないし、ね。

 ごろりと寝返りをうつように、その場で身体ごと横に向けて寝転がる。
 頬に触れるきめ細やかな生地の感触が心地良い。
 そういえばこの椅子は、私の引越しの時のお祝いに、こなたがプレゼントしてくれたんだったっけ。
 私の誕生日のたびに、変なコスプレグッツをプレゼントしてくれるのは今も相変わらずで、こなたからまともなもモノを貰ったのって、この時が初めてじゃあなかったかな?
 嬉しかったなぁ。
 別に、実用品だったから嬉しいって訳じゃないんだけどね。
 あの変なコスプレグッツだって、貰う時は文句を言ったりしてるけど。
 全部……。
 全部、箱にしまって大切に保管してるってコト、あいつは分かっているのだろうか。
 時々、箱の中から取り出して、あの時はこんなことがあったな、とか、その時のこなたの表情はああだったな、とか。
 全部、忘れないように……大切に箱の中に仕舞ってあるんだけどなぁ。

 そこまで考えてから、私はもう一度ごろりと、反対側に寝返りをうつ。

 駄目だなぁ……私。
 あいつのコトを思い出し始めたら、私は歯止めがきかない。
 いろんな表情の彼女の姿が頭に思い出せれてきて。
 ……ここに。
 この場所に、彼女が居ないということが。
 私を、とても寂しい気持ちにさせてしまう。

 ……会いたいな、こなた。
 でも、ううん、駄目……。
 私から、「一週間に一回」って決めたんだもの。
 私がこなたと一緒に過ごせる唯一の時間。
 それ以上でも、それ以下でも駄目。
 多くても、少なくても……私はきっと、我慢出来なくなるから。

 おととい会ったばっかりだから、あと……5日、かぁ。
 長いよね……一週間。 

「はぁ……」

 まぶたを強く瞑って、生まれる濃い暗闇に雑念をかき消す。
 やや身体に戻り始めていた英気を消費して、私はむくりと立ち上がった。

 お風呂……沸かさないと。
 お腹も減ったなぁ。

 朝、あらかじめ洗っておいた風呂釜に、すこし熱めのお湯を流し込む。

 お湯がたまるまでの間、何か、料理作ろうかな。
 深夜の食事は身体に悪そうだけど、今食べておかないと明日分の元気も回復しそうにない。
 軽いもの……スパゲッティでも作ろうか。
 鍋にお湯を入れて数分、沸騰したお湯にパスタを落として泳がせる。
 その間にべつの鍋で少しだけ煮たほうれん草を、炒めたベーコンと合わせて……。

「――うん、まぁ、上出来かな」

 お風呂のお湯を止め、出来上がった料理を口にする。
 ベーコンが……ちょっと重かったかも。
 でも油は極力使わなかったし、ベーコンやパスタの量も加減したし……。
 だ、大丈夫よね、体重。
 今日はしっかり働いたんだもん。
 大丈夫……の、はずよね。

 昔から、私は食べ物の誘惑にはとことん弱い。
 そうして、食べてお腹が膨れてから、いつもこうやって後悔と自責とを繰り返している。
 そのことを、こなたにもよくからかわれていたな。
 でも、仕方ないじゃない。
 美味しいものって、美味しいと思えるときに食べないと、勿体無い気がするんだもん。
 ……って、こなたにもそう言ったら

『そうだね。かがみは本当に美味しそうに食べるもんねぇ。作りがいがあるってもんだよ』

 ……だって。
 こなたが作る料理は、私のと違ってとっても美味しくて……。
 うぅ、思い出すとまたお腹が……。
 そういえば最近、こなたが作った料理って、食べていないなぁ。
 こなたが一人暮らしを始めた初期の頃は、よく訪ねてきた私に、色々料理を作ってもてなしてくれてたっけ。

 こなたは……
 なんだか最近、家で作るよりも外食のほうが増えてきたみたい。
 私が心配してそれとなく聞いても、こなたは「そんなことないよー」なんて言ってくる。
 ……そんな嘘、キッチンを見れば一目で分かるんだから。
 やっぱり……また、ご飯を作りに行ってあげよう。
 今週はなにを作ってあげようかな。
 こなたが好きなもの……。
 最初の頃は色々リクエストしてきて、料理に不慣れな私を困らせてくれたのに、今は、「どんなモノがいい?」って私が聞いても、「何でもいいよ」って答えが返ってくるばかりで、別の意味で私を困らせるんだから。

 もしかして、私の料理……飽きちゃったのかな……。
 せっかくあいつが喜ぶように、好みの味付けとか一生懸命覚えたのになぁ。

「ふぅ……」

 もう、何度目のため息だろ……。
 あぁ、なんだかココロが重たい。 
 こんな気分の日はお風呂にでも入って、すぐに寝るのが……一番、よね。

 スーツの上着に手を掛けて、それを丁寧に脱いでコートの隣にかける。
 シャツのボタンを上からゆっくりと外していく途中、ふと、テーブルの脇に置いてある黄色いフォトフレームが目に留まった。
 中に収められているのは、楽しそうにしてる、あいつの笑顔。
 いつか、二人で遊びにいった時に撮ったんだっけ。
 その中の彼女に視線を合わせ、じっと見つめた私は、
 ……ぱたり、と、その写真立てをテーブルに伏せて、そのままバスルームへと向かった。


 ――ちゃぷん……

「あっつぅ…!」 

 片足の指先だけをお湯に漬けて、その温度を測る。
 必要以上に熱いと感じてしますのは、たぶん、今だ冷えてしまったままの私の足がそう錯覚させているせいだろう。
 我慢してそのまま沈めていくと、痺れたような感覚のあとに、じんわりと気持ちの良い温かさが私を徐々に包んでくれていく。
 胸の辺りまで漬けることに成功した私は、そこで、ふぅ、と一息をついた。
 浴槽の縁に腕を乗せ、それを枕代わりにおでこを乗せて。
 私は小さな声で、鼻歌を口ずさんだ。

「気持ちいい……天国ね。ここ……」

 なんて台詞も自然と口から出てきてしまう。
 疲れがじんわりとお湯に溶け出していくようで……。
 あぁ、ごくらく~♪
 ふん、ふ~ん♪、ふん……ん?

 私の鼻歌に合わせて、遠くで音楽が鳴っているような気がする。
 ……いや、鳴ってる。
 携帯電話だ。電話が着信してるんだ。
 この着メロ……、こなたっ!

 ザバァッとお湯を巻き上げて、私が浴槽から片足を出したとたん、その音はぴたりと鳴るのをやめる。

 一瞬、このままお風呂から出て、すぐにかけ直そうかどうか悩む。
 もう遅い時間だし、私が出ないのを知った彼女は、諦めてそのまま寝てしまうかも知れない。
 明日の朝にかけてもいいけど、もし、今しか駄目な要件だったら……。

 そういうのに、私は心当たりがあった。
 それは、もうみんなが眠ってしまっているような時間。
 そんな時間に、ふいになんとも言えないような寂しさに襲われて。
 自分じゃあどうすることも出来なくて。
 誰かの声が聞きたくなって。
 ……私の場合、こなたに電話して慰めてしまったこと、あったよなぁ。

 その時感じた想いの欠片が、ツキンとココロに思い出される。

 もう、躊躇はしない。
 私は十分に温まってない身体を、バスタオルに包んでリビングに出た。

 テーブルに置いてある携帯を持ち上げると、
 それと同時に着信音が、

「――こなたぁっ?」

 急いで開いて耳に当てる。
 でも、返答がない。

 なんだろう……。

 不思議に思ってディスプレイに目をやると、『不在着信:一件』のほかに、『メール:一件』の、文字が。

 さっきの、メールだったんだ……。
 恥ずかしい、少し叫んでしまった。

 照れた顔のまま手馴れた指使いでメールフォルダを開いてみる。
 可愛い絵文字付きで、

件名 [ ゴメンネ ]
 「もう寝ちゃったカナ?」

 そんな短い文の中から、片手を顔の前に立てて「ゴメン」って謝るこなたの姿と、小さく小首をかしげるそんな仕草が、私の頭に想像できた。

 ふふ……寝てないわよ、こなた。

 発信履歴から、彼女の名前を選んでかけた。
 三回目のコール音がなる前に、彼女のゆったりと間延びをした声が、私の耳をくすぐった。

「かがみぃ?」
「なぁに、こなた」

 私はくすりと微笑む。

「うん、ゴメンネ、夜遅くに……」
「べつにいいわよ、寝てたわけじゃないから」
「でも、電話に出なかったから、起こしちゃったのカナって……」
「お風呂に入ってたの」
「……じゃあ、かがみん今ハダカ?」

 ばぁか、と私は小さく笑い、そのまま座椅子に腰をかける。

「どうしたの? こなた。何か……用事? それとも……」
「う、うん、そうなんだけどー……って、『それとも』……?」
「それとも、私の声が聞きたくなったとか?」

 一瞬の沈黙。
 ややあって受話器の向こうから、ぶっ、と吹き出しながら笑う彼女の高い声が聞こえてきた。

「――ぷ、ふふふ……、かがみぃ~、もしかして酔っ払っちゃってる?」
「冗談よ、冗談」
「やっぱ酔ってんだね」
「あんたが申し訳なさそうに話すから気を使ったの。ホラ、感謝しな」
「ふふ、ありがと、かがみ」

 くすくすといつまでも笑う彼女の声。
 このぶんだと、私がさっき心配していたようなこと、無かったのかな。
 こなたの声を聞くまでは、あんなに不安や心配に満たされていた心が、聞いたとたんに溶けてしまったかのように、今度は安堵や安心に満たされていく。
 たった二日間会っていないだけなのに、その声がとても愛おしく感じてしまうのはなぜなんだろう。

「えーと、あのね、かがみ」
「うん、なに?」

 言い出しにくそうに、歯切れ悪く話すこなたの声。 

「来週のコト……何だけどネ?」
「来週……?」

 彼女が言っている「来週」とは、いつも私がこなたの部屋に通っているアレのコトだろう。
 ――って、まさか……来週はこなたがいないとか?
 出掛けて、会えない……とかかな。
 仕方ないけど、だったら、私は……。

「来週、かがみってさぁ、一日中空いてたりする?」
「え……?」

 空いてる? ……何が?

「久しぶりに外で会おうよ。同僚に映画のチケット貰ったんだぁ。だから……かがみと見たいなって……」
「映画……こなたが、私と?」
「無理っぽいかなぁ」
「……」
「……かがみ?」

 映画のお誘い……こなたから……って、
 これって、もしかして……

「そっか……かがみ、忙しいから無理だよね、ゴメ……」
「ん――って、ちょっと待て! 私まだ何も言ってないじゃないっ!」
「……でも急に黙っちゃうしさぁ」
「ちょっと待ってて、予定っ! すぐに見るからぁ!」
「え、あ、うん……」

 急いでコートに駆け寄って、メモ帳を取り出そうとする私。
 内ポケット……うぅ、片手じゃ出しづらぃ……っと、取れた。
 予定、予定は……と、

「何曜日? こなたはいつならいいの?」
「来週だったらいつでもいいよ。ただ映画は日曜日が最終だから」
「日曜日ね……うん」

 スケジュールを頭の中で調節する。
 このところ、家にまで仕事を持ち込むことも多かったから、一日中休みってことも少なかったなぁ。
 これをあそこでやって……、あれは明日中に……よし。

「こなた……金曜日、いいかなぁ」
「大丈夫なの?」
「うん、なんとか休みが取れそう」
「ホントに?」
「なんで嘘付く必要があるのよ。来て欲しくないのか?」
「う、ううん、そんなコトッ!」
「じゃあ、決まりね」

 何故か焦っている様子の彼女が可笑しくて、そのままくすくすと笑う。
 でも受話器の向こうは何故か沈黙。

「やっぱ……運命……♪」

 ぼそりと聞こえる彼女の声。

「うん? こなたぁ、何か言った?」
「い、いや、別にナンデモナイヨ、こっちの話」
「何よその含みのある言い方っ!」
「でも、かがみぃ、デートなんてホント久しぶりだよねー」
「デートって、女同士じゃない。成立しないわ」
「それでもこれはデートなんだヨ。何故なら愛し合う恋人同士がーッ!」
「はいはい……分かった分かった」
「もー、最後まで聞いてよネ」
「なんだっていうのよ……」
「かがみぃ、いっぱいおめかしして来るんだよ? 最高に可愛くしてさぁ」
「ナンパにでも行くのか? どうしようって言うのよ」
「いいじゃーん。たまにはスーツじゃないかがみも見たいっ!」
「そんな理由かっ」
「いい? かがみ。これはデートだよ、それも恋人同士の久しぶりのデート。だからいっぱい気合いれないと」
「なんだ、それは」
「そんな感じのシチュでっ!」
「結局それかよ」

 このこなただけはいつまでも変わらない。
 でもそんな彼女と一緒に居続ける私も相変わらずか。
 電話越しに聞こえてくる、ハツラツとした彼女の笑い声が、私に元気を分けてくれる。
 一緒にいると、安心できて、とても……とても楽しくて。
 いつまでも一緒に居たい。
 このままで居たいって思えるのに、でも……。

「じゃあかがみ、また来週ね。私もしっかりドレスアップしてくるからさ」

 こなたの口調は一緒なのに、何処と無くそのトーンは落ち着いたものになっていた。
 別れの言葉を言うのは、いつも……辛い。
 切り出すタイミングが分からなくて……、いつまでも話していたくて。
 電話で話すときは、いつも、こなたのほうから言ってもらうようにしてる。 
 私は彼女にむけて、「はいはい、期待して待ってるわよ」なんて憎まれ口をたたいて、その寂しさを少しだけ誤魔化そうとしてるけど、……こなたは、きっと分かっているんだろうな。

「ふふーん、そうだね。楽しみにしててよ」

 出来るだけ、無理して明るく見せようとしてるのが、その声を聞いて分かるんだから。

「うん……おやすみ、こなた」
「おやすみネ、かがみ」
「……うん」

 別れるまでの少しの余韻。
 少しだけ、繋いだままその沈黙を楽しんだ私達は、

 ――Pi、

 お互い同時に終話ボタンに指を掛ける。
 視線を落として、しばらく私は携帯のディスプレイを眺め続けた。
 携帯電話を強く握り直して、そのまま、ぐたり、と座椅子の背もたれに寄りかかる私。

 ……週末、金曜日……デート、かぁ……

 こなたとの会話を思い出しながら、持ち上げたままの携帯をじっと見つめて、私はゆっくりとため息をついた。

 デートだなんてさ、恋人同士とか……
 こなたこそ……そんな気も、無いくせに。

 いつも、私のほうからこなたに近付こうとしてる時は、
 こなたはそれを、私の決意ごと……
 全部、無かったことにして冗談に変えてしまう。 

 でも、人のコトばかり言えない。
 ……私も一緒か。

 こなたが甘えてきてくれても、全然素直になれなくて。
 これ以上近付くのが不安で、
 色んなものから逃げたくなって。
 いつも、気が付いたら同じ距離に居る私たち。

 駄目だよね、こんなの。
 こんなの、絶対に卑怯だよ。

 曖昧な関係のまま……
 断ち切ることも、受け入れることしないで。
 ずっとこのままいれたらな、なんて……

 ズルイよね。
 だから……

 ――もう、そろそろ終りにしようか。

 今度のデートがいいきっかけなのかも知れない。
 こなたも、もしかしたらそれを望んでこんなコトを計画したのかもしれないし。
 だったら、今度こそ、私も逃げないで全部打ち明けないといけないな。

 私はむくりと上半身を起こして、テーブルに伏せた形で置いてある、黄色い写真立てを持ち上げた。
 写真の中の、無邪気に笑う彼女。

 朝起きた時や、仕事のちょっとした合間。
 ボーっとしている時、食事の時、お風呂に入っている時、そして今。
 眠っている時の夢の中にだって、たぶん。
 いつも……いつだって、私の中に彼女はいる。

 考えてない時間のほうが少ない。
 気が付いたら、彼女のコトばかり考えていて。

 ……私が仕事にうち込むのも、もしかしたら、こなたのコトを考えていない時間が欲しかったのかもしれないなぁ。

 ふぅ……、と何度目かになるため息を付いて、私は立ち上がる。
 身体に巻いていたバスタオルをほどいて冷えた身体を拭くと、パジャマに着替えてから、髪をドライヤーで乾かす。
 ほんのり火照る髪を、櫛でゆっくりと流し。
 ふわり……、飛び込むように。
 ベッドの上へと身体を預ける。

 たぶん、これから私は彼女の夢を見るんだろう。
 夢に出て来る彼女は、いったいどんな表情をしているのだろうか。
 願わくば、せめて。
 ……幸せな夢であることを祈って。

 私はパチリ、と……、部屋の灯りを消した。


                                 next.....




コメントフォーム

名前:
コメント:
  • つづきを心待ちにしてます。 -- 名無し (2009-10-09 23:05:19)
  • 自作× 次回作○ 失礼しました。 -- kk (2009-09-09 21:07:36)
  • 三部作との事ですので、自作を楽しみに待ってます。
    あなたの作品はどれも大好きで、何回も繰り返し読んでいます。GJ!! -- kk (2009-09-09 21:06:03)


投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)


|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|
  



★Counter

TOTAL: -
TODAY: -
YESTERDAY: -

★更新履歴

取得中です。