擦れ違いのその後に

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『擦れ違いのその後に』



「擦れ違い……ねえ」

そんな私の呟きに反応したのか、隣にいるこなたがスッとイヤホンを外した。

「……どったの、かがみん? 急にそんなこと言い出して?」
「いやね、テレビでやってた映画がさ、若いカップルが擦れ違いながらも結ばれるっていう内容だったのよ」

ふとテレビに視線を戻すと、映画はもう終わっていてニュース番組が放送されていた。
こなたとの話のほうが重要と判断した私は、それに集中する為にテレビの電源を消した。

「それはまた随分と古典的な……今時そんなの流行らないよ」
「昔の映画だったからね~。ていうか、あんたも一緒にいたんだから内容分かるだろ?!」
「いや~、私こっちに夢中だったし! それにイヤホンも付けてたしさ~!!」

こなたは目の前にのテーブルにあるノートパソコンを指差しながらそう言った。
画面表示を見る限り、ネットゲームでもしていたのだろう。
自分の部屋に戻ってすればいいものの、私がリビングにいる時はわざわざノートパソコンを持ってきてこなたはここでゲームをする。
それも私と一緒にいたいんだなーなんて思うと、微笑ましかったりするのだけど。
さっきだってイヤホンしてたのに、私の声には敏感に反応したし……
まったく、こういうところは何時まで経っても可愛いと思う。

「それにしても、本当に擦れ違いなんて流行らないわよね。どうしてかしら?」
「ふっふっふ、それにはちゃんと理由があるのだよ、かがみん!」

こなたは自分だけが知っているのが凄く嬉しいらしく(何時もはそんなことほとんどないし)、嬉々とした表情をしている。
なんだか悔しいような気もするけれど、ほんの少しだけ興味がわいた。

「へぇ~、どんな理由があるの?」
「これはお父さんから聞いたんだけどさ。知ってる? かがみ。
 小説家、特に推理作家はどうやって携帯電話を使えないようにするかを考えるのに苦労してるって話」
「知らない。でも凄く分かるような気がするわ」

こなたの言った事は初めて聞いた事だった。でも言われみると確かに納得できる。
携帯電話があるとお話の中では不便であることが多いかもしれない。
推理小説など携帯電話で助けを呼ばれたら、お話にならないだろうし。

「今の時代どこでも携帯電話が通じるから、大変らしいよー」
「確かに昔の小説とか読んでたら『なんで携帯電話を使わないんだー』っていいたくなる場面あるものね」

外国ならともかく、今時電話線を切られたくらいで外部との連絡が不可能になるとは思えない。
それに最近では地下ですら電波が届くのだから、山奥とかじゃない限り携帯電話は使えてしまうだろう。
その山奥でさえ、これからはどうなっていくことか?
高校時代にこなた達と山で遭難しそうになったことがあったけど、それだって携帯電話が通じてなんとかなっちゃったし。
そう考えると、推理小説、それも本格と名のつく物の行き先は暗いのかもしれない。

「それと同じで、擦れ違いの場面を書くのも難しいし、書いても現実性がなくなっちゃうみたいだよ。
 待ち合わせ場所にいるはずの相手が見つからない。それじゃあメールか電話で連絡だって、今はそれが普通になっちゃってるもん。
 携帯持ってない人なんて、今じゃほとんどいないしね」
「それでもあんたは、なかなか携帯持ち歩かなかったけどな」
「それは昔の話だよ……」

こなたは私の突っ込みにバツが悪るそうに肩を竦めた。
昔のこなたを思い出す。
思えばこいつはいつも携帯電話を忘れきて、それでいて待ち合わせの時間に遅れていた。
そしてそれを当たり前だと思っていたのだから、当時の私は非常に悩ましく思っていたのを覚えている。
今は流石に携帯電話も持ち歩いているし、それに……大抵の場合一緒に出かけるから問題なのだけど。

「と言うわけで、ロマンチストのかがみには生きにくい世の中になってしまった訳だよ」
「誰がロマンチストだ! でもまあ、話の内容は納得。確かにこんな時代にドラマみたいな擦れ違いなんて起きないわよね」

便利になったというか、夢がなくなったというか……
電話が普及して手紙を書くことが少なくなったように、メールが普及して年賀状を書かなくなったように、
便利さというのは夢や風情と反比例するのかもしれない。

「かがみはさ、してみたい? そういうドラマチックな擦れ違い?」
「あー、絶対いいわ。ここに至るまで、散々すれ違ってきたから。もうたくさん、おなかいっぱいって感じ」
「そうか……そうだね。私ももうしたくないや」

思えば擦れ違いの連続だった。
互いの感情と擦れ違い、生き方で擦れ違い、そして家族、友人ともすれ違った。
おそらくは普通の人が体験するよりもずっと多く……

「でも……今じゃそれも悪い事じゃないように思うから不思議よね」

すれ違って、すれ違って、すれ違って、それでもそれが重なるたびに何か大切なものを得たような気がする。
そう思えるほどには歳を取ったのだと思う。

「思い出にすらツンデレとは、流石かがみん! 私の嫁!!」
「ツンデレ言うな!」

お約束ともなったこなたとのこのやり取り。一体どれだけしてきた事だろう。
だけど、最近私は思うようになっていた。

「ねえ、こなた?」

もうこのやり取りも終わりにしようと……

「いい加減、その『私の嫁』っていうの止めてもらうわ……」
「え~、なんで?! 私の嫁は私の嫁じゃん!かがみは私のお嫁さんだよ!」

嫁、嫁、嫁、ねえ……

「いいえ違うわ……こなた!」
「ほえ?」

私は少しでも優位に話を進める為に、バッと立ち上がった。
話を優位に持ち込むには目線を高くするのが基本なのだ。
そしてビシッと座り込んでいるこなたに向かってはっきりと宣言した。

「あ・ん・た・が、わ・た・し・のお嫁さんなの!!」
「いきなりトンデモ発言きたー!! 」

流石に私がそんな突拍子もないことを言うとは思ってもいなかったのだろう。
私の言葉にこなたはただただ目を丸くしていた。

「大丈夫? かがみ。いきなりそんなこと言い出し始めて、頭とか打ってない?」
「私は至って正常よ」

確かに私がそんなことを言ったら、変だと思うかもしれない。
だけど、私は真剣そのものだった。

「いい加減ハッキリしておきたいのよ、この問題は。嫁、嫁言われてたら、何時の間にか既成事実になっちゃいそうだしね」
「かがみ?」

こなたはまだ私の気持ちを分かってはくれない。だから私はもう一度、ハッキリと言い放った。

「もう一度言うわ。私がこなたのお嫁さんじゃなくて、こなたが私のお嫁さん。分かった?」
「全然分からない!いいじゃん、別にかがみが私の嫁だって!! 別に言いたいだけなんだからさ!」

大切なところがすれ違ってると思った。考えてみたらどうしてそんなことを言ったのか、私はこなたに話していない。
まったく、私はいつも大切なところを言わないのだから困まったものだ。
自分の段取りの悪さに思わず苦笑してしまう。こなたが絡んでいなければ、こんなことは絶対にありえないのになぁ……

「駄目よ……」
「だから何でさ?」
「だってそうしたら嘘になっちゃうじゃない。この紙……」

私は近くの引き出しに大切にしまって置いた紙――婚姻届を取り出して、こなたの前にそっと置いた。
我ながらなんと恥ずかしい事をしているなとは思うのだけど、もう見せてしまったから後には引けない

「言っとくけど、本物だからね。後は右側をこなたが書いてお終い。っていっても、実際に出すわけじゃないんだけど」
「かがみ……」

こなたは目を丸くして私の顔をじっと見つめていた。
きっと驚いているのだろう、さっきとは違う意味で……

「私言ったわよね。もうすれ違うのは嫌だって。だからこういうのがあれば……」

擦れ違いそうになるとき、互いを結び付けてくれるのではないか?
そう言おうとしたのだけど、何故か声が出なかった。
きっと緊張で喉が渇いているからだろう。

「ねえ? こなた。私頑張ってるわよ。こなたが苦労しないように、こなたの隣にいる為に、私頑張ってる。だから……」

私はこなたの手を両手で包み込んで、こなたの目を真っ直ぐ見て言った。

「右側……埋めてくれるとすごく嬉しい」

こなたは顔を赤らめると、私の視線に耐えられなくなったのか俯いて黙ってしまった。
それからどれくらいたっただろう?
こなたはゆっくりと顔を上げて私を見つめた。その顔の赤さは今の私にだって負けてないだろう。

「かがみは卑怯だよね。私のどうでもいい一言に、こうやって大事なことのっけてきてさ……」
「かもね」
「……プロポーズ?」
「かもね」

私の言葉を聞くと、こなたは大きくため息を吐いた。
そして近くにあったペンを握り締めると、その紙にせっせと自分の名前を書き始めた。

「……はい、書いたよ」
「うん……」

私はこなたの名前が書かれたそれを見つめると、大事に元にあった場所にしまった。
この紙が私達を結び付けてくれると信じて。
しかしこの行為といい、さっきのこなたのため息といい、こういうことって普通こなたがするものよね。
でもまあ、たまにはこんな風にしてみるのも悪くないかと思う。

「どうだった?こなた。久しぶりの擦れ違いは?」

私はこなたの隣に座りなおすと、からかい気味にそう聞いてみた。

「擦れ違い?今のが?」
「さっきの言い争いだって立派な擦れ違いよ。嘘だと思うなら、お得意のそれで調べてみたら?」

私が目の前にあるノートパソコンを指差すと、こなたはそれに従ってインターネットに接続し始めた。
そして「擦れ違い」の言葉を辞書検索し始める。検索結果が表示されるのにものの1秒もかからなかった。


すれ‐ちがい〔‐ちがひ〕【擦れ違い】

1 触れ合うほど近くを反対方向に通りすぎること。「―に呼びとめられる」

2 時間や位置などがずれて、会えるはずが会えないこと。「共働きで―の夫婦」

3 議論などで、論点がかみあわないこと。「会談は―に終始した」

「ね?」
「うーん……なんだかよく分からないけど、かがみが言うんだからそうなんだろうね」
「そうよ。そういうことにしておきなさい」

私がそう言うとこなたは首をかしげながらも、うんと頷いた。

「で、感想は?」
「まあ、こういう擦れ違いだったら悪くないかな。でも……」
「でも?」

こなたはそう言うなり私にギュッと抱きついてきた。
こなたの体から感じる温もりが、心地よくて気持ちいい。

「私はやっぱり、こっちの方がいいや……」
「……同感」

こなたの温もりをより感じたくて、私はこなたを抱き寄せる。
それにあわせるように、こなたの抱きつく力も強くなったような気がした。

私達はこれまで、何度も何度もすれ違ってきた。
そしてその度に大切な何かを得てきたような気がする。

だけど、私は……私とこなたは思うのだ。

やっぱり私達は、こうして重なっていた方がいい。


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コメント:
  • 婚姻届!? -- かがみんラブ (2012-09-15 19:15:02)
  • こなたが嫁だろ -- 名無しさん (2010-04-07 22:27:25)
  • こなたが嫁派です!
    GJ -- 白夜 (2009-10-17 00:30:03)
  • どっちが嫁でもいける私は幸福GJ -- 名無しさん (2009-06-05 04:54:30)
  • 私はこなたが嫁派だ。このかがみさんカッコいいし。
    というわけでGJ! -- 名無しさん (2009-06-01 15:29:31)
  • かがみが嫁だろ… -- 名無しさん (2009-06-01 14:21:29)
  • さらっとやってしまうのが
    かがみっぽいですね。 -- 無垢無垢 (2009-05-27 21:28:12)
  • 何気ない瞬間のプロポーズは卑怯ですよ?かがみさん。
    でも「こうかはばつぐんだ!」でしたね。
    -- こなかがは正義ッ! (2009-05-27 14:11:32)
  • 俺も思う
    GJ! -- 名無しさん (2009-05-27 08:16:22)


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