何気ない日々:想い通う時“親と子”

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何気ない日々:想い通う時“親と子”

「あー、もう、本当にかがみと一緒にいるだけだって!切るからね、お父さん」
そう言って、携帯を電源ごと切った。まぁ、確かにそろそろ帰らないと交通手段の問題があるのはわかってるんだ。
 私達はまだ、学校近くの公園のベンチに座っていた。まぁ、正しくはかがみがベンチに座ってて、私はそのかがみにじゃれ付いてるだけなんだけどね。何度もお父さんから電話が掛かってくる。その度に、“もう少しかがみと喋っていたいんだってば”って説明するのが面倒くさくなってきてだから、携帯の電源を切った。
「あんた、電源切るのはどうかと思うわよ?」
「だってお父さん、しつこいんだよ。本当は彼氏といるんだろう、もしそうだったらお父さん泣いちゃうからなってさ」
「いや、まぁ、一概には否定できんな、そこは……彼氏というか彼女とは一緒にいるわけだから……ねぇ?」
かがみが真っ赤な顔で俯いて呟く。あの後、私達は夜の教室で指切りをしたんだ、付き合うという言葉とともに。
 ある意味、私達は女同士でよかったと思う。だって……こうやって腕にしがみ付いたって誰も見ない、気にしない。男同士だったら、もしかしたら……軽蔑した目で見られるかもしれない。
 最も、こうやって腕にしがみ付いていられるのも高校か大学卒業くらいまでだろう。その先は女同士も男同士も関係ない茨の道。私はかがみと今はずっと一緒にいたいと思うし、かがみもそうだと言ってくれる。
 でも、人の心は移ろうものだから……三年先、五年先、十年先もずっと一緒にいたいと思っているかなんて誰にもわからない、私やかがみにも……ネ。
「あんた、また先の事……考えてるわね?」
「おや、真っ赤なかがみんや、もう俯いてなくていいの?」
「うるさい!もういいわよ……どうせこれからしばらくは真っ赤になるんだろうから、もう今更俯いて隠しても仕方ないって思ったのよ」
私の額を小突きながら微笑むかがみ。んー、ツンのかがみも良いが……開き直ったデレ状態のかがみはもっと良い……これは、私だけが見れる特権だよネ?
「そもそも、話でもするのかと思えばあんた……ベンチに座ってる私に抱きついてるだけじゃない」
「なんか、しばらくかがみ分不足が続いててネ。その、補給がさ……必要だったり」
「かがみ分って何よ……私は、乳酸菌か何かなのか?全く」
本当は、こうやって幸せな気持ちでいられるのが今日だけなんじゃないかって、お互い家に帰って、明日になったら全てなかった事になるんじゃないかって思ってネ。不安なだけなんだ、押し潰されてしまいそうな胸の痛む不安があるだけ。幸せな気分なのに、この不安はなんだろう。かがみの傍にいられて、しかも想いが通じあってるのに……。
「……!?こなた、ど、どうしたのよ」
「へっ?ど、どうもしてないよ」
頬を熱い雫が流れる。そこでやっと気が付いた……私、また泣いてる。こんなの私らしくないのに、止まんなくて……嬉し涙なのか、不安が零れ出てきているのかわからなくて。
「これって夢じゃないよね?帰って、ネトゲして寝て起きたら夢だったなんて事……ないよネ?」
「夢じゃないわよ……安心していいから、そろそろ帰ろうか、こなた」
「うー、もうちょっとだけ」
「明日も会えるわよ」
わかってるけど、わかってるんだけどサ、不安なんだよ。だって普通に考えたらありえないシチュだしサ?何て事を思っていると、ギューっと抱きしめられた。
 私もギューっとしがみつく。首に腕が回されて何か、カチッと止め具をはめる音が聞こえた。
「これ、もう要らないかもしれないけど……一応もらっておいて欲しいわね。センス悪いかもしれないけど、一生懸命選んだのよ?」
それは、私が床に投げ付けたチョーカーだった。でも、やっぱり私には少し大きくてチョーカーにしてはやや余裕があって、付け心地だって見た目だって悪くない。
「その、えと、ごめん……要らない事なんてないヨ。本当は凄く嬉しかったんだ。だから投げたの、すっごく後悔してる。かがみ、許してくれる?」
「いいのよ。喜んでくれたなら、私も嬉しいわ。本当に帰れなくなっちゃうから、今日は帰ろう?」
私が立ち上がると、かがみも同じように立ち上がって涙を拭いてくれた。そして、不意にかがみの顔が近づいたかと思うと耳元で、
「大好きよ、こなた。夢じゃないから、そんな顔しないで」
私の顔は一気に真っ赤になった。これはかがみの役のはずなのに。うぅ、かがみ侮りがたし……なんか悔しかったケド。でも、それ以上に今の言葉に安心して、嬉しさが胸いっぱいに広がった。


 家に着いたのは九時を過ぎていた。つかさは、不安な表情でぬいぐるみをギューっと抱きしめて、私の帰りを待っていた。
 私の部屋に置いてあったイルカのぬいぐるみが、完全に変形していた。結果を伝えると、開放されたイルカ。なんていうかイルカモドキ……かな、これ元に戻るのかしら。中の綿が完全に偏ってるけど。
「じゃぁ、こなちゃんとお姉ちゃんは恋人さんなんだね~、おめでとう!」
さっきまでの不安な表情は何処へやら、にこにことした笑顔で、つかさが言う。本当に祝福してくれてるのが嬉しいなって思う。
「な、なんか、そう言われると恥ずかしいわね。でも、つかさ、まつり姉さんとかいのり姉さん、お父さんにはまだ内緒よ?」
「どうして?」
やっぱりこの子は上手く理解してないのではないかと不安になる。みゆきみたいに上手い説明の仕方が思いつかない、どうしたらいいんだろう。だけど、それでも理解してもらわないといけないわけだから、難しいわね……
「上手く言えないけど、つかさみたいにおめでとうって言ってはくれないと思うから、もう少し時間が欲しいのよ」
結局、説明にもなっていない。ただの口止めに過ぎない言葉に、つかさは何故か一瞬表情を硬くして、それから普段の表情に戻って、
「う~ん、よくわからないけど、まだ言っちゃダメなのはわかった~」
そう結論を出した。本当にわかってくれているといいんだけど。
「絶対よ?こなたに内緒にして欲しい事を話した時みたいに“めんご”ではすまないと思うから、お願いね……つかさ」
しっかりと目を見て釘を刺しておく。今までもそうしてきたんだけど、つかさは口が軽いわけじゃないけど、質問されるとうっかり答えてしまう事が多いので少々配だ。
 でも、それは決して短所じゃないから、つかさを責める事は出来ないし、きっとそんな事を考えてる余裕がない状況になるような気がする、思い浮かべたくは無いけれど……ね。
「う、うん」
わかった!と言わんばかりにしっかりと頷くつかさに少々不安を覚えつつ、私はお風呂に向かった。色々あったし、気持ちの整理のために考え事もしたかったから。
 でも、脱衣所には母が待っていた。理由なんかわかってるでも、少し怖かった……
「かがみ、お風呂上がったら……話があるから部屋に戻る前に居間に寄っていってね」
「うん」
とりあえず頷くだけにした。きっと、帰りが遅かった事で色々と母も思う事、話す事があるのだと思う。本当は母と今日、話をしたくは無かった。もう少し考えと気持ちを整理したかったから。

 風呂は命の洗濯なんて、こなたが言ってたっけ。何かのアニメのネタだとも言ってたっけ。あの、海に行った時にやっていた“てもて~”は、結局最後までわからずじまいだったっけわね。
 こなた……か。どうして、こんなに好きになったんだろう……なんて理由を考えても意味はない。好きになったから好きになったんだから、それに理由をつけても全て後から付け加えたものに過ぎないのだから。
 今、私はこなたが好きだという現実があり、それを考えると胸が熱くなるのだ。そして、私とこなたは親友から恋人へと関係が変わった。昨日よりも一昨日よりもそれより前なんかよりも、ずっと傍に居たい程、好きでたまらなくなっていた。親友という言葉が恋人に変わるだけで私の気持ちは劇的に変化していた―それは、良い事なのか、悪い事なのかわからないけどね。
 思いっきり息を吸い込んで浴槽の中に沈む。お湯の中で目を閉じたまま頭を空にした。それから、顔半分だけお湯から出して目を開けてぶくぶくと、子どもの様に息を吐き出して、生まれては消えていく泡を眺めていた。
 私は、これ以上何を望んでいるのだろう?少し頭がクラクラしてきたので、口もお湯から出して深呼吸する。それでもクラクラするのは変わらない。どうやら長湯しすぎたらしい、これは湯あたりかも。
 お風呂から出てバスタオルで軽く体を拭いて髪を軽く拭いてと何時も通りの行動を繰り返す。鏡に映った私は、やっぱり長湯しすぎたらしく体が赤くなっていた。顔は……恐らく違う理由だと思う、体のどの部分よりも真っ赤になっていたから。


「たっだいま~」
元気良く叫ぶが返事がない。居間に行くとお父さんが電話の子機を握り締めてシトシトと泣いていた。うん、まぁ、これだけでもちょっと引くよネ?
 しかし、それだけじゃないんだよ。“こなたが、こなたがお父さんを蔑ろにして、ついこの前まであんなにお父さん好みのいい子だったのに、かなたぁ、俺はどうしたらいいんだぁ~”って何度も呟いてるんだよ。全く、たまにどっちが子供なのかわからなくなるヨ。
「おとーさん、た・だ・い・ま!」
近くで大声で言うとやっと気がついてくれた。でもさ?
「こなた、通話を切るのはわかるが、電源を落とすのは反則だぞ?」
まず、一言目がこれだヨ。大体最初は五分間隔、次は二分間隔って間隔縮めて一時間に一体何回電話かけてきたと思ってるんだよ。そりゃ電源も切りたくなるってもんだよね?お父さん。
「お父さんが娘を信用しすぎないからいけないんだヨ。彼氏とは一緒じゃない、かがみと一緒だってあれだけいったのに……そりゃ“彼女”とは一緒だったけどさ」
さりげなく口にする。どんな顔をするだろうか、味方になってくれるとは言ってたけど、いざとなったらわからない。でも、好きなんだ……好きで、好きで胸が痛くなるくらい好きなんだ。
「そうか、ならそういえばいいじゃないか。お父さんは本当にこなたに悪い虫がついたかと思ってだなぁ、もう少しでゆいに電話をする所だったんだぞ~?」
お父さん、私……電話がかかってきた回数とほぼ同じだけ、それを言ったはずなんだけど、どうして気がついてくれなかったかな。
「だから、かがみと一緒にいるって言ったじゃん?とりあえず、コーヒー入れるよ。お父さんも飲むよね」
「あぁ、頼むよ」
何時ものメーカーのコーヒーを何時ものカップに注ぐ。お父さんのカップは、お母さんと同じ髪の色で、私のカップはうさぎのワンポイントマークがついたカップ。思えば、このカップは去年の暮れに買ったものだったかな、その時には自覚はなくてもかがみの事、好きだったのかなぁ。
「ふぅ、温まるね。流石に六月って言ってもまだちょっと寒いのに薄着だもんね、たまんないよ」
コーヒーを一口飲んで呟く。そしてコーヒーカップに当たってカチンと金属を響かせるチョーカーの音に愛おしさ感じるんだ。同時に寂しさも感じるけど、学校行けば会えるし、かがみにしがみ付くなんてのは何時もの事だから。
 まぁ、実はそんな噂が立った事もあったんだよね。私達がそういう関係なんじゃないかって言う噂。でも、だからといって私がかがみにじゃれ付くのをやめなかったから、自然と消えていったけどね。人の噂も七十五日だっけ?結局、飽きたらそんな噂終わっちゃうもんなんだよね。
 でも、これからは違うかもしれない。私とかがみは、その根も葉もない噂通りの関係になってしまったのだから。次は根も葉もある……噂じゃなくて現実。
「かがみちゃんとは上手くいきそうなのか?」
お父さんもコーヒーを軽く飲んでから聞いてきた。
「……わかんないよ。だって今日、そうなったんだからさ」
私らしくない答えだと思ったけど、間違いでもないと思う。そう呟くように答えた時、頬が熱くなるのを感じた。きっと赤く染まっているんだろうなぁ……そんな顔をお父さんに見られているのは、どうしようもなく恥ずかしかった。
「お風呂沸いてるよね?」
「あぁ。しかしだな、こなた。もう少しお父さんとしては話を聞きたいんだが」
お父さんが色々な心配とそれ以外の意味で私に質問したいのはわかっている……けど、今はまだ頭の中が、かがみのことで一杯だから少し考えを落ち着かせたかった。だから残っていたコーヒーを一気に飲み干してから、
「お風呂入ってくるから、後で!」
そういう風に早口で捲くし立てて、逃げるように私は部屋に戻って着替えを持って、脱衣所に向かった。そんな私の後姿にお父さんは、あえて声をかけてはこなかった。つまり、時間をくれるという事だ。
 脱衣所で服をぱっと脱ぎ去って、軽く流してから湯船に飛び込んだ。お湯は澄んでいて、まだ誰も入っていないような感じだった。たぶん、お父さんが入れなおしてくれたんだと思う。
「はぁ……」
ため息をついて、大きく息を吸い込んで目を瞑ると湯船に潜る。頭の中に浮かぶのはかがみの事ばかり。怒ったかがみ、寂しそうなかがみ、嬉しそうなかがみ、照れくさそうなかがみ、真っ赤なかがみ。
 色んな表情のかがみが頭の中を駆け巡る。そして心臓が湯船中に響くように脈打った。鼓動の音を聞いていると何だか、また凄く恥ずかしくなって顔を半分だけ出して、子供がするようにぶくぶくと息を吐いた。生まれては消えていく泡を見ていたが、息が苦しくなってきたので、顔を全部出して深呼吸。
「なにやってるんだろ、私」
こんなの私らしくないじゃんね?お湯の中から顔を出しても心臓が耳元でなっているようで頬が熱いのは変わらない。
 お風呂をでて、すぐにでもかがみに会いたくなった。
 もちろん現実的には無理だけど、本当にかがみに会いたくなってしまった。明日になれば会えるんだけど、それでも今すぐ会いたいなんて思う。
 でもさ、そういうのはかがみが思う事だと思うんだ、私らしくないんだ。たぶん、かがみは今すぐ会いたいだなんて思ってないだろう、だけど……そっちの役回りはかがみのはずなんだけどな、どこで間違えたんだろう?
「はぁー……」
もう一度ため息を吐く。かがみと私とどっちがお互いを強く好きなんだろう。そんな無駄な事まで考えるなんて本当に私らしくない。
 お湯に浸かっていた時、冷えていた体がジクジクして温まっていく感触が現実感を与えてくれる。つまり、今日は現実なんだ、かがみと恋人になれたのは現実なんだ。
 “夢じゃなくて、これは現実なんだ”
 その言葉を何度も何度も頭の中で繰り返した。繰り返せば繰り返すほど、現実感が薄くなっていく気がして不安になったから、やめた。
 温まると、頭と体を何時もより丁寧に洗ってからあがった。ちょっとクラクラする、何時もより熱めのお湯だったからだろうか。
 体を拭いて、パジャマとその上に半纏を着てから、洗顔も済まそうと鏡を見ると、お風呂で温まったから赤くなったのとは違う感じに真っ赤になった顔をした自分が写っていて思わず顔を逸らした。
 お父さんと話をするのはまぁ……いいとしても、この赤くなった顔どうしよう。そんな事を思いながら、私は歯ブラシを手に取った。


 居間に寄って欲しいと母は言ったのだ、長湯をしたとはいえ待っているだろう。むしろ、父や姉、つかさが部屋に戻る時間だから都合がよいのかもしれない。
 相変わらず、私の頬は赤く染まったままだ。表情や顔は言葉よりも人の心を雄弁に語るというわけだ。その所為だろうか、私の頭の中はこなたの事ばかり……でも、これからの不安がないわけじゃない。まず、母との話し合いが不安で堪らなかった。
 居間に行くと、座って待っていたのだろう母は立ち上がってコップに牛乳を注いで持ってきてくれた。長湯で熱くなった体には少しひんやりとした物はありがたかった。
「その様子だと、こなたちゃんとは上手く行ったの?」
母の言葉は優しかった。もう、家の皆が知っているのだろうか?それはそれで恥ずかしいがどういう反応をされるのか怖くもあった。
「うん、今日から付き合うことになったわ」
母は、節目がちに一言、“そう”と言っただけ。やはり受け入れるには時間がかかるんだろう、私とこなたが自分たちの想いを受け入れる事に大立ち回りをした変わりに。
「ごめんなさい……」
沈黙に耐えられず、牛乳を一口飲んだ。その後に自然とこの言葉がでた。私が何か悪い事をしたわけじゃない、でもそれはあくまでも“私”にとってだから。家族にとっては大変な事、茨の道を歩くという事はそういう事なんだって気がついたのはお湯に浸かっている最中だった。遅すぎたのかもしれない、それでも気がつけただけマシなのだろう。
「ごめんなさい……」
母は私を見て、困った様な、どうしたらいいのかわからない様な表情を浮かべていた。
 何時の間にか正座をしていて、ひざの上に置いた手の上に熱い何かが零れる。最初の一滴を初めにどんどん顎を伝い、そしてそれは雨のように手の甲に零れ落ち続ける。
「ごめんなさい……」
私の口は、勝手に謝罪を続ける。何を謝っているのだろうか?人とは違う恋を実らせてしまった事なのか、家族まで茨の道を歩く事を強要してしまった事なのかわからなかった。
 今更だ……だけど、私はこなたが好きで、その気持ちが通じ合ってしまった今はもう後戻りはできないから。だから、謝ることしかできない、それを理解したから私の口は自分の意思を超えて謝罪を続けてしまうんだ。
「ごめ……」
頬に熱い涙が伝っていた頃から目を閉じていたから、急に温かくて少し強めな抱擁に驚いて言葉が止まった。
 額に私のそれとは違う雫が零れ落ちてくる。ゆっくりと目を開ると、母の胸に顔を埋めるような感じに抱きしめられていた。そして、母の顔を見上げると、額や頬に雫が落ちてくる……母も泣いていた。
「謝らないで、かがみ。かがみは悪くないのよ……」
“私”には悪くない事だけど、母や父や姉につかさには、良い事じゃないはずだ。ここにいないみゆきにだって迷惑をかけるんだ。
 そう思うと涙が倍になって溢れてきた。私は、小さな声で、ごめんなさいを繰り返しながら母の胸に顔を埋めて泣いた。
「お母さん、もう大丈夫だから」
こなたを好きになって、ううん、こなたを好きと自覚する前も合わせて、私は何度涙を流したのだろう。強くならなくちゃいけないのに、私は泣き虫みたいだから、泣いてしまう。
「かがみ、つかさは知っているのね?」
「うん。私やこなたの味方になってくれるって言ってくれた。でもあの子、本当にそれがどういう事なのかわかっているのか、ちょっと不安なんだ」
意味を理解した時、それでもつかさが味方でいてくれるのか怖かった。
「私とお父さんはまだ、同じ結論には辿り着けていないの。それから、まだまつりやいのりは知らないわ」
姉さんたちは知らない、父は反対なんだ。すでにここに茨はある、そんな事はわかっていたはずだ。それでも、足を茨で血に染めても……歩いて行く覚悟を私は決めたんだ。
「それから、よかったわね……こなたちゃんへの想いが実って」
私は、母の腕の中で唖然としてしまった。そういう言葉をかけてもらえるなんて思ってもみなかったから。
「ありがとう、お母さん」
私は、母から離れて、微笑んだ。無理をしたわけじゃない、認めてもらえた事が嬉しかったから。
「大変なのは、これからなのよ……かがみ」
その言葉に、私は残った牛乳を一気に飲み干してから短くでも力強く、
「うん」
と答えて立ち上がり部屋に戻るために居間を出る、母は引き止めなかった。


 何度か冷たい水で顔を洗ったけど、頬が赤いのは戻らなかった。もう、頬が赤くなってしまったのを戻すのは諦めて、居間に戻るとお父さんが手持ち無沙汰な様子だった。らしいといえばらしいけど、もう少し空気読もうよ、お父さん。
「お風呂上がったよ、お父さん」
そう言ってから私はお父さんの正面に座った。特にお父さんは何も行ってこなかったが、部屋に戻れる空気でもなかった。
「色々聞きたかったんじゃないの?」
そう声をかけると、腕を組んで顎をさすって何かを考えている様子だった。何かを考える時、お父さんは決まってそうするからわかりやすいんだよね。
 時計に目を向けると十時半を過ぎていた。私にしては珍しく一時間以上お風呂に入っていたらしい。そりゃ、手持ち無沙汰というか、待ちくたびれるわけだ。それでも考えは纏まっていない。ゲームみたいに場面が変わったらさくっと考えが纏まっているなんて虫のいい話は現実にはないんだ。
「うーん、こなたの印象でいいんだが、かがみちゃんとは上手くいきそうなのか?」
私の印象かぁ、上手くいけると思うんだけど、それがずっと上手くいくかどうかはわからない。
「今の所は上手くいけそうだよ」
お父さんは唸るのをやめた。
「一応先のことも考えてるんだな、人の気持ちがずっと変わらないってのはないっていう事について」
心配しているのはそこなんだね。普通、娘が同性と実際に恋仲になった事を心配するもんだと思うけど。
「うん、それはわかってるよ。というより、それをわかっていたのはかがみだったけどさ。かがみは、先の事はわからないけど、今は私が好きだから。その気持ちを抑えられないんだって。この先もお互いずっと好きでいられるかどうかなんてわからないって教えてくれたよ」
人の気持ちは移ろうから、ずっと好きでいられるかなんてわからない、私もかがみも。もちろん、この恋が後に気持ちが移ろい、私やかがみが別の人を好きになった時に障害になる可能性だって少しは理解している。
「そうか、今は……か。そうだな、人の気持ちは移ろうからな。もしそうなった場合、後が辛い事も多いと思うが、わかった。しかしなぁ、いざ、こういう現実が来ると、お父さんもまだ味方になりきれると断言は難しいな。でも、敵にはならないから少しだけ時間をくれ、こなた……すまないな、頼りない父親で」
肩を落として、節目がちにお父さんが言う。こういう現状を目の当たりにして、すぐに答えを出すのは無理だっていうことはわかってるよ。
「きっと、お母さんなら……反対したよね」
ふとそんな言葉を口にしてしまう。その言葉にお父さんが反応して口を開いた。
「どうかな、かなたなら娘が幸せになる事を望んでも反対はしないと思うよ。俺なんかよりずっと決断力があるから、スパーンっと答えを出してると思うな」
お父さんは遠い目で仏間の方向を見ていた。お母さん、貴女は、私とかがみの事どう思ったかな?もう聞くことはできないけれど、それが出来るなら聞いてみたいと思った。
「お父さん、私そろそろ、部屋に戻るね」
「あぁ、すまないな。すぐにこなたの味方になってやるって前に言ったみたいに決断できなくて」
「私こそごめん。普通の恋ができなくて……ごめんなさい。じゃ、私、部屋に戻るね」
そう言って私は自分の部屋に戻った。その背中にお父さんは声をかけては来なかった。だから私も足を止めなかった。
 部屋に戻ると迷惑も考えずにかがみの携帯に電話をかけた。あの土曜日の雨で壊れたけど、丁度換え時だったから、日曜日に換えたらしい。
 まぁ、携帯が換わったといっても同じ機種で同じデザインの物をかがみのおばさんが換えに行ってくれたらしいんだけどね。だから、もうかける事ができる。

 とにかく、かがみの声が聞きたかった。まだ不安だったから……
 ―これが夢じゃないんだって、確信が欲しかったんだ



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コメント:
  • 号泣したー!GJ -- 名無しさん (2009-08-25 20:19:18)
  • このシリーズの今後は目が離せないです。続きがんばって下さい、待ってます。GJ -- kk (2009-04-30 11:47:20)


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