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何気ない日々:想い流るる日“固い決意、揺らぐ決意”

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匿名ユーザー

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何気ない日々:想い流るる日“固い決意、揺らぐ決意”

 昨日はあんなに降っていたなんて嘘のように晴れていた。私は、ポケットにもらったチョーカーを入れる。出来るだろうか、私-泉 こなたに・・・決別の証とはいえ、これを・・・。
 ううん、今は考えるのは止めよう。珍しく早起きしたわけだし、朝ご飯を作ろう。でも今日は、待ち合わせの時間に遅れないように。
「お父さーん、朝ご飯できたよ」
さっき、起きてる所は確認したから叫んで呼ぶと、お父さんはすぐにやって来て二人の朝食。ゆーちゃんは、みなみちゃんの家から登校するらしい・・・もしや、あの二人、なんて邪推な事を考えてしまう。でも、だからといって私もと、考えを変えるわけにはいかない。もしそうだとしても、みなみちゃんは強いから大丈夫だろう。私には・・・かがみを守っていける自信は無い。私は、逃げ出してしまう程・・・弱いのだから。
「何だか朝から思いつめた顔してるな、こなた。大丈夫か?」
「大丈夫だよ、お父さん。別に思いつめてなんて無いから」
「う・・・ん・・・まぁ、その何だ、自分だけの答えが正しいとは限らないぞ」
「あはは、別に何にも無いよ、大丈夫だって」
私が笑い飛ばして言うと、お父さんは黙って唸った。気にせずに朝食を口に押し込んで流し込んむ。本当は食べる余裕もなければ、お父さんと喋る余裕も無い。
 だけど、あえて朝食を作ったのは、あえてお父さんを呼んだのは、何時も通りに出来る様にする為の前準備だ。まぁ、お父さんに思いつめた顔をしてる、だなんて言われたんじゃ何時も通りになれていない証拠なんだけどね。口に押し込んだ物をコーヒーで流し込んで元気に言ってみる事に決めた。
「ご馳走様でした」
これは決別の朝だから、今からフルスロットルで元気になっておかなくちゃ。朝はかがみやつかさに会っても何時も通りでいよう。全ては放課後、かがみと二人になってからだ。つかさやみゆきさんをまだ巻き込んで話をしたくない。つかさは十分に巻き込んでしまったけれど、それでも、決別の時はかがみと二人でいたい、小さな我侭だけど二人は許してくれないかも知れない。

 この朝の事は、全然、私らしくなくて、思い出すと凄く滑稽で笑えるんだけどね。
覚悟を決めたつもりで揺れ続けている自分の気持ちの出した別の結論にすら気がつけないんだから。


 目を覚まして、顔を洗って軽く頬を両手で叩いて、決意は固めた。こなたが何をしたとしても私―柊 かがみは、動じないでいようと誓う。想いを、気持ちを全部、あいつにぶつけよう。全ては放課後に、まずあいつを捕まえる事から始めなくちゃ行けないわね。つかさやみゆきには事情を話しておけば、二人になりたいと言っても大丈夫だろう。
 とりあえず、今日の所は・・・二人きりで想いを告げたいから。私の我侭だから、こなたを傷つけるかも知れない。
「ん~・・・こなちゃん、コンコン・・・ゆきちゃん、めぇめぇ、お姉ちゃんは・・・何だろう?何だろう、わかんないよ~ゆきちゃん~」
これが全部寝言だと言って信じてくれる人はいるだろうか?昨日は別々に寝る予定だったんだけど、夜にやっていた軽いホラー映画の冒頭を見て、怖くなって部屋に戻れなくなったらしく最後まで見てしまったつかさは、私の隣で眠った。寝付くまで怖がり続けるつかさをなだめ続けるのは結構骨が折れたわ、そんなに怖い映画じゃなかったのに・・・。
「つかさー起きろー」
まぁ、そんな一言で起きるわけは無いんだけどね。だから布団を引っぺがした、古典的だと思われそうだが結構効果的なのよね。
「うひゃぁ~寒いよ、お姉ちゃん」
今日は、待ち合わせの時間に遅れるわけには行かないが、つかさにも遅れてもらうわけにはいかないのだ。ちょっと厳しくいかないと・・・ごめんね、つかさ。
「うぅ~、まだ早すぎるよぅ」
「私もちょっと何時もより遅くまで寝ちゃってたから何時もの時間よ」
「わ、本当だ。でも、お姉ちゃんが目覚ましに気がつかないなんて珍しいねぇ」
珍しいのはつかさもだ。何時もはこれくらいじゃ起きないのに、一発で起きたし。
「今日は待ち合わせに遅れるわけにはいかないから、それはつかさにもね」
「うん、わかったけど~、お姉ちゃん、聞きたい事が・・・」
「ん、何よ?」
「ウサギさんの鳴き声ってどんなのかなぁ」
「あーえと、ごめん。そういうのはみゆきに聞いておいて・・・というか、そろそろ私をウサギ扱いするのはやめい!」
そう言ってもつかさはまだ眠たそうな声で、わかったよぉ~とだけ言うと部屋に戻っていった・・・私も着替えないといけないわね。でも、確かに気になるわね・・・ウサギの鳴き声ってどんなのかしら。
 さっと着替えて、何時もの様に朝食を食べ、何時ものように今日は私が当番だったお弁当を鞄にいれて二人揃って待ち合わせ場所へ行く。夕方からは降水確率が高かったから、一応傘も鞄に入れておいた。折り畳み傘だけど、少し大きめなタイプ・・・想いが通じ合えば、必要になるかも知れない。
 待ち合わせの場所に行くと、青い髪をした少女が何処か遠くを見ていた。あいつの方が先に来ているなんて思っていなかった。どちらかといえば、避けると思っていた・・・でも、あいつは、こなたはそこにいる。けど、まだ今はだめだ。気持ちを伝えるのは放課後まで時間が過ぎてから。そうしないとまた、こなたは怯えてしまう、逃げてしまうかもしれない。だから、今は、普段通りでいよう。
「オーッス、こなた」
元気よく声をかけてやる。ビクリとこなたの肩が震えたのがほんの一瞬見えた。それには気がつかないフリをしよう。あいつを傷つけるかも知れないのは放課後だけで十分だから。
「おはよう、こなちゃん。今日は早いね~」
つかさは普段通りの挨拶。やっとこなたがこっちを向いた・・・その目は何処か揺れていた。動いていたという意味じゃない、何て言えばいいんだろう?気持ちが揺れているそんな感じで目の光が揺れている様に見えた。
「や、やふー、つかさ他一名!」
「略すな!」
「おぉー朝からツンが爆発してますなー、かがみんや」
「あはは、お姉ちゃんもこなちゃんも朝から元気だね~。私はまだ眠いよぅ」
ふぁぁ~っと大きな欠伸するつかさ。そんなつかさが場の空気を普段のものに変えてくれる。つかさ、あんたは頼りなくなんて無いのよ。その自然体でただいてくれるだけで周りを和ませてくれる雰囲気をもってる事が十分頼りになるんだからね・・・。


 バス停に着いてもまだつかさもかがみもいなかった。私はもう一度、ポケットに入っているチョーカーに触れる。これをかがみの前でどうしよう、投げつけるのか、踏みにじるのか。気味悪がりながら、触れるなと嘘を吐きながら・・・そんな事が本当に出来るのカナ?
 わからない、どれが正しい答えなのか全くわからない。選択肢は沢山ある、一つはかがみに自分の気持ちを伝える事、他はかがみを傷つけてでも私を嫌いになってもらう事。
 ゲームだったら、選択肢を選ぶワンシーン前にセーブしておける。けど、これは現実だからセーブもロードも出来ない。たった一度だけしか選べないから、私は迷ってしまう。わからないから答えに辿り着けない。
 昨日の決意は、朝には揺らいでいた。本当はかがみに嫌われるなんて嫌だから、そんなの絶対に嫌だから、揺れて揺らいでどうしていいのかわからなくて。
 気がつくとポケットのチョーカーに触れている、そんな事の繰り返しだった。
「どうして、こんなに好きになっちゃったんだろ」
自分でもそこがイマイチわからないままなんだ、私がかがみを好きになった理由。最近、好きになってしまったのか、前から好きだったのか、それすらもわからなくて・・・つかさが灯してくれた心の暗闇の中に一筋の光を与えてくれていた蝋燭も消えかけて炎が揺らいでいた。つかさを信じてないわけじゃないけど、でも、世間は大きいから耐えかねてつかさにも迷惑をかけてしまうかも知れない。
「・・・お母さんがいたらどう言うだろうなぁ」
賛成してくれるだろうか、反対するだろうか。赤ん坊の頃に抱かれたおぼろげな、本当におぼろげな温もり。誰かに言ってもらいたかった、はっきりと。かがみを好きでいても良いんだって、それは悪い事じゃないんだって。
 だけど、皆は味方になってくれてもその一言を誰もくれなかったんだ。私もわかってるし、皆もわかってる。その答えを出せるのは、私自身とかがみだけなんだって。
「オーッス、こなた」
かがみの声に肩が震えた。怖いからじゃない、放課後に傷つけてしまうのがとても悲しくて震えてしまった。でも大丈夫、気がつかれてはいないみたいだった。
「おはよう、こなちゃん。今日は早いね~」
つかさの声を聞いてやっと振り向けた。かがみだけだったら無理だったかも知れない、何せかがみを傷つける算段を考えている最中にどんな顔で振り向けばいいのかわからなかったから。
「や、やふー、つかさ他一名」
言葉が上手く出なかった。でも大丈夫、大丈夫だから落ち着こう、こんなの私らしくないじゃないか!どうした泉こなた、もっと自分らしくいくべきなんだ。
「略すな!」
「おぉー朝からツンが爆発してますなー、かがみんや」
やっと、何だか私らしい言葉が出た気がする。表情も少し緩んできたカナ?でもそれは・・・かがみが何時ものように突っ込んでくれたのが嬉しかったからの様な気もする。
「あはは、お姉ちゃんもこなちゃんも朝から元気だね~。私はまだ眠いよぅ」
こうして、私達の何時終わるとも知れず“揺らいでいる何時も通り”の今日が始まった。


「なぁ、柊ぃ~」
「ん、何?」
ちょっと焦げた野菜炒めを口に運びながらへこんでいた所に日下部が急に声をかけてきたのでちょっとびっくりした。あんた今の今まで峰岸と喋ってなかったっけ・・・。
「いや、ほら、今日はちびっこの方に行ってないから何か不思議だなって思っただけなんだけどさ。私等としては嬉しいけど、なんか柊ぃらしくねぇからさ」
「一昨日に明後日はこっちで食べるからっていったじゃない。あんたが、柊が冷たすぎるって、子どもみたいに喚いたから」
「それは言い過ぎだってヴぁ」
言い過ぎも何も半べそかいて“柊ぃ~が構ってくれねぇんだ、酷いとおもわねぇか?あやの~”と教室で私の服の裾持って喚いたのはどこのどいつだ。あまりにその喚き方が子どもぽくて、日下部っぽくて、今日は一緒にお昼にするからって一昨日約束したんだったわね。
でも、もし同じ事をこなたが私にしたら違う反応をしていたのかもしれない・・・今はそう思う。そうね、鉄建制裁して痛がりつつも懲りずにからかってくるあいつの言う事を聞いてあげてしまっていたかも知れない。それは、好きになる前でも同じだったんだと思う。もしかすると、好きになった事に気がついてなかっただけなのかもしれないけれど。
「でも、あの時のみさちゃんは、本当に子どもみたいだったよね」
「ほらほら、峰岸だって言ってるじゃない」
あんたの保護者が行ってるのだから間違いないわよ、日下部。素直に認めろーと心の中で叫びつつ、野菜炒めを口に運ぶたびにしょっぱいだの、ちょっと焦げてるだのへこんでしまう私。どうも今日は上手くいかない。
 放課後への覚悟は決まっている。でも、緊張していないとは言えないかな?らしくないといえばそうかもしれないけど、私自身としてはそれは“らしい事”だった。
「う~、あやのまで酷いー」
ありゃ、卵焼きもちょっとしょっぱいな。砂糖と塩を間違えたかな・・・今日は甘い奴にしようと思ってたのに、私はどうしてこう、料理だめなんだろうなぁ。
「そういや、聞きたい事はそれじゃなかった」
卵焼きにへこんでいる時にまた質問が飛んできた。日下部は直接的に聞いてくる時とそうでないときと二通りある。すんなり聞ける事と上手く言葉に出来ない事を本能的に感じ取っているタイプに見えるんだけど、どうなんだろうなぁ。
「じゃ、何が聞きたかったのよ?」
「いや、ほら、何かさっき廊下でちびっことすれ違ったんだけどさ。声かけても反応がなくってさー。なんかこう、雰囲気が何時も違うなぁって思ったわけだよ」
日下部の奴、野生の勘っていうのかしら。妙な所で鋭いのよね。こなたは朝から確かに妙だったなぁ。なんていうか、揺れているとしか上手い言葉が見つからないけれど。
「ま、そういう日もあるんじゃない」
あえて素っ気無い言葉を返しておく事にする。が、それでは日下部は何か納得がいかない感じだった。
「そういう柊ぃ~だって、今日は何処か変だぞ」
「そうかもしれないわね」
なんとなく素直に答えてしまったが、その方が変じゃないと思ってもらえるかしらね?
「柊ちゃん、私達に何か隠し事があるんじゃないの?」
峰岸の事が胸に響いた。その通りで隠し事はあるからこそ、何時も通りにしているつもりなんだけど、何か違ったかしら、やっぱり素直に答えたからかな。
「・・・まぁ、話せるようになったら話すから、今は聞かないで。でも、なんで隠し事があるって思ったのよ、日下部、あんたもそう思ってたんでしょ?」
んー、としばらく日下部は唸ってから、大好きだと豪語するミートボールを口に運びながら一言だけ。
「勘」
日下部の答えは非常に簡潔だった。勘だけかよ、それだけで私の隠し事は筒抜けなのか?
「ふふっ、柊ちゃんは、隠し事が下手だからすぐにわかるよ」
そんなに下手かしら。いや、今はそんな事を気にしている場合ではない。むしろ今日に限ってはその隠し事が下手というのは、決して悪い事じゃない。
「そっか。まぁ、でもやっぱり、今は話せないから話せるようになったらで、わかってくれる?」
「おぅ、その代わり話せるようになったら絶対だかんなー」
「柊ちゃん、約束ね」
本当は二人にも話したかった。でも、まだ結論が出て無い事を喋るのはよくないとも思えた。こなたが受け入れてくれなければ叶わぬ思いだけれど、口にしてしまわないとだめな所まできてしまった想い。それはお互いのためだと信じて・・・それが私の出した答えと覚悟だから。
「約束するわ。話せるときになったら絶対話すから、たとえ日下部や峰岸にとってあまり楽しくない話題だとしても、それでも二人は聞きたいのよね?」
「私は、別に柊ぃ~の事ならどんな事でも知っておきたいだけだってヴぁ。だからそれがどんな話でもいちゃもんはつけないぜ」
「柊ちゃんの隠し事、上手くいくといいね。そしたらちゃんと私達にも話してね」
峰岸は何か感づいてるわね、やっぱり。でも私の口から二人は聞きたいといっているのだ。だから話せる時がきたら話そうと心に誓った。放課後までもう少し、私の覚悟はそれまで持つだろうか、考えるな。考え始めると不安で背筋が震えるから、覚悟が揺れるから、私はもう考えない。後は放課後に行動を起こすだけ・・・そうそれだけにしよう。
何だか今日は寂しい日だなぁ、不意にそんな事を思った。日下部達とお昼を食べるのが寂しかったわけじゃない。あいつが、今日は一切ノータッチなんだ。そうか、揺れつつもあいつもやっぱり、何かしらの覚悟を決めてるって事か。
今日はずいぶんゆっくり食べた所為か、お弁当を片付ける頃には丁度、お昼の終わりを告げるチャイムが鳴った。


 今日の昼休みは静かではなかった。みゆきさんにつかさがウサギの鳴き声を聞いたり、つかさがお姉ちゃん、また塩と砂糖を間違えてるよ~とか、主につかさが喋っていた。それに適当に私が相槌を打って、みゆきさんが聞かれた事に真面目に答えたり、つかさの不思議な問いかけに笑って受け流したりだった。何か物足りなくて、寂しくて、そして気がついた。かがみがいないんだ・・・どうしてかがみはいないんだっけ?
「どうして、今日はかがみいないんだっけ?」
ふと、疑問に思った。何だか、かがみがいないと調子が狂うなぁ。だから、私はまだ袋から出していないチョココロネを持ってつかさに聞いた。
「ん?こなちゃん、それさっきも聞かなかったっけ。今日は日下部さん達と約束してたから、お姉ちゃん自分のクラスで食べるんだって~。朝、お姉ちゃん、ちゃんとこなちゃんに説明してたけど、聞いてなかったんだね~」
確かそんな事をバスの中で聞いたような気がする。今日が最後かもしれない・・・いや最後にするはずだったから、かがみに来て欲しいなってそんな我侭な事を思う。
「いやー同じ事を何度も聞くなんて私も歳カナー」
そんな私の軽いボケ等どこ吹く風、みゆきさんは華麗にスルーして、違う事を言う。突っ込んでくれるかがみがいない生活なんて、想像できない。私はその世界で私らしくいられるのカナ?
「泉さん、大丈夫ですか?」
つかさとみゆきさんが心配そうな顔で私の方を見ている。なんか変なところあるかな?至って普通なつもりなんだけどねぇ。
「私は大丈夫だよーって、何で二人して心配そうな顔してるのサ」
「だって、こなちゃん。パンだしてから全然食べてないよ?」
ん?だって、まだ出したばかりだし・・・おぉぅ!?つかさやみゆきさんはもう食べ終わってるし、私はいつの間にか時間跳躍を身に着けてしまったのか。
「泉さん、早く食べてしまわないとお昼抜きになってしまいますよ?」
みゆきさんに言われて時計に目を向けると、そろそろ昼休みが終わりそうな時間だった。私は、急いで袋からチョココロネを出して食べようと思ったけど、何だか食欲がわかなくて、そのまま鞄に収める。ビン牛乳の蓋をあけて流し込むだけで、何かお腹一杯になっちゃったヨ。
「パンは食べないんですか?」
「こなちゃん、それでお昼大丈夫かな。もしかして、お腹痛いとかなのかな?」
二人の表情が心配の色に染まっていく。二人とも心配性だなぁ、ちょっと食欲が無いだけなのにサ。まぁ、食欲が無い事情はきっとみゆきさんも知っているんだろうけどサ・・・とても鋭いから、みゆきさんは。でも、あえて突っ込まないでいてくれるのは助かる。
「いや、そんなことはないんだけど、今から焦って食べるのも何だかねー。好きなものは放課後にでもゆっくり食べる事にするよ」
放課後に食欲なんてあるんだろうか?放課後の方が食欲なさそうな気がするけど、どうやってかがみに嫌われたらいいんだろう・・・私はかがみがいなくて寂しいと感じているのに、嫌われる方法なんて思いつかないヨ。ううん、でも本当はさ、思いつきたくないだけだよね、きっと。だから考えなくちゃ、かがみの人生に失敗の文字を増やす事は無いんだから、嫌われてでも失敗を増やさないようにしたいんだ。
 でも、私はかがみが・・・好きなのは本当。嘘はなくて、大好きで、嫌われるのなんてやっぱり嫌だ。そんな風に心に押し込めてるもう一人の素直な私が訴え、喚いて叫び散らす・・・そのもう一人の私の言葉に耳を貸してはだめなんだ。
 本当は、その言葉に耳を貸して、想いを伝えたいのに・・・私は素直じゃない悪戯好きのキツネだから、嘘だってつけるさ・・・例え、それでつかさやみゆきさんとの友情までも失ったって。
 大丈夫・・・なわけないんだけどさ。もうどうしていいのか、わからなくなっちゃった。
 昼休みが終える事を告げるチャイムが鳴っても、つかさとみゆきさんはそんな私の事を心配そうに見つめて、この前みたいに先生が来るまで頭を撫でてくれていた。とても心地よかった、でもこれが最後なんだ、全てを失う前の安らぎを神様がくれたのかな。私は別段、神様信じてないけどサ。
 まぁでも、どうしたらいいのかをずっと考えていたら、黒井先生に丁度その撫でてもらっていた部分に痛い鉄拳をもらう事になって、放課後に職員室まで来るように言われてしまったんだよね。人間、ぼけっとしてると天罰が下るもんだネ、はぁ・・・。


「じゃ、絶対話せよな、柊ぃ~」
「わかってるって、日下部―しつこいわねぇ」
休み時間毎に日下部の奴はこれだ。さすがにさっきの休み時間に指きりまでしたから、もう言ってこないと思ったけど、まだ私が信用なら無いらしい。
 それだけ、彼女たちとの交流を蔑ろにしてきたツケが回ってきたと考えると一概に日下部が悪いとは言い切れないしね。
「だって、柊って内緒事ってさ、私達には殆ど相談してくれねぇんだってヴぁ。なぁあやの~」
「はいはい、みさちゃんもそれくらいにしておかないと、今度は話してもらえなくなっちゃうよ?」
「みゅ~、それは困る~。じゃ、もっかい最後に!絶対の絶対だからな~」
日下部が私をビシッと指差して叫ぶ。クラスにまだ残っている生徒達の視線が私達に釘付けだ、そろそろ勘弁して欲しい。
「わかった、わかってるから。約束したじゃない、だから指差して言うな」
だから、私の答えもどんどん乱暴になっていく。そんなのは日下部だってわかっているはずだ。今日はただでさえ、心臓が飛び出しそうなくらい緊張しているのだから。平静を装うのだって簡単じゃないんだから。
「みゅ~、柊ぃがどんどん冷たくなっていくぞ、あやの~」
「今のは、柊ちゃんを信用してない、みさちゃんが悪いと思うよ」
「みゅ~、あやのまで、世間は冷たい荒波だぜ・・・」
世間の荒波か。もし上手くいったとしても二人まで私達の荒波に変わってしまったら寂しいな。それでも、ちゃんと話すけど・・・決着がつく前に荒事を増やしたくなかった。私が、この二人を信用しきっていないのかもしれない。日下部が信用していないのではなく、私が・・・。
「柊ちゃん、気にしないでね、みさちゃんが我侭なだけだから。雨が酷くなる前に帰ろう、みさちゃん」
「あやの~、く、苦しいってヴぁ」
日下部は峰岸に襟首をつかまれて引きずられる様に教室の外へと出て行った。峰岸って見た目の割りに力あるわね・・・。さて、私も行かないと・・・鞄はどうしようか、おいていっても大丈夫かな?
 それにしても・・・雨、降ったわね。まるで一昨日をやり直す最後のチャンスを神様がくれているんじゃないかって、そんな風にロマンチストに考えられればいいのだけれど。またこなたを傷つけて、走って逃げられるのが正直怖いという思いのほうが強かった。
 廊下に出ると、二人が待っていた。ん?・・・二人ってこなたがいないのは何故かしら。
「お姉ちゃん、鞄は~?」
つかさは何時も通り・・・でもないか。二人とも表情が硬いから、こなたはもう帰ったのかしら。なら、私はもうこの気持ちを心に閉じ込めてしまわなければいけないのだけど。
「泉さんは、黒井先生に呼ばれて職員室に行っていますよ」
「そう、まだ帰ったわけじゃないのね。そうよね、きっとあいつも私に用事があるはずだから、まだ帰るわけがないわよね」
私の予想が正しければ、こなたは自分を傷つけてでも私の気持ちを壊そうとするはずだ。
 それは決して悪意ある事じゃなくて、あいつが私に好意を寄せてくれているから。
私もこなたの立場ならこなた程、先を見れたらそうすると思う。けれど、そんなに先を考える必要があるのだろうか?今は好きで付き合うことになれたとしても、その先なんて誰にもわからないんだから・・・。
「お姉ちゃん・・・えっと・・・私じゃ上手く言えないよ、えへへっ。ごめんね」
「かがみさん、そのたぶん」
二人ともこなたがどうしようとしているのか、どういう道を選んだのか薄々気がついてるって事ね。
「みゆき、大丈夫。大体予想はついてるわ・・・その部分については昨日と今日で覚悟を決めた。私達は、この気持ちを無視して向かい合えないから、一度ぶつけあわないとね」
そう、もうこの気持ちを無視して向かい合う事も何時も通りにもならない。だから、どんな形であれ、結論っていうのを出さないといけないんだ。それが今じゃないといけないわけじゃない、それに絶対に答えを出さないといけないかって言われると本当の所はわからない。答えなんて出さなくてもいいのかもしれない・・・ただ、このギクシャクした関係は私とこなただけじゃない、つかさやみゆきにとっても辛いんだ。だから、答えを出す道を私達は選んだ。
 選んだ選択肢は違うけれど、求めた事は同じ。答えを、結論を出して終わりにする事、始まりにする事。
「かがみさん、私には応援くらいしか出来ないのが悔しいです」
「私も、応援しか出来ないんだよね・・・応援しかしちゃいけないんだよね?お姉ちゃん」
不安そうな表情で二人が言う。応援なら笑顔でしてもらいたいものね、その不安に私も飲まれてしまいそうだから。
 でも、それは私の我侭。二人が不安なのは当たり前の事なんだ、親友の事を心配するのはきっと当たり前の事だから・・・応援しか出来ないからこそ、不安な表情になってしまうんだろうって、今なら思えるんだ。
「応援してくれるのは嬉しい、ありがとう。だけど、上手くいかなかったらこなたの傍にいてあげてね。私なら大丈夫だから、あいつを一人にしないで上げて欲しい」
「私はずっと四人でいた・・・」
つかさの言葉をみゆきが制して、微笑みながら“わかりました”と言ってくれた。
「じゃぁ、きっと時間掛かると思うし、その・・・二人は先に帰ってて。たぶんこなたにもいわれてると思うけど」
「えぇ、私達は先に帰ります。その方がきっとよいのでしょうし」
「う~、本当はお姉ちゃんやこなちゃんを待っていたいけど、それはだめなんだよね?だから、先に帰るよ・・・」
つかさもみゆきも内心では納得出来ていないのだろう。何かあればフォローを入れて今まで通りでいたい、そんな気持ちで一杯のはずなのだから。
 私は結局鞄をもたず、職員室へ向かう前に二人を昇降口まで見送った。二人とも笑顔ではあったけど、無理をしているのが痛々しいほどよくわかる。
 だから私達は今日で結論を出さないといけない。

 -もう一度、心の中の決意をしっかりと固めて、私は職員室の前まで向かった。


「最近、どうしたんや、泉?ネトゲにもあんまり顔ださんしなぁ、うちは心配しとるんよ、これでも」
そう言いつつ、課題のプリントまでくれなくても・・・。本当に心配してくれてるのカナ、黒井先生。鉄建もくれたしね・・・ちょっとぼーっとしてただけなのにサ。
「いや、心配してくれるのは嬉しいんですけど・・・課題のプリントまでつけなくてもいいじゃないですかー」
「それはうちの愛や。謹んで受けとりぃ」
「いえ、出来れば遠慮したいんですけど」
「拒否権はみとめんでー」
うぅ、回避不可フラグか・・・むぅ、困ったなぁ。これからはきっとかがみにはわかんない所聞けないのに。それに時間だって、そう思いながら時計を気にして、かがみまだ残ってるカナ?なんて思う。
 いや、そもそも、私はかがみが残っている事を望んでいるのカナ・・・わからないよ、誰か教えて欲しいよ。わかってるさ、自分でしか答えが出せない事くらい。
 でも、もうどうしたらいいのか・・・わからないんだよ・・・。
「あぁ、話は変わるけどな、あのレアアイテムって泉どこで拾った?うちも欲しいんやけど、どこでドロップするかわからんねん」
「えっと此間のWiz用のレア装備ですか、あれはですね・・・」
丁度いい現実逃避の材料だったに違いない、私は黒井先生とレアアイテムや最近インしてなかったネトゲのコミュニティーの事などについて話し込んでいた。
「おっと、これくらいにしとかんと、雨も酷くなっとるしな。ほな、泉、すまんかったなぁ・・・そうか、あそこか。あそこならソロ狩りでもいけるな。おっと、気いつけて帰るんやで」
黒井先生と話しこんでいる間に時計は一周してもう五時過ぎだ。雨の所為か、もっと時間がたっているように感じる。
「先生、さよなら~」
そう平静を装いながら言いつつも心臓は跳ねるようにバクついていた。ここを出たら、否応なしに、先に進まなければいけないのだ。私にとっては絶望の一歩を・・・でもかがみの将来のため、つかさやみゆきさんのためだと考えれば。
 でも、私は自分で決めた事に揺れている。かがみに嫌われようって決心を決めたのに揺れている、本当の気持ちを伝えたい衝動に、欲望に、揺れ続けている。
「どうしたー、泉ぃ?」
「いえ、あの、もうちょっとその辺で考え事しててもいいカナ?黒井先生」
「ほー、珍しいな。隣の席があいとるから、そこ立っとらんと、ここ座って考えな。しかし、泉が考え事とは、ほんと珍しなぁ」
「黒井先生、それは酷いヨ」
言われた通り、黒井先生の隣の席に座ると、先生は立ち上がって奥のほうに行ってしまった。どうせなら、相談したほうがいいのかなぁ・・・なんて馬鹿げた事を思って頭を振る。相談できる事じゃない。
 私はどうしたらいいんだろ、どれが正解なんだろう。そもそも“答え”なんて存在するのかな。
「ほい、泉。コーヒー注いできたで、考え事する時は何か飲みながらの方が捗るから飲みぃ」
「あ、ありがとございます」
「うちでよければ、相談のるで。ここん所、ネトゲに顔をあんまりださんのも、その考え事の所為なんやろ?」
「よくわかりましたねぇ、先生」
「ま、伊達に担任やっとらんってこっちゃ。これでも、自分が担当する生徒の顔位はしっかり見とるしな。ここの所、泉が居眠りじゃのうて、ぼーっとしてるのは気になってんで」
私は受け取ったコーヒーを一口飲んでから短く答える。味はわからなかった。
「そですか」
先生は“話ができそうなら呼びぃ。隣におるんやから”とだけ言って、此間の小テストの採点作業に戻った。
 核心は告げずに揺れている事だけを聞いて見ようと思った。先生の事は信頼してるけど、核心を離す覚悟はなかったからサ。
「先生?」
「なんや?」
「自分で決めて、でも他にも自分の中に違う考えがあって揺れてる時ってどうします?」
「そやな・・・まぁ何に揺れてるのかはわからんけど、安易には答えはださんな。そもそも答えなんてないやろしな、そういう時」
その言葉を聞きながら熱めのコーヒーをぐっと一気に飲み干した。答えなんかないか。
「そですか、コーヒーご馳走様でした。じゃ、私は帰りますんで!」
答えなんて、そうだよね・・・あるわけが無いじゃんか。そんなの初めからわかってたはずなのに。
「おぅ、気ぃつけて帰るんやで」
先生の言葉を聞きながら、廊下の外へでて、私は固まってしまった。
 それが私の弱さだったのかも知れない。時間もかなり立っていたし、また明日へと引き延ばしてしまえると心の何処かで思っていたのかも知れない。
 でも、現実は違ったんだ。私は何とか固まった体を動かして職員室の扉を閉めた。

 -扉の反対側の壁に持たれて、かがみが立っていた。その目は何処か凛としていて、私なんかよりもずっと・・・覚悟を決めた目をしていた。

 何故だかわからない・・・ただ、かがみに嫌いとか気持ち悪いとか恐らく言われるはずの無い言葉を言われる気がして・・・私は、走って逃げ出してしまったんだ。
 後ろの方でかがみが何かを言おうとして、やめて私を追いかけて走ってくる。
 ―何処へ向かうとも決まっていない、私と鏡の全力疾走による追いかけっこが始まった




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