『いふ☆すた エピローグ ~今はまだ、小さな芽生え~』

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『 いふ☆すた エピローグ 』


ジィー… ジィー… ジィー… と、

蝉の鳴き声がやけに大きく鳴り響く。
夏のぎらぎらと熱い太陽の光は、容赦なく私達のいる部屋に降り注ぎ、
濃い影を地面に焼き付けて、白と黒のコントラストを作り出していた。

夏特有の高い日差しは、室内の奥までは届かないので、少し薄暗い室内の色彩は薄い。
それでも、私の傍らで眠る想い人の髪は、扇風機の風を受け、さらさらと、きらきらと、蒼く鮮やかに波打っていた。

わたしは誘われるようにそっと、彼女の髪をなでる。
指の間で梳くように、さわっと流し、
一房を持ち上げては、それが宙をゆっくりと舞い落ちる様を、優しく微笑みながら見つめていた。

「……んう?」

もぞりと、こなたが動く感触が生まれる。

「…ごめん、起こした?」

私はこなたの顔を上から覗くように伺った。
こなたはまだ眠たそうにまぶたを腕でごしごしとこすったあと、まるで驚いたかのようにその緑柱石の瞳を見開いた。

「…かがみ、なにしてんの?」

「こなたの髪を、指で梳いてんのよ」

こなたの問いに平然と答える。

「…いやそっちじゃなくて…なんだか頭の下に柔らかな…」

ああ、なんだ。そっちか。

「ひざまくら。好きでしょ?こういうの…」

こなたの髪をまだ弄びながら、私はこなたに問う。
とたんに照れたような顔になり、私から視線を逸らすのに、まるでそこから退けようとしないあたりがとても可愛らしくてわたしはくすくすと笑ってしまう。
そんな様子の私を見て、すこし憮然とした顔になってるけど、やっぱりひざからは退けない彼女。
私のひざ、気に入ってくれたのかな?
だったら…嬉しいな。

こなたと付き合いだしてから、もう二週間が経ち、私は彼女について気付いたことがある。
こなたは実はかなりの照れ屋だ。
普段はあんなに平然と私にべたべたくっついてくるくせに、私からこうやって甘えてみると、とたんに弱気になって、嫌がったり、照れたり、恥ずかしがったり…
そんな普段とのギャップが面白くて、ついつい私も意地悪をしたくなってしまう。
今ではもう、二人っきりの時には私の優位が揺らぐことは無く、こなたも、実際にはそれを受け入れているかのように見える。
私にされるがまま、頬を朱に染めて俯いてしまったときに見せる表情や、何かを期待しているかのように瞳をきらきらと輝かせ真っ直ぐと私の瞳を見返してきたときなどは、私のつたない理性なんかは、いつか切れてしまうんじゃないかと心配でならない。

「…かがみさ、やっぱり変わったよ。前は絶対こんなことしなかったじゃん」

ごろりと頭を動かし、私のひざにそれを乗せたまま、彼女は仰向けになって私を見上げながら言う。

「しなかったんじゃなくて出来なかったのよ。
ホントはこういう風に…こなたのこと、触ってみたかったんだから」

絹のように細くさらさらとした彼女の髪は、触れるだけで…心地よい。
するすると、指の間を抜けていく感触がとてもとても気持ちよくて、ずっとこうしていたいという気さえ起こさせる。

「くすぐったいよ…」

「ふふ、そう…?」

こなたのおでこにかかっていた前髪を後ろに向けて撫でるように降ろす。
こうすれば、こなたの表情がよく見える。
こなたは気持ちよさそうに目を細めながら、頬にかすかに紅を差し、私が手櫛を通すたびに、ぴくんと小さく身体を揺らしていた。

「…いやなら、やめようか?」

そんなこなたに少しの意地悪。

「…かがみは意地悪だ…」

そう言うと、ごろんと再び体を横に向け、今度は私の周囲にくるまるようにヒザを折り、私のお腹あたりへと視線を外す。
さっきから退けようともせず、私のヒザの上でごろごろ、ごろごろ…
私にくるまって気持ち良さそうにしている様子は、まるで一匹の大きな猫みたいだ。

私は再びこなたの頭をそっと撫でる。

彼女の流れる細い髪と、
彼女の静かな吐息と、
彼女の温かな体温と、
少し汗ばんだ彼女の白い肌と…

私があの時、手放そうとしたすべてがここにある。
それらを指先に感じながら、私はこなたを見つめ、あの日の朝の出来事を思い出した。
あの夜、七夕が終わった日。

朝帰りを果たした私は両親よりもまず、つかさにこっぴどく叱られた。
玄関先で泣きながら私の胸を叩き、何度も…何度も『お姉ちゃんのバカっ!』と罵られ、最後には崩れるように眠ってしまった彼女。
電話でちゃんと朝になるのは伝えておいたのに、寝ずにずっと待っててくれたんだろう。
私は優しくつかさを抱きかかえると、眠ってしまった彼女が、どうか良い夢を見てくれるように祈りながら、小さく、耳元で「ありがとう」と囁く。
つかさは目を閉じながら、穏やかに笑い返してくれたような気がした。

あと…お父さんと…お母さん。
流石に全部は話せなくて、どうやって誤魔化そうと考えていた私に、ただ、微笑みをくれながら『おかえり』とだけ言って、家の中に温かく迎え入れてくれた。
そんな二人に、恥ずかしいけど思わず私は涙が溢れてしまって、背を向けて玄関をくぐる両親に思いっきり抱きついて、声を上げて泣いたのを思い出す。

二人には…もう少し周りが落ち着いたら、こなたとのことを話そうかと思っている。
嘘をつき続けるのはもうイヤだから。
何より、愛する両親に、私が好きになった人のことを知っておいて欲しかったから。
…すぐに受け入れてくれる、なんていう甘い考えは持ってない。
でも、許してくれるまで、何遍だって説明する。
それがこなたとの約束だから。
ホント、親不孝な娘だけど、それだけはもう、あきらめない。

そして、彼。
私を好きだといった彼は…

「…かがみぃ?どうしたの?」

もぞりという感触と共に、こなたが上目使いでコチラを不思議そうに見つめていた。
考えごとをしてたのでこなたを撫でる手が止まっていたようだ。
綺麗な緑柱石の瞳に、私の考えていたことなんて簡単に見透かされてしまいそうで、あわてて視線を横に逸らす。

「あ、いや、考え事してて…。なんでもないわ」

その私の返答に、彼女は少し憮然とした顔を作ってみせた。

「…かがみ。もう隠し事はやめてって言ったよね」

「う…。いいじゃない、何でも…」

「か~が~み!」

こなたはあきらめない。
そうだよね。前に同じようなことを聞かれて答えなかったことに根を持たれているんだった。しかたない。

「…彼のこと、考えてたのよ」

「彼?」

「…怒る?」

彼女の顔が少し強張る。

「むぅ…、ねぇ、かがみ。彼氏のこと、今でも好き?」

私はそんな問いかけに軽く眉をひそめた。
そして少し考えた後、こなたの髪を優しく撫でた。

「こなたに感じるものとは少し違うけど…
たぶん今でも好きだと思うよ?
こなたがもし、私のそばにいなかったら、たぶん私は恋してたと思う」

「…そっかぁ」

「こぉらっ…なによその顔。こなたが私のそばにいないなんて、そんなこと絶対にないんだから。妬いてくれるのは嬉しいけどさ。
…私はこなた以外なんて、もう考えられないわ。
その証拠にほぉら…」

私は彼女の髪を一房ほど持ち上げた。
なにをするの?って顔で見上げる彼女に見せびらかすように、眼前にそれを持っていき、

「…こんなことをするのもアンタだけ」

口元にそれを近づける。
それはまるでキスをするかのように。

「――――ッ!!」

いつか見た白昼夢の再現。
こなたは顔を完熟トマトのように真っ赤にして、口をパクパクさせながら身体をぴしっと硬直させる。
彼女のそんな様子に、予想以上の結果が得られ、私は満足げに微笑んだ。

「相変わらず…いい香り。もっと…こうして…いたい」

「か、か、か、かがみ!や、止め…ストップ!!」

私の手から自分の髪を奪い取ると、守るように両手で胸の前にバツの字を作り髪の毛を隠す。
髪の量が多い彼女だから、まだまだいっぱい隠せていないのに、私から奪ったものだけを必死になって庇う彼女が可愛そうになり再びくすくすと笑いながら、こなたのおでこにかかった前髪を後ろにそおっと流す。

「こなた、可愛いわよ…」

「うぅぅ…ひどいよかがみぃ
それになんだか誤魔化された気がする…」

涙目な彼女はうるうると瞳を輝かせ、上目使いで私を見上げる。
別に誤魔化したわけじゃないのだけど…
実は彼女には話してないことが一つだけあった。

「こなた、聞いて?」

「…なに?」

「彼ね…私がこなたを好きってこと、知ってたの」

「ふぇ!?」

「彼に告白されたときに、私、全部彼に話したの。
もちろん、こなたが好きってことは伏せたけど、彼にはそれも分かっていたみたい」

「どういうこと?」

あの時、あの学校の屋上で交わした言葉。
あの情景を思い出す。
彼の告白は、出会った時から受け取ると決めていた。
ただ、それだけではあまりに彼にアンフェアだ。
彼にはすべて、知る権利がある。

私には好きな人がいるということ。
でも、それは叶えられない恋だということ。
絶対に伝えられないってココロに決めていること。
もし、それでもいいのなら…って。

自分でも酷いこと言っているのは分かっていた。
つまり、二番手でもかまわなければ付き合ってもいいよってことなんだ。
当然、断られるって思っていた。
でも、彼はそれでも好きだといってくれた。
だから…私は彼のことを愛してあげようって思った。
何年かかるか分からない、私の愛が彼を捉えるその日まで、彼は待つと言ってくれたから。

「でも…結局、私が約束を破っちゃったから」

七夕の終わった日。その日の放課後に、私は彼を呼び出した。
あの時と同じ、夕日が綺麗な学校の屋上。
こなたには先に帰ってもらった。
当然こなたは嫌がったけど、これだけは私が決着をつけなければならない。

私の待つ、屋上の鉄の扉が鳴る。
すべてがあの日と同じ。
でも…彼のその表情は…

「…みゆきが言ってたのよね。相手のことを本当に好きなのなら、その人が誰のことを好きなのか、目線を追えば気付くって…
彼ね、私がひたすらに謝って、別れ話をしたときね…彼のほうからも謝られた。
好きな人と仲たがいさせたみたいでゴメンって…
一緒になってくれたみたいでよかったって…
彼は、中学のときから私のことを知ってたの。
ずっと好きで、でも言えなくて、私に好きな人が出来たことに気付いても、想いをあきらめられなくて…
何かの結果が得られなければ、そこから一歩も前に進められなくなったんだって…」

「……」

「断られなかったことが、凄く意外で、嬉しくて、有頂天になっちゃって…
でも、私が苦しそうにしているのをそばで見て、自分のしたことに凄く後悔したって言ってた。
私に呼ばれたときも、自分から別れ話をするつもりだったみたい。
ホント、凄い人…私なんかじゃ全然釣り合いが取れない」

「……彼は、それで幸せだったのかな…結局、かがみを私のためにあきらめちゃって」

「彼ね、謝る私の言葉を遮って、最後に笑いながらこう言ってたわ。
『柊のこと好きになれて、一時でも一緒にいられて俺は凄く幸せだった。今度はぜったい柊よりもいい子を見つけて幸せになってやる!』って…
強がりだったのかもしれないけど…彼ならたぶん、大丈夫。
彼ならきっと、私なんかよりも可愛い子を見つけて幸せになってくれると思ってる。
だって、別れ話をされた相手に、最後に『ありがとう』なんて言っちゃう人なのよ?
幸せを探すのがとても上手で、幸せを探すことを諦めない人で…」

「もったいないことしちゃった?」

「ふふ、私はこなたが一番なの。それだけは絶対に揺るがない。
でも、彼も私にとっては大切な人。
彼が告白してくれなかったら、こんな風にこなたと一緒になれなかったかも知れないし、自分の想いがどれほど大きなものなのかを、気付くことが出来なかったと思う」

少し、俯き加減にこなたを見下ろす私の目を、こなたはいつの間にか、真剣な目で見上げていた。
こなたを撫でていた私の手を、両手で包むように取ると、自分の胸の真ん中辺りに持っていく。
どくん、どくん、と、
彼女の胸の鼓動が、規則正しく波打つのを指先に感じた。

「私も…かがみが告白とかされなかったら、ずっと想いに正直になることも無かったと思う。
そのまま高校を卒業して…かがみと別れて…
いつか寂しさから、不意に想いの強さに気付いたときには、もうどこにもかがみの姿がなくてさ…
後悔とかに押しつぶされて一人で泣いていたと思うよ?
だから、彼にはすっごい感謝をしてる。
嫉妬は…やっぱりしちゃうけど。
だって、かがみにそこまで言わせる人なんだもん。嫉妬をするなって方が間違ってるよ。
たとえ、私の次に大切だって言われてもね」

「ふふ、アンタに会わせればよかったかな?」

「そんなこと言って、かがみよりも好きになっちゃったどうすんの?
ああでも、かがみが嫉妬する姿も見てみたいかも…♪」

そういうと、こなたは「ふふ~ん」といつもの得意げな笑みを作る。
きっと、その台詞自体に嫉妬する私の姿が見たかったんだろう。
そんな彼女の小さな抵抗と反撃に、私は飽きれたように苦笑をし、

「あぁ、それはない。絶対ない」

と、自信たっぷりに言い返してやった。

「なんでさ?」

「アンタは私にぞっこんだからね?」

「ぷっ、あはは!どっから来るの?その自信…」

こなたは笑うが、私は至って真剣だ。

「えぇ…?そりゃあ…」

少し、考えごとをするかのように、人差し指を口元に置いてみる。
頭の中でまとまった答えに満足し、私は、私の手を握る彼女の両手を、同じように包み込んだ。
笑うのをやめ、どうしたの?って顔で見上げる彼女。
そんな彼女の胸を、軽くその両手で押し、

「ここと…」

そして、そっと彼女の両手を持ち上げて、今度はそれを私の胸に押し当てて、

「…ここ」

私はそうやってこなたに向かって優しげに微笑む。
とくん…、とくん、と…
一定の旋律で穏やかに響く私の音色は、きっと彼女に伝わっていると思う。
少し、恥ずかしそうに俯く彼女。
交互に重ねられた二人の手は、きゅっと硬く握られ、そこから柔らかな温かさが伝わってくる。

この一ヶ月。
たくさんの出来事があった。
たくさんの変化があった。
それでも…変わることのなかった想いがあった。

そして私は今、ここにいる。
こなたのとなりに…寄り添うように。

静かに、すぅー…っと、私の頬を、温かなものが流れた。
それは一滴、ぽつりと彼女の頬に落ち、こなたは不思議そうに私を見上げる。

「…かがみ…泣いて…?」

彼女の手が、私の頬に触れる。
その手をそっと包み込む。
それ以上、彼女はなにも聞いてこない。

もう、私達には、言葉で伝えなくても良い想いがあるから。

交差する視線。
深緑と青紫の瞳が想いを伝える。

不意に今、
蝉の鳴き声が止んで、時間が静かに停滞する一瞬に、

こなたの声が…
私のココロと、重なって聞こえた気がした。


 ……


ねぇ…

『 かがみ 『』 こなた 』

私はね。

こんな夏のじっとりとした暑さとか、
時折吹く風の気持ちよさとか、
高くて蒼い空に流れる雲のようすとか、
急な夕立のあとに来る濃い地面の匂いとか、

そんな、何気ない日常の、切り取られた風景でね?
傍らに貴女がいてくれて、一緒にそれを感じることが出来るだけで、

私は今、幸せだよ。


そして秋が来て…
冬が来て…
春になって、また夏が恋しくなって…

巡る季節に…

たくさんの変化。

移り変わっていく日常。

それでも、変わることのない小さな想いを抱きしめて…

私はここにいる。

これからも…

貴女の隣で…

『 一緒に歩いていきたい 』と…想ってる。





 ~今はまだ、小さな芽生え~   

 …END



                        next.....if.





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  • 乙!!!
    凄く良かった! -- 名無しさん (2013-12-08 22:48:19)
  • 感動です! -- かがみんラブ (2012-09-19 23:43:16)
  • 本気で泣いた…ウルっときた -- 名無しさん (2010-04-09 21:24:02)
  • 全く違う らき☆すた
    を見ているようで 凄く感動しました…。
    かがみの彼氏の強い彼女への意思にはとても印象に残りました。
    とても良好な作品だと思います。 -- 名無しさん (2009-04-29 14:05:08)
  • ひざまくら+髪なでなでのコンボに、ねこなたとは…
    危うく脳内妄想で萌死するところだったw
    ともかく完結GJ!
    -- 名無しさん (2009-04-13 15:04:29)
  • 素敵だ・・・GJ! -- 名無しさん (2009-04-05 21:35:13)
  • おつかれっす。
    男が出てくるのかぁとか思いつつも見てたシリーズですがとても良いものと巡り会えたと今では思えます。
    ありがとうございました -- 名無しさん (2009-04-03 16:41:57)


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