何気ない日々:膝を抱え込むように悩むよりも相談する決意を(こなた編)

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何気ない日々:膝を抱え込むように悩むよりも相談する決意を(こなた編)

 みゆきは優しげな微笑を浮かべて、私の想いを聞いてくれた。
 私の悩みを、私が好きな子が女の子だということを聞いて、それでも親友でいてくれると、そして私の味方でいてくれると言ってくれた。
 ただそれだけのことかもしれない。でも、それは私にとってはとても嬉しくて、
―なんと、心強いのだろう
―なんと、温かいのだろう
 けれど、この気持ちを想い人に伝えることで壊れるのが私達四人の関係だということを隠していることは、とても酷い事なのではないだろうか。だけど、まだ言えない。相手が誰なのか、もしかしなくても・・・みゆきは気が付いているのかも知れない。
 それでも、まだ私の口から言う勇気が無くて、それが申し訳なくて謝ってしまう。
「みゆき、もしも私のこの気持ちを相手に伝えた所為で嫌な目にあったりしたら、本当に・・・」
「かがみさん、大丈夫です。それとも、そんなに私は信用を得るに至りませんでしょうか?」
「ううん、そんなことないわ。心強くて、嬉しくて・・・また泣いてしまいそうな位なのよ。だから、私がもしも、思いを伝えることでみゆきに・・・」
「かがみさん、私はその言葉だけで十分ですから。大丈夫ですよ、私はかがみさんの味方になると誓いました。自分自身の心にしっかりと誓いましたから、何があったとしてもそれをかがみさんの所為にはしません」
みゆきは目を瞑り、胸に手を当て、その言葉を口にする。
「ごめん・・・ううん、違うわね。ありがとう、みゆき。もし、この想いの所為で何か辛い事があったら、みゆきも私に言ってよね。みゆきが味方になってくれると誓ってくれる様に、私もその辛さと重荷を一緒に背負う覚悟を決めるたから」
みゆきと同じように、目を瞑り、胸に手を当てて、覚悟と誓いの気持ちを口にする。
「想いを告げるときは教えてくださいね。応援しますから」
「まだ、時間がかかると思うけど、その時はまた、話を聞いてくれると嬉しいな」
「はい、いつでも構いません。その時はまた、話を聞かせてください」
私達は、何がおかしかったわけじゃないけど、笑顔だった。
 だからこそ、この関係を崩してしまうかもしれないこの想いを口にすることをまだためらってしまうのだろう。

 うまく先に進んでも茨の道が待っている。うまくいかなくても針の山が待っている。
 立ち止まっていても胸を裂かれる痛みがある。

 覚悟が決まったら言おう。この止まらぬ思いを。この胸の高鳴りを全て、伝えよう。


 気がつけば、お昼近くになっていた。もう数時間ネトゲに集中していた事になる。別に珍しい事じゃないんだけどネ。まぁ、強いて言えばこんな風に急にプッツリと集中力が切れてしまう事は珍しいかも。
「んー、小腹が空いたと言えば空いたなぁ」
誰に言うわけでもなく呟く。ペア狩りも丁度アイテム補充なんかで一回町に戻ろうって先生と話したところだし、一旦落ちようかな。
“先生、私、今日はこの辺で一旦落ちますね”
“おーもう昼か。そやな、ご飯食べな体に悪いし、一旦解散しよか。ほな、また夜に合えたらペアかギルド狩りしよな”
“そうですね、じゃ、落ちますねー”
ログアウトを押してゲームを終了し、PCの電源を落とした。
 そういえば今日、ゆーちゃん出かけるって言ってたなぁ・・・あ、いってらしゃ~いって脊髄反射的に言ったような記憶がある。
 小腹は空いているんだけど、ちょっとダルくってベッドに転がった。積んである漫画に手を伸ばすわけでもなく、録画したアニメを見るわけでもなく、うつ伏せに転がっているだけ。何だか、最近こういう時間が増えてしまったなぁ、時間がもったいない気がするけど、何かをする気分でもないんだよねぇ。
 んー、ゆーちゃんが出かけているということは・・・今、家にいるのはお父さんだけか。相談するには丁度いいタイミングかもしれない。とりあえず、気持ちの整理が付くまではゆーちゃんには聞かれたくないし。それに、ゆーちゃんが感化されて、岩崎さんとって事になったら、うらやま・・・いや、違うよ、違うんだよ?って誰に言い訳してるんだろ、私。
「んー、どうしようかなぁ」
ごろんっと仰向けに転がる。いやー周囲を固めている積み漫画を崩さずに転がれるなんて我ながら慣れてるもんだヨ。
「ふぅ、かがみ分が足りない・・・」
頬が熱い、顔が真っ赤になってしまったようだ。かがみってすぐ真っ赤になるけど、私も何ていうか、自分でも似合わないと思うけど、女の子してるねぇ。まぁ、好きになったのが男の人だったらよかったんだけどサ。
 よりによってかがみだから、本当に・・・どうしたものだろう。告白したとしても、断られるだろうし、気持ち悪がられたりしたら嫌だしなぁ。
実際、告白したらかがみがどういうの様子なるのか。脳内再生されてくるよ「あ、あんた・・・そういう気持ちで私にくっついてたの?信じられないわ・・・あんたがそういう系の同人誌買うのに付き合わせてたのも、私を自分好みに染めようって事だったのね・・・」そう言った後、きっと両手で身を守るように体を抱きしめて逃げてしまうだろうなぁ。
 そして、その後真相を告げられたみゆきやつかさが、私から遠ざかっていく。それだけでも堪えるだろうけど、四人で仲良しグループになってたのだ。かがみは、うちのクラスには来なくなるだろうし、みゆきとつかさは二人でご飯を食べる。
 かくして、私は独りぼっちで孤独にチョココロネを齧るのさ。
 仲良しだった親友達の心と思い出にヒビを入れて・・・ネ。
「いやまぁ、かがみなら、案外そこまで酷く避けないかな。まぁくっついたり今まで通りは無理でも・・・んー・・・」
何とか理解をしようとしてくれるかもしれない。でも、今まで通りではいられない・・・そこが寂しいカナ。
 やっぱり、お父さんに相談するとか誰かに打ち明けるとか、何とかしないと私の心が持ちそうに無い。こんなに脆いとは思わなかったけど、今にも許容量を超えた悩みで割れてしまいそうな出口のないガラスのボールみたいな感じ・・・。
 相談するかしないかは、早く決めないとゆーちゃん帰ってきちゃうしなぁ。
「あーもう、どうすりゃいんだよぉー」
頭を抱えて、ベッドの上をゴロゴロ転がる。それでも積んである漫画が崩れない不思議さにはやや驚いてるけど、それに構っている場合ではない。早く決めないと。

 ここは攻めるか?それとも守るか?

 あの時のポイントカードの景品は攻めてしくじった。次の景品は即決で欲しいものだったのに。そうだ、攻めで!と意気込んでうまく言った試し何か無いじゃないか。いつも即決で欲しい景品は、後からやってくる。
 と、思ったけど、ポイント溜めてるうちにそれ以外のジャンルに興味が移って、溜まりきって少したった頃に丁度、興味が移っていたグッズがでてくるんだから、冷静に考えて見れば当たり前の事かも。
 みゆきさんなら・・・そう思って携帯を手にとって見たものの・・・そこはそれ、みゆきさん物知りだし、そういう恋愛の厳しさの知識も持ってそうだから尚更慎重にいかないと、みゆきさんを傷つけかけないし・・・。
「どーすりゃいいんだよぉー」
と、結局頭を抱えてベッドの上をゴロゴロと転がっていることしか出来てない。
 そんな中、突然ピーンポーンと呼び鈴が鳴った。
 って呼び鈴は大体いきなり鳴る物だよネ。とか、何かどうでもいい様な事を考えながら玄関に向かった。私がいるとお父さん、宅配とか出ないしなぁ。特に書斎に篭ってたりする場合もあるし、トイレに篭ってる場合もあるし。
 玄関を開けると、そこには見知った顔がいた。
「ハロー、つかさ。どしたの?突然」
「えへへ、最初は散歩をしてたんだけど、何だか歩いてたらこなちゃん家の方に来ちゃってたから、ちょっと来てみたの~」
何ていうかつかさらしいんだけど、
「つかさ?来る前に電話かけた方がいいよ、私いないかもしれないし」
「うん、一応こなちゃんに教えてもらった携帯の番号にかけたんだけど繋がらなかったから、直接来てみたの」
あ・・・そういえば充電してないから、電源落ちてるんだろうね。というか、どこ置いたかな、携帯。
「いやね、つかさ。それは私が悪いからだけど、携帯が駄目なら家にかけるとか・・・ね?」
「はぅっ、そこには気がつかなかったよ、こなちゃん」
つかさがえへへっと笑ってそう言った。とりあえず悩むだけというのも不毛だし、今何にもしてなかったし、玄関で話してるのもなんだから、つかさをつれて部屋に戻る。
「ジュース持ってくるから待っててー」
「うん~わかった~」
ジュースをコップに注いでいる間に考えていた。つかさに悩みを打ち明けてみようかなと。つかさなら、気味悪がらずに聞いてくれるかもしれない、もちろん、話し方は考えないといけないかも知れないけれど。
 高校で一番最初に出来た、一番長い付き合いの親友だし・・・。いや、そうだから、逆に駄目かな、うーん。
「はい、つかさ。どうぞー」
「ありがとう、こなちゃん」
喉からからだったんだ~と言って、ジュースをつかさが美味しそうに飲む。
 ジュースを飲み終わって、コップを片付けてから、私達は何も喋らなかった。私は悩み事があったし、どうやらつかさは、元々、私に何か用事があったらしくその切り出し方がわからない感じだった。
 仕方がない、ここは親友のために一肌脱いでやるのが漢って奴さぁー。まぁ、私は女なんだけどネ。というか男だったらこんなに悩まなくていいわけだし・・・あーもう、とりあえずそのことは、つかさの用事が済んでからにしよう、そうしよう。
「つかさは何か、私に用事があったんじゃないのー?」
この言葉は見事に切っ掛けとして、役に立ったらしい。私がベッドを背に持たれてだらしなく手足を投げ出して、天井を見上げてそう呟くと、少し離れた所で、クッションの上に座っていたつかさが、はっとした表情で私を見ていた。
 やっぱり、何か用事があったんだねぇ。なかなか切り出せないってのが、つかさらしいけどさ。
「うん、私は・・・こなちゃんに用事があったんだよ~」
どこか、何か、それはつかさにしかわからないけど、決意というかなんというか強固な意志のようなものがヒシヒシと伝わってきた・・・が、私は、相変わらずの体勢で天井を見ていた。
「こなちゃんは、最近、その・・・悩みとかない?」
その言葉は予想していなかった。だから、本当に驚いて・・・
「うぇぇ!?」
何て、変な言葉を出してしまった。一度深呼吸をして普段通りに表情を戻しす。心臓が割れてしまいそうなくらい強く脈打つ音がつかさにも聞こえてしまいそうで怖かった。でも、大丈夫。私は、上手く普段通りを演じられるはずなんだから。
「いやぁ、つかさにしては随分とユニークな用事だね。そうだねー、最近ポイントが貯まってきたんだけどさ、ここ攻めて今欲しい景品を貰うか、守りでポイントを貯めて置くかで悩んでるヨ」
ははっ、どうでも良い様な悩みだけど、結構私には大事な事なのサ。そう付け加えて、ニマニマした笑みを浮かべながらつかさの方を見ると-
 真剣で、少し悲しげで、唇をかみ締めて肩を震わせているつかさがいた。そんなつかさは見たことがなかった。
「つ、つかさ、ど、どうしたの?」
その言葉に反応はなかった。つかさの表情は相変わらずで、どうしていいのかわからなかった。
「こなちゃんも、その、大事な悩み事は私じゃダメなんだね」
「いや、今のだって、十分に大事な悩みなんだよ。そりゃちょっと変わってるかもしれないけどサ。古今東西、ポイントカードとオタクには非常に重要な悩みなんだヨ」
つかさは私の言葉に、うな垂れた。
「ゆきちゃんとかじゃないと、信用できないかな。悩み事・・・あるよね?私って頼りないからお姉ちゃんも悩み事を打ち明けてくれないし・・・」
「い、いやだから、今悩み事いったじゃん。そ、それじゃダメなの?」
「その、もっとその、こなちゃん自身に関係ある悩みがあると思うの。誰にも言えない様な、そういう、難しい・・・えーっと、その・・・」
あれ・・・もしかして、私がかがみのこと好きなのバレてる?・・・わけないよね。でも、つかさは、私の心の内側でもっとも大きな悩みについて気がついている様な感じ。
 つかさは、不思議なタイプの子だなんていうと失礼かもしれない。でも、普段は、どこかみゆきさんのようにおっとりしていて、ゆったりのんびりしていて、一緒にいて心地が良い友達・・・ううん、親友かな。
 だけど、漠然とした鋭さをもっているのも、わかってる。だから、きっと気づいたのかもしれない。普段通りでいようとすればするほど、見え隠れする違和感に。
「んー、私は・・・つかさとは、その、真剣に口にするのはちょっと恥ずかしいけどさ。本当に親友だと思ってるし、頼りないとかそう言う所もあるけど、だから悩み事を相談しないってわけじゃないんだよ。親友でいたいから、相談したくないんだ」
真剣なつかさの表情が、胸に痛くて、私はまた天井を見上げた。今の言葉に嘘偽りはない。
「私は・・・何があってもこなちゃんとは親友だよ~」
「地球がひっくり返っても?」
「えっ?あの、その、い、生きてたら、親友だよ」
つかさが狼狽して答える。地球がひっくり返ったって何も起こりはしないのに。ちょっと意地悪だったかな。
「つかさはさー、好きな人とか出来たことある?」
「私は、こなちゃんも、ゆきちゃんも、お姉ちゃんも大好きだよ~」
いや、そういう意味ではないんだけど・・・つかさらしいといえばつかさらしい反応だね。というか、今のは私がからかわれたみたいだ。言葉は続いた。
「ん~と、たぶん、こなちゃんが言う意味で好きな人っていうのは小さい時位かも」
「そっかぁ」
私が上手くキャッチしなかったから会話という名のボールは、見事に転がって行った。
 ここまで言ったら、最後まで相談するしかないかなぁ。つかさって結構頑固なところあるし、私の違和感に気がついていたとすれば下手に誤魔化すと、つかさが傷ついてしまいそうだけど、相談する内容だって、十分つかさを傷つける内容には違いないと思う。
「つかさはさ、どうして私に悩みがあるって思ったの?」
「ん~、なんとなく・・・かな?どこか、何時もと違って、何だか苦しそうだったから。悩み事があるんじゃないかなって」
「電話で聞くとか、そういう方法をとろうとは思わなかったのカナー?」
「あはは、こなちゃん、電話で聞いても絶対教えてくれないと思ったから」
「やっぱ、つかさは鋭いね。でも、誰にも相談したくないんだけどさ、出来れば」
それは本音。お父さんだけならいざ知らず、つかさやみゆきさんに相談するのはとても怖い。
「それは、こなちゃんが好きな人の話だから~?」
どうしてだろう、話してしまいそうになる。つかさは真剣なのに、何時ものあのどこか雰囲気を和ませてしまう不思議な雰囲気を出していて、つかさなら、話しても大丈夫なんじゃないかって、思ってしまうんだ。
「そうだね。とうとう私もロマンスの話をする歳になってしまったのだよ」
私は、天井を見上げたまま、あの日、ずっと繋がれていた手とは違う方の手をつかさに伸ばす。
「握手しよ。つかさは、私が悩みを相談しないと傷ついてしまうと思うし、でも、もしかしたら、これが最後の握手になるかもしれないからさ」
「う?うん、でも大丈夫だよ。また握手できるよ、こなちゃんの手が無くなっちゃったり私の手が無くなっちゃたりしない限り、また握手できるよ」
繋がれた手は、かがみと繋いだ時とは違う温かさを伝えていた。そうすることで、私は、もう後戻りできないくらい、かがみの事が好きなんだなぁと実感することになった。
「えと、何時まで握手してればいいのかな?」
それは嫌悪感で離したいと言っている訳ではない。ただ、いきなり握手をしようといわれて、手を繋いだままで、いつまでそうしていればいいのかわからなくて聞いているだけなのに、私の目には涙が溜まる。相変わらず、私は天井を見上げたままだったが、流石にこのままではちょっと喋り難いので、顔を上げてつかさの方を見ると、司の顔がゆがんで見えて、頬を熱い液体が伝って、ポツっと、一滴の雨の様に零れた。
「こ、こなちゃん!?ど、どうしたの?どっか痛いとか???」
そうじゃないんだよ、つかさ。痛いのはこれからなんだから。繋いでいる手をぎゅっと掴んですぐに力を弱めた。
「私の悩みの相談に乗ってくれるんだよね?その相談の間に気持ち悪くなったら手を放していいから、つかさが手を離したら、相談はお終い」
「ど、どうしてこなちゃんが泣いてるのかとか、そういうのの説明はないの?」
「別に痛いから泣いてる訳じゃないから、気にしなくてもいいヨ。それとも、話を聞く前に手を放す?私としてはそれをお勧めするけどネ」
もう片方の手で涙を拭わなかった。拭っても拭ってもきっと止まらない。だから、このままでいい。つかさが手を離して、私に軽蔑の眼差しを向けたらそのまま、喉が枯れるまで泣けるように。
「私は、好きな人が出来たんだ。寂しがり屋で、強がりで、でも本当は弱いのにそんな雰囲気、全然見せない人でね。どうして、その人を好きになったのかは、私にもわからない」
つかさは静かに頷く。私はこの先の言葉を言うのが怖かった。だけど、つかさの手をぎゅっと掴むことはしなかった。それはいけない事だから、つかさには、手を離して話を途中できる権利があると思う。
「その人は・・・」
言葉が続かない。どうしよう、でも、ここまで言って言わなかったら、言わないとだめなのかな・・・。
「こなちゃん、続けて。私は、何を聞いても手を離さないから!」
つかさは、私の手を少し痛いくらいぎゅっと掴んだ。
「その人は、女の人なんだ。私も、まさか現実で女の子を好きになって胸が張り裂けそうになるなんて思わなかったヨ。ね、気持ち悪いでしょ、早く手を離さないと、私・・・つかさを襲っちゃうかもよ?」
つかさの手は相変わらずぎゅっと私の手を掴んだままだった。
「えと、それだけ?」
きょとんとしたつかさの表情に、私もきょとんとする。いや、それだけって・・・どういう反応なんだろ。ちゃんとわかってるのかな、つかさは。
「だから、私は女の人を好きになっちゃったの。わかってる?」
「う、う~ん・・・わかるけど、どうして気持ち悪いとかそんな事、思うと思っちゃうのか、私にはわからないよ、こなちゃん」
つかさの手が、私の手から離れて、私の視界は、つかさの服で一杯になった。体に感じる温かさ、聞こえる心臓の音。
 それはとても優しい抱擁で、私の心の中に溜まっていた涙が溢れて来る。絶対に拒絶されると思ってた。でも、つかさは、受け入れてくれたのだろうか、まだわからない。
「こなちゃんは女の人を好きになっちゃったって言ったけど、私の事は、その人への想いとは違うんだよね」
「そうだね、大分違うかも・・・まさかつかさの胸で泣くことになる日が来るとは、夢にも思わなかったヨ」
嗚咽が喉のすぐそこまで上り詰めてきていた。私は、自分でも気が付かないうちに、ずっと泣くのを我慢していたらしい。好きな相手に受け入れられない想いという重圧に蓋をされて。それをつかさがそっと開けてくれた。
「大丈夫だよ、こなちゃんを気持ち悪いなんて思わないよ。えへへっ、こなちゃんって結構泣き虫だね。私も、もらい泣きで泣いちゃいそうだよ」
まだ声を上げて泣いてはいけない。もっと重要なことを言わなくちゃいけないんだ。でも、つかさに言ってもいいのだろうか。
「つかさぁ・・・私のす、好きなあい・・」
言葉にならない。もう泣きたくて溜まらなかった。覚えていないお母さんの胸の中にいる様で、すべての感情をぶちまけて泣きたかった。
 本当はつかさは同情でこうしてくれていると思ってる。同情でも何でも、今は・・・今だけはどうでも良かった。これが破滅の序曲だとしても・・・。
「お姉ちゃんなんだよね、こなちゃんが好きな人。それからね、私はこなちゃんに同情なんてしてないよ。私もこなちゃん大好きだから、大切な親友って言ってくれるこなちゃんに同情なんて苦しい事はしないよ。私は、ずっとこなちゃんの味方でいたい、こなちゃんと親友でいたいな」
私は、つかさの鋭さに何て驚く余裕なんて無くて、自分の姉を好きだと言った私に同情じゃなく味方でいてくれると言ってくれたその言葉に感謝して、想いっきり泣いた。
 二人の泣き声が泉家に響き渡る。


「珍しくシュークリームでも買ってきたから、部屋に差し入れを持ってきて、凄いことを聞いてしまったなぁ・・・」
泉 そうじろうは、こなたの部屋の前で立ち尽くしていた。持ってきたときには熱かった紅茶も今や温くなってしまっている。
「こなたが、かがみちゃんを好きになったとはなぁ。しかし、どのタイミングで入って行ったらいいもんだか」
困りに困って苦笑いを浮かべるしかなかった。今日は、ゆーちゃんが出かけてて本当に良かったなぁ、何て思いつつも、どうするべきかを考えていた。
「親としては、子の幸せを考えてやるのが務めなんだが・・・」
お盆を片手で持ち顎を摩る。とりあえず、二人が泣き止むまでここで待ちぼうけを食らうしかなさそうだ。とても、入って行ける雰囲気ではないし、それに・・・。
「んーいやぁ、困ったことに、俺って反対する気がまったく沸いて来ないんだよなぁ」
それはそれでかなり問題だよなぁ、とそうじろうは締めくくって壁にもたれ掛かり、こなたの部屋から聞こえてくる泣き声が収まるのを待った。


「つかさ、もう大丈夫」
「えぐっ、ひぅっ」
つかさの涙腺のほうが崩壊してるね。私の涙はとりあえず止まったのに、つかさの涙が止まってないよ。
 しばらくして、つかさが泣き止んだ。全くどっちが悩みを相談したんだか、わかんないや。
「つかさ、落ち着いた?」
「う、うん。ごめんね、えへへっ。私の方が沢山泣いちゃった」
「でも、本当に気持ち悪いとか不毛とかそういう風には思わないの?」
とりあえず、お互いに冷静になったから出来る言葉。
「ん~、こなちゃんはお姉ちゃんが好きなの?それとも、女の人なら誰でもいいの?男の人が相手は絶対ダメなの?」
うぉーいきなり、怒涛の質問攻めですか。でも、そういえば、そんな事考えても見なかった。
 女の人なら誰でも・・・良くない。かがみが好きなんだもん、というよりかがみだから好きなんだと思う。男の人が相手じゃ絶対ダメか・・・これは正直、まだそっちのロマンスに出会ってないからわからないけど、ダメじゃないと思う。
「うーん、かがみだから好きかな。つかさやみゆきさんも大切に思ってるけど、かがみへの想いは特別だからね。男の人じゃ絶対ダメってことはないと思うけど、そっちはまだ好きになったこと無いからよくわかんないや」
「つまり、こなちゃんは、お姉ちゃんだから好きなんだね~」
「うぅ、恥ずかしいけど、多分そうだね~。かがみも罪な奴よのぅ」
「じゃぁ、きっと別に変なことじゃないと思うんだ。だって特別に好きになるって相手が誰でどんな人なのか、わからないでしょ?こなちゃんが好きになったのが、たまたまお姉ちゃんなだけで」
「いやー世間の厳しさを考えるとそう楽観的にはいかないと思うよ、つかさ」
「大丈夫だよ、こなちゃん。頼りないかもしれないけど、私はこなちゃんの味方だから!」
今までは胸の内側は真っ暗だった。でも、そのつかさの一言が明かりになった気がした。
「ありがとう、つかさ」
私はまだ、つかさの胸の中にいた、温かくて優しくてほっとする。きっとつかさは良いお母さんになるねぇ。
 コンッコンッと遠慮がちなノックが二回ほどなり、お父さんが入ってきた。
「こなた、話は全部聞いてたぞ」
私もつかさも何も言えなかった。ただ、つかさは、私を庇う様に抱きしめる力を強くした。
「いや、その、なんだ。お父さんもこなた達の話、廊下で聞いてたんだが・・・いや、別に盗み聞きする気は無かったんだぞ。ただ、ファックスが壊れててだな、その時、たまたま近くにいた、担当の人が原稿を取りに来た時に差し入れだって置いていったシュークリームをだな・・・」
私の顔から血の気が引いて行くのが、自分でもわかった。唇が震える・・・ダメって言われる、今一番聞きたくない拒絶の言葉を言われる。いくらお父さんでも、今まで入ってこなかったって事は、きっと賛成は出来ないってことなんだろう。
「私は、こなちゃんの味方だから。こなちゃんを守るよ」
つかさの凛とした声が、お父さんが言葉を探している間の静寂の中で響いた。
「いや、つかさちゃん。何もおじさんは、その好きになった事を反対するわけじゃなくてだな、何て言ったらいいかな。作家やってる割に上手い言葉が出てこないのは問題だな」
うーん、そうお父さんが唸っている間も、つかさは私の事を守るように抱きしめていた。そんなつかさに縋り付いているしかない、自分自身が情けなかった。
 しかし、拒絶の言葉はそれ以上に・・・怖かったんだ。
「人間、誰でも、誰かを好きになるだろ。まぁ、こなたの場合はそれが、かがみちゃんだっただけの事なんだが・・・んー、その、簡単に言えば、こなた。お父さんはだな、特に反対する気はないんだよ。廊下でずっと考えていたんだが、世間は冷たいと思うし、かがみちゃんとまだ付き合っているわけじゃないんだろ?その上で尚、こなたは、付き合えた場合の事をキチンと理解しているんだから、味方になりこそすれ、反対する理由はないぞ」
 それでいいのか、我が父よ。いや、私のこの想いを否定しないでくれるのは嬉しいけど、親としてはそれでいいのかな?
「こなたには、つかさちゃんという味方もいるわけだし。味方と言うのは一人でもいれば、意外と何とかなるもんなんだ。あまり、参考にはならないが、お父さんとかなたの時も味方が少しだけいただけで、かなり助かったしな」
「いや、それとはかなり状況が違うと思うけど、今から修正しとかなくていいの、お父さん?」
「んーまぁ、世間の目の厳しさをある程度は理解しているんだろう?無論、お父さんは、そういう関係の人を知っているし、それで予想なんかより遥かに世間の目が冷たい場合も知っているぞ。でも、そこは、付き合い始めて考えればいいじゃないか。だから、お父さんは味方になるぞ」
そういう関係の人も知ってるんだ。我が父侮りがたし。それにそうだね、かがみとまだ付き合えるかもわからないんだから、先の先を考えたって何も始まらないわけだ。
「良かったね、こなちゃん」
「いやー、それはかがみが受け入れてくれてから言ってもらいたいもんだよ」
何がおかしかったわけじゃないけど、三人で笑いあって、シュークリームと冷めた紅茶を食べた。
 気がつけば、とっぷりと空は暗くなっていて、つかさは泊まって行く事になった。
 そして、その日は、つかさと二人で、どうみゆきさんに説明して、かがみに告白するかを話し合ったけど、そこは流石に私とつかさだね。良い案が出るわけもなく、最後には、話の方向も変わってしまったけれど、味方でいてくれる人がいるということが胸に広がって、私は、随分とほっとして自然体でいられるようになっていた。

 話し付かれたつかさが寝入ったあと、私はつかさには悪いけど、ちょっと実験台になってもらった。唇を近づけてみた。でも、出来なかった。やっぱり、かがみでないとダメらしい。

 さて、どうやってかがみフラグを立てればいいか。私はそれを考えながら床に就いた。
 最も、つかさ曰く「お姉ちゃんなら大丈夫だよ~」ということだったけどネ。




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