「いふ☆すた EpisodeⅡ~静かにツルの切れる音~」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「いふ☆すた EpisodeⅡ~静かにツルの切れる音~」(2023/07/05 (水) 12:07:52) の最新版変更点
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いふ☆すた EpisodeⅡ~静かにツルの切れる音~
なんだろうこれは。
それはふわりと、唐突に現れた。
私は足元に落ちたそれを拾い上げ、顔の前まで持ってくる。
何のこともない普通の白い封筒だ。
私はついさっき学校に着いたばかりで、今、自分用の下駄箱の前で立ち尽くしている。
私の下駄箱から落ちてきた、それ。
裏返してみると、とても丁寧に書かれた文字で、
「柊 かがみ 様へ」
と書いてある。
うん、間違いなく私にだ。
…でも、このシュチュエーションってもしかして…
「あ、お姉ちゃん!?」
私の近くまで寄ってきたつかさが声を上げた。
「それってもしかして…ラブレター!?」
そう、それだ。
好きな人に愛の告白をするために、想いを書き留めて下駄箱なんかに入れるという代物だ。学園モノのラヴシュチュではもはや定番で、使い古された小道具。
「初めてみたよー…」
私も見たのは初めてだ。
まさか、こんなものが私宛てに届くなんて考えもしなかった。
「すごいねぇ。…ねぇ、お姉ちゃん、空けないの?」
つかさは興味津々らしい。
まあ姉妹でいままで隠し事なんてあんまりしなかった仲だし。
別に見られても問題はないけどね。
でも…
そこでふと、違和感を覚えた。
こんな事態を、ひどく冷静に受け止めている私がいる。
普段のわたしならもっと驚いたり照れたりしてもいいはずなのに。
多分、わたしはこなたのことが好きだからかな?
だから、他の人に好きって言われても、揺らぐことがないのだろうか。
私たちは入り口の近くを避け、普段は死角になっている非常階段のあたりまで来て、手紙を開けた。
ここなら誰も滅多に立ち寄らない。
これ以上、ギャラリーが増えてしまっても困るから…っていうのもあるけど…
でも、一番の理由は、遅れてやって来たこなたに手紙のことを知られたくはないからだ。
私は封筒に張ってあるシールを切り、中に入っていた手紙を取り出す。
つかさがその行為を、まるで自分宛てに来たもののように、本人よりも高揚した顔で見つめていた。
「ね、ね、なんて書いてあるの?」
「つかさ、落ち着きなさい。
今見るわ。えーと…」
広げられた手紙をつかさから遠ざけ、縦に二つ、三角に折りなおす。
これでいっぱいまで顔に近づければ、横からは紙と私の頭が邪魔になって他の人は見ることが出来ない。
「あぅ、お姉ちゃ~ん」
つかさからの抗議の声が聞こえるが、この子は嘘を付くのが下手だから、何でも周りに話してしまいがちなのだ。
「まずは私に読ませてよ」
「…うん」
つかさのしぶしぶの了解を待って、私は手紙を読み始めた。
手紙の内容は非常に簡素なものだった。
まず、私の名前があり、そして、伝えたいことがあるという風な内容。
そして告白の場所の指定、時刻は夕方。それから…
差出人の名前が書いてないのは、自信の無さの表れか。
ただ、文面や字体の丁寧さに、私は伝わってくる人柄の良さが感じられた。
「どうだった?お姉ちゃん!」
急かすように食いつくつかさ、ホントに興味があるらしい。
「どうって…
話があるから放課後会いたいって内容よ。
相手の名前はわからないけど…って、何よその顔」
「お姉ちゃん、それ絶対告白だよ!
で、どこどこ?どこで告白されるの?」
「つかさ、声が大きい。
てか、まだ告白されるって決まってないわよ」
「あ、そっかぁ、果たし状かもしれないもんね」
こんな果たし状なんて、あるか!!っとこなたに対するノリで叫びそうになった。
この妹は相変わらず…
「ったく。場所は……
うん、体育館の裏ね。あそこなら部活の人以外、あまり立ち寄らないし。
死角も多そうだしね」
「お姉ちゃん…どうするの?」
「 … 」
その答えはまだ自分でも出してなかった。
良い人そうなだけに、私が来なかったことで、傷ついてしまうかもしれないし…
ずっと待つ片思いの辛さは、私が一番理解できた。
「つかさ、お願い。
このことはこなたには黙ってて。
あいつ…からかいに来そうだから…」
「やっぱり行くんだね…?」
さっきまでのテンションはどこに行ったのか。
つかさは寂しそうにそう言った。
…
一限目の終わり。
「やふぅ~! つかさ、みゆきさん、おはよー!!
泉こなた、只今参上だよぉ!」
「あ、おはよ~ こなちゃん」
「おはようございます。泉さん」
私は持てる限りの元気で、いつものみんなに挨拶する。
そこにかがみがいないのは残念だが、仕方ないね。
わざわざ朝の挨拶をするためにかがみのクラスに行くわけにもいかないし。
「…でも、こなちゃん、お早くはないよね。
おそよ~、かな? 今日はどうしたの~?」
「いや、寝坊したのもあるんだけど、
朝の用意に手間取っちゃってね?
結構遅い時間に出ることになっちゃたから、
ついでに一限目の授業をサボっちゃおうかなと。
一発目、歴史だったからどうせ寝ちゃうし出ても一緒だからね」
「ははは…、こなちゃん、それ絶対、黒井先生とお姉ちゃんに
言わないほうが良いよ」
「ふふ~んそれはもう抜かりないよ。
言わなければバレないしさ。」
高らかに宣言する私の背後に、黒いものが近づいてきてることに、その時私は気付かないでいた。
「だぁれぇが、抜かりないんやて~?」
「ひぃ!黒井先生!?」
「泉ぃ、聞かせてもろうたでぇ。
ほうかほうか、自分、そんなに説教くらいたいんか。」
「先生、目がマジ怖なんですけど」
「うるさい!泉!!昼休みにウチん所に来い!
説教や!!楽しみに待っとるでぇ~」
「あぅぅぅ~」
黒井先生が嵐のように去っていく。
まったくなにをしに来たんだろう。
まあ、問答無用の鉄拳制裁がなかっただけましだけど…
うぅ~、これでかがみとの楽しいお昼休みが減っちゃたよ…
「大丈夫ですか?泉さん…」
「こなちゃん、ドンマイ…」
私は朝から続く、あまりの不幸に、その場に泣き崩れてしまいたかった。
…
昼休憩。
「うぅぅ、ただいま~」
「お帰りなさい、泉さん」
「お疲れ~、こなちゃん」
ふらふらとした足取りで、お説教から無事生還を果たした私を、みんなが迎えてくれた。
「なんだか、今日の授業の範囲を、自分なりの考察を交えて
ノートにまとめてもってこいって言われたよ。
それも、明日までに」
「う、それは私には手伝えないかな~?」
「ふふ~ん、私はつかさになにも求めてないヨ」
「あぅ! ひどぃ」
「だから、かがみ~ん。勉強おしえて~♪」
………返事がない。
あれ?そう言えばかがみはどこ?
「つかさ、かがみ来てないの?」
なぜか…つかさは俯いた。何かをいいにくそうな顔。
もしや…かがみになにかあった!?
「かがみさんは今日はコチラにはおいでにならないそうでして」
「え?あ、そうなの?」
なんだ、かがみは来れないだけか。
でもなんで、つかさは思わせぶりな態度をとったんだろう…
つかさはかがみと一緒で嘘はつけない子。
こういう態度をとったときは必ず何かを隠している時だ。
「ときにつかさ?」
「ひゃぅ!な、なにかな?こなちゃん」
肩を跳ねさせてから返事をする。絶対何かあるね。
「私に何か伝えることがあるんじゃないかな?
例えばそう…」
つかさの喉がごくりと鳴る。
「…かがみに何かあったとか!」
「あぅ!なな、なんでわかるのぉ?
こなちゃん、実は見てたとか?」
ミッションコンプリート。犯人はアナタだ。
ゲームとかの推理モノの犯人も、このぐらい簡単に出てきてくれたらね。
でも多分、私はそんなゲームはやりたくないけど。
さあ、なにかあったことだけはわかったし、あとは、何があったのか聞くだけだね。
「んふふ~、感だよ、感!
さあ、ここまできたら白状してもらうからね!」
「あぅ~、お姉ちゃんに怒られちゃうよ~」
「かがみには上手く言っとくからさ。なになに」
「かがみさんに何かあったんですか?」
「うぅ、ゆきちゃんまで…ヒドイ。
わかったよ。言うから…ゴメンネ、お姉ちゃん。
お姉ちゃん、今日ね、ラブレターをもらったの」
「「 えぇっ! 」」
私とみゆきさんの声が重なった。
かがみがラブレター?
一瞬、視界が白くなる。心臓の音がやけにうるさい。
「こなちゃん、大丈夫?」
「!」
つかさが心配の声を上げる。
まずい、顔に出ていたか。
「い、いや~。
かがみんにもついに春が来たか~」
私は笑ってごまかした。
大丈夫、ココロを誤魔化すのにはもう慣れてる。
「で、かがみはどうするって?」
声が震えるのを必死に隠した。
「まだ、決まってない…ていうか
これから告白を受けるみたい。」
「どこで受けるの?
場所は?いつ?」
「ダメだよこなちゃん、行っちゃダメ」
「え~、いいじゃん。
かがみの一世一代の告白シーンなんだし
見なくちゃ末代まで笑いものだよ」
声のトーンはいつもの私だったけど、もしかしたら私、
顔は笑っていなかったかも知れない。
その証拠に、つかさが私を見ながらすこし怯えている。
何でだろう。いつもうまくやっていることが、今日に限って出来ない。
「お姉ちゃん、
こなちゃんには見られたくないって言ってたもん」
「そ、そうなんだ」
かがみからの拒絶。私「には」みられたくないなんて…
とたんに弱気な私が顔をのぞかせる。もう、だめだ…
「 普段の私 」が演じきれな…
「私も…興味があります。つかささん」
「え、ゆきちゃん!?」
援護は思わぬところからやってきた。
「告白の場所、教えていただけませんか?
私、お恥ずかしながら、告白シーンを生で見るのは
初めてでして…
その…もしもの時の参考に出来ればな、と」
すごく意外だった。みゆきさんって色恋沙汰に興味があったんだね。
もしかしたら、みゆきさんのことだし単なる知識欲かもしれないけど…
あえて言わせてもらおう、みゆきさんグッジョブ!
折れかけていた私のココロは、みゆきさんという強い味方を得て、再び蘇る。
「つかさ、お願い!」
「あぅ、も~…ゆきちゃんまでこなちゃんの味方だなんて。
…わかったよ。教える、けど…
あとでお姉ちゃんに怒られる時は一緒に怒られてよぉ」
「うん、みんなで怒られようよ」
「ふふ、そうですね」
…
放課後の学校。体育館の裏手。
私たちはかがみが来るのを待っていた。
「夕方って言ってたから多分、放課後のことだと思うけど、
具体的な時間は言ってなかったから…」
私たちはホームルーム終了と同時に、かがみのあとを追いかけるべく、すぐさまかがみの教室へと向かった。
「あぁ?なにやってんだぁ、お前ら。
かがみ? あぁ柊なら終わったと同時にどっかに
すっ飛んでったぜ?
ちびっこのとこにいってないのか?」
かがみのクラスメイトの、日下部みさおがそう告げる。
遅かったか。
私たちは仕方なく、体育館で待つことにしたのだが…
「こないねー」
もうそろそろ五時半になる。
閉門の時間が六時だからもう来てないと間に合わない時間だ。
「…電話してみよっか?」
「おこられちゃうよ?」
「でも、このまま待っていても仕方ありませんしね」
…
―放課後の学校。
夏のぬくもりを感じさせる。そんな気持ちのよい風が、私の薄紫色の髪を揺らしていた。
ここは放課後の屋上。
つかさには悪いけど嘘を付かせてもらった。
ホントに正直なコだから、多分、隠しとおせないだろうし、こなたに問い詰められると、嘘は付けないと思ったから。
ごめんね、つかさ。
だって、ホントに見てほしくないんだもの。
こなたの追跡を逃れるために、約束の時間よりもかなり早くについてしまっていた私は、屋上の備え付けのベンチに腰を下ろして、ただ、色が変わっていく空の様子を見つめていた。
告白…かぁ…
こなたに出会う前の自分だったら、たぶん、喜び勇んで飛びついただろう。
昔からひそかに恋愛というものに興味があったし、恋人なんて言葉に憧れを抱いていた。
だけど、今の私はひどく陰鬱で、どうゆう風に答えようかと、ず~っと頭の中で考えている。
いや、告白に対する答えなんてもうとっくに出ているはずだ。
私が悩んでいるのはそうゆうことじゃない。
…ふぅ~…
お決まりのため息は空に融けていく。
いまから来る人物は多分、男性。
そして、女性である私を好きだと思ってきてくれるんだ。
これが普通の恋なのだ。
改めて、私の抱いている想いが異端であると、そう気付かされてしまう。
うらやましい…
普通に好きになって。
普通に告白が出来て。
普通に幸せをつかむことが出来て。
私はたまたま女性を好きになったというだけなのに、そのすべてから否定をされる。
想いの強さでいうのなら…同じ恋だというのに、だ。
つかさには伝えてなかったが、あの手紙にはもう私への想いが書いてあった。
正真正銘のラブレター。
私を好きだという、名前も知らない彼。
彼は、今からやり遂げるんだ。
今の私には絶対出来ないこと。
最愛の人への…愛の告白を……。
その時、屋上の鉄の扉が…今、静かに鳴った。
…
―プルルルルルルル…
ドキ、ドキ、
―プルルルルルルル…
早く出て…かがみ。
―プルルル…ガチャ 「 何?」
かがみへと電話が繋がった。
焦るな、私。
「や、やふぅ~かがみ様。元気~?」
「…開始早々、ケンカをうってんのか?」
「いやいや、あのね?
え~と…かがみ様って、今どちらにいらっしゃる?」
私はストレートに聞いてみることにした。
今、私の近くには、つかさとみゆきさんが、私の携帯電話に耳を近づけて、かがみとの会話を盗聴している。
「…つかさ、あんた話したわねぇ!」
「ひゃう!何で居るのがばれてるの?」
「やっぱり…」
つかさの声が届いたのか、かがみは落胆のため息をつく。
「ごめんなさい、かがみさん。私がお願いしたんです」
「な、みゆきまでいるの!?
はぁ、アンタ達はそろいもそろって…」
「「「 ゴメンナサイ 」」」
三人の声がハモった。
「でさ、かがみん今どこにいるの?
体育館のうらでずっと待っていたんだけどこないからさ」
「いま?あぁ今は駅のホームにいるわ。
もう少しで電車が来るところ。…あ、来たみたいね。
じゃあ切るわよ。」
「あ、ちょ、まって!どうゆうこと?こ、告白はどうなったの?
受けたの?断ったの?」
「…告白はされたわ。なかなかやさしそうな人だったし、
手紙のイメージにピッタリの人だったわ。
私たちと同じ学年の人で、顔は知らなかったけど、
向こうは私のことをずっと知ってたんだって」
「…で、どうしたの?」
「…そんなの決まっているわ…」
心臓が早鐘を打つ。
かがみに伝わってしまうのではないかと思うほど、大きな音で。
「…別に、断る理由なんて、ないじゃない…」
―Pi、
「―かがみ!?」
台詞とともに回線が切れた。
断る理由がないってことは、やっぱり…
私は携帯をもつ左手を、弛緩させるままにだらりと下げた。
顔が無意識のうちに俯く。
「泉さん…」
「こなちゃん…」
「 … 」
…なんだこの空気は。
親友に恋人が出来たんだ。もっと祝ってあげなくちゃ。
…祝って、あげなくちゃ…いけないのに…
「―ゴメン、二人とも!」
私は次の瞬間、駆け出していた。
「あ、泉さん!?」
二人との距離が離れていく。
ただただ私は早くあの場から逃げ出したかった。
二人には、おかしな奴だと思われたかもしれない。
でも、ずっとあそこ居たとしたら、私は多分、みんなの前で泣いていた。
ずいぶん前から覚悟はしていたのに。
いつかはあることだと、理解していたはずなのに。
私の覚悟とは別に、
私の身体も、
私のココロさえも、
その時になって私の全てが、私の意思を聞いてはくれなかった。
…悲しかった。
両手で、口からもれる嗚咽を塞ぎ。涙はまぶたで必死にこらえる。
かがみに会ってか、私は人間的に強くなれたような気がしてた。
だから、いざというときでも、私はきっと笑ってられると信じられていた。
でも、それは私のただの妄想で。
結局はあのころとなにも変わっていない私が居たことに。
そしてなにより、かがみに彼氏が出来たことを、一番に喜んであげるべき親友の私が、こんなにも沈んでて、笑ってあげられないなんて…
そのことが、私はただひたすらに…悲しかった。
だから私は涙を出す代わりに。
何かを叫びたくなる代わりに。
ひたすらに走った。
ひとしきり走っただろうか、私は校舎内のトイレの前で立ち止まる。
涙こそ流さなかった私だが、鏡に映りこんだ瞳を赤く充血させている私の顔は、ひどく醜いものに見えてしまった。
少し落ち着きを取り戻した思考で、私は洗面台まで向かい、それを洗い流す。
今日は急いで家を出たからハンカチは持って来ていない。
夏服の短い裾で顔を拭く。
吹ききれず水滴を残したままの顔は、まるで泣いているかのようだった。
そのときだ、携帯電話が鳴り出した。
この短めのメロディは、メールを受信したものだった。
ポケットから携帯電話を取り出した。
件名[ なし ]
「こなちゃん、どうしたの?大丈夫???」
つかさからだった。そういえば二人とも置いてけぼりだったね。
心配かけちゃったかな?
メールしとかないと…
う、ん、大、丈…夫。っと…送信。
本当に大丈夫…なのかな?明日。ちゃんといつもの私でいられるのかな?
ううん、いなくちゃいけないんだけどね。
ちゃんと「 親友 」の泉こなたとして。
…今日は笑ってあげられなかったな…
ごめん…かがみ。
明日からはちゃんと笑ってあげられるから。
今日だけは特別。
色んなことがあったから。
明日からは親友としての、今までのような日常が続くはず。
だから大丈夫だよ、私は…
………
次の日の朝、駅のホームにて。
しかし…あのとき私が思い描いていた日常は、かがみからの一言で見事に崩れ去ってしまった。
「かがみ…」
「なに寂しそうな顔してんだ?」
「だって、もう会えないっていったじゃん!?」
私はかがみに食らい付いた。
「会えないなんていってないわよ。
ただこれからは、アンタのクラスに行く機会も減るし、
帰りも多分、彼と帰るわよ」
「そんなの、殆ど会えないのと一緒じゃん!」
「仕方…ないじゃない。もう、付き合うことにしたんだから…」
私はその言葉でわれに返る。
「…ゴメン、怒鳴っちゃって…」
そう、かがみはもう、親友以上のものを手に入れたんだ。
私は親友として、応援してあげなくちゃならないんだった。
「…いや~、突然のことだから、動揺しちゃったよ。
うん、私たちのことはいいから、いいから。
お昼休み?登下校?どんどん行っちゃいなよ!
…だけどひとつだけお願い」
「えぇ?、あ、うん、なによ」
私のテンションの落差に、かがみは狼狽しながら聞き返した。
「たまに会ったときに、ノロケ話をするのだけはやめてよね?
ツンデレのデレを見るのは面白そうだけど、
他人にデレてる姿をみても寒いだけだし、それに…」
「な、ツンデレいうな!」
「これから暑くなって来るのに、恋人同士のアツアツ話なんか
聞いてたら、熱中症で倒れちゃうよ~」
「そんな、アツアツだなんて…」
「お、早速テレてるテレてる。
この反応、もしや昨日でもうすでに、
ちゅ~とかしちゃったのかな?」
「…! するかぁ~!!」
そしていつもの追いかけっこが始まる。
私は笑った。もう届かない、愛しい人に向けて。
そうだ、これでいいんだ。
過去に私がした妄想が、少しだけ現実になってしまって、そして、少しだけ早く訪れてしまっただけなのだ。それだけなんだ。
少しの変化であったけど、あとはなにも変わらないでいられる。
わたしはかがみの「 親友 」として、卒業まで… ずっと。
私は、追いかけるかがみから逃げながら、あることを考えていた。
かがみの日常が変わってしまったのなら、私も変わらなければならないと…
………
その…次の日の放課後、こなたの教室にて。
「あんた、それマジで言ってんの!?」
「うん、おおマジだよぉ~?」
みんなに帰宅の挨拶を告げるために、こなたがいる教室まで足を運んだ私。
こなたからの思わぬ告白に、今度は私が狼狽する番となった。
「どこの誰よ!?」
「かがみが知らない人だよ。三年生の人だし」
「でも、昨日の今日で…」
「あぁ、ひどいな、そんな軽い女じゃないよ?私。
ずっと考えてたんだけどね。
かがみのがいいきっかけになったというか…」
「でも、いきなり彼氏が出来ましたってどうゆうことなのよ~!」
「あは♪ おそろいだね!」
EpisodeⅡ ― END
-[[いふ☆すた EpisodeⅢ~堕ちる果実~>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1013.html]]へ続く
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- まだ完結してないようですので、続きを楽しみに待ってますが、作者様~かがみとこなたにはハッピーエンドをお願いします。 -- kk (2009-01-28 23:04:33)
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いふ☆すた EpisodeⅡ~静かにツルの切れる音~
なんだろうこれは。
それはふわりと、唐突に現れた。
私は足元に落ちたそれを拾い上げ、顔の前まで持ってくる。
何のこともない普通の白い封筒だ。
私はついさっき学校に着いたばかりで、今、自分用の下駄箱の前で立ち尽くしている。
私の下駄箱から落ちてきた、それ。
裏返してみると、とても丁寧に書かれた文字で、
「柊 かがみ 様へ」
と書いてある。
うん、間違いなく私にだ。
…でも、このシュチュエーションってもしかして…
「あ、お姉ちゃん!?」
私の近くまで寄ってきたつかさが声を上げた。
「それってもしかして…ラブレター!?」
そう、それだ。
好きな人に愛の告白をするために、想いを書き留めて下駄箱なんかに入れるという代物だ。学園モノのラヴシュチュではもはや定番で、使い古された小道具。
「初めてみたよー…」
私も見たのは初めてだ。
まさか、こんなものが私宛てに届くなんて考えもしなかった。
「すごいねぇ。…ねぇ、お姉ちゃん、空けないの?」
つかさは興味津々らしい。
まあ姉妹でいままで隠し事なんてあんまりしなかった仲だし。
別に見られても問題はないけどね。
でも…
そこでふと、違和感を覚えた。
こんな事態を、ひどく冷静に受け止めている私がいる。
普段のわたしならもっと驚いたり照れたりしてもいいはずなのに。
多分、わたしはこなたのことが好きだからかな?
だから、他の人に好きって言われても、揺らぐことがないのだろうか。
私たちは入り口の近くを避け、普段は死角になっている非常階段のあたりまで来て、手紙を開けた。
ここなら誰も滅多に立ち寄らない。
これ以上、ギャラリーが増えてしまっても困るから…っていうのもあるけど…
でも、一番の理由は、遅れてやって来たこなたに手紙のことを知られたくはないからだ。
私は封筒に張ってあるシールを切り、中に入っていた手紙を取り出す。
つかさがその行為を、まるで自分宛てに来たもののように、本人よりも高揚した顔で見つめていた。
「ね、ね、なんて書いてあるの?」
「つかさ、落ち着きなさい。
今見るわ。えーと…」
広げられた手紙をつかさから遠ざけ、縦に二つ、三角に折りなおす。
これでいっぱいまで顔に近づければ、横からは紙と私の頭が邪魔になって他の人は見ることが出来ない。
「あぅ、お姉ちゃ~ん」
つかさからの抗議の声が聞こえるが、この子は嘘を付くのが下手だから、何でも周りに話してしまいがちなのだ。
「まずは私に読ませてよ」
「…うん」
つかさのしぶしぶの了解を待って、私は手紙を読み始めた。
手紙の内容は非常に簡素なものだった。
まず、私の名前があり、そして、伝えたいことがあるという風な内容。
そして告白の場所の指定、時刻は夕方。それから…
差出人の名前が書いてないのは、自信の無さの表れか。
ただ、文面や字体の丁寧さに、私は伝わってくる人柄の良さが感じられた。
「どうだった?お姉ちゃん!」
急かすように食いつくつかさ、ホントに興味があるらしい。
「どうって…
話があるから放課後会いたいって内容よ。
相手の名前はわからないけど…って、何よその顔」
「お姉ちゃん、それ絶対告白だよ!
で、どこどこ?どこで告白されるの?」
「つかさ、声が大きい。
てか、まだ告白されるって決まってないわよ」
「あ、そっかぁ、果たし状かもしれないもんね」
こんな果たし状なんて、あるか!!っとこなたに対するノリで叫びそうになった。
この妹は相変わらず…
「ったく。場所は……
うん、体育館の裏ね。あそこなら部活の人以外、あまり立ち寄らないし。
死角も多そうだしね」
「お姉ちゃん…どうするの?」
「 … 」
その答えはまだ自分でも出してなかった。
良い人そうなだけに、私が来なかったことで、傷ついてしまうかもしれないし…
ずっと待つ片思いの辛さは、私が一番理解できた。
「つかさ、お願い。
このことはこなたには黙ってて。
あいつ…からかいに来そうだから…」
「やっぱり行くんだね…?」
さっきまでのテンションはどこに行ったのか。
つかさは寂しそうにそう言った。
…
一限目の終わり。
「やふぅ~! つかさ、みゆきさん、おはよー!!
泉こなた、只今参上だよぉ!」
「あ、おはよ~ こなちゃん」
「おはようございます。泉さん」
私は持てる限りの元気で、いつものみんなに挨拶する。
そこにかがみがいないのは残念だが、仕方ないね。
わざわざ朝の挨拶をするためにかがみのクラスに行くわけにもいかないし。
「…でも、こなちゃん、お早くはないよね。
おそよ~、かな? 今日はどうしたの~?」
「いや、寝坊したのもあるんだけど、
朝の用意に手間取っちゃってね?
結構遅い時間に出ることになっちゃたから、
ついでに一限目の授業をサボっちゃおうかなと。
一発目、歴史だったからどうせ寝ちゃうし出ても一緒だからね」
「ははは…、こなちゃん、それ絶対、黒井先生とお姉ちゃんに
言わないほうが良いよ」
「ふふ~んそれはもう抜かりないよ。
言わなければバレないしさ。」
高らかに宣言する私の背後に、黒いものが近づいてきてることに、その時私は気付かないでいた。
「だぁれぇが、抜かりないんやて~?」
「ひぃ!黒井先生!?」
「泉ぃ、聞かせてもろうたでぇ。
ほうかほうか、自分、そんなに説教くらいたいんか。」
「先生、目がマジ怖なんですけど」
「うるさい!泉!!昼休みにウチん所に来い!
説教や!!楽しみに待っとるでぇ~」
「あぅぅぅ~」
黒井先生が嵐のように去っていく。
まったくなにをしに来たんだろう。
まあ、問答無用の鉄拳制裁がなかっただけましだけど…
うぅ~、これでかがみとの楽しいお昼休みが減っちゃたよ…
「大丈夫ですか?泉さん…」
「こなちゃん、ドンマイ…」
私は朝から続く、あまりの不幸に、その場に泣き崩れてしまいたかった。
…
昼休憩。
「うぅぅ、ただいま~」
「お帰りなさい、泉さん」
「お疲れ~、こなちゃん」
ふらふらとした足取りで、お説教から無事生還を果たした私を、みんなが迎えてくれた。
「なんだか、今日の授業の範囲を、自分なりの考察を交えて
ノートにまとめてもってこいって言われたよ。
それも、明日までに」
「う、それは私には手伝えないかな~?」
「ふふ~ん、私はつかさになにも求めてないヨ」
「あぅ! ひどぃ」
「だから、かがみ~ん。勉強おしえて~♪」
………返事がない。
あれ?そう言えばかがみはどこ?
「つかさ、かがみ来てないの?」
なぜか…つかさは俯いた。何かをいいにくそうな顔。
もしや…かがみになにかあった!?
「かがみさんは今日はコチラにはおいでにならないそうでして」
「え?あ、そうなの?」
なんだ、かがみは来れないだけか。
でもなんで、つかさは思わせぶりな態度をとったんだろう…
つかさはかがみと一緒で嘘はつけない子。
こういう態度をとったときは必ず何かを隠している時だ。
「ときにつかさ?」
「ひゃぅ!な、なにかな?こなちゃん」
肩を跳ねさせてから返事をする。絶対何かあるね。
「私に何か伝えることがあるんじゃないかな?
例えばそう…」
つかさの喉がごくりと鳴る。
「…かがみに何かあったとか!」
「あぅ!なな、なんでわかるのぉ?
こなちゃん、実は見てたとか?」
ミッションコンプリート。犯人はアナタだ。
ゲームとかの推理モノの犯人も、このぐらい簡単に出てきてくれたらね。
でも多分、私はそんなゲームはやりたくないけど。
さあ、なにかあったことだけはわかったし、あとは、何があったのか聞くだけだね。
「んふふ~、感だよ、感!
さあ、ここまできたら白状してもらうからね!」
「あぅ~、お姉ちゃんに怒られちゃうよ~」
「かがみには上手く言っとくからさ。なになに」
「かがみさんに何かあったんですか?」
「うぅ、ゆきちゃんまで…ヒドイ。
わかったよ。言うから…ゴメンネ、お姉ちゃん。
お姉ちゃん、今日ね、ラブレターをもらったの」
「「 えぇっ! 」」
私とみゆきさんの声が重なった。
かがみがラブレター?
一瞬、視界が白くなる。心臓の音がやけにうるさい。
「こなちゃん、大丈夫?」
「!」
つかさが心配の声を上げる。
まずい、顔に出ていたか。
「い、いや~。
かがみんにもついに春が来たか~」
私は笑ってごまかした。
大丈夫、ココロを誤魔化すのにはもう慣れてる。
「で、かがみはどうするって?」
声が震えるのを必死に隠した。
「まだ、決まってない…ていうか
これから告白を受けるみたい。」
「どこで受けるの?
場所は?いつ?」
「ダメだよこなちゃん、行っちゃダメ」
「え~、いいじゃん。
かがみの一世一代の告白シーンなんだし
見なくちゃ末代まで笑いものだよ」
声のトーンはいつもの私だったけど、もしかしたら私、
顔は笑っていなかったかも知れない。
その証拠に、つかさが私を見ながらすこし怯えている。
何でだろう。いつもうまくやっていることが、今日に限って出来ない。
「お姉ちゃん、
こなちゃんには見られたくないって言ってたもん」
「そ、そうなんだ」
かがみからの拒絶。私「には」みられたくないなんて…
とたんに弱気な私が顔をのぞかせる。もう、だめだ…
「 普段の私 」が演じきれな…
「私も…興味があります。つかささん」
「え、ゆきちゃん!?」
援護は思わぬところからやってきた。
「告白の場所、教えていただけませんか?
私、お恥ずかしながら、告白シーンを生で見るのは
初めてでして…
その…もしもの時の参考に出来ればな、と」
すごく意外だった。みゆきさんって色恋沙汰に興味があったんだね。
もしかしたら、みゆきさんのことだし単なる知識欲かもしれないけど…
あえて言わせてもらおう、みゆきさんグッジョブ!
折れかけていた私のココロは、みゆきさんという強い味方を得て、再び蘇る。
「つかさ、お願い!」
「あぅ、も~…ゆきちゃんまでこなちゃんの味方だなんて。
…わかったよ。教える、けど…
あとでお姉ちゃんに怒られる時は一緒に怒られてよぉ」
「うん、みんなで怒られようよ」
「ふふ、そうですね」
…
放課後の学校。体育館の裏手。
私たちはかがみが来るのを待っていた。
「夕方って言ってたから多分、放課後のことだと思うけど、
具体的な時間は言ってなかったから…」
私たちはホームルーム終了と同時に、かがみのあとを追いかけるべく、すぐさまかがみの教室へと向かった。
「あぁ?なにやってんだぁ、お前ら。
かがみ? あぁ柊なら終わったと同時にどっかに
すっ飛んでったぜ?
ちびっこのとこにいってないのか?」
かがみのクラスメイトの、日下部みさおがそう告げる。
遅かったか。
私たちは仕方なく、体育館で待つことにしたのだが…
「こないねー」
もうそろそろ五時半になる。
閉門の時間が六時だからもう来てないと間に合わない時間だ。
「…電話してみよっか?」
「おこられちゃうよ?」
「でも、このまま待っていても仕方ありませんしね」
…
―放課後の学校。
夏のぬくもりを感じさせる。そんな気持ちのよい風が、私の薄紫色の髪を揺らしていた。
ここは放課後の屋上。
つかさには悪いけど嘘を付かせてもらった。
ホントに正直なコだから、多分、隠しとおせないだろうし、こなたに問い詰められると、嘘は付けないと思ったから。
ごめんね、つかさ。
だって、ホントに見てほしくないんだもの。
こなたの追跡を逃れるために、約束の時間よりもかなり早くについてしまっていた私は、屋上の備え付けのベンチに腰を下ろして、ただ、色が変わっていく空の様子を見つめていた。
告白…かぁ…
こなたに出会う前の自分だったら、たぶん、喜び勇んで飛びついただろう。
昔からひそかに恋愛というものに興味があったし、恋人なんて言葉に憧れを抱いていた。
だけど、今の私はひどく陰鬱で、どうゆう風に答えようかと、ず~っと頭の中で考えている。
いや、告白に対する答えなんてもうとっくに出ているはずだ。
私が悩んでいるのはそうゆうことじゃない。
…ふぅ~…
お決まりのため息は空に融けていく。
いまから来る人物は多分、男性。
そして、女性である私を好きだと思ってきてくれるんだ。
これが普通の恋なのだ。
改めて、私の抱いている想いが異端であると、そう気付かされてしまう。
うらやましい…
普通に好きになって。
普通に告白が出来て。
普通に幸せをつかむことが出来て。
私はたまたま女性を好きになったというだけなのに、そのすべてから否定をされる。
想いの強さでいうのなら…同じ恋だというのに、だ。
つかさには伝えてなかったが、あの手紙にはもう私への想いが書いてあった。
正真正銘のラブレター。
私を好きだという、名前も知らない彼。
彼は、今からやり遂げるんだ。
今の私には絶対出来ないこと。
最愛の人への…愛の告白を……。
その時、屋上の鉄の扉が…今、静かに鳴った。
…
―プルルルルルルル…
ドキ、ドキ、
―プルルルルルルル…
早く出て…かがみ。
―プルルル…ガチャ 「 何?」
かがみへと電話が繋がった。
焦るな、私。
「や、やふぅ~かがみ様。元気~?」
「…開始早々、ケンカをうってんのか?」
「いやいや、あのね?
え~と…かがみ様って、今どちらにいらっしゃる?」
私はストレートに聞いてみることにした。
今、私の近くには、つかさとみゆきさんが、私の携帯電話に耳を近づけて、かがみとの会話を盗聴している。
「…つかさ、あんた話したわねぇ!」
「ひゃう!何で居るのがばれてるの?」
「やっぱり…」
つかさの声が届いたのか、かがみは落胆のため息をつく。
「ごめんなさい、かがみさん。私がお願いしたんです」
「な、みゆきまでいるの!?
はぁ、アンタ達はそろいもそろって…」
「「「 ゴメンナサイ 」」」
三人の声がハモった。
「でさ、かがみん今どこにいるの?
体育館のうらでずっと待っていたんだけどこないからさ」
「いま?あぁ今は駅のホームにいるわ。
もう少しで電車が来るところ。…あ、来たみたいね。
じゃあ切るわよ。」
「あ、ちょ、まって!どうゆうこと?こ、告白はどうなったの?
受けたの?断ったの?」
「…告白はされたわ。なかなかやさしそうな人だったし、
手紙のイメージにピッタリの人だったわ。
私たちと同じ学年の人で、顔は知らなかったけど、
向こうは私のことをずっと知ってたんだって」
「…で、どうしたの?」
「…そんなの決まっているわ…」
心臓が早鐘を打つ。
かがみに伝わってしまうのではないかと思うほど、大きな音で。
「…別に、断る理由なんて、ないじゃない…」
―Pi、
「―かがみ!?」
台詞とともに回線が切れた。
断る理由がないってことは、やっぱり…
私は携帯をもつ左手を、弛緩させるままにだらりと下げた。
顔が無意識のうちに俯く。
「泉さん…」
「こなちゃん…」
「 … 」
…なんだこの空気は。
親友に恋人が出来たんだ。もっと祝ってあげなくちゃ。
…祝って、あげなくちゃ…いけないのに…
「―ゴメン、二人とも!」
私は次の瞬間、駆け出していた。
「あ、泉さん!?」
二人との距離が離れていく。
ただただ私は早くあの場から逃げ出したかった。
二人には、おかしな奴だと思われたかもしれない。
でも、ずっとあそこ居たとしたら、私は多分、みんなの前で泣いていた。
ずいぶん前から覚悟はしていたのに。
いつかはあることだと、理解していたはずなのに。
私の覚悟とは別に、
私の身体も、
私のココロさえも、
その時になって私の全てが、私の意思を聞いてはくれなかった。
…悲しかった。
両手で、口からもれる嗚咽を塞ぎ。涙はまぶたで必死にこらえる。
かがみに会ってか、私は人間的に強くなれたような気がしてた。
だから、いざというときでも、私はきっと笑ってられると信じられていた。
でも、それは私のただの妄想で。
結局はあのころとなにも変わっていない私が居たことに。
そしてなにより、かがみに彼氏が出来たことを、一番に喜んであげるべき親友の私が、こんなにも沈んでて、笑ってあげられないなんて…
そのことが、私はただひたすらに…悲しかった。
だから私は涙を出す代わりに。
何かを叫びたくなる代わりに。
ひたすらに走った。
ひとしきり走っただろうか、私は校舎内のトイレの前で立ち止まる。
涙こそ流さなかった私だが、鏡に映りこんだ瞳を赤く充血させている私の顔は、ひどく醜いものに見えてしまった。
少し落ち着きを取り戻した思考で、私は洗面台まで向かい、それを洗い流す。
今日は急いで家を出たからハンカチは持って来ていない。
夏服の短い裾で顔を拭く。
吹ききれず水滴を残したままの顔は、まるで泣いているかのようだった。
そのときだ、携帯電話が鳴り出した。
この短めのメロディは、メールを受信したものだった。
ポケットから携帯電話を取り出した。
件名[ なし ]
「こなちゃん、どうしたの?大丈夫???」
つかさからだった。そういえば二人とも置いてけぼりだったね。
心配かけちゃったかな?
メールしとかないと…
う、ん、大、丈…夫。っと…送信。
本当に大丈夫…なのかな?明日。ちゃんといつもの私でいられるのかな?
ううん、いなくちゃいけないんだけどね。
ちゃんと「 親友 」の泉こなたとして。
…今日は笑ってあげられなかったな…
ごめん…かがみ。
明日からはちゃんと笑ってあげられるから。
今日だけは特別。
色んなことがあったから。
明日からは親友としての、今までのような日常が続くはず。
だから大丈夫だよ、私は…
………
次の日の朝、駅のホームにて。
しかし…あのとき私が思い描いていた日常は、かがみからの一言で見事に崩れ去ってしまった。
「かがみ…」
「なに寂しそうな顔してんだ?」
「だって、もう会えないっていったじゃん!?」
私はかがみに食らい付いた。
「会えないなんていってないわよ。
ただこれからは、アンタのクラスに行く機会も減るし、
帰りも多分、彼と帰るわよ」
「そんなの、殆ど会えないのと一緒じゃん!」
「仕方…ないじゃない。もう、付き合うことにしたんだから…」
私はその言葉でわれに返る。
「…ゴメン、怒鳴っちゃって…」
そう、かがみはもう、親友以上のものを手に入れたんだ。
私は親友として、応援してあげなくちゃならないんだった。
「…いや~、突然のことだから、動揺しちゃったよ。
うん、私たちのことはいいから、いいから。
お昼休み?登下校?どんどん行っちゃいなよ!
…だけどひとつだけお願い」
「えぇ?、あ、うん、なによ」
私のテンションの落差に、かがみは狼狽しながら聞き返した。
「たまに会ったときに、ノロケ話をするのだけはやめてよね?
ツンデレのデレを見るのは面白そうだけど、
他人にデレてる姿をみても寒いだけだし、それに…」
「な、ツンデレいうな!」
「これから暑くなって来るのに、恋人同士のアツアツ話なんか
聞いてたら、熱中症で倒れちゃうよ~」
「そんな、アツアツだなんて…」
「お、早速テレてるテレてる。
この反応、もしや昨日でもうすでに、
ちゅ~とかしちゃったのかな?」
「…! するかぁ~!!」
そしていつもの追いかけっこが始まる。
私は笑った。もう届かない、愛しい人に向けて。
そうだ、これでいいんだ。
過去に私がした妄想が、少しだけ現実になってしまって、そして、少しだけ早く訪れてしまっただけなのだ。それだけなんだ。
少しの変化であったけど、あとはなにも変わらないでいられる。
わたしはかがみの「 親友 」として、卒業まで… ずっと。
私は、追いかけるかがみから逃げながら、あることを考えていた。
かがみの日常が変わってしまったのなら、私も変わらなければならないと…
………
その…次の日の放課後、こなたの教室にて。
「あんた、それマジで言ってんの!?」
「うん、おおマジだよぉ~?」
みんなに帰宅の挨拶を告げるために、こなたがいる教室まで足を運んだ私。
こなたからの思わぬ告白に、今度は私が狼狽する番となった。
「どこの誰よ!?」
「かがみが知らない人だよ。三年生の人だし」
「でも、昨日の今日で…」
「あぁ、ひどいな、そんな軽い女じゃないよ?私。
ずっと考えてたんだけどね。
かがみのがいいきっかけになったというか…」
「でも、いきなり彼氏が出来ましたってどうゆうことなのよ~!」
「あは♪ おそろいだね!」
EpisodeⅡ ― END
-[[いふ☆すた EpisodeⅢ~堕ちる果実~>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1013.html]]へ続く
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- (^_−)b -- 名無しさん (2023-07-05 12:07:52)
- まだ完結してないようですので、続きを楽しみに待ってますが、作者様~かがみとこなたにはハッピーエンドをお願いします。 -- kk (2009-01-28 23:04:33)
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