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星の卒業式」(2023/01/09 (月) 01:51:04) の最新版変更点

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<飼いならすって、それ、何のことだい?>――王子様は聞いた。 <仲良くなるっていうことさ>――キツネは答えた。 3月某日。私達は陵桜学園を卒業した。 長いようで短かった、3年間。色々な事をした――彼女と一緒に。 彼女と私は今、揃って‘星桜の樹’を見上げている。 彼女が行こうと誘ったから、私は頷いた。 手を繋ぎ、歩いた道。その一歩一歩に見覚えがある。私と彼女で歩んだ道。 最初会った時は、驚いた。まず、この身長差に。 <だけど、あんたがおれを飼いならすと、おれたちはもう、お互いに離れちゃいられなくなるよ>――キツネは言った。 まさに、その通りだった。 出会った当初、彼女は他の十万もの女の子と変わりはなかった。 彼女の目から見ると、私は、他の十万もの女の子と変わりはなかっただろう。 何が切欠で、何が理由だったか、覚えてはいない。 ただ、気が付いたら、いつも傍に彼女がいた。彼女の傍に行っていた。 お互いに、惹かれあっていた。 だから、ふとした時に聞こえる足音、それが彼女のものではないかと、私は胸を躍らせた。 期待して振り向いたことも、多々あった。 愛しい時間。 今‘星桜の樹’を見上げる彼女の横顔からは、何も窺い知ることは出来ない。 私も、ただ、見上げるだけだ。 ――この、枯れてしまった、桜の樹を。 見上げながら、夢想する。彼女とあった3年間を。 その温もりを、横に感じながら。 1年生。まだ、互いに知り合ったばかりで、敬語交じりで話すこともあった。 今では考えられないこと。 互いの趣味、完全に外れていたそれの中から共通項を見出し、語り合った。 2年生。もう、遠慮等無用の仲になっていた。 このころからだろう。親友である、と周りに言っても構わなくなったのは。 親友……果たしてそうだったのか。 3年生。夢の終わり。楽しかった刻に終止符を打った残酷な年。だけど、3年間で、最も輝いた、時だった。 修学旅行、学園祭。どんな時でも、彼女は隣にいてくれた。 私は、彼女に‘飼いならされた’。私は、彼女を‘飼いならした’。 ‘仲良くなった’ 彼女は私にとってたった一人のものになったし、私は、彼女にとってたった一人のものになった。 かけがえのないもの。 <何だか、話が分かりかけたようだね>――王子様は言った。 春先に吹く風は、温かく――寒い。 私と彼女の間を貫けるそれを嫌うように、彼女は私との距離を詰めた。私も、詰めた。 でも、詰めても詰められない、距離があった。 別れの時。それぞれの道。 彼女には彼女の夢があり、私には私の夢があった。決して交わることの無い道が……。 彼女が、最後にこの学園内を歩こうと言ったのは、先、交わらない道、それから目を背ける為に、私と彼女で交わった道を辿りたかったからではないだろうか。 本当に、そうなのだろうか。 「ねぇ……」  彼女が、口を開いた。 「楽しかったよね?ずっと」  問う口調は、答えを懇願しているようでもあり、拒絶しているようでもあった。  別れが辛いなら、仲良くならなければ良かった。  そう思った。  彼女は? 「私は……」  彼女は、俯いた。  私たちの関係はなんなのだろう?  親友?  それとも、別の何か、なのだろうか。  また、風が吹いた。枯れ木が揺れる。その音に私達は振り返った。  吹きぬけた風は蒼と菫を交わらせていった。  それは、私たちが見ていた夢。  3年間という時間。もう戻らない、時間。  出し抜けに、彼女が叫んだ。  叫んで、暴れて、私を傷つける言葉を何回も何回も吐いた。  だけど、不思議と嫌じゃなかった。  彼女は‘バラ’になったのだ。  棘を見せ、触れると痛みを走らせ、敬遠させるように。  強がって、見せたのだ。  でも、私は知っている。この華こそ、私にとってかけがえの無い華であり、私にとって一番の華なのだ。  私は、彼女を抱きしめた。  その棘に触れ、全身から血を流そうとも、そうした。   愛しかったから?違う。  そんな言葉じゃ、足りない。 私たちの関係は愛し、愛され、それを超越した、何か、だった。 親友であり、もしくは、恋人だったのかもしれない。 でも、いくら言葉を弄しても、今の私たちには当てはまらない。 私は言った。 ――もし、悲しい時。貴女と共に見たこの桜を思い出せば、きっと笑える気がする。 彼女は言った。 ――そうしたら、貴女が笑ってるのを見て、周りの人は驚くだろう。私は、貴女にとんだいたずらをした事になる。 私は答えた。 ――そのつもりで、呼んだんじゃないの? 彼女は答えた。 ――そのつもり、だった。  笑いあった。3年間の夢と同じように。2人で。  やっぱり、仲良くなれてよかった、と思った。  重ねた唇は、切なく、甘く、永遠の味がした。  そして、私達は約束した。  離れても心は繋がっていること。  いつか必ず再会すること。  別れ際、2人で唱和した。 ――いつか、迎えに行くから。 それが私たちの卒業式。いつかを夢見て、大人になる。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
<飼いならすって、それ、何のことだい?>――王子様は聞いた。 <仲良くなるっていうことさ>――キツネは答えた。 3月某日。私達は陵桜学園を卒業した。 長いようで短かった、3年間。色々な事をした――彼女と一緒に。 彼女と私は今、揃って‘星桜の樹’を見上げている。 彼女が行こうと誘ったから、私は頷いた。 手を繋ぎ、歩いた道。その一歩一歩に見覚えがある。私と彼女で歩んだ道。 最初会った時は、驚いた。まず、この身長差に。 <だけど、あんたがおれを飼いならすと、おれたちはもう、お互いに離れちゃいられなくなるよ>――キツネは言った。 まさに、その通りだった。 出会った当初、彼女は他の十万もの女の子と変わりはなかった。 彼女の目から見ると、私は、他の十万もの女の子と変わりはなかっただろう。 何が切欠で、何が理由だったか、覚えてはいない。 ただ、気が付いたら、いつも傍に彼女がいた。彼女の傍に行っていた。 お互いに、惹かれあっていた。 だから、ふとした時に聞こえる足音、それが彼女のものではないかと、私は胸を躍らせた。 期待して振り向いたことも、多々あった。 愛しい時間。 今‘星桜の樹’を見上げる彼女の横顔からは、何も窺い知ることは出来ない。 私も、ただ、見上げるだけだ。 ――この、枯れてしまった、桜の樹を。 見上げながら、夢想する。彼女とあった3年間を。 その温もりを、横に感じながら。 1年生。まだ、互いに知り合ったばかりで、敬語交じりで話すこともあった。 今では考えられないこと。 互いの趣味、完全に外れていたそれの中から共通項を見出し、語り合った。 2年生。もう、遠慮等無用の仲になっていた。 このころからだろう。親友である、と周りに言っても構わなくなったのは。 親友……果たしてそうだったのか。 3年生。夢の終わり。楽しかった刻に終止符を打った残酷な年。だけど、3年間で、最も輝いた、時だった。 修学旅行、学園祭。どんな時でも、彼女は隣にいてくれた。 私は、彼女に‘飼いならされた’。私は、彼女を‘飼いならした’。 ‘仲良くなった’ 彼女は私にとってたった一人のものになったし、私は、彼女にとってたった一人のものになった。 かけがえのないもの。 <何だか、話が分かりかけたようだね>――王子様は言った。 春先に吹く風は、温かく――寒い。 私と彼女の間を貫けるそれを嫌うように、彼女は私との距離を詰めた。私も、詰めた。 でも、詰めても詰められない、距離があった。 別れの時。それぞれの道。 彼女には彼女の夢があり、私には私の夢があった。決して交わることの無い道が……。 彼女が、最後にこの学園内を歩こうと言ったのは、先、交わらない道、それから目を背ける為に、私と彼女で交わった道を辿りたかったからではないだろうか。 本当に、そうなのだろうか。 「ねぇ……」  彼女が、口を開いた。 「楽しかったよね?ずっと」  問う口調は、答えを懇願しているようでもあり、拒絶しているようでもあった。  別れが辛いなら、仲良くならなければ良かった。  そう思った。  彼女は? 「私は……」  彼女は、俯いた。  私たちの関係はなんなのだろう?  親友?  それとも、別の何か、なのだろうか。  また、風が吹いた。枯れ木が揺れる。その音に私達は振り返った。  吹きぬけた風は蒼と菫を交わらせていった。  それは、私たちが見ていた夢。  3年間という時間。もう戻らない、時間。  出し抜けに、彼女が叫んだ。  叫んで、暴れて、私を傷つける言葉を何回も何回も吐いた。  だけど、不思議と嫌じゃなかった。  彼女は‘バラ’になったのだ。  棘を見せ、触れると痛みを走らせ、敬遠させるように。  強がって、見せたのだ。  でも、私は知っている。この華こそ、私にとってかけがえの無い華であり、私にとって一番の華なのだ。  私は、彼女を抱きしめた。  その棘に触れ、全身から血を流そうとも、そうした。   愛しかったから?違う。  そんな言葉じゃ、足りない。 私たちの関係は愛し、愛され、それを超越した、何か、だった。 親友であり、もしくは、恋人だったのかもしれない。 でも、いくら言葉を弄しても、今の私たちには当てはまらない。 私は言った。 ――もし、悲しい時。貴女と共に見たこの桜を思い出せば、きっと笑える気がする。 彼女は言った。 ――そうしたら、貴女が笑ってるのを見て、周りの人は驚くだろう。私は、貴女にとんだいたずらをした事になる。 私は答えた。 ――そのつもりで、呼んだんじゃないの? 彼女は答えた。 ――そのつもり、だった。  笑いあった。3年間の夢と同じように。2人で。  やっぱり、仲良くなれてよかった、と思った。  重ねた唇は、切なく、甘く、永遠の味がした。  そして、私達は約束した。  離れても心は繋がっていること。  いつか必ず再会すること。  別れ際、2人で唱和した。 ――いつか、迎えに行くから。 それが私たちの卒業式。いつかを夢見て、大人になる。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!泣 -- 名無しさん (2023-01-09 01:51:04)

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