“ロスト”

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夢を見た。
こなたが死ぬ夢。
そして、私が生き残る夢。



“ロスト”



夢の始まりはよく覚えていない。
気が付くと、私とこなたは横断歩道の上を歩いていた。
大方、こなたに付き合わされてアニメショップにでも行っていたのだろう。
最後に見たこなたの笑顔は、普段のそれと何も変わらなかった。
呆れるくらいに無邪気で、人懐っこくて柔らかくて。

でも、それは。

突如として突っ込んできたトラックにより、一瞬にして失われてしまう。
信号無視なのかスピード違反なのか、夢の世界に交通法規があるのかどうかも疑わしいが、とにかくこなたは宙を舞った。
まるで風に吹かれた綿毛みたいに。

ふわりと、高く。

自失する以外の術を持てなかった私の横に、こなたはゆっくり落ちてきた。
どっかの漫画の台詞じゃないけれど、こなたの顔はかすり傷一つなく、驚くほどに綺麗だった。
それは、この凄惨な夢に私の理性が少しでも抗おうとした結果なのかもしれない。

しかしその時の私には、そんなことを考える余裕はなく。
ただただ必死に、こなたの肩を揺すり、頬を叩き、その名前を呼び続けた。

そうしていれば、いたずら好きなこいつのことだ、何事もなかったかのようにむっくりと起き上がってくるんじゃないか。
そんな淡い期待を抱きながら。

でもそんな私の儚い願いは叶うことはなく、次の瞬間には私は自室に居た。
どうやら何日かが経った後らしい。

こなたが、いない。

その途方もない絶望感と喪失感は、現実以上の現実感を私に味わわせていた。

こんなことなら、もっと優しくしてやればよかった。
こんなことなら、もっと笑いかけてやればよかった。
もっと「こなた」って、呼びかけてやればよかった。

大切な物は、失ってから初めて気付く。

これまでに何度も聞いたことのある言葉の意味が、ようやく自分の心に染み込んだ。
でも、何回耳にしていたって、実際に失うまでその意味に気付けなかったら、意味が無い。

こなたが、いない。

ずっと、一緒だったのに。
これからも、そのつもりだったのに。
こんなのって……ないよ。


――その時だった。


「かがみ」

……?

幻聴……だろうか?
いや、でも……。
微かな期待を抱きながら背後を振り返ると、そこには。

「やあ」

こなたが、いた。

見紛うはずもなかった。
アホ毛、青髪、泣きぼくろ、眠そうな目、猫口、小学生みたいな身長と体型。
その全てが、泣きたくなるくらいにこなた色をしていた。

「こなたぁっ!」

私はこなたに抱きついた……はずだったのだが。

「っ!?」

私の身体はこなたをすり抜けてしまい、私は自分自身を抱きしめるような格好になる。

「…………」

無言で振り返る。

「かがみ……ごめんね」

その時、私は気付いてしまった。
こなたの身体が、さっきより薄くなっていることに。
それが何を意味するのかも、瞬時に分かってしまった。

「……本当は、もっといっぱい喋りたかったんだけど」

やだ。
嫌だ。
せっかく、せっかくまた会えたと思ったら、そんな……。

「ごめん」

なんで、なんで謝るのよ。
なんでそんなに、殊勝な顔をしてるのよ。
そんなの、あんたに似合わない。

もっと、いつもみたいに笑ってよ。
いつもみたく、私をからかってみなさいよ。
ほら、今ならあんたの好きなツンデレだかもやってあげるから。
だから、だから……。

「元気でね、かがみ」

こなたの体が透けていく。

やだ。やだやだやだ。 
あんたねぇ、最後の最後まで勝手過ぎんのよ。いつもいっつも振り回して。
私、もっといっぱいあるんだからね。
あんたに今まで言えなかったことも、言いたかったことも、もっともっとたくさん……。

「さよなら」

バカ。
バカバカバカバカバカこなた。
あんたなんか、あんたなんか……。



「―――っ」

そこで、ようやく私は目を覚ました。
見慣れた天井に見慣れた壁。
ふとんの匂いも、窓から漏れる蝉の声も、その全てが、五感を通して私に完全な現実感を与えてくれる。

でも。

今の私に、そんな感傷に浸っている余裕はなかった。
夢でよかったとか、こなたは生きてるんだとか、そんなことは何故か微塵も頭に浮かばかなった。

ただ、あいつに会いたかった。

微妙に体が透けてたり柄にもなく殊勝な顔をしているあいつなんかじゃない。
ちっちゃいながらもしっかりとした肉感があって、いつものようにニマニマ笑っているあいつに。

着替えもそこそこに、私は家を飛び出して自転車に跨る。
冷静に考えれば、電車を使った方が早いとすぐに分かったはずだが、この時の私は、無性にこうしたい気分だった。

全力で漕ぐこと20分余り。

目的地に着きインターホンを押す頃には、私は全身汗まみれになっていた。
ほんの数秒を待つのもじれったい。
今すぐにでもドアを蹴破って屋内に突入したかったが、そこは理性を総動員して堪えた。

「はい。泉です」

その声を聞いた瞬間、涙腺が決壊しそうになった。
でもそれはまだ早い。
私は努めて平静に振る舞う。

「あ、えっと……私だけど」
「かがみ? どうしたのさこんな急に」
「と、とにかく……出てきてよ」
「? う、うん……」

間もなく、ドアがゆっくりと開かれる。

――こなた。

ああ、もう駄目だ。
私は門扉を押し開けて、勢いそのままこなたの元へ駆けた。

「わ、ちょ」

慌てふためくこなたの顔なんて珍しい。
どうせならもっとよく見ておけばよかった。
そんな風に思ったのは、その小柄な身体を抱きしめたまま暫く時間が経ってからのことだった。

互いの体温が同じくらいになってきたあたりで、私はようやくこなたから離れた。
もっとも、まだ両手はこなたの両肩に置いたままだけど。

「……ど、どうしたのさ、かがみ」

こなたの頬が上気している。
多分、私はもっとだろう。
でも今や、そんなことはどうでもよかった。

「あー、うん……」

私がここに来た理由、即ちこなたを唐突に抱擁するに至った経緯を説明しようかと一瞬考えて、すぐにそれは無意味なことだと悟った。
私は、そんなことをしにここに来たわけではない。

だから私は、一言だけ言ってやった。

それはこなたの疑問を解消するに必要十分だったらしく、こなたの頬はさっきにもまして上気した。
そして言うまでもなく、私はもっと。
でもやっぱり、今やそんなことはどうでもいいのだ。



こなたが、ここにいるから。






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