一瞬、窓の外が明るく光って元に戻る。その数秒後に、地響きのような――
もしくは獣の唸り声のような低い音が響き渡った。
「っひゃ!!?」
当たるわけはないと知っていても、生き物としての本能的な恐怖心ゆえか
びくりと肩をすくめ縮こまってしまう。…それは仕方のないことのはずなのだ。
「むふー、かがみんって案外怖がりだよねぇ。アレ?もしかしてお化け屋敷とか
いまでも入れないタイプ?」
……だから隣でこいつにこんな風ににやにや笑いながらからかわれる謂われも
ないわけで。
「…うるさい。んなわけあるか。大体、こんなに近くでいきなり大きな音が
したら驚くでしょうが」
「…そお?さっきのはまだまだ遠い方だと思うけど。ほら、ピカッて光ってから
音が聞こえるまで何秒かあったし」
「あぁ…そんなの小学校でやったわね…」
確か音は1秒で340メートル進むんだったっけ…。だから、光が見えてから
音が届くまでの時間でここから雷の落ちた距離が計算できる、と。
記憶の底にあった知識を掘り返しつつ視線を左に向ける。目に映るものは
相変わらず灰色の雲と白く跡を残す雨の軌跡。

今はただ、ざああ、と雨粒が落ちる音だけが聞こえるな中私たちは二人
こなたの教室であるB組で椅子に腰を掛けていた。
理由は単純なことだった。いつもの4人で帰っていたらバス停に着くあたりで、
こなたが忘れ物があるといって学校に戻って…。

「一人じゃ可哀相かな、と思って一緒に戻ったのが間違いだったわ…」
「んー?なんか言ったー?」
「いや、慣れないことはするもんじゃないって話」
「ふーん…?」
ため息混じりの私の独り言はぼんやり窓の外を眺めていたこなたには聞こえなかったらしい。
ごまかしが入った私の言葉に軽く首を傾げるとまた肘をついて視線を元に戻す。
こなたを追いかけて校舎に入って、B組の自分の机から何かを鞄に入れている
こいつを見つけてもう一度昇降口に戻った時には遅かった。たった10分かそこら
だったはずなのに、空は厚く暗い雲に一面を覆われて、ぽつり、ぽつりと大粒の
雨を落とし始めていた。その雨粒は瞬く間にその数を増やし、今では白く視界を遮っている。
そして、雨とともにやってきた雷は不規則に轟音を響かせ、私を竦ませているというわけだ。
「あぁもう!なんで今日に限って折り畳み傘忘れてきちゃうかなぁ…」
「むぅ…かがみってばツンデレ属性に加えてドジっ子属性も取得したの?」
「ドジとはいわんだろ。これは」
連日、ゲリラ雷雨としてニュースを賑わせているこの豪雨と雷はあれから15分ほど経っても
勢いを弱めようとせず、むしろ強くなっていっているようだった。
雨音にかき消されているせいか、外の音も、そして校舎の中に残っているはずの
生徒や先生の気配もしない。
「…止まないねぇ」
「ん?」
「雨」
「そうね…。夕立ちみたいなものかと思ってたけど…」
「んー…、すぐ止むかと思ってたけど…。…お父さん呼んだ方が早いかなぁ…」

ちょい待ってて、と言いながら鞄の中から携帯を取り出し、慣れた手つきで
手早くメールを作成してパタン、と閉じる。今日は珍しく携帯を持ってるんだな、
なんて考えながら椅子に体重をかけると、きし、とかすかに木の軋む音がした。
「ん。これであと10分もすればお父さんが迎えに来てくれるヨ。
かがみんも乗ってくでしょ?」
「あ…悪い」
「いいっていいって。私とかがみの仲ではないか」
「はいはい」
こなたの言葉を軽く流す私にこなたは面白くなさそうに、むぅ…
と呟いて椅子から立ち上がり今度は机に腰掛ける。ぱたぱた足を
動かす仕草がなんだか子供っぽくて、くすりと笑みをこぼしてしまう。

「そういえばさ」
「んー?」
「何忘れたの?いつもなら『まぁ、いっか』とかいって気にしないじゃない」
「あー、うん。今日のはね、特別だったのだよ」
「特別?」

ひょい、と机から飛び降りて机の横にかけてあった鞄から何かを取り出して
私に見せてくる。
「あれ…これ…」
それは、一冊のライトノベル。普段、私はこなたの漫画をよく借りるけれど
こなたは私のラノベを読んでくれたためしがない。それが少しだけ悔しくて
アニメ化したやつなら読むだろうかと、厳選に厳選を重ねて一冊だけ
押し付けたのが今日の朝。
「それ…って、私が貸したやつでしょう?それだけのために?」
「んー…。いつも私ばっかり貸してたから悪いかなーと思ってたし…。
それに、ほら、かがみがせっかくかがみが貸してくれたから早く読みたいし」
そう言って笑うこなたの笑顔は、まるで花がほころぶようで…。


「………っ!」


どくん、といきなり心臓が勢いよく跳ねた。それとほとんど同時に
ピカリ、と教室中が黄色に染まり、コンマ何秒後かに轟音が轟く。今度は、さっきよりも
より近いところで。
遠雷――それは、ひどく単純で暴力的、それ故に誰もがその存在を無視できない音。


――そして、私が恋に落ちる音だった。



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