『希望的観測 その1』

このページを編集する    
『希望的観測 その1』


 この日。
 かがみとつかさは、いつものように2人そろって登校していた。
「in my dream 赤いおもちうにょ~ん♪」
「珍しく歌なんか歌っちゃって。ずいぶんとご機嫌ね~。危うく寝坊しかけたくせに」
 かがみの冷やかしに、つかさはえへへ、と恥ずかしそうに笑った後、
「携帯で占いを見たんだけど、今日はね、私の運勢いいみたいなんだ」
「我が妹ながら、そのくらいで単純だな…私はあんまり興味ないけど、つかさの運勢が良いってことは私も今日は運が向いてるのね。
 誕生日も血液型も同じなわけだし」
「う~ん、お姉ちゃんは違う運勢かも」
「なんで?」
「この占いは、誕生日と血液型と氏名で占うんだよ」
「ああ、なるほどね」
 調べてあげようか、とつかさが携帯を取り出したが、
「いいわよ、別に。私そういうのあまり信じないから」
 かがみがそう言うと、少し残念そうに携帯をしまった。
「でも、この占いこなちゃんに教えてもらったんだけど、結構良く当たってるんだよ?
 この前は占いの通りに行動したら、授業中私だけ当てられなかったんだ。私の列はみんな当てられたのに」
 それはどうなんだろう、とかがみが呟いたとき、2人を見つけたこなたが合流してきた。
「やふ~お二人さん。何話してたの?」

 クラスが違うこなた・つかさと別れ、自分の席に着席してから、かがみはふと、先ほどの会話を思い出していた。
 もちろん、占いの話だ。
 正月に、おみくじの効能を「その人次第」と言い切った一事を見てもわかる通り、かがみは神社の娘にしては(?)現実的な性格なのだが、
このときはつかさやこなたが話した占いのことが、妙に頭に残って離れなかった。
「かがみも占ってみたら?案外いいことあるかもよ」
「占いって言ったって、どうせコンピューターが適当に結果を選んでるんでしょ。当てにならないわよ」
「携帯の占いだからって案外バカにできないよ、かがみ。事実、この前課題を忘れたときには先生が風邪で休んで事なきを得たし、
 昨日なんて占いの通りに行動したおかげで、ネトゲでレアアイテムゲットできたし」
「あんたらは…占いのおかげでいいことが、って言っても、せいぜいその程度でしょ?っていうか、課題はちゃんとやれよ」
 かがみが手を振って断ると、こなたはわかってないなあ、とばかりに肩をすくめて
「占いは良い兆候だけじゃなく、悪い兆候も示してくれるんだよ」
 と、言った。
 いま、かがみの頭にはこの『悪い兆候』というこなたの言葉が引っかかっている。
 というのも、今朝方弁当の準備をしているとき、食器棚から取り出してテーブルに置いただけなのに、愛用の小皿が真っ二つに割れてしまったからだ。
 このことに、流石のかがみもある種の気味悪さを感じたが、すぐ気を取り直して、
「こういうこともあるわよね…長い間使ってたし」
 と、自分に言い聞かせて忘れることにしていたのだ。だから、つかさにもこのことは話していない。
 しかし、こなたの言葉から今朝の出来事を連想し、我知らず考えふけってしまった。
 普段なら「占いなんて気の持ちよう、当てにならないわ」と、歯牙にもかけないかがみである。
「ええい、私らしくもない」
「おーっす、柊。どうした?何か考え事か?」
「ああ、日下部。別にそういうんじゃないけどさ」
「そっか?まあいいや。ところでさ、のど飴持ってねーか?」
「今日は特に持ってきてないけど、なんで?そうは見えないけど、風邪でも引いたの?」

「占い見たら、今日の私のラッキーアイテムがのど飴でさあ。持ってる奴いねーかなって」
「また占いかよ…」
「ん?またって?」
「こっちの話よ。そんなに気になるなら、途中で買ってくればよかったのに」
「いやぁ~、テレビの占いが気になって見てたら、つい言え出るのが遅くなっちまってな。買いに寄る時間が無かった」
 占いがそこまで気になるものなのか?とかがみが呆れていると、担任の桜庭先生が入ってきた。
 入ってくるなり、けだるそうに、
「あー、席に着け」
 と、言った。


「さてと。本日の授業はここまでだな」
 手についたチョークの粉を払いながら、桜庭先生が相変わらず気だるそうに告げる。
「おっと、忘れるとこだった。2週間前に出した課題だが、そうだな…柊。悪いが、お前が集めて職員室まで持ってきてくれ。」
「へっ?」
 似合わぬ素っ頓狂な声を出したかがみに、クラスメイトの注視が注がれる。
「話聞いてたか?課題を集めて、職員室まで持ってきてくれ。昼休みまででいい。頼んだぞ」
 言い置いて、さっさと教室から出て行ってしまった。
「ね、ねえ。課題提出って今日だっけ?」
 かがみは、机に突っ伏して、半分眠っていたみさおに声をかける。
 みさおは「んあ?」と顔を上げると、すぐにニヤリと笑って、
「ひぃらぎぃ~、その言葉から察するに、課題忘れただろ?」
「ぐっ…」
「珍しいなぁ~柊がうっかりなんて」

「ぐぐっ…くやしいけど、返す言葉が無い…に、にやけてないで、課題がなんだったか教えなさいよ!
 今からなら昼休みまでに間に合うかもしれないし」
「ああ、そりゃ無理だな。残念だけど」
「な、なんでよ!?」
「おお、完全に忘れてるみたいだな。
 思い出せ柊。課題は英語で書かれた生物の文章を読んでレポートにして提出、だったろ?」
「あっ…」
 そう聞いて、何もかも思い出したかがみは青ざめてその場に崩れ落ちた。
 高校生に英語の文章を読んでレポートを書け、とは実に酷な話だが、この課題は英語教師の監修と助言の下に実施されており、
内容もさほど高度というわけではないし、生徒の負担を考慮してか、提出期限は2週間後と比較的長く設けられていた。
 とは言え、英語が得意なかがみであっても、休み時間だけでそんな課題をこなすのは到底不可能である。
「ぐうっ…なんでこんなときに限ってそんな課題なのよ…いつもはノートに要点まとめるくらいなのに…」
「課題が何かも覚えてなかったなんて、ホント珍しいな。まぁそういう時もあるさ、元気出せよな」
 みさおの半分茶化した慰めも、かがみの耳には入っていなかった。
 昼休みの職員室で、集めた課題を手渡しながら、自分は課題を忘れたことを謝らなければならないことを想像するだけで
(恥ずかしくて情けなくて、どうしていいのかわからないわよ…)
 と、いうわけだ。


 さて、課題を忘れるという大失態を演じたかがみだが、彼女の不運はそれで終わらなかった。
 階段を踏み外して転んだり、体育の授業でバレーボールの流れ弾が顔に直撃したり、
移動教室のときに教科書を教室に置き忘れてきたり、財布の中にお金が入っていなかったりして、
「今日の私は、何をやっても駄目だわ…」
 と、昼休みになった今、弁当にも手をつけずにうな垂れて、こなた、つかさ、みゆきの3人にこぼしているのだ。
 3人は、かがみが昼に用事(課題提出)があるというので、昼食を待っていてくれた。
 気の毒そうに慰めるつかさとみゆきとは対照的に、こなたはにやにやして、
「ふふ~ん、かがみも失敗することあるんだねえ~。そういえば今朝、私に課題はちゃんとやれとか言ってたの誰だっけ~?」
 と、言いながらチョココロネをかじった。
 こんな風にからかわれるのが目に見えていたので、こなたにだけは話したくなかったのだが、
かがみはもはやなりふり構っていられないほど打ちひしがれていた。
 課題の忘れはうっかりした自分が悪いので言い訳にしかならないが、それにしても今日は立て続いて悪いことが起きている。
 そうすると、占いなど信じる気になれない現実的なかがみであっても、
(やっぱり、今日は運勢が悪いのかな…)
 という思いが頭の中で膨らんで来るのを、どうにも抑えることができなくなっていた。
「実は、さっき内緒でかがみの運勢を占ったんだけどね。そしたら何とびっくり、今日のかがみの運勢はどん底だったよ」
「勝手に占うな!で、でもやっぱりそうなんだ…」
「だから言ったでしょ、案外バカにできないって。少しは信じた?」
「うっ…だけど、そんなのたまたまじゃ…」
「金銭運ゼロ、金欠になりがち」
「ぐっ!」
「健康運ゼロ、頭の怪我に注意」
「うっ!」
「仕事運ゼロ、課された仕事をし忘れがち。ついでに恋愛運も聞きたい?」
「もういい!わかった、わかった!信じるわ…」
 またも、かがみはがっくりとうなだれた。

 降参したかがみを見てご満悦のこなたは、
「初めから信じていればよかったのに。でも、ここまで運勢最悪なのも珍しいんじゃないかな、私こんなに悪かったこと無いよ。つかさはどう?」
「それでこなた、この不運から抜け出すにはどうすれば…」
「だよね~こんなに最悪なのってそうそう無いよね~」
「…おい、どうすれば不運から」
「ここまで最悪だと、逆に運がいいような気さえするよね。レア物に当たったって感じで。いやあ流石かがみ様、私たちとは一味ちが」
「調子に乗るな!」
 鈍い音と、こなたの短い悲鳴が教室に響いた。

「で、どうすれば私はこの不運から抜け出せるのかな?」
 こなたの肩を掴んで問い詰めるかがみの表情は、むしろ穏やかであったが、全身からは凄まじいプレッシャーをほとばしらせている。
 傍で見ているだけのつかさとみゆきが脅え竦むくらいなのだから、肩をつかまれてプレッシャーを一身に受けるこなたはたまったものではない。
「う、うん…えーと…い、所謂ラッキーアイテムとかを意識すれば運が戻ってくるのではないかと…」
「ふーん。で、何かしら?私のラッキーアイテムって」
「ちょ、痛い、痛いよかがみ…」
「あら、失礼」
「ら、ラッキーアイテムは…おお?」
 意外そうな声を上げたこなたは、自分の手元に視線を移した後、再び携帯の画面に目を戻すと、
「ラッキーアイテムは、チョココロネだって」
 かがみに携帯を見せながら、そう言った。
『チョココロネ?』
 事態を見守っていたつかさ・みゆきと、携帯に目を向けたかがみの声が綺麗にハモった。
「なんだ、案外簡単に解決できそうじゃん。という訳でほい、かがみ」
 手にしたチョココロネを差し出しつつ、
「私の食べかけでよければ、食べていいよ」

「なっ!?」
「あ、やっぱ嫌?」
「嫌じゃないけど…けど、その…」
「なんだか顔が赤いけど…ははあ、そうか。私と間接キスするのが恥ずかしいんだ」
「間接キスとか言うな!べ、別に普通の事でしょ、こんなの。友達同士、女同士なんだし」
「意識しちゃって、かわいいねえかがみんは」
「うっさい!」
「まあまあ~。とにかく、これはかがみにあげるから、代わりにかがみのお弁当を私にちょうだい」
「えっ…で、でも、今日のお弁当は私が当番だから、そんなに美味しくないと思うけど…」
 何故だか少し不安そうなかがみをよそに、早くも弁当を開いたこなたは、
「いやいや、好きとは言え、こうもコロネ続きだと、時にはかがみの質素なお弁当が恋しくなったりするのだよ。
 ああ、このシンプルな感じがいいねえ。うっかり醤油を入れすぎたこの卵焼きがまた美味しい、うん」
 とか、好き勝手言いながら、嬉しそうにかがみ作の弁当を食べ始めた。
 こなたは、いつの間にか普段のペースを取り戻したようだ。
 かがみはというと、顔に血を上らせ、ちらちらとこなたを見ながら、ようやくにチョココロネを口にした。




コメントフォーム

名前:
コメント:

|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|
  



★Counter

TOTAL: -
TODAY: -
YESTERDAY: -

★更新履歴

取得中です。