『希望的観測 その2』

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『希望的観測 その2』



 時刻は5時を少し回ったところだろうか。「夕方」と言ってもあたりはまだ明るく、
ようやくに太陽が沈み始めた西の空がいくつかのあかね雲を浮かべている。
「今日は本当に散々だったわ……」
 朝からの不運な出来事の連続を思い起こして、かがみがうんざりとして呟く。
「まあ、そんな日もあるんじゃないの。今日が悪かった分、これから運が回ってくると思えばいいじゃない」
 正月におみくじで凶を引いたときのつかさからのフォローを思い出しながら、こなたが応える。
「そういえば、あれからどうだったの。まだ悪いこと続いた?」
「おかげさまで……かどうかはわからないけど、午後からは何も無かったわ」
「おお~それはよかったね。チョココロネをあげた甲斐があるってもんだよ」
 こなたの言葉を聞いて、かがみの顔が赤くなった。
 この日の昼食時、不運続きのかがみのラッキーアイテムがチョココロネである事を知ったこなたの提案によって、
こなたの食べかけのチョココロネとかがみの弁当を交換していたのだ。
 あの時こなたから貰ったチョココロネ、かがみは味がさっぱりわからなかったようだ。
「それにしても……」
 こなたはニヤニヤしながら、
「あのときのかがみの照れ方は面白かったねぇ。良い表情だったよ。
いやあ、今日はいい物見れたし、かがみのお弁当も食べれたし、本当ご馳走様って感じかな~」
「……照れた覚えなんか無いわよ」
「無いとは言わせないよ。チョココロネ食べてるときも顔、赤かったし」
「あ、あれは……」

 慌てるかがみに、こなたは、くふふと笑って、
「私との間接キスくらいであんなに真っ赤になっちゃって、可愛いねぇ」
「ち、違うわよ!それに間接キスとか言うな!」
「ほう、違うと申されるか。じゃあ、なんであんなに真っ赤になってたのさ。
詳しく聞かせて欲しいね。他に理由があれば、の話だけど」
「ぐぅっ……あれは、その……」
 明らかに、返答に困っている。
 こなたはにやにや顔のまま、かがみに擦り寄ると、
「ほらほら~どうしたの?何か言わないと、私との間接キスが嬉しかったってことになっちゃうよ。いいのかな~?」
「だから間接キス、間接キスって連呼するな!」
 こうなってしまうと、主導権を奪われたかがみにはどうすることも出来ないし、
こなたにしても、かがみを(上手い具合に追い詰めたな~)という気でいる。
 照れてしどろもどろのかがみをからかうのが、楽しくて楽しくて仕方が無いこなたの攻撃はなおも続いて、
「そっかそっか、やっぱりかがみは私との……」
「だあ~っ!わかったわよ!言えばいいんでしょ、言えば!」
 ついにかがみが音を上げた。そんなかがみを見てこなたは、
(さてさて、どんな風に取り繕うつもりなのかな?)
 心の中で楽しげにそう言って、むふふ、と笑った。

(それにしても、コロネの事は思わぬ収穫だったな~
よし、これをネタに、今日はとことんいじり倒してやろう。恨むんなら自分の不運を恨んでね、かがみん)

 二人は足を止め、向き合う形となった。
「では、理由とやらを聞かせてもらおかな」
「い、言うわよ……その、私の……」
「ふんふん、かがみの?」
 かがみは「ぐっ……」と言葉を詰まらせたが、一呼吸して、
「私の作ったお弁当を、美味しいって食べてくれたから、その、嬉しくって……」
 昼食の時よりも顔を赤くして、恥ずかしそうに言った。
「へっ……?」
「だから、家族以外で私のお弁当食べて美味しいって言ってくれたの初めてだから、その……」
「あっ……」
 これは、こなたに予期外の衝撃をもたらした、と言わなければならない。
 口をぽかんと開けたままのこなたの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
 その様子を見て、かがみも顔をさらに真っ赤にして俯いてしまった。
 今のこなたはかがみの反応を楽しむどころか、いつものように冗談で返すことも出来なくなっていて、
「そ、それは反則だよ、かがみん……」
 かろうじてそう返すのが、精一杯だった。
 耳まで赤くなったまま動けない二人を、夕日がさらに紅く染め上げていく。

「と、ところでさ、こなた」
 暫くして、先に回復したかがみが声をかける。
「う、うん。なに?」
「私の今日の恋愛運ってどうだったの?聞きそびれてたけど」
「ああ、あれね。やっぱ気になるんだ?」
「そりゃあね。大事なことだし」
「ふ~ん、大事なこと、ねぇ?」
 にやにやが復活したこなたの視線に気づくと、かがみは少し慌てて、
「別にそんなに大事じゃないけど、えっと、他の運勢は聞いといて、それだけ聞かないのは変じゃない」
「うんうん」
「そうよ、他意はないのよ」
「はいはい」
「ぜんぜん信じてないわね」
「いやいや、信じてるよー?」
「もう、いいから教えてよ。気になるじゃない」
 顔を赤くしながら問いただすかがみを見てこなたは満足そうだ。
 やっと自分のペースを取り戻したこなたは、うーん、と軽く唸ってから、
「さあ、なんだったかな?忘れちゃった」
「とぼけてないで言いなさいよ」
「そう言われても、覚えてないことは言えないよ。
 これは昼のかがみ様の鉄拳制裁とプレッシャーが、私の記憶をどこか遠くに追いやってしまったんだろうね。
 いや~あの時は痛かった、怖かった。思い出そうにも思い出せないよ」
「……よくもそう、都合の良い言い訳をポンポンと思いつくわね」
「まぁまぁ。どうせ今日はあと7時間ぐらいしか残ってないんだから。
今知ったからどうこうって事もないでしょ…って、あーーーっ!」
 いきなり叫んだこなたは、携帯で時間をチェックすると、
「し、しまったぁ~!いつの間にかこんな時間!早く帰らないと、6時からのアニメに間に合わないよ!」
 こなたはかがみの手をぐっと握ると、
「ほら、行くよかがみ!急いで!」
 かがみの手を引っぱって走り出した。
「うわっ、ちょっとこなた!」
「はやくはやく!録画予約してないんだよ~」
「私は関係ないっ!」
「いいから急いで~!」
「引っぱるなっ!危ない!止まれーっ!」
 すっかり夕日に照らされた街中を、手をつないだ2人が慌しく駆け抜けていった。


「ふう、今日のはなかなか作画が良かったな」
 目当てのアニメを見終えて満足そうなこなたが、ベッドに飛び込んだ。
「それにしてもかがみめ、なんであんなこと言うかな……」
 こなたは、かがみがこなたの言う『関節キス』を意識していると確信していたし、また事実、その通りだったのだ。
 幸運にも、かがみをいじり倒す絶好のネタを手に入れたはずだったのに、『予期しない逆襲』でこれを落としてしまった。
「あれには一本取られちゃったな……」
 『逆襲』の言葉を、あのときのかがみの表情を思い出すだけで、耳が熱くなって来る。
「ああもう、どうしたんだろう」
 誰に見られているわけでもないのに、こなたは赤くなった顔を隠すように布団にもぐりこんだ。


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